M&A

M&A後に行うPMIとは?手順やポイントなどを分かりやすく解説

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M&Aで会社売却を検討している人の中には、売却の完了をゴールだと考えている人がいるかもしれません。

社長

確かに私も「売却すること」を目的として考えています。

しかし本当のM&Aのゴールは「会社の統合プロセスが完了し、M&A前後に両社が期待していた未来を実現していくこと」です。

そしてその未来のために必要なプロセスこそがPMIなのです。そこでこの記事では、M&A成否のカギを握るPMIについて解説しています。

齋藤さん

会社売却プロセスの総仕上げとなりますので、心して取り掛かりましょう!

1章:PMIとは

パズルのピース

PMIとはPost Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の頭文字を取った略称で、M&A成立後に行われる2社の統合プロセスを指しています。

PMIとは

PMIはM&Aの効果を最大化させるために欠かせないプロセスであり、M&Aの成否を握る大きなカギとなっています。

1-1 いつから始めるのか

実際にPMIが実施されるのは、M&Aが成立して経営権が買い手側に移ってからです。

しかしPMIの準備に関しては、M&Aが成立する前から行う必要があります。

例えばM&A成立前に実施するデューデリジェンス(買収監査)では、財務や法務的な観点から問題点の有無を確認し、M&Aの実行を検討します。

その際にM&A成立後に起こり得る問題などを洗い出しておくことが、PMIを円滑に進めるための準備になるのです。

齋藤さん

M&Aプロセス中もPMIを見据えて動くことが、スムーズに経営統合を進めるポイントですよ。

1-2 誰が行うのか

PMIはM&A成立後に行われるプロセスですから、基本的には買い手側が中心となって行います。

しかし同じグループ企業として、売り手側も当事者意識を持って取り組む必要があります。

そして何よりも、両社が「M&Aを実行して良かった」と思える未来を協力して作り上げていくことが重要です。

齋藤さん

売り手も買い手も一丸となってPMIを進めていきましょう。

社長

はい!…ってあれ?齋藤さんは協力してくれないのですか?

齋藤さん

M&A後のことなので、基本的にM&Aコンサルタントは介入しないんですよ。

1-3 PMIを助けてくれる第三者はいるのか

PMIはM&A成立後に行われる2社の統合作業のため、基本的にM&Aコンサルタントは介入していません。

社長

専門家の手は借りられないのでしょうか…。

齋藤さん

ご安心ください。PMIを手助けしてくれる専門家もちゃんと存在します。

ただし基本的にPMIは買い手側が主導となって行われるため、売り手側が専門家に依頼するケースはありません。

PMIをサポートしてくれるのはPMIコンサルタント

PMIのサポートが必要だと感じた際には、PMIコンサルティングの専門会社またはM&A会社でPMIもカバーしている会社に依頼すると良いでしょう。

2章:PMIの重要性

指さすビジネスマン

M&Aではこれまで別の組織だった2社が統合し1つの組織になるため、統合後の混乱が起こりやすくなります。

PMIはM&A後の混乱を最小限に抑えるだけでなく、M&Aで期待されていた効果を十分に発揮し1つの組織として順調なスタートを切るための重要な役割を担っています。

齋藤さん

スムーズなPMI実施のために、M&A前に起こり得るリスクを洗い出しておくことが重要なんですよ。

2-1 M&Aで想定される人的リスクの回避

M&Aは異なる2社が統合するため、企業風土や経営方針が異なるケースがほとんどです。そのため、M&Aに反発を感じる従業員も出てきます。

統合後に起こり得る人的リスク
  • 内部対立の顕在化
  • 従業員の反発や離職

これらの人的リスクを放置すると社内で軋轢が生じたり従業員の大量離職が起こったりする可能性が出てくるため、早めに解決しておく必要があります。

M&Aに反発を感じる従業員が現れる原因の多くは、M&Aについての説明不足が挙げられます。

齋藤さん

M&Aの実行前にも、適切なタイミングでしっかりと従業員へ説明を行うことが重要です。

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M&A実行後においても、旧買い手側・旧売り手側双方の従業員に対して新体制への理解が得られるように、しっかりと説明を行っていきましょう。

齋藤さん

従業員の意見にもしっかりと耳を傾けて、1人1人に寄り添う姿勢を見せてくださいね。そうすることで、従業員は安心感を得られますよ。

2-2 M&Aで期待される効果の獲得

M&Aでは、シナジー効果を期待しているケースが多くを占めています。

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このシナジー効果を存分に発揮するためには、経営統合プロセスを一刻も早く完了させて、新体制を軌道に乗せることが重要なのです。

齋藤さん

経営統合に失敗するとシナジー効果の獲得はおろか、業績の悪化につながってしまう恐れがあるため注意が必要です。

社長

「M&Aしない方がマシだった」という状態になってしまうということですか?

齋藤さん

極論にはなりますが、可能性は十分にありますよ。

社長

ひえっ…!!(ブルブル)

2-3 内部統制の構築および買い手企業とのグループ統合

中小企業の場合は、内部統制が構築されていないことがほとんどです。

内部統制とは

取締役会や社内組織などの「経営者が会社を効率的かつ健全に運営するための仕組み」

齋藤さん

社長の会社は、社内管理体制が整っていますか?

社長

ギクッ…!ここだけの話、予算すらきちんと組んでいません…。すみません…。

齋藤さん

中小企業あるあるですね。中小企業であればそれで仕事が回っていたかもしれませんが、M&Aで会社が大きくなるとそうも言っていられなくなるのです。

会社が大きくなっても内部統制の仕組みが十分整っていないと、業務の遅延やミスが起こる可能性が高まります。

業績の良し悪しにも関わってくるため、内部統制の構築は慎重かつ迅速に進めなければなりません。

内部統制の構築とともにグループ統合が進んでいく

内部統制の構築は買い手側の負担がかなり大きな作業となります。売り手側も全力で協力し、早期の完了を目指しましょう。

3章:PMIの実施項目

チェックリストと女性

PMIは2社が統合して1つの組織になるため、様々な項目に対して実施されます。

PMIの主な実施項目
  1. 経営体制の統合
  2. 制度の統合
  3. 業務システムの統合
  4. 組織の統合
  5. 経営方針の統一
齋藤さん

PMIの実施項目については案件によっても異なりますよ。

3-1 経営体制の統合

PMIにおいてまず整備が必要になるのが、経営体制の統合です。

齋藤さん

中小企業では社長がワンマン経営を行っていることも多いため、まず最初に行われることが多いですよ。

統合が行われる経営管理体制の具体例

取締役会・監査役会・会議体 など

社長

まずは会社のトップから統合していくのですね。

齋藤さん

会社の上層部から統合し、下へ行き渡らせるやり方の方が混乱も少なくスムーズです。

3-2 制度の統合

人事・総務・法務面での制度の統合も、PMIで重要な要素の1つです。

経営戦略・マネジメント・現場におけるノウハウの統合を意識して進める

今まで確たる制度がなかったり、既存の制度と大きく変わったりすることで従業員から反発が起こる可能性がある点に注意しなくてはなりません。

齋藤さん

新制度に反発を感じている従業員のケアも意識して進めたいですね。

社長

M&A直後に従業員に退職されてしまってはこちらとしても大きな損害を被る可能性がありますしね。

齋藤さん

その通りです。場合によってはペナルティが発生したり、M&A自体が破談になってしまう可能性もあるんですよ。

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3-3 業務システムの統合

PCとネットワークイメージ

両社で異なる業務システムを使用し続けていると業務に支障をきたす恐れがあるため、業務システムの統合もPMIにおいて重要な事柄の1つです。

業務システム統合の一環として社内インフラやオペレーションの統合も行いますが、この2つは膨大なコストと手間ががかかることが予想されます。

M&Aで想定できる効果から逆算し、優先順位・実施時期・実施範囲などを検討する

また、統合後新体制での業務が軌道に乗るまでは担当者の負担が増加すると予想されます。

齋藤さん

担当者の理解を得たうえで、統合プロセスを進めていきましょう。

3-4 組織の統合

組織の統合とは、異なる企業風土や経営理念の下で動いてきた2つの組織を1つの組織としてまとめ上げていくことです。

組織内がバラバラのままでは軋轢が生まれ、いずれ衝突や人材流出へとつながる恐れがあるため、組織の統合はPMIにおいて必須項目となっています。

統合する具体的な項目

組織体制・人員配置・情報伝達フロー など

3-5 経営方針の統一

企業が成長していくためには「従業員全員が同じ目的へと向かって進んでいくこと」が重要であるため、M&A後には経営方針の統一が必須です。

齋藤さん

経営方針は従業員全員に浸透させましょう。

社長

それはなぜですか?

齋藤さん

従業員全員が同じ方向を向いて業務が遂行できるようになり、業績の向上へとつながるからですよ。

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4章:PMIの手順

説明する男性

PMIは、いくつかの手順に分けて実施されます。

pmiの手順

PMIはM&Aの成約前から準備を始める必要があります。

さらに統合後の新体制が軌道に乗り、期待していたM&Aの効果が出るまでには平均して1年程度の時間が必要です。

齋藤さん

PMIというのは、長期的な取り組みが必要になるということです。

社長

なるほど。「M&Aのゴール」が売却の完了ではないということがよく分かりますね。

4-1 M&Aの方針を決定する

社長

「M&Aの方針」ということは、M&Aの相手が決まる前の話ですね!?

齋藤さん

そうなんです。ただしこれは買い手側が行うものです。

買い手が決めるM&Aの方針
  1. 連邦型統合
    • 対象企業を子会社として残し、経営の自主性を維持させる統合形態
  2. 支配型統合
    • 対象企業を子会社として残す一方で、経営に積極的に関与する統合形態
  3. 吸収型統合
    • 対象企業に対して吸収合併や吸収分割、事業譲渡といった手段を用いて自社に吸収し、一体化を図る統合形態

M&Aの方針を決定した後に、具体的な手順や期間を検討します。

4-2 統合計画(ランディングプラン)の策定

統合計画とは、M&Aのクロージング後(経営権が完全に買い手側に移った後)に実施される計画で、クロージング後およそ3~6カ月の期間をかけて実施します。

齋藤さん

デューデリジェンス(買収監査)時に見つかった課題を中心に策定していきますよ。

主に事業面と管理面について、見直しが必要となる作業を計画へ落とし込んでいきます。

見直される主な項目
  • 事業面…原価・販売費・管理費 など
  • 管理面…組織・規定類・人事・労務・経営管理・財務・経理・庶務 など

4-3 100日プランの策定

100

100日プランとは、クロージング後100日かけて作られる経営改革プランや中期事業計画です。

社長

統合計画(ランディングプラン)とはどう違うのでしょうか?

齋藤さん

統合計画は統合項目の全体的なプランを指しています。100日プランはその中でもより緊急度の高い課題について、具体的な統合作業内容をスケジューリングしたものです。

社長

なるほど。統合プランの軸となるものを策定するイメージですね

100日プランの策定までは、M&A成立前に行われる項目も多い

4-4 統合の実施・効果検証・フォローアップ

統合計画や100日プランは、策定し実施して終わりではありません。

これらのプランが滞りなく進んでいるか、期待した通りに効果は上がっているかなどを適切に見極めて、必要に応じてフォローアップを行います。

計画の進捗は週次や月次で確認を行うと良いでしょう。

またM&A後6カ月や1年といった節目では、買い手側・売り手側双方でお互いの関係性・施策の遂行状況・統合状況を振り返ることも有意義な方法です。

M&A実行の際に期待した効果が得られているか、定期的に方針や計画の改善を図りましょう。

5章:売り手側がPMIを成功させるためのポイント

重要ポイント

買い手が主導で行われるPMIですが、成功させるためのポイントは売り手側にも存在します。

社長

常に受け身ではダメだということですね。

齋藤さん

そうですね。M&Aを本当の意味で成功へと導くために、積極的に協力しましょう!

5-1 社長自らがM&Aを従業員に発表し安心感を与える

売り手側として最も気を付けたいポイントが、自社の従業員に対するケアです。

M&Aの事実を知った従業員の多くは「会社が乗っ取られるのではないか」と不安を抱くことになるでしょう。

そのため、従業員に安心感を与えることが重要です。

  • 経営戦略のためのM&Aであること
  • 信頼できる買い手を選んだこと
  • M&A後も従業員の待遇は今まで通り変わらないこと

上記のことを、社長自身の口から今まで働いてきてくれた感謝の気持ちとともに説明してください。

従業員がM&Aに対して安心感を抱けたならば、その後のPMIへも積極的に協力の姿勢を見せてくれるでしょう。

齋藤さん

安心感を与えるために、従業員からの質問にも積極的に答える姿勢を見せてくださいね。

5-2 買い手に対して臆することなく希望を伝える

売り手が感じている統合後の不安や買い手に対してリクエストしたいことは、遠慮なく希望を伝えましょう。

「買われた立場だから」といって遠慮していては、買い手側との信頼関係を築くことができません。

買い手側としても、売り手側が感じている不安は早めに取り除き信頼関係を構築していきたいと思っています。

またリクエストや提案についても、両社の成長につながったり働きやすさの改善につながったりする可能性があるため、積極的に実現したいと考えている買い手が多いです。

そのため不安やリクエストなどがあるときは、臆せず買い手に希望を伝えていきましょう。

5-3 会社に起こる「変化」を恐れない

M&Aではそれまで全く別の会社だった2社が統合するため、統合後には制度や業務システムなど多くのことが急激に変化します。

今までのやり方に慣れてきた人たちにとって、新しい体制や方法は慣れるまでに時間がかかったりミスが増えたりするかもしれません。

しかし長期的に見れば、M&A後の変化は会社の成長にとって必要なプロセスです。

齋藤さん

経営陣がリーダーシップを発揮し、従業員を引っ張っていきましょう!

社長

従業員に「変化を恐れない」というメッセージを発信し続けることも大切ですね。

齋藤さん

さすが社長!その通りです。

まとめ

ビジネスマンどうしの握手

PMIは、M&Aが成立し経営権が買い手側へ移った後に行われる2社の統合プロセスです。

買い手側が中心となって行われますが、スムーズな統合のためには売り手側の協力が欠かせません。

2社間だけで行うことの多いPMIですが、外部のPMIコンサルタントに依頼することも可能です。

PMIはM&A後の混乱を最小限に抑えるだけでなく、M&Aで期待されていた効果を十分に発揮し1つの組織として順調なスタートを切るための重要な役割を担っています。

また、PMIの実施項目は多岐にわたるため、M&A実施前から準備しておく必要があります。

統合後の新体制が軌道に乗り、期待していたM&Aの効果が出るまでには平均して1年程度の時間が必要です。

買い手が中心となって行われるPMIですが、売り手側も積極的に協力し、スムーズな経営統合プロセスの実現を目指しましょう。

齋藤さん

M&Aのゴールは会社の統合プロセスが完了し、M&A前に両社が期待していた未来を実現していくことです。

社長

会社売却の完了がゴールだと思いがちですが、肝に銘じます!

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ABOUT ME
齋藤 和寿
【インバースコンサルティング株式会社代表取締役】 後継者不足の解決や豊かなリタイアを望む経営者様に寄り添い「最幸のM&A」を実現するための情報を発信しています。 仕組み経営コーチとしても活躍中。会社の仕組み化×M&Aで、社長の人生を豊かに彩ります。
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