組織のトップに立ち経営の舵を取る社長には、常に様々な重圧がのしかかっています。
会社の業績や従業員の生活を守らなくてはならないなど、日々多くの不安やストレスと闘っていることでしょう。
しかし社長も人間です。自身の年齢や健康上の理由から、社長を辞めたいと考えるときが来るかもしれません。
経営へのモチベーションが保てなくなってしまったり、新しい事業を始めたい気持ちが出てきたりする場合もあるでしょう。
ただし、辞めたいと思っても簡単に辞められないのが社長業の辛いところです。
そこでこの記事では、会社への責任を果たしてから社長を辞めるための選択肢を解説しています。
「辞めたい」と思ったときに取るべき行動についても解説していますので、参考にしてください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:社長を辞めたいときに選べる3つの選択肢
- 経営への情熱を維持できなくなってしまった
- 健康面に不安があり、社長を続けることが難しいと感じている
- 他にやりたいことができた
上記のように社長を辞めたいと思う理由は人それぞれあると思います。しかし様々な重責を担っている社長が辞めるプロセスは会社員とは全く異なります。
辞表が受理されればOKというわけにはいかず、会社の将来に責任を取ってから辞める必要があるのです。
社長が社長を辞めるために与えられた選択肢は、以下の3つです。
- M&Aで会社を売却して退任する
- 親族もしくは社内から後継者を指名して辞任する
- 会社を清算して社長を辞める
上記のどれもが「辞めたい」と思ったらすぐに実現できるものではありません。
場合によっては数年の期間をかけて準備を行う必要があります。社長を辞する考えが固まったのであれば、すぐにでも行動を起こしてください。
1-1 M&Aで会社を売却して退任する
事業承継のひとつの選択肢として、M&Aによる会社売却が挙げられます。
これまでM&Aは「事業に失敗して仕方なく」というようなマイナスイメージで捉えられることが多くありました。
しかし近年では、事業承継の手段としてポジティブなイメージが浸透しつつあります。
社長は会社売却による売却益を得られるため、次の事業への元手にしたり、リタイア後の生活資金に回したりできるというメリットがあります。
また大手企業の傘下に入ることで、従業員にとっても多数のメリットが生まれる可能性が高いのです。
そして何よりも「会社の経営を大手に託した」という安心感が得られます。M&Aでの会社売却が成功すれば、社長は安心してリタイアできるといえるでしょう。
1-2 親族もしくは社内から後継者を指名して辞任する
社長を辞める方法として最も想像しやすいのが、親族もしくは社内から後継者を指名して後を継いでもらうことなのではないでしょうか。
社内の事情をよく知っている人間になら、安心して次期社長を任せられると考える社長も多いことでしょう。
また社長にとっても、退任後も会長として会社に残るという選択ができる可能性が高まります。
退任後も会社の経営に携わりたいと考えているのであれば、次期社長を指名して育てていく方法をおすすめします。
ただし、後継者の育成には年単位での時間が必要です。また、そもそも後継者が見つからないケースも考えられます。
そのため後継者に会社を譲りたいという気持ちがあるのなら、早い時期から後継者候補を選び、経営幹部として育成を始めておきましょう。
1-3 会社を清算して社長を辞める
社長を辞める方法として、会社の清算も選択肢の1つです。
会社の清算とは、会社を解散し、債務や資産などを全て清算して法人格を消滅させることを指しています。
つまり、会社そのものを無くしてしまうということです。
潔い方法とも捉えられるかもしれませんが、会社の清算には多くの犠牲を伴います。従業員は全員解雇しなくてはなりませんし、取引先との関係も全て白紙に戻ります。
さらに債務超過に陥っている会社を清算する場合では、その多くが社長個人の破産手続きも同時に進められることになるのです。
社長は文字通り全てを失ってしまう可能性が高いため、会社の清算は最終手段として考えておくことをおすすめします。
2章:社長を辞めたいと思ったら取るべき行動3選
社長を辞めるためには3つの選択肢がありますが、実際に「辞めたい」と思ったら何から行動すればよいのか迷いますよね。
適切な順に行動を起こすことで、会社と社長自身の双方にとって最も良い結果が得られる可能性が高まります。
2-1 後継者候補を探す
社長を辞めたいと思ったら、まずは後継者候補を探すところから始めてみてください。社内に家族や親族が働いている場合は、その人たちに打診するのも良いでしょう。
親族でなくても経営者に向いていそうな人材がいれば後継者候補として、経営幹部育成を始めてください。
ここで大切なのは、後継者候補に「次期社長になる意思と覚悟があるかどうか」の確認を取ることです。
社長が後継者候補として目をかけた人材がいたとしても、本人に経営者としてのやる気がなければ会社の未来が危ういものとなってしまう可能性が高まります。
本人の気持ちと、経営者としての資質をよく見極めることが重要です。
2-2 M&A会社に会社売却の相談を行う
例えば社内に家族や親族の従業員がいない場合や、経営を任せられそうな人材が見つかりそうにない場合は、後継者候補を探す前に会社売却を検討することをおすすめします。
なぜなら、後継者候補を探しているうちに業績が悪化し始めて、会社の売却価格に影響を及ぼす恐れがあるためです。
会社には高値で売れる時期とそうでない時期が存在します。高値で売れるほど社長が手にする売却益も増えるため、”売り時”を逃さないことが大切です。
またM&Aに要する期間として、最低でも6ヶ月~1年程度は必要になってきます。
買い手候補がなかなか見つからなかったり、交渉が長引いたりした場合にはさらに長い期間を要する場合も出てきます。
M&A完了までの期間を念頭に置いて、早めにM&A会社へ売却の相談を行うことをおすすめします。
2-3 会社を清算する
後継者がどうしても見つからず、M&Aで売却しようとしたが買い手が現れなかった場合の最終手段として、会社の清算を行います。
しかし会社を清算するには膨大な手間がかかり、自分の手元にもたくさんのお金を残せない可能性が高いのです。
それどころか債務が全て弁済できないことが判明したら、倒産もしくは破産手続きに切り替わり、その場合の多くは社長個人の破産手続きを伴います。
また全ての従業員は解雇となり、年齢等の条件から再就職が難しい従業員も出てくるでしょう。
取引先との関係も全て解消しなくてはならず、社長本人への信頼が失墜してしまう可能性も出てきます。
このように会社の清算にはいくつものリスクを伴うため、できれば避けたいものです。
社内での事業承継もしくはM&Aによる会社売却が可能なうちに、早めに会社と社長自身の将来について考えておきましょう。
3章:社長を辞めると決断したら迷わず突き進むことが重要
「社長を辞めたい」と思うには、モチベーションが維持できなくなってしまった・心や体の健康問題・自分の能力に限界を感じているなどの理由があるかと思います。
とはいえ社長を辞めることへのハードルの高さゆえに中々決断できない人もいるでしょう。しかし辞めたい気持ちが強いのであれば、すぐにでも決断し迷わず突き進んでください。
なぜなら、迷っているうちに会社の業績が落ちていき、売却先が見つからなくなってしまう可能性があるからです。
売却先が見つからず後任も決まらない状態に陥ると、残る手段は会社の清算のみになります。
しかしそのような状態の会社を清算すると、借金だけが残るといった状況に陥ってしまう可能性が高いのです。
そして借金だけが残った結果として、社長個人の破産が待ち受けているケースが多数を占めています。
社長を辞めてからも人生は続きます。リタイア後の生活を考えて、辞めると決めたらすぐに行動を起こしてください。
まとめ
健康上の理由・経営へのモチベーション・新規事業への野望など「社長を辞めたい」と思う気持ちは誰にでも芽生えうる感情です。
日々重責と対峙している社長にとっては、プレッシャーから解放されたいという気持ちを持つ人もいるかもしれません。
しかしその責任の重さゆえ、辞めたいと思ったタイミングですぐに辞められないのが社長職です。
後継者を探すにしても、M&Aで会社を売却するにしても、ある程度まとまった期間が必要になってきます。
迷っているうちに会社の”売り時”を逃してしまうことのないよう、社長を辞めたいと思ったときにはすぐに行動へと移すことをおすすめします。
なかなか決断できないという人は、M&A会社の無料相談などを利用して「現在の自社にはどれくらいの価値があるのだろうか」を調べてみると良いでしょう。
会社売却の背中を押してくれる結果となるかもしれませんし、思うような価格でない場合は後継者を探したり会社の価値を高めるための仕組み化に取り組んだりするきっかけになるかもしれません。