インタビュー

【専門家に聞く】M&A売却にかかる「リアルな費用」とは?仲介手数料のカラクリと意外な落とし穴

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M&Aで会社を売却する際、経営者としては「自社はいくらで売れるのだろうか」といった具合に売却価格に目が行きがちです。

しかし実は、M&Aを成立させるためのプロセスには様々な費用(コスト)が発生します。

「仲介手数料さえ払えば済むのでは?」「完全成功報酬制の会社に頼めば一番安上がりなはず」といった思い込みは、後々想定外の出費に繋がる可能性があります。

また、会社の財務状況によっては「M&Aにかかる経費が売却益を上回る」という驚くべきケースも珍しくありません。

本記事では、インバースコンサルティングの齋藤氏(以下敬称略)に、M&A仲介会社に支払う報酬のカラクリから、弁護士費用などの諸経費、さらには赤字企業の売却事情まで、M&Aにかかるリアルなお金の話についてインタビュー形式で徹底的に深掘りします。

回答者:齋藤和寿

  • インバースコンサルティング株式会社代表取締役
  • 豊かなリタイアを実現する事業承継コンサルタント
  • M&Aによる取引累計額200億円超
  • 支援企業は未上場企業から上場企業など多岐に渡る

聞き手:大橋

M&Aで会社を売却する際に必要な費用とは

電卓と小銭

大橋:

本日は「M&Aにはどれぐらいのお金がかかるのか?」ということについて伺っていきたいと思います。
最初の質問ですが、M&Aで会社を売却する際に必要な費用についてです。
インバースコンサルティングにM&Aの仲介を依頼した場合、成功報酬の他にどのような費用が必要になってきますか?

齋藤:

代表的なところでいうと、作成した最終契約書の内容を弁護士にチェックしてもらう際にかかる費用が挙げられます。

最終契約書とは
M&A取引の最終段階において、当事者間で決めた合意事項を明示した契約書の総称。スキームによってそれぞれ名称が異なる

  • 株式譲渡の場合…株式譲渡契約書
  • 事業譲渡の場合…事業譲渡契約書

齋藤:

費用はピンキリですが、安ければ50万円程度で見てくれる先生もいます。
しかし、M&Aの契約チェックに慣れている専門的な先生にお願いすると、100万円以上かかることも珍しくありません。
案件の規模によってはさらにかかります。

大橋:

基本的には買い手側が払う費用なのでしょうか?

齋藤:

買い手は買い手の立場でチェックを依頼して費用を払い、売り手は売り手でチェックを依頼したければ自分で費用を払います。自身の身を守るために、依頼したい側が払うのが通常です。
もちろん、仲介会社に一般的な見解を聞きながら、ご自身の判断で弁護士チェックを依頼しない売り主様も多くいらっしゃいます。
ただ注意点として、顧問弁護士に依頼する場合、M&A契約に不慣れな先生だと的外れな修正が入ることもあるため、その点は理解しておく必要があります。

大橋:

なるほど。他に必要な経費はありますか?

齋藤:

会社が所有する不動産の正式な評価を出すために、不動産鑑定士への依頼費用が発生する場合があります。
例えば倉庫業などは不動産評価が重要になるケースも多く、そういった場合は売り主様から依頼することになりますね。
また打ち合わせで訪問する際に、毎回飛行機に乗らないといけない程遠方のお客様は、仲介会社への交通費をご負担いただくケースもあります。
ただし近年はウェブ面談も多いため、個別に相談しながら決めています。

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成功報酬の目安と完全成功報酬制の罠

情報を手玉に取るビジネスマン

大橋:

仲介会社に支払う成功報酬は売却価格によって異なると思いますが、個別に目安を知りたい場合はどうしたらよいのでしょうか?

齋藤:

それは、M&A仲介会社に企業価値の算定を依頼するのが一番です。

大橋:

企業価値の算定をした後、具体的な成功報酬額の目安はどう出していくのでしょうか。企業価値=売却価格という考え方でよいですか?

齋藤:

それは別の話ですね。
なぜなら、成功報酬額の計算式は仲介会社によって異なるためです。
売却価格にパーセンテージをかける会社もあれば、企業価値を基準にする会社、あるいは移動総資産という別の金額にパーセンテージをかける会社もあります。
つまり、企業価値算定を依頼した仲介会社の計算式に当てはめることで、成功報酬の目安を知ることができるのです。

大橋:

たとえ企業価値が同じでも、依頼するM&A仲介会社によって成功報酬額は異なるのですね。

齋藤:

その通りです。
企業価値の算定を依頼するのであれば、複数のM&A仲介会社に試算してもらって比較検討しても良いでしょう。

大橋:

ということは、M&A仲介会社に企業価値算定を依頼すれば、成功報酬の目安が分かるということですか?

齋藤:

そうですね、セットで分かります。
もし企業価値しか教えてくれなかった場合は、成功報酬額についても確認しておきたいところです。

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支払う費用は完全成功報酬制の仲介会社の方が抑えられる?

大橋:

中間報酬や月額報酬が必要な仲介会社もあると思いますが、トータルで支払う金額としては完全成功報酬制の方が抑えられますか?

齋藤:

それはあまり関係ありません。完全成功報酬制だからといって総額が安いとは限らないのです。
パーセンテージをかける基準額が違いますし、完全成功報酬制でも最低成功報酬が高く設定されていれば結果的に高くなります。
逆に着手金の支払いが必要な仲介会社でも、最低成功報酬額が安ければトータルで安くなることもあります。
完全成功報酬制という言葉だけで判断せず、最低成功報酬額などの条件を含めて各社を比較することが重要です。
ただ完全成功報酬制の場合は、M&Aが成約して初めて報酬の支払いが発生するため、途中で破談になり中間報酬だけ払い損になるというリスクがない点はメリットといえます。

使用するM&Aスキームによって成功報酬額は変わる?

大橋:

プロセスの途中でスキーム(手法)が変更になった場合、成功報酬の金額も変わりますか?

齋藤:

変わる可能性はあります。
例えば、当初は株式譲渡で、会社を丸ごと1億円で売却するという話で進めていたものの、買い手から一つの事業だけを5000万円で買い取りたいと提案され、事業譲渡へスキーム変更した場合が該当します。
算定基準となる売買金額が変わるため、成功報酬も変わる可能性があるのです。
ただし、最低成功報酬の設定が高額な場合は、売買金額が1億円でも5000万円でも支払う報酬額は同じになる可能性があります。

お心付けは必要?

お心付け

大橋:

担当のM&Aコンサルタントやデューデリジェンス(買収監査)業者の方などに、お心付け(お金や品物)は渡した方がよいのでしょうか?

齋藤:

それは不要です。実際に今まで渡されたケースは見たことがありません。せいぜいお茶を出す程度です。
デューデリジェンスは売り主様にとって、見せたくないものまで見せなければならない負担の大きい作業です。ですから、売り主側から気を遣う必要はありません。
むしろ、経験不足の監査担当者が失礼な質問をして売り主様が怒ってしまうケースや、担当者が出禁になるケースすらあるくらいです。

M&Aの費用が売却益を上回るケースも

上がったり下がったり

大橋:

M&Aの必要経費が、会社の売却価格を上回ってしまう可能性はあるのでしょうか?

齋藤:

はい、十分にあり得ます。
例えば債務超過で赤字の会社の場合、数千万円で売却できるケースはほぼありません。
むしろ、1円で売買されるケースも珍しくないのです。そしてその場合は、確実に経費が売却額を上回ります。
しかし、これで損をしたと考えるのは間違いです。
債務超過の場合、社長が数千万円規模の銀行借入の連帯保証人になっていることが多く、倒産すれば個人資産で返済しなければなりません。
M&Aが成立すれば、その数千万円の負債や連帯保証を買い手に引き継いでもらえるため、経費を払ってでもマイナスをゼロにできること自体に大きなメリットがあるのです。

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M&Aの費用を支払うのは売主(個人もしくは会社)

サインと握手

大橋:

目先のお金だけでなく、抱えている負債がなくなるメリットを考えるべきなのですね。
ところでM&Aにかかる費用は、会社のお金と個人のお金のどちらから支払うのでしょうか?

齋藤:

基本的な考え方として、”売主”が支払います。株式譲渡であれば売主は社長個人(オーナー)となるため、社長の個人資産から支払います。事業譲渡の場合は売主が会社となるため、会社から支払います。

大橋:

先ほどの例のように、経費が売却益を上回り、手元資金で支払えない場合はどのようにして賄うのでしょうか。

齋藤:

私の担当した案件では前例がありませんが、親族からお金を融通してもらったり、個人で借入をしたりして支払う売り主様はいらっしゃいます。
なぜなら、数千万円の負債を抱えたまま倒産するリスクと、数百万の経費負担を比較すれば、お金を工面してでもM&Aを成立させた方が圧倒的にメリットが大きいからです。

大橋:

なるほど。数千万円の負債が数百万円の借入で解決できるなら、断然そちらを選んだ方がいいですね。

M&Aキャンセルのボーダーラインは基本合意契約前と買収監査後

分かれ道

大橋:

買い手から提示された金額によっては、M&Aを途中でやめる(キャンセルする)ことは可能でしょうか?引き返せるボーダーラインがあれば教えてください。

齋藤:

もちろん可能です。買い手から想定よりはるかに低い金額しか提示されなかった場合は、キャンセルすべきだと思います。タイミングとしては、金額などの条件が提示される基本合意の前が、引き返す第一のポイントです。
また、基本合意に進んだ後でも、買収監査(デューデリジェンス)の結果として大幅な減額を求められた場合は、そこでキャンセルすることも可能です。
逆に買収監査で重大な負債や問題が見つかり、買い手側からキャンセルされるケースも実際にありますよ。お互いに合意できなければ、それらのタイミングでキャンセルとなります。

大橋:

実際に買収監査の段階で引き返した案件はありましたか?

齋藤:

件数としては非常に少ないですが、ありましたね。逆に買い手から断られたという案件もあります。

大橋:

買い手から?それはなぜそういう流れになったのでしょうか。

齋藤:

買収監査を実施した結果、とんでもない負債が見つかったのです。買い手から「この状態ではさすがに買収できません」と申し出があり、その案件はキャンセルになりました。

大橋:

なるほど。売り手も買い手も、どちらにも引き返す権利およびタイミングがあるのですね。

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まとめ

契約成立

今回のインタビューから見えてきた、M&Aにおける費用のポイントは以下の5つです。

  • 仲介手数料以外の経費も発生する
    契約書チェックの弁護士費用(50万円〜)や不動産鑑定費用などは自己負担となります。(※担当者へのお心付けは一切不要です)
  • 完全成功報酬制=最安とは限らない
    報酬の算定基準や最低成功報酬額が各社で異なるため、複数社の比較検討が必須です。
  • 費用の支払い元はスキーム次第
    株式譲渡は社長個人の資産から、事業譲渡は会社の資金から支払います。
  • 経費が売却益を上回るケースもある
    赤字企業などの場合は経費が上回っても、負債や社長個人の連帯保証から解放されるメリットを優先すべき場面があります。
  • キャンセル可能なボーダーライン
    基本合意に至る前や、買収監査(デューデリジェンス)の結果が出た後であれば、途中で引き返すことが可能です。

M&Aは目先の売却価格や「成功報酬」という言葉だけで判断せず、最終的な手残り額やリスク回避を含めた総合的なメリットで判断することが重要です。

まずは複数のM&A仲介会社に企業価値算定を依頼し、費用対効果をしっかりと比較することから始めましょう。

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この記事を監修した人 齋藤 和寿
【インバースコンサルティング株式会社代表取締役】 後継者不足の解決や豊かなリタイアを望む経営者様に寄り添い「最幸のM&A」を実現するための情報を発信しています。 仕組み経営コーチとしても活躍中。会社の仕組み化×M&Aで、社長の人生を豊かに彩ります。