- 後継者がいないけれど、会社を存続させたい
- 会社を手放して新たな事業を始めたい
上記のような理由で、会社売却を検討している中小企業の社長が年々増え続けています。
しかし多くの社長にとって、会社売却は未経験で未知の世界です。そこでこの記事では、近年増え続けている会社売却の概要を解説します。
この記事には流れ・M&Aとの違い・目的・メリット・デメリットなど、会社売却について知りたいことの全てが詰まっています。
会社売却の検討を始めたばかりの方も、近い未来に会社売却を実行しようと考えている方も、まずはこの記事で会社売却がどのようなものかを確認してください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:会社売却とは
会社売却とは、自身が経営している会社の経営権を第三者へ譲渡することです。譲渡の対価として現金を受け取るため”会社売却”と表現しています。
1-1 会社売却の方法
会社売却は、M&Aスキーム(手法)の1つである株式譲渡を用いて実行されます。
経営者(オーナー・筆頭株主)が所有している自社の株式を第三者へ売却し、経営権を譲渡するM&Aスキーム
経営権を譲渡する対価として、オーナーである社長は現金を受け取ります。
また、多くの中小企業では社長が100%の株式を所有している筆頭株主であり、会社のオーナーです。
そのため社長自身が会社の売主となり、所有している自社株の全てを売却し、その後の経営を買い手企業に任せることになります。
1-2 会社売却の流れ
会社売却の流れは、大きく準備期間・M&A案件化期間・買い手探索期間・決済期間の4つに分けられ、およそ6ヶ月~1年半の期間を要します。
そしてこの4つのステップが完了した後に、3ヶ月~1年程の引継ぎ期間が設けられるケースが一般的です。
○準備期間
スムーズなM&Aを実行するためには、事前の準備が重要です。
- 会社売却を決意した動機を整理する
- 会社売却完了の希望時期を決定する
- 会社売却の条件(金額・買い手の属性・退任の有無など)に優先順位をつける
- 会社にとってのキーマンをリストアップする
- 向こう3年分の事業計画書を用意する
- 必要書類の準備に取り掛かる
上記の準備と並行して、M&A仲介会社の選定を始めましょう。
○M&A案件化期間
信頼のおけるM&Aコンサルタントと出会えたら、仲介契約を締結していよいよM&Aによる会社売却を案件化します。
M&A仲介契約を締結したら、すぐに怒涛のプロジェクトがスタートします。覚悟を持って臨みましょう!
この時点で事前準備をほぼ終わらせておくことが望ましい
M&A仲介会社と仲介契約を結ぶと、まずは買い手探しのための準備が始まります。
買い手探しの準備とは、どういうことを行うのでしょうか。
ノンネームシートと企業概要書の制作が行われます。制作自体はM&A仲介会社が行いますが、社長には必要書類の提出という任務がありますよ。
ノンネームシート
売り手企業の概要を企業名を伏せてまとめた書類
企業概要書
売り手企業の企業概要・事業内容・財務諸表などの詳細が記された書類
どちらも買い手候補へ自社をアピールする際に使用する重要な書類です。M&A仲介会社から求められた資料は迅速かつ確実に揃え、質問などにも嘘偽りなく回答してください。
○買い手探索期間
ノンネームシートや企業概要書の作成が終わると、買い手候補探しが始まります。
買い手候補企業にはまずノンネームシートが提示されます。ノンネームシートに記載された情報を元に、買い手候補は買収の検討を行うのです。
ノンネームシートに記載されている内容に買い手候補が興味を持ったら、社名などの情報も入った企業概要書が開示されます。
ノンネームシートと企業概要書の2段構えなんですね。いきなり企業概要書を開示しないのには、何か理由があるのでしょうか?
「あの社長はM&Aで会社を売ろうとしている」という情報が外部に漏れないようにするためです。
そうして本格的な買収の検討が行われ、売り手・買い手双方にM&A実行の意思が確認できたら、経営陣によるトップ面談がおこなわれます。
そこでお互いに納得のいく相手であれば、具体的な条件面の調整に入ります。そして売り手が条件に納得し合意すると、基本合意契約の締結となるのです。
○決済期間
買い手企業との間で基本合意契約を締結したら、買い手企業によるデューデリジェンスが実施されます。
買い手企業が売り手企業に対して行う実態調査
企業概要書はあくまでも売り手の自己申告で作成しています。そのため、買い手が直接売り手の実態を調査し、本当に買収する価値のある会社かどうかを判断するんですよ。
その後デューデリジェンスの結果をもとに最終条件交渉が行われ、売り手・買い手双方の合意が得られたら、ついに株式譲渡契約の締結です。
そしてクロージング(決済)をもって会社の経営権が買い手側へ移転し、会社売却の手続きは完了となります。
株式譲渡契約の締結日にクロージングを行うケースもあれば、日を分けるケースもあります。
○引継ぎ期間
決済が完了し経営権が買い手側へ移れば、M&Aの手続き自体は完了です。しかし実際には、クロージング後に経営の引継ぎが必要になります。
引継ぎにはおよそ3ヶ月~1年程の時間をかけるケースが一般的ですが、社長1人に経営の仕事を依存していた会社などは、さらに長い期間が必要になる場合もあります。
引継ぎ期間を短縮できる方法はあるんですか?
社長の仕事を仕組み化して、社長以外でも仕事ができる状態にしておくことをおすすめします。
1-3 M&Aとの違い
M&Aとは「Mergers and Acquisitions(マージャーズ・アンド・アクイジションズ)」の略で、「合併と買収」という意味です。
合併とは、2つ以上の会社が1つになることを指しています。合併の際には、合併を受け入れる側から合併される側へ対価が支払われ、合併された会社の法人格は消滅します。
買収はその字からも想像できるように、ある企業が他の企業を買うことを指します。
M&Aは、企業を買収する側の視点から見た企業買収方法の総称
一方で会社売却は”売却”という単語が示すように、売却する側の視点から見た言葉です。
会社を丸ごと売却するニュアンスを持っているため、M&Aの株式譲渡を指すケースが一般的です。
会社の売買を買い手側から表現した言葉がM&Aで、売り手側の視点から表現すると会社売却になるイメージですね。
その他にも会社の一部を売却したい際には、事業譲渡や会社分割というスキームが使用されます。M&Aの各スキームについて詳しく知りたい方は、下記の記事を参考にしてください。
2章:会社売却の目的
会社売却は、明確な目的を持って実行されます。
ここでは、売り手がなぜ会社売却を実行するのか、その目的についてみていきましょう。
2-1 事業承継
中小企業を経営する社長の多くが掲げている会社売却の理由の1つに、事業承継が挙げられます。
経営者(社長)が自身の会社や事業を後継者に引き継ぐこと
ひと昔前まで日本の中小企業では、社長の子供や親族が経営を引き継ぐケースが圧倒的多数を占めていました。
しかし現在では、少子化の進行や会社を継ぐ意思のある人材の不在など、後継者不足に悩む中小企業が増加しています。
後継者問題を解決して事業承継を実現しないと、会社は廃業の選択を余儀なくされてしまいます。
そこで事業承継を実現させるために、会社売却で経営権を第三者へ譲渡する社長が増えているのです。
会社売却で事業承継を実現すれば、社長は安心して引退できますよ。
引退したいけど後継者がいない…という社長にはピッタリの方法ですね!
2-2 経営の安定化
会社売却は、経営の安定化を目的として実行されるケースも多くみられます。
自社のさらなる発展を目指して会社売却に踏み切るということですね。会社売却をしたらなぜ経営の安定化を図れるのでしょうか。
会社売却では、多くの場合において買い手側が売り手側より規模の大きな企業です。そのため高い確率で資本力が強化され、経営の安定が実現します。
- 金融機関からの借入がしやすくなる
- 採用活動が強化できる
また、会社売却後は買い手企業の技術や流通ルートなどが使えるようになるため、事業の発展にも期待が持てるでしょう。
3章:会社売却のメリット
目的を達成するために実行される会社売却ですが、同時に多くのメリットを得られます。
- 売却の対価を受け取れる
- 個人保証・連帯保証を解除できる可能性がある
- 従業員の雇用を維持できる
- 業績が向上する可能性がある
中には上記のメリットを目的として、会社売却を実行する企業も数多く存在します。
複数のメリットを同時に得られる可能性が高い点も、会社売却の魅力だといえるでしょう。
3-1 売却の対価を受け取れる
会社売却(株式譲渡)では、社長個人が対価を受け取ることになります。
会社売却で得た対価は、社長個人のお金です。引退後の生活費に充てたり、新しい事業を始めるための資金にしたりと、使い道はさまざまです。
後継者問題を解決して引退したい社長にとって、売却益が受け取れる点は非常に大きなメリットになります。
引退後の資金ができるってことですもんね。会社の未来も安泰、自分の老後も安泰で良いことづくめですね!
- 譲渡益には20.315%の所得税・住民税等が課税される
- M&A仲介会社へ手数料の支払いが必要になる
売却益の使い道を考える際は、支払いが必要な税金とM&A仲介会社へ支払う手数料を差し引いた金額で考えましょう。
3-2 個人保証・連帯保証を解除できる可能性がある
会社売却では、買い手との交渉次第で社長が背負っている個人保証や連帯保証を解除できる可能性があります。
個人保証の存在で、会社と自分は運命共同体だという思いが強くあります。「会社に何かあったら自分も終わる」というプレッシャーから解放されるのは嬉しいですね。
ただし個人保証や連帯保証は、会社売却の完了後に自動で外れるわけではありません。金融機関の承認および保証人変更の手続きが必要となります。
会社売却の交渉時に早い段階で買い手へ保証解除の希望を伝え、準備を整えておきましょう。
3-3 従業員の雇用を維持できる
会社売却では、従業員の雇用が自動的に買い手へと引き継がれ、売却前と同じ条件で働き続けられます。
会社売却で変わるのは経営者だけで、会社の中身はそのままです。従業員は会社と雇用契約を結んでいるため、引き続きそのまま働き続けられるというわけです。
なるほど。従業員にとっても安心ですね。
3-4 業績が向上する可能性がある
会社売却により買い手企業のノウハウ・販路・顧客などを使えるようになることで、売り手企業は更なる成長が見込めます。
買い手が持つ流通ルートを使い、自社の製品をより広範囲で販売できるようになったために売上が向上した
また「大手企業のグループ企業」と世間からの認知度が向上することも、会社の成長にとってプラスとなるでしょう。
その一例として、採用活動の際に以前より応募者が集まりやすくなると考えられることが挙げられます。
大手のグループ企業という肩書は、従業員にとっても嬉しいものかもしれませんよね。大手のネームバリューで採用希望者が増えることも、会社にとっては非常にありがたいです。
優秀な人材が集まるようになれば、会社の発展がさらに期待できますよね。
4章:会社売却のデメリット
会社売却ではたくさんのメリットを得られる期待ができますが、デメリットの存在も見過ごせません。
「こんなはずじゃなかった」という思いをしないためにも、デメリットについて把握しておきましょう。
4-1 必ずしも成功するとは限らない
会社売却は、そもそも買い手が見つからないという可能性を秘めています。
なぜなら、会社売却をはじめとするM&A市場では、需要と供給のバランスが崩れかかってきているからです。
現代日本の中小企業において、会社売却を検討している社長は増加の一途をたどっています。
会社を売却したい理由については、後継者問題だったり少子化による労働力不足だったりさまざまです。
しかし会社を売却したい社長が増える一方で、買収を検討している企業の数はそこまで増えていないという現実があります。
会社を売却したい社長の数が買収したい企業の数を上回っている、いわゆる供給過多の状態ですね。
そのため実際に会社を売却するために買い手探しを始めても、必ず買い手が見つかるとは限りません。
そしてたとえ買い手が見つかったとしても、希望していた売却価格に届かないというケースも目立ちます。
業績が落ちていたり赤字経営だったりすると、さらに買い手は見つかりづらくなる傾向にありますよ。
会社売却の手続きを始める際には、必ず成功するとは限らない点を念頭に置いておきましょう。
4-2 経営者の立場からは引退しなければならない
会社売却で経営権を買い手企業へ譲渡した社長は、経営者の立場を離れます。
「経営者」というステータスに誇りを持っている人にとっては、ストレスを感じてしまうかもしれませんね。
ただし経営者の立場を離れたからといって、必ずしもすぐに会社から引退する必要があるとは限りません。買い手企業との交渉次第では会社に残れる可能性もあります。
「経営権は持っていなくても引き続き会社で働きたい」という希望を持っている方は、その旨を買い手へ伝えて、残留へ向けての交渉を行いましょう。
4-3 同じ業種で新たな事業を立ち上げられない
会社売却の交渉次第では、競業避止義務が発生するケースが存在します。
会社売却後の一定期間において、売却した業種と同業種の事業を行えないという取り決め
例えば学習塾の会社を売却したら、一定期間が過ぎるまでは新たに学習塾の会社を立ち上げられないということですか?
そのイメージでOKですよ。期間の設定とともに、地域についての設定を設けるケースも多いです。
会社売却の後に新たな事業を立ち上げたいと考えている社長にとっては、注意が必要な項目だといえるでしょう。
4-4 売却後すぐに引退できるわけではない
会社売却後は、社長の引退が実現します。しかし会社売却が成立しても、すぐに会社から引退できるわけではありません。
経営を買い手へ引き継ぐために、3ヶ月~1年程度の期間は会社にとどまる必要が出てきます。
さらに会社のキーマンとしてロックアップの対象になれば、向こう2~3年は経営や事業に参画することになります。
クロージング(決済の完了)を会社売却のゴールと捉えず、引き継ぎやロックアップ期間も念頭に置いて、今後の人生計画を立てましょう。
引き継ぎやロックアップ期間を短縮するためには、人に依存しない仕事の仕組みを構築しておくことをおすすめします。詳しくは下記の記事も参考にしてみてくださいね。
まとめ
会社売却とは、経営している会社の経営権を第三者へ譲渡することです。譲渡の対価として現金を受け取るため”会社売却”と表現されています。
会社売却はM&Aのスキームでいう株式譲渡にあたり、株式譲渡を売り手の視点で表現した言葉が会社売却だともいえるのです。
事業承継や経営の安定化を目的に実行されることが多く、中小企業の会社売却件数は年々増加傾向にあります。
会社売却ではそれぞれの目的を達成すると同時に、多くのメリットを得られる期待が持てます。
- 売却の対価を受け取れる
- 個人保証・連帯保証を解除できる可能性がある
- 従業員の雇用を維持できる
- 業績が向上する可能性がある
ただし会社売却には、以下のデメリットに注意が必要です。
- 必ずしも成功するとは限らない
- 経営者の立場からは引退しなければならない
- 同じ業種で新たな事業を立ち上げられない
- 売却後すぐに引退できるわけではない
会社売却を検討する際にはメリットだけでなく、デメリットについてもしっかりと理解しておきましょう。
会社売却には高度な専門知識が必要です。早めにM&A仲介会社へ相談することをおすすめします。