M&Aによる会社売却を検討し、M&A会社へ相談したときに事業計画書の有無を聞かれたことはありませんか?
会社を売却しようとしているのに、なぜ未来の事業計画が必要なのでしょうか
実は、向こう3~5年分の事業計画書は、M&Aにおける会社売却を成功させるために欠かせない存在ともいえるのです。
そこでこの記事では、なぜM&Aで事業計画が必要なのかを、その重要性と共に解説します。
事業計画の目的と重要性をしっかりと理解し、会社売却を成功へと導いてください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:事業計画はM&Aを成功へ導くカギを握る書類の1つ
M&A取引上で作成される事業計画には、買い手側が買収後の事業計画を作成するものと、売り手側が自社をアピールする目的で作成するものの2種類が存在します。
売り手側がM&Aを成功へ導くためには後者の存在が重要であるため、ここでは「売り手側が作成する事業計画」について解説しています。
1-1 売り手側から見た事業計画の必要性
売り手側の社長からすると、会社を売却するのに今更事業計画を作るのは面倒だと思うかもしれません。
実は中小企業におけるM&A取引において、売り手側があらかじめ事業計画を用意しているケースは非常に少ないのが現状です。
なぜなら、社長自身の感覚や今までの慣習に頼った経営を行っている企業がまだまだ多いと考えられるからです。
中小企業の多くはまだ、明確なビジョンと数字を基に未来を描いていくという習慣が根付いていないともいえるでしょう。
しかし事業計画の作成は、買い手企業へ経営戦略などをアピールする材料となります。
必ず用意しなければいけない書類ではありませんが、事業計画の有無は会社の売却価格に影響を及ぼすことが十分に考えられます。
また「事業計画の存在そのもの」が企業の評価を高めてくれる可能性もあるのです。
「自社の未来を客観的に見て成長戦略を描けている」ということ自体が、買い手側から評価されることも十分に考えられます。
1-2 買い手側から見た事業計画の必要性
売り手側から提出される事業計画は買い手側からすると、「この企業を買収したら買収金額以上の収益を出せるかどうか」を判断する材料の1つです。
また、どのようなビジョンを持って事業にあたっているのか・シナジー効果は見込めるのか・買収価格をいくらに設定するのかなどの判断を手助けする資料にもなります。
ただし売り手の「自社を良く見せたい」という意識が働いていることが考慮されることは覚えておいても良いでしょう。
2章:事業計画の内容とは
事業計画書に記載する内容は、法律などで決まっているわけではありません。
会社売却時に売り手側が用意する事業計画は、自社が現在置かれている状況を明らかにし、今後どのように成長していくのかを記載します。
買い手側に提出するタイミングにも決まりはありません。
企業概要書(IM)にあらかじめ事業計画を記載しておく場合や、買い手企業から求められたタイミングで提出するケースも存在します。
M&A取引の際に、売り手側が用意する事業計画に記載することの多い主な項目は以下の7点です。
今後の見通しに必要な事業計画として
- 事業計画概要(成長する根拠が重要!)
買い手側に提示する具体的な数字として
- 売上
- 販管費
- 営業利益
- 減価償却費
買い手側に提示する具体的な数字としての6点は、向こう3~5年分の見込み数字を算出しておきましょう。
3章:M&Aを成功へ導く事業計画の作成ポイント
M&Aによる会社売却を成功へ導くために作成する事業計画作りには、主に3つのポイントがあります。
- 嘘を付かない(自社を過大評価しない)
- 具体的な数字を明確に挙げる
- ウイークポイントも隠さない
高値で売却するためには自社をアピールして売り込むことも大切ですが、誠実さや堅実さを見せることも重要なのです。
3-1 現実的で具体的な事業計画を立てる
いくら未来の事業計画を作成したとしても、絵に描いた餅では意味がありません。
そもそも事業計画は達成するために立てるものです。具体的な数字を挙げつつ、現実に達成できる事業計画の作成が大切です。
また、社長が「何となく勘で」算出した数字では説得力がなく、信ぴょう性にも欠けたものになってしまいます。
数字には具体的な根拠を挙げ、信頼性の高い事業計画を立てましょう。
3-2 経営理念と将来のビジョンを明確にしておく
自社がどのような理念のもとに事業を行っているかとともに、将来のビジョンを明確にしておきましょう。
経営理念やビジョンに共感を得られる買い手企業とならよりM&Aが成立しやすくなり、売却後もスムーズに事業を開始できる可能性も高まります。
3-3 自社の強みと弱みを明確にしておく
自社の強みは誰でもアピールしたいものですが、弱みの明確化も必要です。
自社の課題を正確に把握したうえで対策を講じていることが分かれば、買い手側も安心して買収を進められるからです。
また弱みが明確になっていると、それをカバーできる買い手企業が現れる可能性も出てきます。
お互いに強みを高め、弱みをカバーしあえる相手が見つかれば、シナジー効果への期待からより高い売却価格が付く期待も持てます。
4章:買い手側がチェックする事業計画のポイント
売り手側から提示された事業計画は、買い手側が企業の買収価格を算出するための参考資料となります。
ここで重要なのが、事業計画は買い手側が買収後の収益計画を策定するためのプラスの要素となる点です。
事業計画がなくても、買い手側は企業概要書(IM)や過去の決算書などから買収価格を算出します。
しかしそれだけでは分からない部分も多いため、事業計画の有無がポイントになるのです。
自社をしっかりと売り込み、買い手企業に少しでも好印象を与えるために、買い手側がチェックする事業計画のポイントを把握しておきましょう。
4-1 売上計画が現実的か
事業計画は実際に達成することを目的として作成されるものです。そのため現実に達成できる売上計画であるかが重要視されます。
買い手は過去の成長率に対して過度に楽観的になっていないか、市場の成長率に見合った売上計画になっているかなどを検証します。
そのためあまりにも現実からかけ離れた売上計画を立てていると、買い手企業からの信頼を失ってしまう原因になりますので注意してください。
適当に作ったものでないことを証明するために、売上の根拠をしっかりと挙げて作成しましょう。
4-2 売り手企業の課題の明確化
買い手企業は売り手の課題を分析し、成長のボトルネックになっている部分などを検証します。
瓶の首が細くなっている部分である「bottleneck」に由来する言葉で、業務の停滞や生産性の低下を招いている箇所のことを指しています。
売り手の課題を洗い出すということは、基本合意契約の締結後に行われるデューデリジェンス(DD)の調査事項の洗い出しにもつながります。
前もってデューデリジェンスの調査事項を洗い出しておけば、買い手側はM&A価格の減額修正やM&A後の行動計画の練り直しといった事態を避けられるのです。
4-3 シナジー効果が期待できるか
シナジー効果とはM&Aによる相乗効果を指していて、1(売り手)+1(買い手)=2以上の価値を生み出すことです。
具体的には、売り手企業が買い手の傘下に入り経費や原価の削減が実現し、利益率が向上することなどが挙げられます。
シナジー効果が期待できるM&Aは売却価格もアップする傾向にあるため、事業計画でもしっかりとアピールしていきたいものです。
5章:事業計画は従業員にも浸透させることが重要
事業計画は社長や経営陣だけでなく、できる限り全ての従業員に周知させておきましょう。
なぜ従業員に浸透させておく必要があるのでしょうか
従業員が事業計画を把握し達成すべき目標が浸透していると、買い手側は事業計画達成の確率が高いと判断し、その結果売却価格のアップが期待できるからですよ。
また、事業計画の周知がもたらすメリットはM&Aにおいてだけではありません。
通常の業務においても、従業員1人1人が目標を把握しているとモチベーションの向上へとつながります。
そして全員が同じ方向を向いて業務が遂行できるようになり、業績の向上へとつながるのです。
そのためすぐにM&Aを実行する予定がなくても、常に向こう3~5年分の事業計画を作成しておくことをおすすめします。
将来的にM&Aで会社売却を考えている社長は尚更です。直前になって焦らないためにも、事業計画の作成への取り組みは有用です。
まとめ
経営理念と将来へのビジョンを明確にし向こう3~5年分の事業計画を作成することは、M&Aでの会社売却を成功へ導くカギとなっています。
しかし多くの中小企業では事業計画を作成していないのが現実です。
良質な事業計画はM&Aにおいて必須書類ではありませんが、確実にプラスとなる書類です。
嘘はつかない・具体的な数字を明確にする・ウイークポイントも隠さないというポイントを踏まえて、根拠に基づいた信頼性の高い売上計画を作成してください。
また、作成した事業計画は従業員全員と共有することをおすすめします。従業員全体のモチベーションアップにつながり、業績の向上へとつながっていくからです。
事業計画を自分たちだけで作成することが難しいと感じたら、専門家への相談をおすすめします。
何期分かは専門家の手を借りて作成してみて、慣れてきたら自分たちだけで作成すれば良いのです。
まだ事業計画を作成していない会社は、ぜひ今から事業計画の作成に取り組んでくださいね。