会社を売却したいと考え始めたのですが、何から始めたら良いのでしょうか。
本当に会社を売却すべきなのかを検討するためにも、まずは会社売却についての基礎知識をつけましょう。
会社売却に関して全く知識のない状態では、M&A仲介会社や買い手から「良いカモがやってきた」と思われ非常に不利な条件を飲まされてしまう可能性があります。
会社売却を有利な条件で成功させるためには、社長自身がM&Aの基礎知識を身に付け、M&A仲介会社や買い手から足元をすくわれないようにしなくてはなりません。
そこでこの記事では、会社売却を成功させるための基礎知識を詳しく解説します。
- 会社売却にはどのような手法があるのか知りたい
- 会社売却に必要な期間や手順について知りたい
- 会社売却のメリットとデメリットを比較検討したい
- 会社売却を成功させるポイントが知りたい
この記事を読めば、上記の悩みが解決できます。会社売却の検討を始めた社長に最適な内容となっていますので、ぜひチェックしてくださいね。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:会社を売却したいときに使用する主な手法
会社を売却するにはいくつかのスキーム(手法)が存在します。
会社売却の目的により選択すべきスキームが異なるため、会社売却を検討し始めたら、まずはどのスキームを使用するかを考えましょう。
会社を売却したい理由別のおすすめスキームは以下の通りです。
会社売却の目的 | 目的に合ったスキーム |
後継者がいなくても会社を存続させたい | 株式譲渡・合併 |
売却益を得て引退したい | 株式譲渡・合併 |
個人保証や連帯保証も切り離したい | 株式譲渡・合併 |
不要な事業を切り離したい | 事業譲渡・会社分割 |
不動産賃貸業だけ残して本業を譲りたい | 会社分割 |
複数ある店舗のうち1店舗だけを社員に譲りたい | 事業譲渡・会社分割 |
1-1 株式譲渡
株式譲渡とは、譲渡対象企業のオーナーが、自身が所有する株式を第三者へ譲り渡すことで経営権を移転させるスキームです。
中小企業の場合は社長が100%の株式を保有しているケースが多くを占めているため、この100%の株式を買い手へ売却して、経営権を譲渡します。
株式譲渡の場合、売り手=株主
自身の所有する株式を売却するスキームであるため、株式譲渡の売却益は株主個人が受け取ります。
売却益を受け取り経営権を買い手へ引き渡した後は、会社から引退するケースが多くを占めています。
ただし買い手との交渉次第では、引き続き社長を続けたり顧問として関わり続けたりすることも可能です。
買い手と交渉の上で金融機関から認められた場合、社長の個人保証や連帯保証を解除できる可能性を秘めている点も、株式譲渡のメリットだといえます。
株式譲渡は、後継者問題を解決してリタイアを目指している社長にイチオシのスキームですよ。
1-2 合併
合併は、複数の会社が1つの会社に統合されるM&Aスキームを指し、吸収合併と新設合併の2種類に分けられます。
吸収合併は、既存の買い手企業に売り手企業が吸収される形での合併です。
合併により法人格が消滅する会社を消滅会社と呼ぶ一方で、合併後も存続する会社は存続会社と呼ばれます。
新設合併は、合併の受け皿として新たに会社が設立され、そこへ既存の会社が合併するスキームです。
どちらも合併される側の法人格は消滅するという共通点を持っている。
合併により消滅する会社の権利義務は、全て存続する会社へと引き継がれます。
株式譲渡と同じく、後継者問題を解決したい場合や、個人保証や連帯保証を解除したい場合に選択されるスキームですよ。
ちなみに中小企業がM&Aで合併を選択する場合は、ほとんどのケースで吸収合併となります。
売主=株主となるため、売却益を得て引退したいと考えている社長にも適したスキームだといえるでしょう。
株式譲渡との大きな違いは、法人格が残るかどうかといったところなのですね。
そうですね。「買い手企業の色に染まります」という場合は、合併がおすすめです。
1-3 会社分割
会社分割とは、会社の事業を分割して別の会社へと引き渡すM&Aスキームです。
既存の会社へ事業を譲渡する吸収分割と、事業の受け皿となる会社を新たに設立する新設分割の2種類に分けられます。
会社分割は、不要な事業を切り離したいときにおすすめのスキームですよ。
吸収分割の場合、売主は会社でも株主個人でもどちらでも構いません。
社長個人が自身のために譲渡益を受け取りたいのか、会社が受け取り会社の資金としたいのか、目的に応じて決められます。
会社分割は譲渡する事業に関する権利義務を包括的に継承するスキームのため、資産だけでなく負債も買い手へと引き継がれる
譲渡する資産を個別に指定する必要がないため、手続きが簡単な点もメリットの1つです。
1-4 事業譲渡
事業譲渡とは、売り手企業が行っている事業のうち、全てまたは一部を売却するM&Aスキームです。
先ほど出てきた吸収分割と同じではないのですか?
非常によく似ていますが、事業譲渡では譲渡する資産を個別に指定する必要があるんですよ。
譲渡対象として選べる項目は事業のみにとどまりまらず、会社の資産・負債・従業員の雇用など様々な項目に対して個々に選択できる点が事業譲渡の大きな特徴です。
ただし譲渡対象を細かく設定できる一方で、細かく設定した分だけ手続きが煩雑になるという特徴も併せ持っています。
事業譲渡では、負債は売り手企業に残すケースが一般的です。
負債がこちらに残ったら、返済が大変になってしまうのではないですか?
事業譲渡の売主は会社ですので、会社に譲渡益が入ります。その譲渡益を負債の返済に充てれば良いのですよ。
また、株式譲渡で買い手探しを始めたものの負債がネックとなって買い手が見つからない場合などに、事業譲渡に切り替えて買い手を探すケースも見られます。
つまり、「負債を手元に残してでも会社を売り切ってしまいたい」という目的を持っている場合に有効なスキームだともいえます。
2章:会社売却に必要な期間
会社売却にかかる期間は売却する理由やスキームによっても変わってきますが、最低でも6ヶ月~1年は必要です。
また、業種・地域・希望条件などによって買い手企業の見つけやすさも変わってきます。
より希望に近い条件で会社売却をおこなうためにも、余裕のある期間を設定するようにしましょう。
- 必要書類の準備
- 買い手探し
- デューデリジェンス(買収監査)
- 最終条件交渉
上記の項目は、M&Aプロセスの中でも遅れが発生しやすい項目です。なるべくスムーズに進めるためには、入念な準備と柔軟な対応が必要になります。
M&Aプロセスをスムーズに進めたい方は、下記の記事も参考にしてくださいね。
さらに会社売却は、最終譲渡契約が成立して終わりではありません。
譲渡契約が完了した後に、経営に関する引継ぎ期間が必要です。
経営の引継ぎには3ヶ月~1年程度の期間を要するケースが多い
会社売却の完了時期を検討する際には、必要な引継ぎ期間についても念頭に置いておきましょう。
3章:会社売却の手順
会社売却を決意してから実際に完了するまでには、たくさんの手順を踏む必要があります。
途方もない道のりのように感じるかもしれませんが、1つずつ確実に丁寧にこなしていきましょう。
ここでは、会社売却で多く使用されている株式譲渡を例に挙げて、その手順について解説します。
いつか必ずゴールは見えてきます。信頼できるM&Aコンサルタントと二人三脚で頑張りましょう!
3-1 準備
スムーズな会社売却を成功させるためには、準備が大きなカギを握っています。
本格的な会社売却プロセスが始まるまでに、可能な限りの準備を整えておくことが重要です。
○会社を売却したい理由を整理しておく
M&A交渉において社長はたくさんのことを決定していかなくてはならず、会社売却を決意した動機の存在が今後のM&Aに関わる方針決定において軸となる役割を果たします。
動機がブレているとM&A交渉そのものの軸がブレてしまい、「もっとこうすればよかった」と後悔が残ってしまう結果になりかねません。
会社を売却する決意をした理由や背景を明確にしておくことで、判断に迷ったり状況が大幅に変化したりした際に有効な意思決定ができる可能性が高まります。
- なぜ会社売却を決意したのか
- 会社売却を完了させることでどのような未来を得たいのか
上記2点を明確にしておき、いつでも見返せるように文書として残しておきましょう。
文書といっても、どこかへ提出するものではありません。Wordやメモ機能などに記しておく程度でOKです。ご自身がいつでも見返せる手段を選択してくださいね。
○会社売却を完了したい時期を検討する
会社売却のスケジュールは、タイトすぎても間延びしすぎても良くありません。
そこで、会社売却を完了させたい時期の希望について整理しておきましょう。
会社売却を完了したい時期を明確に決めておくことで「いつまでに何をすべきか」が見えてくるため、段取りよくM&Aプロセスを進めていけるようになります。
会社売却完了の希望時期は「1~1年半後くらいまで」というように、幅を持たせて設定しておく
M&Aプロセスでは、誰も予想できなかったトラブルが起こり得ます。そのため完了の希望時期は、ある程度余裕を持たせて設定しましょう。
○売却価格や従業員の処遇など希望の条件を整理しておく
会社売却の買い手探しを始めると、買い手候補からは様々な条件が提示されます。
買い手選びをスムーズに進めるためにも、希望の条件を整理しておきましょう。
- 売却希望価格
- 買い手の業種や企業規模など
- 従業員の処遇
- 自身の進退
- 個人保証や連帯保証の解除
主に上記の5点については、ご自身の希望を明確にしておきましょう。
希望の条件には優先順位を付けておく
全ての条件を満たした買い手が現れる可能性は、残念ながら高いとはいえません。
そのため希望条件には優先順位を付け、譲れない項目とある程度妥協できる項目を作っておきましょう。
希望の条件に優先順位を付けるためには、会社を売却したい理由を整理しておくことが欠かせませんね!
その通りです。会社売却で実現したいことが明確になっていないと、優先順位は付けられませんね。たとえ付けられたとしても後々ブレてしまっては意味がありません。ブレない優先順位を付けるためには、ブレない動機を明確にしておきましょう!
○必要書類の準備にとりかかる
M&Aプロセスには、たくさんの書類が必要になります。
しかしプロセスの途中で必要になった書類をその都度探していると、M&Aのスケジュールに遅れが発生する原因となってしまいます。
必要書類は早い段階から準備を始めておくと良いですよ。
M&Aで必要になる代表的な書類は以下の通りです。
書類の種類 | 書類の名称 |
会社の概要に関する書類 | 会社案内・パンフレット等 |
定款 | |
会社商業登記簿謄本 | |
株主名簿 | |
議事録(株主総会・取締役・経営会議等) | |
財務に関する書類 | 決算書・勘定科目明細(3期分) |
法人税・住民税・事業税・消費税申告書 (3期分) | |
減価償却資産台帳 | |
月次試算表 | |
資金繰り表 | |
総勘定元帳(3期分) | |
支払保険料内訳・租税公課内訳(3期分) | |
固定資産税課税明細書(最新分) | |
土地・建物の登記簿謄本 | |
公図・測量図等 | |
事業計画(今後5期分) | |
事業に関する書類 | 製品・サービスのカタログ |
店舗・事業所の概況(所在地、人員数等) | |
採算管理資料(部門別・商品別・取引先別等) 3期分 | |
売上内訳(部門別・商品別・取引先別等) 3期分 | |
仕入内訳(部門別・商品別・取引先別等) 3期分 | |
人事に関する書類 | 組織図 |
主要役員・部門長の経歴書 | |
従業員名簿(生年月日・入社年月日・役職・取得資格の分かるもの) | |
社内規程(就業規則・給与・賃金規程・退職金規程等) | |
給与台帳(直近期末分) | |
契約に関する書類 | 土地・建物の賃貸借契約書 |
銀行借入金一覧(返済予定表・担保一覧) | |
保険積立金の解約返戻金資料 | |
株式・ゴルフ会員権等の保有数量がわかる資料(取引残高報告書等) | |
金融商品・デリバティブ(仕組み債等)の最新時価資料 | |
取引先との取引基本契約書 | |
生産・販売委託契約書 | |
リース契約一覧 | |
連帯保証人明細表 | |
株主間協定書 | |
その他経営にかかわる重要な契約書 | |
許認可に関する書類 | 事業活動に必要な全ての免許・許認可・登録・届出の各書類 |
こんなにあるんですね!これは大変だ。
そもそも作成していない書類は改めて作成する必要はありません。しかしそれでもかなりの数になるはずです。早い段階からコツコツ揃えておいてくださいね。
○複数のM&A仲介会社へ見積もりを依頼する
M&Aを実行するためには、ほとんどの企業において専門家の手が必要となります。
そして、質の高いM&Aコンサルタントとの出会いが、会社売却を成功へと導くカギを握っていると言っても過言ではありません。
そのため会社売却の検討を始めたら、複数のM&A仲介会社へ相談し見積もりを依頼してください。
- 豊富な知識と経験を持っている
- 親身に話を聞いてくれる
- 誠実な人柄が対応に表れている
さらに、M&A仲介会社へ支払う手数料についても確認が必要です。
M&A仲介会社はそれぞれ異なった料金体系を持っているため、同じ条件で見積もりを依頼することをおすすめします。
1年後に2億円で会社売却が成立した場合の手数料の合計
上記のように、会社売却成立までに要する時間と売却価格を具体的に提示し見積もりを依頼することで、複数社での手数料の違いを明らかにできるのです。
M&A仲介会社に支払う報酬は大きな金額となります。料金体系の違いによっては支払い総額が1,000万円以上異なる場合がありますので、しっかりと比較検討を行いましょう。
3-2 M&A仲介会社とアドバイザリー契約の締結
いくつかのM&A仲介会社を比較検討し、信頼のおけるM&Aコンサルタントと出会えたら、いよいよM&A会社とアドバイザリー契約を締結します。
契約の締結後は怒涛のプロセスが待っています。一気に走りぬく覚悟を決めて、契約書にサインをしてくださいね。
アドバイザリー契約の締結後は、早速買い手探しの準備が始まります。
まずは、M&A仲介会社により企業概要書とノンネームシートの制作が行われます。
企業概要書
売り手企業の企業概要・事業内容・財務諸表などの詳細が記された書類
ノンネームシート
売り手企業の概要を企業名を伏せてまとめた書類
どちらも買い手候補へ自社をアピールする際に使用する重要な書類です。M&A仲介会社から求められた資料を迅速かつ確実に揃え、質問などにも嘘偽りなく回答してください。
3-3 買い手探し~基本合意契約の締結
必要な資料が揃い、企業概要書やノンネームシートの作成が終わると、買い手候補探しが始まります。
買い手候補企業にはまずノンネームシートが提示されます。ノンネームシートに記載された情報を元に、買い手候補は買収したいかしたくないかの検討を行うのです。
最初にノンネームシートが提示される理由は、売り手がM&Aの買い手を探していることを周囲に知られないようにするためです。
買い手候補として情報を開示した相手が、うっかり周りに情報を漏らさないための配慮なのですね。
ノンネームシートに記載されている内容に買い手候補が興味を持ったら、社名などの情報も入った企業概要書が開示されます。
その後本格的な買収の検討が行われ、売り手・買い手双方にM&A実行の意思が確認できたら経営陣によるトップ面談がおこなわれます。
そこでお互いに納得のいく相手であれば条件面での調整に入り、売り手が条件に納得し合意すると、基本合意契約書の締結となるのです。
基本合意契約は、結婚でいうと結納のようなイメージです。お相手を1人に絞り込み、具体的な話を進めていく段階に入っていきますよ。
3-4 デューデリジェンス(買収監査)
買い手企業との間で基本合意契約を締結したら、買い手企業によるデューデリジェンスが実施されます。
買い手企業が売り手企業を買収するかどうかを最終的に判断するために行う調査。デューデリジェンスの結果を踏まえて最終的な譲渡価額が決定される。
デューデリジェンスでは、あらゆる観点から売り手企業が調査されます。具体的な調査の目的としては、以下の例が挙げられます。
- 本当に提示した買収価格に見合う企業かどうか
- 交渉時に隠していた負債やリスクはないか
- M&Aで期待する効果が得られるか
M&A成立後のトラブルを防ぐためにも、デューデリジェンスは非常に重要なプロセスです。そのため「スムーズに進める」ということよりも「漏れのないよう慎重に進める」に重きを置いて行うべきだといえます。
買い手企業は莫大な費用と時間をかけてデューデリジェンスを実施します。売り手側も協力を惜しまず、求められた情報は洗いざらい開示しなければなりませんよ。
3-5 最終交渉・最終譲渡契約の締結
買い手によるデューデリジェンスの結果をもとに、株式譲渡契約の締結へ向けた最終条件交渉が行われ、最終的な譲渡価額が決定します。
最初に提示された金額と最終譲渡価格は異なるケースも多い
デューデリジェンスの結果、当初の買収価格より低い金額が提示される可能性も大いにありえるため、期待のしすぎは禁物です。
売り手・買い手双方が納得する条件が揃ったら、最終譲渡契約を締結します。
最終譲渡契約を締結したら、もう後には退けません。締結には慎重な判断が必要ですよ。
3-6 クロージング
最終譲渡契約を締結したら、いよいよM&A最後のプロセスであるクロージングを行います。
締結した最終契約に基づいて会社や事業の引き渡し手続きと支払いが実行され、経営権の移転が完了すること
最終譲渡契約を締結した当日にクロージングを実行するケースと、最終譲渡契約締結と譲渡実行日は別日で設けるケースがあります。
クロージングをもって、全てのM&A手続きが完了となります。長い道のりもついに完走です。
今までのM&Aプロセスの集大成ですね。感無量ですね。
3-7 引き継ぎ
クロージングをもって会社売却の手続きは全て完了となりますが、事業をスムーズに行っていくためには実務的な引き継ぎが必要です。
たとえ社長が会社に残る選択をしていたとしても、経営者の交代に関する引き継ぎは欠かせません。
社長が抱えている仕事量にもよりますが、引き継ぎにはおよそ3ヶ月~1年程度の期間を要することを覚えておきましょう。
会社売却後に引退を考えている方は特に、クロージング後すぐには引退できない点に注意してくださいね。
早く引退したいという希望を持っている場合、クロージング後1年も拘束されるのは辛いですね…。何とか短くできないでしょうか。
ご安心ください。私が担当したM&Aでの最短記録は1か月です。引継ぎに要する期間は、事前の準備や工夫次第で短縮できる可能性が高いですよ!
3-8 【番外編】ロックアップ
M&Aで会社売却を行うと、クロージングの後にロックアップ期間を設けるケースがみられます。
会社で重要なポジションに就いている人(キーマン)がM&A後も一定期間その立場に残り、経営や事業に参画する期間。
ロックアップ期間については、最終譲渡契約に盛り込まれます。
「会社で重要なポジションに就いている人」としてロックアップ対象になると、定められた期間は会社に残る必要が出てくるんですよ。
会社の引き継ぎとは別に、ということですよね。具体的にはどれくらいの期間なのでしょうか。
一般的には、2~3年程度に設定されるケースが多いようです。
キーマンへの依存度が高いほどロックアップ期間は長引く傾向にあります。
ロックアップ期間を短縮するためには、日頃から「人に依存しない仕事の仕組み」を社内に構築しておくことをおすすめします。
4章:会社売却のメリット
会社を売却することで、売り手は様々なメリットが享受できます。
ここでは、会社売却で得られるメリットについて、詳しくみていきましょう。
ご自身が会社売却で目的としていることを思い浮かべながら読み進めてみてくださいね。
4-1 会社売却の対価を受け取れる
株式譲渡や合併で会社を売却した場合、売主=株主となります。
多くの中小企業では社長が100%の株主となっているケースが多いため、社長個人が会社売却の対価を受け取ることになります。
会社売却で得た対価は、社長個人のお金です。引退後の生活費に充てたり、新しい事業を始めるための資金にしたりと、使い道はさまざまです。
譲渡益には20.315%の所得税・住民税等が課税される
売却益の使い道を考える際は、支払いが必要な税金とM&A仲介会社へ支払う手数料を差し引いた金額で考えましょう。
4-2 後継者問題を解決し会社を存続させられる
会社を売却すると、以後の経営は買い手によって行われます。そのため、社内に後継者が不在の状態でも、会社を存続させられるメリットが得られるのです。
後継者がいなくても会社を存続させられる点は、非常に魅力的ですね。
後継者問題に悩む中小企業は増加の一途をたどっています。実際に、後継者問題解決を目的とした会社売却は増えているんですよ。
4-3 経営者の重圧から解放される
前述の通り、会社を売却すると経営権が買い手へと移ります。
それまで経営のストレスに晒されてきた社長は、その重圧から解放されるのです。
長年高血圧に悩んでいた社長が、会社売却後にすっかり正常値に戻ったという話を聞いたことがあります。経営のストレスから解放されて、健康にも良い影響があった一例ですね。
私も経営の不安から夜眠れなくなることがあります。このストレスから解放されることを思うと、会社売却により一層の魅力を感じますね。
会社売却後に社長として残留するとしても、経営のストレスからは解放される可能性が高いため、より健康的な生活を送れる期待が持てますよ。
4-4 個人保証・連帯保証から解放される可能性がある
会社を売却すると、社長個人の保証や連帯保証を解除できる可能性があります。
個人保証や連帯保証は会社売却実行後に自動で解除されるわけではない
社長の個人保証や連帯保証を解除するにはM&A交渉の条件として掲げ、買い手から同意を得ておく必要があります。
ただし、買い手から同意を得ただけでは保証の解除はできません。
買い手と共に借入を行っている金融機関へ掛け合い、同意が得られると保証の解除が実現します。
経営へのプレッシャーからだけでなく、個人保証や連帯保証からも解放されるんですね。会社を売ると、ストレスフリーな日々が手に入りそうですね。
4-5 会社の規模を拡大できる
大手企業に会社を売却しその傘下に入ると、会社の規模を拡大できます。
会社売却により買い手企業のノウハウ・販路・顧客などを使えるようになることで、売り手企業は更なる成長を見込めるのです。
大手企業の安定した財務基盤の元で事業を行えるようになるため、会社の規模拡大とともに業績の安定も期待できますよ。
また「大手企業のグループ企業」と世間からの認知度が向上することも、会社の成長にとってプラスとなるでしょう。
その結果として、採用活動に関しても以前より応募者が集まりやすくなると考えられます。
大手のグループ企業という肩書は、従業員にとっても嬉しいものかもしれませんよね。大手のネームバリューで採用希望者が増えることも、会社にとっては非常にありがたいです。
4-6 従業員の雇用を維持できる
後継者不在などを理由として会社を廃業する場合、従業員は全員解雇となります。
年若い従業員なら再就職先も見つかりやすいかもしれませんが、中にはなかなか次が見つからない従業員も出てくることでしょう。
しかし株式譲渡や合併など会社の資産や業務を包括的に承継するスキームを選択すると、従業員の雇用が自動的に買い手へと引き継がれます。
従業員も譲渡する資産の一部ということですね。
その通りです。自動的に雇用が引き継がれれば、社長も安心ですよね。
その一方で譲渡する資産を個別に指定する事業譲渡では、従業員は一旦売り手企業を退職し、買い手企業と新しく雇用契約を締結することになります。
事業譲渡の場合は1ステップ必要になるのですね。とはいえ雇用が継続されることは非常に有難いです。
5章:会社売却のデメリット
会社売却を検討する際には、メリットだけでなくデメリットの存在も忘れずに確認しておきたいものです。
会社売却を実行する際には、メリットとデメリットを比較検討したうえで、メリットの方が上回りそうだということを確認しておきましょうね。
5-1 必ずしも成功するとは限らない
会社売却は、そもそも買い手が見つからないという可能性を秘めています。
現代日本において、M&Aで会社を売却したいと考えている社長は増加の一途をたどっています。
会社を売却したい理由については、後継者問題だったり少子化による労働力不足だったり様々です。
しかし会社を売却したい社長が増える一方で、買収を検討している企業の数はそこまで増えていないという現実があります。
つまり、需要と供給のバランスが崩れてきているのです。
会社を売却したい社長の数が、買収したい企業の数を上回っている状態だということですね。
そのため実際に会社を売却するために買い手探しを始めても、必ず買い手が見つかるとは限りません。
たとえ買い手が見つかったとしても、希望していた売却価格に届かないというケースも目立っています。
業績が落ちていたり赤字経営だったりすると、さらに買い手は見つかりづらくなる傾向にありますよ。
必ず成功するとは限らない点を念頭において、会社売却の手続きを始めるようにしましょう。
5-2 会社を売却した後に寂しさを感じる
今まで経営の最前線に立って邁進してきた社長の中には、会社が第三者の手に渡ることへ大きな寂しさを感じる方もいるでしょう。
やりがいが失われ急にぽっかりと時間ができるため、大きな虚無感に襲われてしまうかもしれません。
会社売却を検討する際には、会社を売却した後に自分が何をしたいのかを考えておくと良いでしょう。今まで時間がなくてできなかったことに挑戦するのも良いかもしれません。
5-3 同じ業種で新たな事業を立ち上げられない
事業譲渡で会社の事業を売却した場合は、法律により競業避止義務が発生します。
会社売却後の一定期間において、売却した業種と同業種の事業を行えないという取り決め
つまり、学習塾の会社を売却したら、新たに学習塾の会社を立ち上げられないということですか?
そのイメージでOKですよ。会社法21条で、同一の市町村と隣接する市町村の区域内では20年間同一事業を行ってはいけないと定められています。
事業譲渡以外のスキームを選択した場合でも、買い手との交渉次第では競業禁止義務が盛り込まれるケースが存在します。
そのため、会社売却の後に新たな事業を立ち上げたいと考えている社長は注意が必要です。
5-4 すぐに引退できるわけではない
3章でも言及していますが、会社売却が成立してもすぐに会社から引退できるわけではありません。
経営を買い手へ引き継ぐために、3ヶ月~1年程度の期間は会社にとどまる必要が出てきます。
さらに会社のキーマンとしてロックアップの対象になれば、向こう2~3年は経営や事業に参画することになります。
クロージングを会社売却のゴールと捉えず、引き継ぎやロックアップ期間も念頭に置いて、今後の人生計画を立てましょう。
引き継ぎやロックアップ期間を短縮するためには、人に依存しない仕事の仕組みを構築しておくことをおすすめします。詳しくは下記の記事も参考にしてみてくださいね。
6章:会社売却を成功させるポイント
多くの社長にとって、会社売却は一生に一度の大仕事となります。
手塩にかけて育て上げた会社です。売却は絶対に成功させたいです。
ところが会社というものは、いつどのように売却しても同じ条件で売れるわけではありません。
ここでは、会社売却を成功させるために押さえておきたいポイントについて、詳しく解説しています。
6-1 ”会社の売り時”を逃さない
会社には、売れやすい時期とそうでない時期が存在します。
- 業界全体の株価が上がっている時期
- 会社が成長を続けている時期
上記の時期に会社を売却すると良い条件が付きやすいため、成功しやすいといえるのです。
逆に業界全体の株価が下がっている時期や会社の業績が下がっている時期などは、会社売却が難しくなる傾向にあります。
会社売却を成功させるためには、売却タイミングの見極めが重要です。
業績が下降していて自力では立て直せないと判断した場合は、速やかに売却へと舵を切るべき
会社が衰退している渦中にある場合は、様子を見ている場合ではありません。
倒産という最悪の事態を避けるために一刻も早く会社売却へと動き出し、早めに売り切りましょう。
最適な売却タイミングを見極めるためにも、早めに専門家へ相談すると良いですよ。
6-2 会社の強み・弱みを明確化しておく
会社売却の準備段階で、自社の強みと弱みを明確にしておきましょう。自社の強みと弱みを明確化しておくことで、以下のメリットを得られます。
- 自社の強みを活かせる買い手候補を探せる
- 自社の弱みをカバーしてくれる買い手候補を探せる
- 自社の弱みを明確にすることが克服のきっかけになる
強みと弱みを明確にすることで、自社にマッチした買い手探しができるというわけですね!
見つけ出した強みはより磨き上げ、他社との差別化を図りましょう。また、明らかになった弱みは克服のチャンスです。
完全に克服できていなくても「対策を講じて実行中」という事実が評価されるケースもあるんですよ。
なるほど。弱い部分を放置せずに改善しようとする姿勢も大切なのですね。
会社の売却価格にも影響を及ぼしてきますので、弱みを見つけたら一刻も早く改善に向けて努力を始めましょう。
6-3 シナジー効果の望める買い手を探す
買い手探しのポイントとして、お互いがお互いを高め合える要素を持った買い手候補を選ぶことが挙げられます。
会社を売却するメリットの1つに会社の規模を拡大できるという項目を挙げましたが、それを実現するためにはシナジー効果が期待できる買い手とのマッチングが必要です。
2社の統合により1+1以上の効果を得ること。相乗効果。
シナジー効果が期待できる相手であればM&A後の急成長が見込まれるため、会社の売却価格にも良い影響を与える可能性が高まります。
6-4 経営者どうしの相性が良い買い手を探す
会社売却は会社どうしの取引というイメージが強いかもしれません。しかし条件の交渉などにおいては、人対人の取引という性格が強いものです。
そこで会社のビジョンや経営への考え方など、経営者どうしで共感し合える要素が多い買い手との出会いが重要となってきます。
社長としても、考え方が自分と似ていて信頼できる社長が経営している会社に自社の未来を任せたいと思いませんか?
たしかにおっしゃる通りです。逆に信用できない人に大切な我が社を託すことはできません!
また、考え方が似ている社長が経営する会社どうしは似た雰囲気を持つことが多く、会社売却後の統合作業もスムーズに完了しやすい一面を持っています。
6-5 会社売却後のビジョンを明確にしておく
会社売却活動を始める前に、会社売却後でどのような未来を引き寄せたいのか、会社売却後に自分と会社がどうなりたいのかを明確にイメージしておきましょう。
3-1でご紹介した、会社売却の準備期間に実行しておく項目の1つにも共通しています。
M&A交渉において社長はたくさんの意思決定を行わなければなりません。そのため、会社売却に関わる方針決定において軸となる基準が必要になります。
会社売却後のビジョンが方針決定の軸になるのですね!
その通りです。「こうなりたい」という目標を明確に持っていれば、そこへ向かってベストな選択を積み重ねていくだけで理想の会社売却へ着実に近づけるのです。
逆に会社売却後のビジョンがあいまいなままM&A交渉を進めると、意思決定の軸がブレてしまいます。
意思決定の軸がブレると、多くの場面で自分の選択に後悔する未来が予想されます。
そして小さな後悔が積み重なり、M&A完了時に大きな後悔となって押し寄せてくる可能性へとつながるのです。
会社売却を成功させて満足のいく未来を手に入れるために、準備段階から未来へのビジョンを明確にしておきましょう。
6-6 M&Aの専門家へ相談する
会社の売却を検討し始めたら、早めにM&Aの専門家へ相談することをおすすめします。
会社売却は高度な専門知識と豊富な経験が必要なため、社長1人で進めていくにはどうしても限界があります。
そのため、M&Aの経験と知識を豊富に持ったM&Aコンサルタントのサポートが欠かせません。
売却を検討している会社にとって最適なスキームの提案や売却タイミングのアドバイスはもちろん、理想のM&A実現へ向けて強力かつ的確なサポートが受けられます。
それはどこへ相談すれば良いのでしょうか。
商工会や事業承継・引継ぎ支援センターでも相談できますし、中小企業のM&Aに強いM&A仲介会社などもおすすめの相談先です。
まとめ
会社を売却したいときには、株式譲渡・合併・会社分割・事業譲渡といったスキームの中から、最適だと思われる手法を選択します。
会社を丸ごと第三者へ譲渡して引退したい希望があれば株式譲渡や合併を、手元に残したい事業がある場合は会社分割か事業譲渡を選ぶと良いでしょう。
会社売却にはおよそ6ヶ月~1年の時間を要しますが、遅れが発生しやすいことも念頭に置き、余裕を持ったスケジューリングの検討が必要です。
さらに会社売却の実行後も、経営に関する引き継ぎやキーマンとしてロックアップされることで拘束される期間が発生します。
拘束される期間の目安としては、会社の引き継ぎでは3ヶ月~1年程度、ロックアップでは2~3年程度です。
会社売却には、主に6つのメリットが挙げられます。
- 株主である社長自身が対価を受け取れる
- 後継者問題を解決し会社を存続させられる
- 経営者の重圧から解放される
- 個人保証・連帯保証を解除できる可能性がある
- 会社の規模を拡大できる
- 従業員の雇用を維持できる
逆に会社を売却するデメリットとしては、以下の4点が挙げられます。
- 必ずしも成功するとは限らない
- 会社売却後に寂しさを感じる
- 同じ業種で新たな事業を始められない
- すぐに引退できるわけではない
メリットとデメリットを比較検討し、メリットの方が上回るようであれば、会社の売却を本格的に検討し始めて良いといえます。
また、会社売却を成功させるためには、良い条件で売れやすい時期の見極めが必要です、
”売り時”が来たらすぐに売却できるように会社の強みと弱みを明確にしておき、会社売却後のビジョンもしっかりとイメージしておきましょう。
買い手探しのポイントとしては、シナジー効果の望める買い手を見極める点と、経営者どうしの相性が良い点の2点でしたよね。
その通りです。買い手選びを失敗しないためにも、早めにM&Aの専門家へ相談すると良いですよ。