事業承継や経営の安定化を目指して、M&Aによる会社売却を選択する社長が増えています。
会社を売却すると、これまで経営者として手腕を振るってきた社長は、経営権を手放すことになります。
そこで気になるのが、経営権を手放した後の社長はどうなるのか?という点ではないでしょうか。
この記事では、会社売却後に社長が選べる未来とともに、M&Aでの手取りを増やす方法についても解説します。
会社売却で自分自身の未来を心配している経営者様は、この記事をきっかけに、ご自身の未来について検討してみてください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:会社売却後に社長が選択できる未来は主に4つ
会社売却を実行すると、売り手対象企業の経営権は買い手へ移り、売り手経営者は経営権を手放します。
中小企業の場合は経営者=社長のケースが大半ですので、社長が経営権を手放すということになりますね。
経営権を手放した後の自分はどうなるのでしょうか。
経営権を手放した売り手社長が会社売却後に選択できる未来は、主に以下の4パターンが挙げられます。
また、ごく稀ではありますが、親会社(買い手企業)の役員に選出されるケースも見られます。
それぞれの項目について、以下で詳しくみていきましょう。
1-1 引退して第二の人生を歩み始める
会社売却後の社長が選択する未来で最も多いパターンとして、会社からの引退が挙げられます。
むしろ、後継者不在問題が顕著化している現代日本の中小企業においては、引退を目的として会社売却を実行する経営者が多いといっても良いでしょう。
なぜなら、会社売却では以下のメリットが得られるからです。
- 後継者不在問題を解決できる
- 会社が存続できる
- 経営者個人が売却の対価を得られる
「後継者がいないけれどそろそろ引退したい」と考えている経営者にとってはメリットしかないじゃないですか!
そうなんです。そのため特に中小企業において、引退を目的とした会社売却は多いんですよ。
1-2 経営権を持たない社長として会社に残る
売り手社長は会社売却で会社の経営権を手放しますが、その後も会社に残り社長を続けられる場合があります。
あくまでも経営権は親会社(買い手企業)が持っているため、経営に関する重要な事項の決定は親会社にゆだねられる
社長に対して支払われる役員報酬の金額も、親会社により決定されます。
引き続き社長として働き続けられるのであれば、社員たちにも安心感を与えられそうですね。
そうですね。会社売却では様々な変化が訪れるので、トップが変わらない安心感は大きいかもしれません。
1-3 顧問や相談役という立場で会社に残る
会社売却で社長の地位から退いた後に、顧問や相談役という立場で会社に残るケースもみられます。
この場合は、買い手企業が会社買収後にも社長経営ノウハウや経験を活用したいという思惑が絡んでいることが多いといえるでしょう。
つまり、残留の目的=経営の引き継ぎとなります。
そのため期間を数年に区切っての契約が多く、契約期間満了時には会社から完全に引退することになります。
1-4 一般社員として会社で働き続ける
会社売却を実行した売り手社長の中には、社長の立場を降りた後に一般の社員として会社で働き続ける方もいます。
ただし、このケースは少数派ですね。
うーん、たしかに自分がもしそうなったら…と想像したら、かなりやりにくいだろうなと思いました。
社長本人もやりづらいでしょうし、周りの社員たちも遠慮したり必要以上に気を遣ったりしてしまいそうですよね。
1-5 【番外編】親会社の役員に選出されるレアケースも
ごく稀なケースではありますが、会社売却後に親会社の役員に選出されることもあるようです。
それはすごいですね!会社売却後も仕事を続けたいと考えている売り手社長にとっては、夢のような処遇なのではないでしょうか。
ただしこのケースは、社長自身の希望だけで叶うものではありません。なぜなら親会社の役員に選出されるには、株主総会での決議が必要だからです。
あくまでもレアケースとして覚えておくと良いですよ。
2章:会社売却後の処遇についての希望を実現する方法
社長の未来にはいくつかの選択肢がありますが、希望を抱いているだけでは実現できません。
希望の未来を実現するためには、会社売却の交渉時に買い手から承認してもらう必要があるのです。
そのため会社売却活動を始める際にご自身の未来について希望を固め、会社売却の条件として掲げましょう。
自身の未来について、希望を叶えてくれる買い手を探すのです。
なるほど。会社売却を決意したら、自分の未来の希望についても固めておかねばなりませんね。
ただし、会社売却では売却価格やその他の条件など、様々な項目に対して希望条件が出てきます。
その中で優先順位をつけておくことが、会社売却全体を成功させるポイントです。
3章:社長の退職金で会社売却の手取りを増やせる可能性も
会社売却後に引退する社長が気になることの1つとして、引退後にどれくらいのお金を手元に残せるかという点が挙げられます。
会社売却後に引退する社長には、役員退職金が支払われます。
実はこの退職金制度を利用すると、売り手社長が支払う税金の金額を抑えられる可能性が高いのです。
3-1 社長退任時には 役員退職金が支払われる
前述のとおり、会社売却後の引き継ぎ期間を終えた売り手社長が退任する際には、役員退職金が支払われます。
社長に支払われる役員退職金の金額については、会社売却の交渉時に決定しているケースが多くを占めています。
役員退職金の支給金額は、会社売却の最終契約書内に明記される場合もある
ということは、自分の希望額を買い手に聞いてもらえる可能性があるのでしょうか。
現実的な金額からかけ離れていなければ、ある程度交渉の余地はありますよ。
3-2 譲渡対価の一部を役員退職金として支給することで節税できる
会社を売却する際に株式譲渡というM&Aスキームを使用すると、譲渡対価の一部を役員退職金として受け取ることで支払う税金が抑えられる可能性があります。
M&A業界では退職金スキームと呼ばれ、会社売却後に引退を希望している場合に活用されることの多い方法です。
退職金スキームのポイント1
まず前提として、会社売却で得た譲渡所得には所得税・住民税等が課税されます。株式の譲渡で得た所得に対して課税される税率は、一律で20.315%です。
税率が一律であるため、譲渡所得が少ないほど支払う税額は低く抑えられます。
退職金スキームのポイント2
役員退職金は退職所得となり、こちらも所得税・住民税等が課税されます。しかし他の給与所得などと比べると、税金がかなり優遇されているという特徴を持っています。
退職所得の計算式
役員退職金の退職所得=(役員退職金支給額-退職所得控除)×1/2
退職所得控除は、次の計算式で求めます
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
20年超 | 800万円×70万円×(勤続年数-20年) |
大きな控除があるだけでなく、支給金額から控除を差し引いたさらに半分の金額が退職所得になるんですね!
そうなんです。そのため譲渡価格の全てを譲渡所得にするよりも、一部を役員退職金として受け取った方が、トータルでの税金が安く抑えられる可能性があるというわけです。
ただし退職金スキームが有効かどうかは、譲渡価格や役員退職金の金額などに大きく左右されます。
担当のM&Aコンサルタントとしっかり相談をして、ご自身にとって最も節税できる方法を見つけてください。
まとめ
会社売却後に社長が選べる未来には、以下の4つがあります。
- 引退して第二の人生を歩み始める
- 経営権を持たない社長として会社に残る
- 顧問や相談役という立場で会社に残る
- 一般社員として会社で働き続ける
また、レアケースではありますが、親会社の役員に選出されるケースもあるようです。
しかし会社売却後の自身の処遇については、希望を抱いているだけでは実現できません。
会社売却の交渉時に買い手から承認してもらう必要があるため、会社売却プロセスに踏み出す前に、自身の処遇についての希望を固めておきましょう。
会社売却後に引退を希望している場合、譲渡対価の一部を役員退職金として受け取ることで、節税できる可能性があります(退職金スキーム)。
ただし退職金スキームは、譲渡価格や受け取る役員退職金の金額によって節税できるかどうかが変わってきます。
担当のM&Aコンサルタントともよく相談して、ご自身の手取りが最も増える方法を選んでください。