M&Aでは、お相手を選定する際にトップ面談が行われます。このトップ面談、実はM&Aを成功させるためにかなり重要な役割を担っています。
なぜならトップ面談で相手に良くない印象を与えてしまうと、たとえ他の条件が良くてもM&Aのお相手として選ばれない可能性があるからです。
そこでこの記事では、M&Aのトップ面談について解説しています。
- トップ面談のタイミングや出席者などの詳細が知りたい
- トップ面談を実施する目的について知りたい
- トップ面談を成功させるポイントを知りたい
上記のような考えを持っている経営者様は、ぜひこの記事でトップ面談についての知識を深めてくださいね。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:M&Aのトップ面談とは?
M&Aにおけるトップ面談とは、売り手側の経営者と買い手側の経営者が直接顔を合わせて行う面談です。
婚活に例えると、トップ面談はお見合いにあたります。
お見合いというと、結婚相手として自分にふさわしいかどうか、相性は良いかなどを見極める場というイメージですかね。
その認識でOKですよ。ここからはトップ面談の詳細についてみていきましょう。
1-1 トップ面談を実施するタイミング
トップ面談は、本格的なM&A交渉の前段階で行われるケースが一般的です。
もう少し詳しくいうと、買い手が売り手の企業概要書などを検討して、買収の意思を確認できた段階で実施されます。
つまり買い手が「この企業なら買収したいかも」と考えたときに、経営者同士のトップ面談が実現します。
なるほど。釣書を見て「この人に会ってみたいな」と思ったらお見合いが実現するのと一緒ですね。
1-2 トップ面談を行う場所
トップ面談は、売り手企業の社内で行うケースが一般的です。
なぜ売り手企業の社内で実施されるのでしょうか?
買い手に売り手企業内の雰囲気を把握してもらう目的があるためですよ。
ただし、秘密保持の観点から買い手企業のオフィス・M&A仲介会社のオフィス・ホテルの会議室などで実施されるケースもあります。
また、トップ面談が複数回行われる場合は、1度目の場所と2度目の場所を変えることもあります。
1度目は売り手企業のオフィスで、2度目は買い手企業のオフィス、といった具合です。
売り手企業が飲食店や製造業などの場合、トップ面談に合わせて現場見学が実施される場合もあります。
ただしその際はまだ社内の誰もがM&Aについて知らない状態のため、現場で従業員が不審に思わないような配慮が必要です。
また、ここ数年の傾向として、トップ面談をオンラインで実施するケースも増えています。
新型コロナウイルスの流行でオンライン面談が一気に広まりましたよね。M&Aのトップ面談もオンラインでの実施が可能なんですね。
そうなんです。オンラインだと、お相手が遠方の企業でも実施しやすいメリットがあるんですよ。
1-3 トップ面談の出席者
トップ面談の出席者は、大きく分けて売り手側・買い手側・担当M&Aコンサルタントの3つの立場に分かれます。
(M&A仲介会社を利用した場合)
○売り手側の出席者
意思決定権を持っている株主および経営者が出席します。
株主が複数いる場合は、筆頭株主または議決権の過半数を有する株主らが出席します。
ただし中小企業の場合は、経営者が全ての株式を所有しているケースが一般的です。そのため売り手側の出席者は、筆頭株主である経営者1人になることも多いです。
○買い手側の出席者
意思決定権を持っている経営陣が出席します。大きな企業の場合は、経営陣に加えてM&A担当責任者が出席するケースもみられます。
場合によっては、各部門の責任者が出席することもあります。
ただし売り手側の出席人数に対して買い手側の出席人数が多いと、売り手が圧迫感を感じてしまう恐れがあるため注意が必要です。
売り手側の出席者が経営者1人の場合は、買い手側の人数を調整することがあります。
相手の人数に圧倒されて委縮してしまいそうに感じていましたが、こちらに合わせて調整してくれるなら安心して臨めますね。
○担当M&Aコンサルタント
売り手・買い手の縁をつなぐため、担当のM&Aコンサルタントも出席します。
当日は進行役を務め、スムーズなトップ面談の実現を目指します。
M&Aコンサルタントはあくまでも中立の立場です。売り手・買い手の双方が気持ちよく面談を進められるように調整するのもM&Aコンサルタントの仕事です。
1-4 トップ面談の所要時間
多忙な経営者同士が直接顔を合わせて行われるトップ面談は、一般的に1時間半~2時間程度といった限られた時間の中で行われます。
その限られた時間を有効に利用するためには、周到な事前準備が必要です。
1-5 トップ面談の実施回数
トップ面談の回数に厳密な決まりはありません。
1回で完了するケースが多数を占めていますが、お互いの疑問を解消する目的などで複数回実施するケースもみられます。
最低1回は実施する
実際に2回・3回とトップ面談を重ねるケースもありますよ。基本合意契約の締結前にお互いの疑問をとことん解消しておくと、スムーズな交渉にもつながります。
2章:M&Aにおけるトップ面談の目的
トップ面談は、お互いの事業に関する疑問を解消するとともに、企業概要書や決算書からは見えない相手(経営者)の人間性やビジョンについて知ることを目的として実施されます。
つまり「M&Aのお相手として相応しい企業だろうか。社長は信用できる人だろうか」ということを、お互い確認するために開かれるんですね。
その通りです。まさに、企業どうしのお見合いだといえますね。
2-1 経営理念や経営者の人間性などの確認
経営者としての生き方や企業理念が近いと、M&A実行後の引き継ぎがスムーズにいく可能性が高いです。
逆に経営理念や社長の考え方があまりにもかけ離れていると、同じ方向を向いて歩んでいくことは難しいかもしれません。
2社が1つのグループ企業として同じ目的を持って歩んでいくためには、経営者の生き方や経営理念に共感できる相手を選ぶべきだといえます。
買い手は「この方が経営している企業なら、少々のリスクを負ってでも買収したい」と、売り手は「この方に自社と従業員の未来を託したい」と思える相手であることが重要です。
2-2 買い手の自己アピール
トップ面談は、買い手の自己アピールを行う場という性格も持っています。
なぜなら、トップ面談実施時には1つの売り手企業に対して、複数の買い手候補が買収に前向きな姿勢を示しているケースがあるからです。
複数の買い手候補の中から自社をM&Aの相手企業として選出してもらうために、買い手は自社の魅力をしっかりと伝える必要があるのです。
お見合い相手が複数いて、1人に絞り込まないといけない状況があるんですね。
そうなんです。複数の中の1人に選ばれるため、M&Aで得られるシナジー効果などをアピールしながら、自社の魅力を相手にしっかりと伝えなくてはいけません。
2-3 ビジネスモデルや企業概要の相互理解
トップ面談を行うタイミングでは、買い手はまだ売り手について十分に知らないケースが一般的です。
売り手もまた、買い手候補企業についてよく知らない状態であることが多いでしょう。
そのため両社の経営者が直接顔を合わせるトップ面談は、ビジネスモデルや企業概要をはじめ、お互いの企業に対して理解を深める場となります。
事前にお互いの企業について調べたり、質問事項をピックアップしたりしておくと効率的に相互理解が深まります。詳細は次章で解説しています。
3章:トップ面談前に売り手が行っておきたい事前準備
前述の通り、トップ面談は売り手・買い手候補の相互理解を深める場です。
にもかかわらずおよそ1時間半~2時間程度という短い時間の中で開催されるケースが多いため、周到に事前準備を整えて効率よく面談を進めていきたいものです。
ここでは、トップ面談前に売り手が行っておきたい事前準備についてみていきましょう。
限られた時間を有効に使いトップ面談を成功させるために、この章は必見ですよ。
3-1 相手企業の情報をリサーチする
トップ面談の限られた時間を有効に利用するために、相手企業について事前にリサーチしておきましょう。
相手企業の情報は、買い手候補企業のホームページ・帝国データバンク・東京商工リサーチ・日経テレコンなどで収集が可能です。
企業情報だけでなく、経営者個人に関する情報収集も行っておくと良い
出身校や趣味などに共通点があると一気に距離が縮まり、面談が一層盛り上がるうえに信頼関係の構築へもつながります。
たしかに共通の話題があるとすぐに仲良くなれる気がします!個人に関する情報も大切ですね。
相手も自分のことを知ってくれていると嬉しいですよね。
3-2 疑問点・質問項目を洗い出す
リサーチした相手企業の情報を元に、疑問点や質問項目の洗い出しを行います。
主な質問項目としては、以下のようなものが考えられます。
- 経営者個人の経営理念や経営に対する考え方
- M&Aで企業買収を検討している理由
- M&A後の経営ビジョン
なお、M&A仲介会社が間に入っている場合、洗い出した疑問点や質問事項を担当のM&Aコンサルタントに共有しておきましょう。
直接聞きづらい質問を代わりに質問してくれるなど、スムーズな進行の手助けをしてくれます。
3-3 自社の情報を整理する
売り手が相手の情報を収集しているのと同じく、買い手候補企業もまた売り手の情報を収集しています。
トップ面談の場では買い手候補企業から質問されることもあるため、どんな質問がきても答えられるように、自社について整理しておきましょう。
質問されるであろう事項をあらかじめピックアップしておき、答えを用意しておいてもいいですね。
いいですね。そのうえで、想定外の質問にも答えられるような準備もしておくとベストですね。
自社の情報を整理するとともに、会社案内や製品パンフレットなども準備しておくと、より一層の理解へとつながります。
3-4 M&Aの相手先として望む企業像を明確にする
トップ面談で相手の良いところをたくさん知ると、M&Aとしてふさわしい相手であるように思えてきます。
しかしM&Aの現場において、感情的な判断は危険です。その場の感情や雰囲気に流されて判断を下してしまうと、相手選びを間違える可能性が高まります。
相手選びを失敗しないためには、準備段階でM&Aの相手企業に望む条件や企業像を明確にしておきましょう。
「こんな企業とM&Aを実現させたい」という明確な基準を持っていれば、冷静かつ客観的に買い手候補を選定できる可能性が高まります。
4章:トップ面談を成功させるために売り手が意識しておきたいポイント
トップ面談の成功は、基本合意契約締結へ向けての大きなカギを握っています。
M&Aのお相手選びに重要な役割を担っているんですね。これは失敗できませんね!
ここでは、トップ面談を成功させるために売り手が意識しておきたいポイントを5つ解説します。
4-1 良い第一印象を与える
人対人の交渉において最も大切なポイントは、第一印象だといっても過言ではありません。
M&Aの交渉以前に、人としての第一印象が重要だということですね。
初対面の印象は3秒で決まるといわれている
第一印象が良ければ会話も好意的に進み、相手はその後も接点を持ちたがる傾向にあります。
清潔感のある身だしなみ・明るい表情・しっかりした挨拶など、良い第一印象を与える言動を意識し実践しましょう。
人として当たり前のことですが、遅刻も絶対にNGですよ。
4-2 具体的な条件交渉は行わない
トップ面談はあくまでもお互いの理解を深める場であり、具体的な条件交渉はトップ会談の後の段階で行うものです。
そのためトップ面談の場で譲渡額などの具体的な条件について言及すると、その場の雰囲気が損なわれ、相手に悪い印象を与えてしまいます。
いきなり条件交渉を始めてしまうと、がっついている印象や、下品な印象を与えてしまいます。
買い手の立場になって考えてみても、相互理解のために設けられた場でいきなり条件交渉をしてくる社長はちょっと嫌かもしれません。全然空気が読めていないですよね。
4-3 一方的に話し過ぎない
自社についてより深く理解してもらおうという気持ちが強いあまり、一方的に話し過ぎてはいけません。
トップ面談はあくまでも相互理解の場です。
売り手が一方的に話してしまうと、相手が話す時間がなくなってしまう恐れがあります。
その結果相手が聞きたいことを質問できず、自分も相手のことを十分に理解できないままトップ面談が終了してしまう可能性が高まります。
お互いのことをよく知るために、話す時間が半々になるように心掛けましょう。
4-4 質問や疑問に対しては誠実な態度で返答する
M&Aのお相手を決める作業において、経営者の人柄も重要な決め手となります。
質問に対してぶっきらぼうな答え方をしたり横柄な態度を取ったりすると、相手に不信感を抱かせる原因となり、トップ面談が失敗に終わる可能性を高めます。
質問に対する回答は丁寧かつ誠実に、事実を正確に伝えましょう。
話を盛ったり事実と異なることを伝えたりするのも絶対ダメですよ!
交渉が進んでいつかバレたときに信頼が失われてしまいますもんね。
特にデューデリジェンス後に嘘が発覚すると、M&A交渉の破談につながる可能性もあるので注意してくださいね。
4-5 前向きな返答を心がける
買い手候補からの質問に対して「無理です」「できません」「前例がないので分かりません」などと後ろ向きな返答を繰り返して破談になったケースがあります。
M&Aのお相手候補とは企業文化・経営資源・事業内容などが異なるため、できないことや分からない点があるのは当然です。
しかしできないからといって事実をそのまま伝えただけでは、お互いの間に信頼関係は生まれません。
トップ面談を成功させてお互いの信頼関係を構築するためにも、質問には前向きな返答を心掛けましょう。
「やったことはありませんが、○○すれば可能になるかもしれません」といった感じで、ポジティブにいきましょう。
5章:M&Aにおけるトップ面談当日の一般的な流れ
トップ面談は1時間半~2時間程度ということですが、当日はどんな流れで進行していくのでしょうか。
M&Aにおけるトップ面談当日の流れは、一般的に以下の通りです。
- 名刺交換
- 自社紹介
- 質疑応答
- 店舗・工場の見学
1時間半の中にこれだけの項目が詰め込まれるんですね。たしかにしっかりと事前準備しておかないと、時間を無駄にしてしまいそうです。
事前準備の必要性が分かりますよね。さらに時間を無駄にしないための施策の1つとして、あらかじめ当日の進行を出席者全員に共有しておくことも多いですよ。
なお、M&A仲介会社が間に入っている場合は、担当のM&Aコンサルタントが進行役を務めるケースが一般的です。
また、従業員への情報漏洩を防ぐために、現場の見学は休日に行われることも多いです。
まとめ
M&Aにおけるトップ面談は、売り手・買い手双方の経営者が直接顔を合わせて行われます。
企業概要書などから買収の意思を表明した買い手候補と、売り手がお見合いをするイメージをすると分かりやすいでしょう。
トップ面談の詳細については、以下の通りです。
実施のタイミング | 本格的なM&A交渉の前段階 |
実施する場所 | 主に売り手企業の社内 |
参加する人 | 売り手・買い手双方の経営者+担当のM&Aコンサルタント |
所要時間 | 1時間半~2時間程度 |
実施回数 | 1回以上(明確な決まりはない) |
目的 | 相互理解を深めるため |
トップ面談を成功させるために売り手が気を付けたい項目としては、以下の5点が挙げられます。
- 良い第一印象を与える
- 具体的な条件交渉はしない
- 一方的に話し過ぎない
- 質問や疑問には誠実に回答する
- 前向きな返答を心がける
トップ面談の成果次第で、今後のM&A交渉が大きく左右されます。しっかりと準備を整え、万全の体制で挑みましょう。
トップ面談に関しての疑問点は、担当のM&Aコンサルタントにも相談しましょう。相手企業の雰囲気などを鑑みて、適切なアドバイスがもらえるはずですよ。