近年では後継者不在問題の解決や会社を発展させるための手段として、多くの中小企業でM&Aが実施されています。
ただしM&Aの実行にはリスクを伴うことを忘れてはいけません。
リスクに対して何の対策も取らずにM&Aを実行すると、M&Aの失敗や経営破綻を招く恐れが出てきます。
そこでこの記事では、M&Aの失敗を未然に防ぐため、起こり得るリスクと回避する方法について解説します。
M&Aを検討している方やリスクを抑えて成功を手に入れたい方は、この記事を参考にしてください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:M&Aで起こり得るリスクは4種類に大別される
中小企業においてM&Aは、事業承継や経営のさらなる発展などを目的として実行されています。しかし残念ながら、必ず成功するものではありません。
M&Aの実行にはリスクを伴います。場合によっては損害を被ったり、M&Aそのものが失敗に終わったりするケースもあるのです。
M&Aで起こり得るリスクは、財務面でのリスク・法務面でのリスク・経営面でのリスク・人材面でのリスクの4種類に大別できます。
売り手・買い手問わず「会社のこんなところにM&Aのリスクが潜んでいるよ」という点を解説します。
1-1 財務面でのリスク
財務面のリスクとは、M&Aで譲渡される資産や債務などに関するリスクです。
つまり、お金に関するリスクですね。
具体的には、以下のリスクが挙げられます。
項目 | 内容 |
簿外債務 | 貸借対照表に計上されていない債務。中小企業では、賞与引当金や退職給付引当金等が貸借対照表に計上されていないケースが多い。売り手自身が把握していないケースも |
偶発債務 | M&A時には債務として計上されていないが、将来的に債務となるリスクがある係争中の損害賠償や第三者への債務保証など |
資産の実在性 | 貸借対照表に計上されているが、実際には存在していない資産の存在。また、既に処分したのに帳簿に反映されていない資産の存在 |
その他資産に関するリスク | 現金化が難しい資産および回収できない債権の存在 |
例えば買い手がM&Aで簿外債務や偶発債務を引き継いでしまうと、売り手に代わって債務を履行しなければなりません。
債務の内容や金額によっては、買い手の財務状況に大きな打撃を与えることになるでしょう。
一方で売り手は、M&A成立後に簿外債務や偶発債務が発覚すると、買い手から損害賠償請求をされる可能性があります。
財務面でのリスクには、粉飾決算が見つかるケースも含まれますよ。
財務面でのリスクを避けるためには、M&A前に財務諸表の内容を洗い出したり、綿密なデューデリジェンスを実施したりといった対策が必要です。
1-2 法務面でのリスク
法務面というのは、法律的な面でリスクとなりうる事項を指しています。
法務面で考えられるリスクとしては、主に以下が挙げられます。
項目 | 内容 |
株式に関するリスク | 会社設立から現在までの株式の移転に瑕疵がある |
契約に関するリスク | ・M&A後に重要な取引先との契約継続が難しくなる ・自社にとって不利な契約を結んでいる |
許認可に関するリスク | M&Aのスキームによっては許認可を引き継げない |
株式の移転が法律通りに行われていないことが判明すると、M&Aそのものができなくなってしまう可能性があるため注意が必要ですよ。
特に先代から会社を受け継いでいる場合は、社長自身も知らないところで株式の分散が起こっている可能性があります。
中小企業のM&Aにおいては、買い手が売り手対象企業の100%の株式取得を望むケースがほとんどです。
株式が分散していて100%の取得が困難な場合、最悪のケースではM&A交渉そのものが白紙に戻ってしまう可能性があります。
M&Aに臨む前に、自社の株式の歴史を遡って確認しておきましょう。
1-3 経営面でのリスク
経営面でのリスクとは、その名の通り会社の経営に関するリスクです。
具体的には以下の例が挙げられます。
項目 | 内容 |
従業員の雇用に関するリスク | ・未払い残業代が残っている ・労働時間や有給などが適切に管理されていない |
両社の経営統合に関するリスク | ・M&A後の経営統合(PMI)が難航する ・経営統合作業による現場の負担が増え、一時的に業績が悪化する |
従業員の雇用に関するリスクでは、M&A後に買い手が従業員から未払い分の残業代を請求されるなど、労務トラブルに発展する可能性があります。
買い手と従業員の間で労務トラブルが発生すると、場合によっては買い手から売り手へ損害賠償請求が行われる可能性も出てきます。
売り手・買い手共に大きなダメージを受ける恐れのあるリスクなんですね。
経営面でのリスクに関しては、会社の経営に直接影響を及ぼす可能性が高いため注意が必要です。
M&A前のデューデリジェンスを綿密に実施したり、交渉時から経営統合作業の準備を始めたりするなどして、しっかりと対策しておきましょう。
1-4 人材面でのリスク
人材面でのリスクとは、M&Aが役員や従業員へ与えるリスクです。
考えられる主なリスクは、以下の通りです。
項目 | 内容 |
キーマンの貢献不足に関するリスク | キーマンがM&A後の経営にコミットせず、業績が悪化してしまう |
従業員のモチベーションに関するリスク | ・M&Aに対する不安から、モチベーションが低下する ・M&Aに納得できない従業員の大量離職が起こる |
従業員の人件費に関するリスク | 従業員のモチベーションを保つため労働条件の良いほうへ合わせた結果、人件費が増大する |
M&Aの実施はそれだけで従業員へ大きなインパクトを与えます。
従業員のモチベーション低下や退職は、業績の悪化へダイレクトに繋がっているといっても過言ではありません。
買い手にとっても大きなダメージとなりますが、売り手も買い手から損害賠償請求が行われる可能性があるため、注意が必要です。
従業員にはM&A後も安心して働き続けてもらえるように、きめ細やかなケアを実施しましょう。
2章:M&Aで売り手が直面しうるリスク
売り手としてM&Aの当事者になった場合、やはり気になるのが売り手自身や売り手対象会社が直面しうるリスクについてではないでしょうか。
ここでは、M&Aで売り手が気を付けるべきリスクについて解説します。
2-1 買い手が見つからない
M&Aで会社を売却する決意を固め、満を持して売却活動を始めた売り手が最初に直面しうるリスクとして、買い手が見つからない可能性が挙げられます。
買い手が見つからないということは、自社に価値がないということなのでしょうか…。それはかなり落ち込みそうです。
買い手が見つからない原因はいくつか考えられます。アプローチ方法を変えれば解決できる可能性がありますので、めげずに色々と試してみてくださいね。
買い手が見つからない具体的な原因としては、主に以下の5点が考えられます。
- 売却希望価格が高すぎる
- 売却の希望条件が多すぎる、もしくはこだわりすぎている
- 自社の魅力を買い手候補に伝えきれていない
- ニーズのない買い手候補にアプローチしている
- 多額の負債を抱えている
M&Aは、売り手と買い手のニーズや希望条件がマッチして、初めて成立する取引です。
そのため、例えば売り手の希望している売却価格が買い手候補の買収予算とかけ離れている場合、買収候補からは外れてしまうでしょう。
なかなか買い手が見つからない場合には、以下の項目について検討してください。
- 売却価格などの希望条件について再検討する
- 希望条件には優先順位をつけて、譲れない条件と譲っても良い条件を分ける
- M&A仲介会社を変える
- 株式譲渡→事業譲渡といった具合に、M&Aスキームの変更を検討する
なぜ買い手が付かないのか冷静に分析をして、ネックになっている部分を解消していきましょう。
思い切ってM&A仲介会社を変えるというのもアリなんですね。
仲介会社によって得意な業種やスキームが異なるため、変えたら買い手が見つかる可能性もありますよ。
2-2 安価で買収される
実はM&Aには、相場というものがほとんどありません。買い手が提示した価格に売り手が納得すれば成立する取引なのです。
そのため自社が持っている本来の価値より、ずいぶん低い価格で買収されるリスクが潜んでいます。
なぜそのようなことが起こってしまうのか、原因としては主に以下の3点が考えられます。
- 売り手の目的が「とにかく早く売り切ること」になっている
- 売り手が自社の価値を正確に把握していない
- 売り手が買い手やM&A仲介会社の言いなりになってしまっている
安値で買収されるリスクを避けるためには、売り手自身が自社の正確な価値を把握し、売り急がないことが大切です。
また、買い手の言いなりにならないために、売り手の立場に寄り添って公平な判断を下してくれるM&A仲介会社をパートナーに選びましょう。
2-3 人材や取引先が離れてしまう
M&Aで売り手が抱えるリスクとして、人材や取引先が自社から離れてしまうことが挙げられます。
人材が離れてしまうのは、M&Aで自分の将来に不安を感じたり、会社への信頼を失ったりすることが主な理由です。
M&Aにおいて人材は資産として譲渡対象になります。そのため人材が離れるということは、資産の流出に他なりません。
そして譲渡対象であった資産が流出してしまうと、売却価格に影響を及ぼすだけでなく、M&A取引そのものが見直される可能性があります。
つまり人材の流出が、M&Aの破談につながる可能性があるということですね。
その通りです。そもそも人材の大量流出が起これば、日常業務にも支障をきたしてしまいますので、細心の注意を払いたいところです。
また、M&Aをきっかけとして重要な取引先が離れてしまうと、業績だけでなく今後の事業展開にまで影響を及ぼしかねません。
2-4 M&A成立前に情報が漏洩する
「M&Aは秘密保持に始まり秘密保持に終わる」という言葉があるくらい、情報の漏洩には注意しなければならない取引です。
万が一「あの会社はM&Aで買収されるらしい」という情報が外部に漏れると、以下のトラブルが起こる可能性が出てきます。
- 従業員の大量退職
- M&Aの破談
- 会社の倒産
情報の漏洩は従業員・社長自身の言動・買い手候補企業・M&Aマッチングサイトなどから起こります。
社内で起こり得る情報漏洩に関しては、従業員へM&Aを発表するタイミングに気を付けたり、社長自身の行動に注意したりして防止してください。
外部から起こる情報漏洩を防ぐためには、秘密保持契約の締結を徹底したり、マッチングサイトに企業を特定できるような情報を乗せたりしないことが大切です。
2-5 買い手から損害賠償を請求される
一般的にM&Aの最終譲渡契約は、全ての項目に対して法的拘束力が発生します。
そして最終譲渡契約の中には、売り手が買い手に対して「開示した情報に嘘偽りはありません」という旨を証明する、表明保証条項が設けられるケースが多くを占めています。
そのため開示した情報に誤りが見つかり、それが原因で買い手が金銭的な損害を被る事態が発生すると、売り手に対して損害賠償請求が行われる可能性があるのです。
万が一買い手から損害賠償請求を受けた場合、金銭的なダメージはもちろん、膨大な時間と労力も費やすことになります。
また、損害賠償請求を受けた事実が外部に漏れると、社長の名誉や自尊心を大きく傷つけることになるでしょう。
3章:M&Aで売り手がリスクを回避する方法
M&Aにおいて売り手は、さまざまなリスクに直面しうる可能性があることが分かりました。
しかしそれらのリスクは、対処法さえ知っていれば回避できる可能性が高いのです。そこでこの章では、M&Aで売り手がリスクを回避する方法について解説します。
3-1 ベストなタイミングで売却活動を始める
- 買い手が見つからないリスク
- 安価で買収されるリスク
上記2つのリスクを回避するためには、会社や事業を売却するタイミングが重要です。なぜなら、会社には売れやすい時期とそうでない時期が存在するからです。
売れやすい時期とは、会社が成長している時期と、会社が行っている事業の業界全体の需要が高まっている時期の2つが考えられます。
そして売れやすい時期に売却活動を始めれば、そうでない時期に比べて格段に買い手が見つかりやすくなります。
また、需要が高まっている時期には複数の買い手候補が現れる可能性が高まり、おのずと売却価格も上昇傾向を見せるでしょう。
会社ごとに売れやすい時期はそれぞれ異なります。専門家に相談して、自社が売れやすい時期をしっかりと見定めてくださいね。
そして売れやすい時期が来たらすぐに行動へ移せるように、あらかじめ準備を整えておきましょう。
3-2 M&Aに求める条件を明確にしておく
買い手が見つからないリスクを回避するためには、M&Aに求める条件を明確にし、優先順位を付けておくこともポイントです。
M&Aはしばしば、売り手・買い手双方の希望する条件が相反するケースがみられます。
そのようなときに売り手が自分の主張を全て通そうとしたらどうなるでしょうか。答えは明白です。買い手はM&Aの交渉から降りてしまうでしょう。
そして残念ながら、売り手の希望条件を全て認めてくれる買い手が現れるケースはほとんどありません。
ただし条件を買い手に合わせすぎてしまうと、売り手がM&Aで叶えようとしていた目的を達成できない恐れが出てきます。
そこで売り手は「これだけは譲れない」という条件を明確にし、それを認めてくれる買い手探しを行いましょう。
「これだけは譲れない」と位置付けた条件が通るだけでも、多くの売り手がM&Aに達成感を感じられるみたいですよ。
その他の条件については優先順位を付けておくと、買い手の希望条件に合わせて柔軟に対応できるようになります。
3-3 従業員や取引先への説明は慎重かつ丁寧に行う
- 人材や取引先が離れてしまうリスク
- M&A成立前に情報が漏洩するリスク
上記2つのリスクを回避するために、自社の従業員や取引先へM&Aの事実を伝える際は、適切な時期に適切な方法で発表してください。
発表の時期が早すぎると情報漏洩の原因となりますし、遅すぎると会社への不信感から人材が離れてしまう可能性が高まります。
一般的にM&Aを発表するタイミングとしては、以下の通りです。
経営幹部…基本合意契約の締結後
全従業員・取引先…最終譲渡契約の締結後
ただし上記のタイミングはあくまでも目安です。
会社の雰囲気や社長と従業員の距離感などによっても最適なタイミングが異なるため、担当のコンサルタントとも相談しながら、発表する時期を決めてください。
また従業員や取引先へM&Aの事実を伝える際には、相手へ不安を与えないように伝え方を工夫しましょう。
特に、会社と従業員(取引先)との関係は今まで通りで変わらないという点をしっかりと伝えてくださいね。
3-4 自身の行動に気を付ける
M&A成立前に情報が外部へ漏洩するリスクを避けるためには、社長自身の行動に気を付けましょう。
- デスクにM&Aの資料を置きっぱなしにしていた
- 社長のメールアドレスを秘書と共有していた
- 知り合いの経営者に冗談交じりでうっかり話してしまった
- M&Aコンサルタントとの会話を従業員に聞かれてしまった
上記のような言動から情報が漏れる可能性が高いため、M&Aプロセス中は細心の注意を払って行動することが大切です。
社内にM&Aの資料を持ち込まないことと、M&Aコンサルタントとの連絡はプライベートなツールに限定することを徹底してくださいね。
うっかり誰かに相談するのも漏洩リスクが高まってしまうのですね。特にお酒の席では口が滑りやすくなるので、気を付けないといけませんね。
M&Aに関する相談は、担当コンサルタントなど専門家のみに留めておくのが賢明です。社長にとっては孤独な闘いになりますが、会社の将来のために頑張りましょうね。
3-5 買い手に対して嘘を付いたり見栄を張ったりしない
損害賠償請求のリスクを避けるためには、買い手に嘘を付いたり情報の開示を渋ったりしないことが大切です。
さらに、買い手によって実施されるデューデリジェンスへの全面的な協力も欠かせません。
求められた情報は速やかに開示し、ありのままの現状を買い手に伝えてください。
しかしありのままを伝えた結果、買収価格が下方修正されることがあるんですよね。なんだか損をしてしまうような気がして、見栄を張りたくなる気持ちも分かります。
たしかに決算書の内容と実態が乖離していると、買収価格が修正される可能性があります。しかし噓がバレて損害賠償を請求されるより、ずっとマシだと思いますよ。
売り手の嘘や隠し事が露見してトラブルへ発展すると、損害賠償請求だけでなく買い手との信頼関係にヒビが入ることになるでしょう。
さらにその事実が外部へ伝わると、取引先や顧客からの信頼までもを失う結果になりかねません。
会社の将来を真剣に考えているのであれば、目先の譲渡価格よりも、誠実なM&A取引の実現を優先させてください。
4章:M&Aで買い手が直面しうるリスク
M&Aでは、売り手だけでなく買い手もさまざまなリスクに直面します。
買い手が直面しうるリスクについては、主に以下の4点です。
それぞれの項目について、以下で詳しく解説します。
4-1 簿外債務や偶発債務を引き継ぐ
中小企業を買収する場合に気を付けるべきリスクとして、簿外債務や偶発債務の引き継ぎが挙げられます。
引き継ぐこと自体もリスクですが、買い手が簿外債務や偶発債務の存在を知らないまま引き継いでしまうことが更に大きなリスクとなるんですよ。
M&A完了後に債務の存在が明らかになると、その規模や内容によっては買い手の経営を圧迫する可能性が出てきます。
さらに最悪のケースでは、経営破綻へと追い込まれることもあります。
簿外債務に関しては売り手自身も認識していないケースがあるため、M&A前にしっかりと調査が必要です。
4-2 「高値掴み」をしてしまう
実際の企業価値を大幅に超えた金額で買収すること
高値掴みをしてしまうと、損失の発生や投資対効果が得られないなど、M&Aの失敗につながるため注意が必要です。
高値掴みをしてしまう原因としては、主に以下の2点が考えられます。
- 他の買い手候補に勝ちたくて高値を提示した
- 想定していたシナジー効果が得られなかった
買収価格を決める際には、正確に売り手企業の価値を算出し、冷静な判断が必要です。
4-3 キーマンが流出する
M&Aがきっかけで売り手企業のキーマンが退職すると、買い手は大きなダメージを受けることになるでしょう。
なぜならキーマンの流出によって、日常業務がうまく回らなくなったり、引き継ぎが難航したりする可能性が高まるからです。
キーマンの流出によって、M&Aに期待していた効果が出ない、といったことが起こり得るんですよ。
それは買い手にとってはぜひ避けたいリスクですね。
4-4 経営統合に失敗する
買い手にとって、M&A後の経営統合の成功には、M&Aそのものの成功がかかっているといっても過言ではありません。
なぜなら経営統合は、M&Aで期待されていた効果を十分に発揮し、1つの組織として順調なスタートを切るための重要な役割を担っているからです。
そのためもし経営統合に失敗すると、M&A後の混乱が長期化し、期待されていた効果が発揮されない可能性が出てきます。
M&Aに期待されていた効果が発揮されないということは、M&Aが失敗に終わるということですね。
そう判断せざるを得ない状況に陥ってしまう可能性は否めませんね。
5章:M&Aで買い手がリスクを回避する方法
M&Aで買い手が直面しうるリスクは、会社の成長はもちろん、場合によっては存続をも脅かす存在となります。
そのためM&A交渉中から取引の成立後まで、長期にわたりしっかりとリスク回避の施策を実施する必要があるのです。
5-1 慎重かつ丁寧なデューデリジェンスを実施する
- 簿外債務や偶発債務を引き継ぐリスク
- 高値掴みをしてしまうリスク
上記のリスクを回避するために欠かせないのが、慎重かつ丁寧なデューデリジェンスの実施です。
買い手側が売却対象企業や事業の実態を事前に把握し、買収価格や取引について適切な判断をするための調査。買収監査ともいう。
なぜデューデリジェンスが必要なのでしょうか。
売り手側から直接得た情報だけでは客観性に劣り、信頼性も不十分なためですよ。
買い手はデューデリジェンスの実施で簿外債務や偶発債務の有無を確かめたり、正確な企業価値の算定を行ったりします。
そしてデューデリジェンスの結果を基に、最終的な買収価格の決定や、買収そのものの是非を検討するのです。
例え売り手に急かされたとしても、デューデリジェンスは手を抜かずしっかりと実施してくださいね。
5-2 正確な企業価値を見極める
高値掴みのリスクを避けるために、買い手は売り手の企業価値を正確に見極めたいものです。
そのためには、上述した丁寧なデューデリジェンスの実施が求められます。
さらに、正確な企業価値を見極めた上で、適切なのれん代を設定してください。
なぜならのれん代を大盤振る舞いしてしまうと、結果的に高値掴みとなってしまう可能性があるからです。
M&Aで見込まれるシナジー効果をしっかりと見極め、無理のないのれん代を設定しましょう。
5-3 従業員への対応を売り手任せにしない
買い手は売り手から従業員を譲り受ける立場です。
しかし売り手の従業員は、M&A後の新しい体制や環境に不安を感じている人が多いはずです。
そのため従業員を受け入れる立場として、彼らの不安を取り除いてあげることが、キーマンをはじめとした人材流出の防止へとつながります。
具体的な方法としては、売り手従業員1人1人と面談の機会を設けると良いでしょう。
面談ではどのような話をするのでしょうか。
買い手企業の自己紹介・今後も働き続けてほしい旨・未来へのビジョンなどを話すことが多いみたいですよ。
なるほど。面談を通して従業員に買い手企業のことをよく知ってもらい、安心感を与えるのですね。
5-4 経営統合プロセス(PMI)を計画的かつ念入りに進める
買い手がリスクを回避してM&Aを成功へ導くためには、計画的かつ念入りな経営統合プロセス(PMI)の実施が欠かせません。
実際にPMIが開始されるのは、M&Aが成立して売り手企業や事業の経営権が買い手へ移ってからです。
しかしPMIを成功させるためには、M&Aの成立前から念入りに準備を行っておく必要があります。
さらにスムーズにPMIを進めるポイントとして、M&Aの交渉中からPMIの実施を見据えて動くことが挙げられます。
買い手だけでPMIを進めていくのは難しいと感じた場合には、PMIコンサルタントにサポートを依頼することも検討してください。
まとめ
M&Aでは、売り手・買い手ともに財務・法務・経営・人材などのあらゆる面においてさまざまなリスクに直面します。
これらはM&Aの失敗や経営破綻を招く恐れがあるため、しっかりと対策を行ったうえでM&Aプロセスを進めましょう。
M&Aのリスクを最小限に抑えるためにも、信頼できる専門家をパートナーに選んでくださいね。