会社売却には平均して6ヶ月~1年+αの期間を要しますが、その期間中には実にたくさんのプロセスが待ち構えています。
しかし流れを把握しないまま売却プロセスへ身を投じてしまうと、焦りや不安から判断ミスなどの失敗を招いてしまう可能性が高まってしまうのです。
そこでこの記事では、安心して会社売却プロセスを進めていただけるよう、会社売却の準備からクロージング後の引継ぎ期間や経営統合(PMI)期間までを徹底解説しています。
記事内には会社売却を成功させるヒントがたくさん詰まっていますので、会社売却の流れについて知りたい方はもちろん、会社売却を成功させたい方もチェックしておきましょう。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:会社売却の流れの概要について
会社売却とは、会社の経営権を第三者へ譲渡することを意味しています。M&Aスキーム(手法)に当てはめると、株式譲渡が該当します。
会社売却の流れは大きく、準備期間・案件化期間・買い手探索期間・決済期間の4つのフェーズに分類できます。
さらに決済後には経営の引継ぎ期間や、両社の経営統合(PMI)期間が必要になります。
それぞれのフェーズにかかる時間は、おおよそ以下の通りです。
フェーズ | かかる時間 |
準備期間 | ー |
案件化期間 | 1ヶ月~3ヶ月 |
買い手探索期間 | 2ヶ月~4ヶ月 |
決済期間 | 2ヶ月~4ヶ月 |
経営の引継ぎ期間 | 3ヶ月~1年 |
経営統合(PMI) | 2年~3年 |
会社売却を決意してから売却完了まではトータルでおよそ6ヶ月~1年の時間を要し、その後売り手社長は3ヶ月~1年程度の期間をかけて経営の引継ぎを行います。
そして現場では、売却完了から2年~3年をかけてPMIが実施されるイメージです。
ただしM&Aは、プロセスに遅れが生じやすい性質を持っています。
上記で示した期間はあくまでも目安であり、さらに時間がかかる可能性があることをあらかじめ覚えておくと良いでしょう。
トータルで見るとかなり長丁場になるのですね。心してかからねばなりませんね…!
長丁場なうえに、ものすごく多忙な期間になりますよ。しっかりと準備して、最後まで一気に走り抜いてくださいね。
2章:会社売却の流れ【準備期間】
会社売却は、本格的なプロセスに入る前の準備期間が非常に重要です。
会社売却を決意してから、M&A仲介会社と仲介契約を締結するまでの間
しっかりと準備を整えてからプロセスをスタートすれば、そうでない場合と比べて何倍もスムーズに事が進み、成功率も飛躍的に高まります。
しっかり準備を整えた上で臨めば、プロセスの遅れも生じにくくなりますよ。
まずは、会社売却を決意してからM&A仲介会社と仲介契約を締結するまでに準備しておくべきことを、しっかりと整理しておきましょう。
2-1 会社売却を決意した動機を整理する
会社売却を成功へ導く大切なポイントとして、会社売却の目的を明確にし、自分の中にブレない軸を作っておくことが挙げられます。
そのためにはまず、会社売却を決意した動機の整理が必要です。
- なぜ会社を売却するのか
回答例)後継者不在問題を解決するため - 会社売却で達成したい目的は何か
回答例)3億円で売却したい - 会社売却を完了させることでどのような未来を得たいのか
回答例)事業承継を実現し、安心して引退したい
最低でも上記3点については明確にしておき、いつでも見返せるように記録しておきましょう。
記録といっても公式なものではありません。スマホのメモ機能などでじゅうぶんですよ。ただし、いつでも見返せる場所へ記録してくださいね。
2-2 会社売却の希望条件を書き出す
会社売却の交渉時には、冷静な判断が求められます。また、買い手企業に対して軸のブレない誠実な対応も必要です。
そこで、準備段階のうちに買い手へ求める希望条件を整理しておきましょう。
- 希望の売却価格(○円~○円程度と幅を持たせておく)
- 希望の売却完了時期
- 買い手企業の業種・企業規模など
- 会社売却後の従業員の処遇
- 会社売却後の社長自身の処遇
- 会社売却後の取引先との関係
- 個人保証や連帯保証の解除 など
2-3 書き出した希望条件に優先順位をつける
会社売却では、売り手の希望が全て通るとは限りません。
むしろどこかを妥協しなければならないケースの方が多く、条件にこだわりすぎると買い手が見つからない可能性も高いのです。
そのため会社売却の希望条件を書き出したら、優先順位をつけていきましょう。
会社売却で実現したい目的を達成するための条件を優先する
キッチリ順位を付けられない場合は、絶対に譲れない条件と、場合によっては妥協しても良い条件の2種類に分けてもOKです。
希望条件の優先順位が明確になることで、判断に迷ったり状況が大幅に変化したりした際に有効な意思決定ができる可能性が高まります。
ただし会社の経営状態が思わしくないなど、会社売却に不利な状況だと考えられる場合は「とにかく売り切ること」を優先順位1位の事項として掲げましょう。
2-4 良さそうなM&A仲介会社を何社かピックアップする
会社売却を決意したら、他の準備と並行してM&A仲介会社選びを始めます。
ブログやホームページなどを見て、気になった仲介会社をピックアップしておきましょう。
2-5 会社にとってのキーマンをリストアップする
会社の運営にとって必要不可欠な存在
会社売却を決意したら、会社にとってのキーマンをあらかじめリストアップしておきましょう。
キーマンをリストアップしてくべき理由については、以下の2点が挙げられます。
- デューデリジェンスに協力してもらう可能性がある
- 買い手側にとっても重要な人材となりうる可能性がある
デューデリジェンスでは、買い手側があらゆる側面から売り手企業を調査します。しかし財務関係の細かい部分など、従業員に任せている項目があるかもしれません。
そのため財務関係を知り尽くしているキーマンには事情を打ち明け、デューデリジェンスに協力してもらう可能性が出てくるのです。
つまり、会社売却完了前に売却の事実を打ち明ける可能性があるということですね。
その通りです。情報漏洩を防ぐためにも、信頼できる人物をリストアップする必要がありますよ。
また、優秀な従業員は会社の資産です。買い手にとっても大切な資産となる可能性が高いため、リストアップして把握しておきましょう。
会社売却前後は退職者が出やすい時期でもあります。キーマンの退職は時にM&A取引の破談をも招きかねないため、最大限の注意が必要なんですよ。
2-6 向こう3年分の事業計画書を用意する
会社を売却するのに未来の事業計画が必要なんですか?
必要なさそうですよね。しかし未来の事業計画は、買い手候補へ自社をアピールするための材料として非常に有益なアイテムなんですよ。
未来の事業計画書を用意するメリットとして、以下の2点が挙げられます。
- 明確なビジョンと数字を基に未来を描いていける企業であると買い手候補企業にアピールできる
- 事業計画書の存在そのものが企業の評価を高め、より良い条件でのM&A成立に貢献してくれる
そして実は、中小企業の多くはまだ、未来の事業計画書を作成する習慣がありません。他の売り手と差別化を図るためにも、ぜひ作成しておきましょう。
2-7 必要書類の準備に取り掛かる
会社売却のプロセスには、膨大な数の書類を揃えなければなりません。
しかしプロセスの途中で必要になった書類をその都度探していると、スケジュールに遅れが発生する原因となってしまいます。
そのため、必要書類はできるだけ早い段階から準備を始めておくと良いでしょう。
会社売却で必要になる代表的な書類は、以下の通りです。
書類の種類 | 書類の名称 |
概要に関する資料 | 会社案内・パンフレット等 |
定款 | |
会社商業登記簿謄本 | |
株主名簿 | |
議事録(株主総会・取締役・経営会議等) | |
財務に関する資料 | 決算書・勘定科目明細(3期分) |
法人税・住民税・事業税・消費税申告書 (3期分) | |
減価償却資産台帳 | |
月次試算表 | |
資金繰り表 | |
総勘定元帳(3期分) | |
支払保険料内訳・租税公課内訳(3期分) | |
固定資産税課税明細書(最新分) | |
土地・建物の登記簿謄本 | |
公図・測量図等 | |
事業計画(今後5期分) | |
事業に関する資料 | 製品・サービスのカタログ |
店舗・事業所の概況(所在地や人員数等) | |
採算管理資料(部門別・商品別・取引先別等)3期分 | |
売上内訳(部門別・商品別・取引先別等)3期分 | |
仕入内訳(部門別・商品別・取引先別等)3期分 | |
人事に関する資料 | 組織図(組織別人員数が分かるもの) |
主要役員・部門長の経歴書 | |
従業員名簿(生年月日・入社年月日・役職・取得資格の分かるもの) | |
社内規程(就業規則・給与/賃金規程・退職金規程等) | |
給与台帳(直近期分) | |
契約に関する資料 | 土地・建物の賃貸借契約書 |
銀行借入金一覧(返済予定表・担保一覧) | |
保険積立金の解約返戻金資料 | |
株式・ゴルフ会員権等の保有数量がわかる資料(取引残高報告書等) | |
金融商品・デリバティブ(仕組み債等)の最新時価資料 | |
取引先との取引基本契約書 | |
生産・販売委託契約書 | |
リース契約一覧 | |
連帯保証人明細表 | |
株主間協定書 | |
その他経営にかかわる重要な契約書 | |
許認可に関する資料 | 事業活動に必要な全ての免許・許認可・登録・届出の各書類 |
こんなにたくさんの書類が必要になるのですね…。自分が管理していない書類もあるのですが、どうしたらよいのでしょうか。
会社売却は秘密保持が何よりも重要なので、まだこの段階で従業員にバレるわけにはいきません!書類を集める方法については、下記の記事も参考にしてみてくださいね。
ただし、元々作成していない書類に関しては、新たに作成する必要はありません。既に作成されている書類の中で、必要なものを不足なく揃えましょう。
必要書類の内容は、契約するM&A仲介会社によっても多少異なります。担当のM&Aコンサルタントが決まったら、早めに確認しておくと良いですよ。
3章:会社売却の流れ【案件化期間】
ある程度の準備が整った段階で、会社売却のプロセスへ向けて本格的に動き出します。
M&A仲介会社選びから買い手探しの準備までを案件化期間と呼び、およそ1ヶ月~3ヶ月程度の期間を要します。
この段階で何よりも大切なのは、信頼できるM&A仲介会社との出会いです。妥協せずに、じっくりと探してくださいね。
3-1 M&A仲介会社の決定
準備段階でM&A仲介会社を何社かピックアップしたら、仲介契約を締結する1社を絞り込みます。
- 得意業種や企業規模は自社にマッチしているか
- 得意なM&Aスキーム(手法)が希望のものに合致しているか
- 料金体系は分かりやすく納得のいくものか
- 最低成功報酬額は高すぎないか
- 担当者は経験豊富で誠実な人柄か
- 担当者と馬が合うか など
実際に担当者と話をして、自分の希望が叶えられそうな会社かどうかや、担当コンサルタントとの相性を確認してください。
社長自身が安心して任せられると思えるM&Aコンサルタントに出会い、料金体系にも納得できたら、仲介契約を締結します。
その後は怒涛の勢いでプロセスが進みますので、覚悟を持って契約書にサインをしてください。
M&A仲介会社選びについては、下記の記事も参考にしてみてくださいね。
3-2 必要書類の提出
信頼できるM&A仲介会社と仲介契約を締結したら、さっそく買い手探しの準備が始まります。
まずは、買い手へ自社を売り込む書類を作成するために、担当コンサルタントから必要書類の提出が求められます。
提出が求められた書類は迅速に提出することが、スムーズにプロセスを進めるコツ
準備してきたものがさっそく役立つのですね。しっかり準備して、サクッと提出できるように頑張ります!
書類提出に時間がかかってしまうと、実際に買い手を探し始められません。事前準備をしっかり行ってきたかどうかで、プロセスの進み具合に大きな差が出ますよ。
3-3 ノンネームシート(NN)と企業概要書(IM)の作成
必要書類が担当コンサルタントの元に揃ったら、ノンネームシートと企業概要書が作成されます。
ノンネームシートとは
売り手企業の概要を企業名を伏せてまとめた書類
企業概要書とは
売り手企業の企業概要・事業内容・財務諸表などの詳細が記された書類(企業名も含む)
どちらも買い手候補企業へ売り手企業を売り込むために使用される書類です。
目的が同じ書類を2種類作成するのですか?なんだかちょっと面倒じゃないですか?
たしかにちょっと面倒ですよね。しかしこれには大切な意味があるのです。詳しくは次章で解説しますね。
4章:会社売却の流れ【買い手探し~基本合意契約の締結】
M&A仲介会社の担当コンサルタントによりノンネームシートと企業概要書が作成されると、買い手探しが始まります。
担当コンサルタントは複数の買い手候補へ買収の打診を行いますが、基本合意契約を締結した時点でお相手を1社に絞り込みます。
買い手探しを開始してから基本合意契約の締結に至るまでは、およそ2ヶ月~4ヶ月の期間が必要です。
4-1 ノンネームシートによる買い手探しの実施
担当のM&Aコンサルタントによりノンネームシートと企業概要書が作成されると、まずノンネームシートを用いて買い手探しを行います。
担当のM&Aコンサルタントは条件の合いそうな買い手候補を複数ピックアップし、それぞれにノンネームシートを提示します。
買い手候補は提示されたノンネームシートを検討し、買収の意思を担当コンサルタントへと伝えるのです。
- M&Aで企業買収を検討している
- 買収したい企業像に売り手企業が当てはまっている
- 売り手が買い手に対して希望している条件におおむね当てはまっている
この時点でお互いの関係性はまだ、双方がM&Aの意思を持っていて、担当コンサルタントが「この企業どうしなら合いそうだ」と考えている程度の状態です。
双方がマッチングを待っている状態ということですね。
そのため最初に提示される資料は、企業名を特定できないノンネームシートになるのです。
売却を希望している会社の詳細な情報が外部に漏れてしまうことを防ぐために、企業名が特定できないようになっているんですよ。
たしかにノンネームシートを見て買い手候補が「この会社は要らない」となるケースもあるってことですもんね。匿名の方がありがたいです。
買収の意思表示があった買い手候補は、次のステップへと進みます。
4-2 企業概要書の開示
ノンネームシートを検討し買収への意欲を表明した買い手に対しては、企業名を含む詳細な資料(企業概要書)が開示されます。
買い手候補は企業概要書の内容を確認し、改めて買収の検討を実施します。
企業概要書はノンネームシートより詳細な企業情報が記載されています。
買い手候補は大まかな条件をノンネームシートで確認し、企業概要書で本格的に検討を行うわけですね。
その通りです。オーディションの1次選考・2次選考のようなイメージが近いかもしれません。
4-3 トップ面談
企業概要書で本格的な買収の検討が行われ、売り手・買い手双方にM&A実行の意思が確認できたら、経営陣によるトップ面談がおこなわれます。
売り手側の経営者と買い手側の経営者が直接顔を合わせて行う面談
トップ面談は、お互いの事業に関する疑問を解消する目的で実施されます。
さらに企業概要書や決算書からは見えない、相手(経営者)の人間性やビジョンについて知ることも目的の1つです。
ここで初めて当事者同士が顔を合わせるわけですね。
そうですね。お互いについて書類からは見えない部分を知り、本当にこの相手で良いのだろうかということを見極めるための面談です。
多忙な経営者同士が顔を合わせるトップ面談は、基本的に1時間半~2時間程度で完了します。
場合によっては複数回実施されることもありますが、1回で終わるケースも少なくありません。
トップ面談について、下記の記事で目的・出席者・事前準備などをより詳しく解説しています。
4-4 条件交渉
トップ面談でお互いに納得のいく相手であれば、具体的な条件交渉に入ります。交渉の内容は多岐にわたりますが、主に以下の条件を軸として進められます。
- 使用するM&Aスキーム(手法)
- 譲渡価格
- 従業員や役員の雇用条件
- 社長自身の処遇
- 個人保証や連帯保証の解除に関する事項
- 今後のスケジュール
- 独占交渉権 など
たくさんのことを話し合う必要があるのですね。これは大変そうです。
実際とっても大変なんですよ。事前準備の段階で、会社売却の動機や希望条件を整理しておく重要性がお分かりいただけたのではないでしょうか。
たしかに会社売却に対してブレない軸を作っておかないと、交渉のあちこちで迷ったり悩んだりしてしまいそうです。
4-5 基本合意契約の締結
条件交渉で決定した内容にお互い納得し合意が得られたら、基本合意契約を締結します。
売り手と買い手候補の双方がM&Aの基本的な条件に合意した旨が基本合意書として明文化され、署名・捺印が行われる。
基本合意書の内容について明確な決まりはありませんが、記載されることの多い項目は、主に以下の通りです。
- M&Aスキーム(譲渡方法)の概要
- 譲渡価格の概算
- 今後のスケジュール
- デューデリジェンス(DD)の実施に関する事項
- 従業員・役員の引継ぎと雇用条件
- 独占交渉権の付与
- 秘密保持義務
- 善管注意義務
- 基本合意契約の有効期限
- (稀に)違約金の設定 など
基本合意契約は契約ではありますが、いくつかの項目を除き法的拘束力を持たせないケースがほとんどです。
なぜ法的拘束力を持たせないのでしょうか。
この後行われるデューデリジェンスの結果次第では、契約の内容に変更が出る可能性が高いからですよ。
なるほど。契約内容を柔軟に変更できるようにしておくのですね。
また、基本合意書には多くの場合、買い手へ独占交渉権が付与されます。
これにより売り手は他の買い手候補と交渉が禁じられ、お相手を1社に絞りM&Aの成立を目指すことになるのです。
多くのケースでは、基本合意書にサインをする=お相手を1社に絞り込んだ状態となりますよ。
基本合意契約の締結=婚約の成立といったイメージですね。
この時点ではまだ会社売却は成立していないため、引き続き秘密保持を徹底する。
合意書にサインはしましたが、M&Aはまだ成立していません。
今後の交渉次第では破談になる可能性も残されているため、情報が外部に漏れないように引き続き気を引き締めて臨みましょう。
5章:会社売却の流れ【デューデリジェンス】
買い手企業との間で基本合意契約を締結したら、買い手企業によるデューデリジェンスが実施されます。
買い手企業が売り手企業の買収を最終的に判断するために行う調査
デューデリジェンスでは、あらゆる観点から売り手企業が調査されます。具体的な調査の目的としては、以下が挙げられます。
- 本当に提示した買収価格に見合う企業かどうか
- 交渉時に隠していた負債やリスクはないか
- M&Aで期待する効果が得られるか
デューデリジェンスの結果を踏まえて、最終的な譲渡価額が決定されます。
M&A成立後のトラブルを防ぐためにも、デューデリジェンスは非常に重要なプロセスであるため、漏れのないよう慎重に進めるべきだといえるでしょう。
デューデリジェンスに要する期間は、1ヶ月~1か月半程度が一般的です。
デューデリジェンスは、買い手が買収後に「こんなはずじゃなかった」となるのを防ぐために行われる調査という感じですね。
そんな感じのイメージでOKです。買い手はデューデリジェンスに多くの時間と費用を費やします。売り手としても、全面的に協力してくださいね。
6章:会社売却の流れ【最終交渉~株式譲渡契約の締結】
買い手によるデューデリジェンスが完了したら、いよいよラストスパートです。
最終条件の交渉からクロージングまでは、およそ1ヶ月~3ヶ月程度の期間を要します。
6-1 最終条件交渉
デューデリジェンスの結果を元に、最終的な条件の交渉が行われます。
最初に提示された金額と最終譲渡価格が異なるケースも多い
デューデリジェンスの結果、当初の買収価格より低い金額が提示される可能性も大いにありえるため、期待のしすぎは禁物です。
なぜ当初の価格より低くなってしまう可能性があるのでしょうか。
買い手が直接売り手を調べた結果、売り手の企業価値が企業概要書などから算出されたそれよりも低いと判断されたためです。
例えば簿外債務や訴訟のリスクを抱えていることが見つかった場合などに、譲渡価格が下方修正される可能性が出てきます。
中小企業に簿外債務が見つかるのは珍しいことではありません。大切なのは、譲渡価格が下がっても売り手社長が受け入れられるかどうかです。
なるほど。そのためにも希望の譲渡価格には幅を持たせておくことがポイントですね。
そうですね。あとは、デューデリジェンスへ至るまでの交渉で、嘘をついたり見栄を張ったりしないことが大切です。
6-2 株式譲渡契約の締結
最終条件交渉を経て売り手・買い手双方が納得する条件が揃ったら、最終の契約書となる株式譲渡契約書を作成し、署名・捺印を行います。
売り手が所有する株式を買い手に譲渡するための最終的な条件や内容をまとめた契約書
つまり、会社の経営権を譲渡する内容を取り決めた契約書のことです。会社売却プロセスの集大成ともいえる書類ですよ。
株式の譲渡に法律で決められた形式はありませんが、譲渡後に起こり得るトラブルを回避するために、株式譲渡契約書を作成します。
法律で決められていないとはいえ、書面で残しておいた方がたしかに安心です。
株式譲渡契約書は、それぞれの案件ごとに内容が異なります。記載されることの多い代表的な項目については、以下の通りです。
- 株式譲渡の合意
- 譲渡価額および対価の支払い方法
- 株主名簿の名義書換請求
- 譲渡実行日・クロージング日
- クロージングの前提条件
- 表明保証
- 譲渡承認の取得
- 誓約事項
- 契約解除
- 損害賠償
- 合意管轄
- その他
株式譲渡契約書についてもっと詳しく知りたい方は、下記の記事もご覧ください。
株式譲渡契約書は、締結後に内容を変更したり締結を取り消したりすることができません。
さらに基本合意書とは異なり、株式譲渡契約書に記載されている内容には全て法的拘束力が発生します。
そのため株式譲渡契約書の作成時には、売り手・買い手双方の社長はもちろん、リーガルチェックを依頼した弁護士も交えて細部にわたり念入りにチェックする必要があります。
7章:会社売却の流れ【クロージング】
株式譲渡契約の締結が完了したら、クロージング手続きが始まります。
クロージング作業内では決済(支払い)が行われ、会社の経営権が売り手オーナーから買い手企業へと移ります。
ただしその前に、多くの中小企業では「株式を買い手企業へ譲渡します」という旨を会社に承認してもらわなければなりません。
取締役会を設置している会社は取締役会で、取締役会を設置していない会社は株主総会で承認を行います。
中小企業の多くは、株式を勝手に売買できないよう譲渡制限株式としています。そのためM&Aで株式を譲渡する際には、会社の承認が必要なんですよ。
なるほど。株式を譲渡しようとしているのは株主である私ですから、私が会社から承認を得る手続きが必要ということですね。
株主がオーナー1人の場合、自分が自分に対して承認することになる
中小企業の場合、株主がオーナー1人で構成されているケースも多く存在します。
その場合は、オーナー自身が株式譲渡承認請求手続きから承認通知の発行までを実施することになります。
株主がオーナー1人の場合、これらの手続きは形式的なものになりますよ。
その後、株式譲渡契約書に記載されてたクロージング条項を満たしていることが確認された後に、譲渡対価の支払いである決済が行われます。
そして決済完了後に株主名簿の書き換えを行い、経営権が名実ともに買い手へと移ります。
株式譲渡契約の締結日とクロージング日は、同日の場合と別日の場合がある
株式譲渡契約の締結とクロージングを同日に行うか別日に設定するかは会社の規模などによって異なりますが、基本的には両者の話し合いで決まります。
無事に経営権の譲渡が完了したら、一安心ですね。
そうですね。実際に「肩の荷が降りた」と感じる方も多いようです。
8章:会社売却の流れ【引継ぎ・経営統合(PMI)】
クロージングをもって経営権は売り手から買い手へと移りますが、その後は経営の引継ぎと両社の経営統合プロセス(PMI)を実施します。
M&Aに期待していた効果を得るためにも、この作業は非常に重要なものとなっていますよ。
8-1 社長は経営の引継ぎ期間が必要
社長は会社売却後すぐに引退できるわけではない
会社売却後の社長は、元経営者として買い手へ経営の引継ぎを行います。引継ぎにかかる期間は、平均して3ヶ月~1年程度です。
結構幅がありますね。引継ぎに必要な期間はどのように決まるのでしょうか。
引継ぎに必要な期間の決め手は2つあります。1つは会社の規模、もう1つは仕事の社長への依存度です。
規模の大きな会社であればあるほど、引継ぎに時間がかかる傾向にあります。
そして経営の仕事の多くを社長に依存している会社もまた、引継ぎに時間を要するケースが多いといえます。
ワンマン社長が経営する会社は引継ぎに時間がかかるということですね。何となく想像できます。
そのイメージでOKです。逆にいうと、経営の仕事が社長以外にもうまく分散している会社は、引継ぎ期間が短くて済む傾向にありますよ。
8-2 現場では2社の統合作業(PMI)が実施される
M&Aでは、企業風土や経営方針の異なる2社が1つのグループ企業として新たなスタートを切ります。
そしてM&Aの本当のゴールは、会社の統合プロセスが完了しM&A前後に両社が期待していた未来を実現していくことです。
そのためには両社が同じ方向を向いて、足並みを揃えて歩んでいかねばなりません。
また、M&Aではこれまで別の組織だった2社が統合し1つの組織になるため、統合後の混乱が起こりやすくなります。
M&A後の混乱を最小限に抑え、M&Aで期待されていた効果を十分に発揮し1つの組織として順調なスタートを切るために、PMIが実施されるのです。
- 経営体制の統合
- 制度の統合
- 業務システムの統合
- 組織の統合
- 経営方針の統一 など
PMIの実施項目は多岐にわたります。そのためM&Aプロセス中から準備を始めておくことが重要です。
また、PMI中は現場で働く従業員の負担が大きくなりやすいため、丁寧なケアが必要です。
PMIは主に買い手側が主導で実施されますが、売り手も全力で協力してくださいね。
まとめ
会社売却の流れは大きく、準備期間・案件化期間・買い手探索期間・決済期間の4つのフェーズに分類できます。
さらに決済後には経営の引継ぎ期間や、両社の統合(PMI)期間が必要です。
会社売却を決意してから売却完了まではトータルでおよそ6ヶ月~1年の時間を要し、その後売り手社長は3ヶ月~1年程度の期間をかけて経営の引継ぎを行います。
ただし会社売却のプロセスは、専門家でも予想の付かないトラブルが起こるなど、遅れが生じやすい性質を持っています。
順調に進めるには、しっかりと準備を行い、明確なビジョンをもって臨みましょう。
会社売却の流れはある程度頭に入れておくと、メンタル的にも落ち着きますよ。
たしかに、自分がどういう道のりを辿っていくのかが分かっていると安心ですね。