組織の運営には様々な形態がありますが、近年注目されている新たな組織形態として「自律型組織」の名を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。
自律型組織には様々なメリットがありますが、その中でも注目したいのが「後継者問題が解決する可能性」です。
この記事では、なぜ自律型組織で後継者問題が解決できるのか・自律型組織とは何か・自律型組織のメリットとデメリットについて解説しています。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:なぜ自律型組織を作ると後継者問題が解決するのか
自律型組織を作ると後継者問題が解決する理由は、社長(上司)がいなくても成長を続けられる会社になるからです。
従来のシステムであり、日本の中小企業のほとんどに取り入れられている階層型組織の多くは、社長や役員が会社の意思決定権のほぼ全てを握っています。
しかし自律型組織ではメンバーそれぞれに適切な意思決定権が与えられており、「上司にお伺いを立てる」ことなく会社としての意思決定ができるのです。
社長に意思決定の全てが集中していないことから、社長がいなくても業績を上げ続けられ「誰が社長になっても変わらず成長を続けられる」という状態が生まれるのです。
さらに自律型組織はメンバー全員が会社のビジョンと目的を明確に認識しているという特徴をもっています。
この「メンバー全員」には社長や役員も含まれており、経営者も従業員も全員が同じ目標に向かっています。そのため社内から次期社長を任命しやすい環境にあるといえるのです。
上記のことをふまえると、自律型組織を作ることは後継者を指名しやすい環境を整えることとなり、ひいては後継者問題の解決へと繋がっているのです。
2章:自律型組織とは
自律型組織とは、社内の意思決定権を複数の役員および従業員に分散し、役員や従業員が自らの意思で主体的に行動できる組織です。
組織のトップに意思決定権が集中する階層型組織とは異なり、それぞれ定められた業務の範囲内ではいわゆる「上司にお伺いを立てる」必要がありません。
このように従業員自らの意思で事業を進めていけるというメリットがある一方で、周囲に指示を仰ぐことなく臨機応変な対応が必要になるなどの難しい側面も持っています。
そのため個人が意思決定を行う際に必要な指針の作成など、会社としての仕組み作りがとても重要になります。
2-1 自律と自立の違い
自律とは
1 他からの支配・制約などを受けずに、自分自身で立てた規範に従って行動すること。「自律の精神を養う」⇔他律。
2 カントの道徳哲学で、感性の自然的欲望などに拘束されず、自らの意志によって普遍的道徳法則を立て、これに従うこと。⇔他律。
デジタル大辞泉より引用
自立とは
1 他への従属から離れて独り立ちすること。他からの支配や助力を受けずに、存在すること。「精神的に自立する」
2 支えるものがなく、そのものだけで立っていること。「自立式のパネル」
デジタル大辞泉より引用
どちらも似たような意味ですが、「独り立ちする」という意味の自立に対して自律は「自分で自分を統制・管理する」という意味で使われています。
つまり自律型組織とは「自分で自分を統制・管理できる人間で形成された組織」となり、「組織のメンバー各自が組織を統制・管理できている状態」だということです。
2-2 自律型組織の具体例
自律型組織は以下に示す3つのタイプに大きく分けられます。
- アジャイル組織
- ティール組織
- ホラクラシー組織
上記の3タイプはそれぞれに異なる特徴を持っていますが、「メンバー個人が権限を持ち柔軟かつ迅速な意思決定ができる」という点が共通しています。
ただし、必ずしも全ての自律型組織が3タイプのいずれかに所属するとは限りません。
わたしたちインバーサルコンサルティングは、それぞれの会社が抱えている事情などを踏まえた上で仕組み化を実行し、会社独自の自律型組織を作り上げることが重要だと考えています。
会社独自の仕組みを作り上げていくために、まずは具体的な自律型組織の形態を知っておきましょう。
●アジャイル組織
「アジャイル」には「柔軟な」「機敏な」という意味があり、柔軟な業務の遂行や速やかな意思決定を行い課題を解決へと導く組織です。
以前まではソフトウエア開発の現場で用いられてきたアジャイル組織ですが、最近では他の業種でも取り入れられ始めてきています。
アジャイル組織はチーム全員に役割が与えられていることが特徴で、メンバーのモチベーションがパフォーマンスの向上に直結しています。
したがって、モチベーションが向上すれば生産性も向上していく可能性があるのです。
アジャイル組織が生産性を向上していくためには、以下の6つの特徴を備えていることも大切な要素となっています。
- 業務遂行が柔軟
- ビジョンが明確
- 改善が早い
- 従業員が権限を持つ
- DX(デジタル技術の活用)の実現
- 1点集中
さらに、従来型の組織との違いとして主に以下の3点が挙げられます。
- 自律分散型である点
- 個に権限がある点
- 改善と実行が高速で繰り返されている点
●ティール組織
「ティール」は色を指す言葉で、「鴨の羽のような青緑色」を意味しています。
ティール組織はフレディック・ラル―が提唱した組織論です。彼は組織を5つに分類しそれぞれに色の名前を付けました。そのうちの1つがティール組織であり、5つの分類の中で最上位に位置しています。
ティール組織には経営者や役員といった役職はあるものの指示系統は存在しておらず、1人1人のメンバーが組織の目的をはっきりと理解し、目的達成のため独自に工夫して意思決定をしていくという特徴があります。
つまり社長や上司が細かくマネジメントをしなくても、メンバーだけで目的に向かって進化し続けられる組織なのです。
ティール組織において組織はメンバー全員のものであり、そこに上下関係はありません。それぞれが対等な立場で仕事をしています。
ティール組織は「生命体」に例えられ、「組織の目的を果たすために自分ができること」と「自分自身の目標を達成するための行動」が共鳴しています。
そのためメンバーはそれぞれが成長しながら、主体性と責任感を持って活動できるのです。
●ホラクラシ―組織
ホラクラシー組織は、ティール組織に含まれる1つの形態を指す言葉です。
事業に合わせてふさわしいメンバーが決定され、その事業が終了したら組織は解散します。そしてまた新たな事業のために新しい組織が結成されるというサイクルを繰り返すのです。
メンバーにはそれぞれ役割が明確に割り振られているため、業務への高い意識が芽生えやすいという特徴を持っています。
ティール組織との違いは、経営者や役員といった役職が一切なく、全メンバーが平等な権限を持つフラットな組織構造である点です。
3章:自律型組織を作るメリット
自律型組織には、従来の階層型組織には見られないメリットが存在します。
自社で導入した場合にどのようなメリットが得られるのかを、ここで確認しておきましょう。
3-1 社長(上司)がいなくても業績を上げ続けられる会社になる
自律型組織を作る最大のメリットには、社長(上司)がいなくても業績を上げ続けられる会社になるという点が挙げられます。
さらに自律型組織には、個人が大きな裁量を持っていてスムーズな意思決定が行える点が特徴です。
そのため組織内のメンバーは役職による上下関係の圧力が弱まり、上司の顔色を伺うことなく自分の意見をそのまま事業に反映させられるのです。
そして個人に意思決定の裁量が与えられている自律型組織は、「上司がいなくても成長を続けられる組織」であると言い換えられます。その究極の形として「社長が不在でも業績を上げ続けられる会社」になるのです。
3-2 意思決定の迅速化
上下関係からの解放は、意思決定の迅速化というメリットも生み出します。
従来の階層型組織では、事業の内容に変更があった場合などに様々な人の承認を得る必要があります。
しかし自律型組織は個人に裁量が与えられているため、いわゆる”承認待ち”の期間を省けるのです。
顧客のニーズが変わりやすい現代では、その意思決定の速さが武器になります。
世の中の変化をしっかりと捉え対応していくことは、売上の向上だけでなく企業価値の向上へとつながるのです。
「全米一のサービス品質」「世界で最も優れた企業」などといわれ、幾多の受賞歴を持つザ・リッツ・カールトン・ホテル・カンパニーは、意思決定の速い自律型組織として成功している最たる例であるといえます。
その秘密は、従業員1人1人に判断を一任する方法で作り出す「顧客感動サービス」。
各従業員は自分の判断で行動し、お客様が何気なく発した言葉や態度を見逃さず、先回りして最適なタイミングでサービスの提供が可能です。
従業員には判断の決定権とともに「1日2,000ドルの決裁権」が与えられています。日本円に換算するとおよそ20万円を、従業員はお客様のために自分1人の判断で決済が可能です。
これにより1人1人が組織の中で責任を持ち、個人としても成功をおさめられるような仕組みとなっているのです。
そしてお客様のために従業員1人1人が迅速に行動した結果として「全米一のサービス品質」を誇る企業へと成長したのです。
「大事な書類をリッツの部屋に忘れてしまった。それがなければ大変なことになるところだったが、従業員が飛行機でそれをすぐに届けてくれて事なきを得た」
「結婚記念日に宿泊しようとした夫婦が緊急の事情でやむを得ずキャンセル。落ち込んでいたら家の前に一台の車が停まった。”ザ・リッツカールトンホテルからのお届け物です!”と運転手が差し出したのは、シャンパンとグラス、焼きたてのクッキー、バスローブ、さらに従業員からの祝福のカードだった」
リッツ・カールトンが世界中の顧客から愛され続けている理由は、従業員を大切にしてホスピタリティの自主創造を促していることです。
その結果として、高い顧客満足度と上記のような顧客感動体験を生み出しているのだといえるのです。
4章:自律型組織を作るデメリット
自律型組織には様々なメリットがありますが、その一方でデメリットも存在します。自律型組織の導入を検討するのであれば、デメリットも把握し、事前に対策を考えておきましょう。
4-1 メンバーの育成に時間がかかる
今まで階層型組織だった会社を自律型組織に作り変えるには、メンバーの育成に時間がかかります。
組織のルールを改訂し、今まで受動的に仕事をしていた人たちを自ら考えて意思決定するといった主体的に行動できる人間に育てなければならないからです。
階層型組織で働くことに慣れている従業員の意識を抜本的に改革する必要があるため、多くの時間を費やすことになるでしょう。
実際に自律型組織で働いていた人材を新たに採用してロールモデルになってもらうなどすれば、人材育成の時間を削減できます。
4-2 情報の一元化が難しい
また従来の階層型組織では、上司が決定した事項を部下に共有していました。
そのため情報の一元化が容易だったのですが、個人に権限が与えられている自律型組織では全体に情報が伝わりにくくなってしまいやすいというデメリットを持っています。
全体に情報が伝わりにくいということは、トラブルが発生したときに対処が遅れてしまうなど大きな問題へと発展してしまう可能性があります。
情報共有ができていない状態は業務の属人化にもつながるため、従業員が情報を積極的に開示したくなるような仕組み作りが必要になるでしょう。
4-3 メンバー個人に高い自己管理能力が求められる
上司が存在しない自律型組織では「他人の目」を気にする必要がありません。
この点はメンバーの個性を活かせるというメリットですが、仕事をサボったりダラダラと業務に取り組んだりするメンバーが現れるかもしれないというデメリットにもつながります。
そのためメンバー自身に仕事に対するモチベーションを維持し続けるという能力が必要となります。
自律している組織というのは、組織を構成しているメンバーそれぞれも自律していなくてはなりません。
定期的にミーティングを実施して進捗を確認するなど、モチベーションを維持できる環境を整える仕組み作りも必要になってきます。
5章:自律型組織作りを成功へと導く3つのポイント
自律型組織を導入して成功へ導くためには、クリアすべき3つのポイントがあります。
この3点をクリアすれば、上司がいなくても業績を上げ続けられる組織となり、最終的には社長が不在でも成長し続けられる会社へと育っていく可能性が高まります。
5-1 組織のビジョンを明確にし、全員に浸透させる
自律型組織の実現には、会社の考え方や将来目指している方向を分かりやすくシンプルに言語化し、メンバー全員に周知徹底させることが重要です。
なぜならひとりひとりに権限が分散されている自律型組織では、メンバー全員が一つの目標に向かって同じ方向を向いている必要があるためです。
全員が会社の目標や指針をしっかりと理解していることで、意思決定権が分散していてもある程度会社にとって 統一感のある判断をしてもらうことが可能になるのです。
5-2 情報をオープンにし、共有しやすい環境を作る
デメリットの項目でも上げましたが、自律型組織は情報の一元化が難しく、仕事が属人化してしまう恐れをはらんでいます。
そのためメンバーそれぞれが持っている情報をオープンにし、共有しやすい環境づくりをしていきましょう。
具体的には、社内SNSを導入したりランチミーティングを実施したりというように、メンバー同士がコミュニケーションを取りやすい環境を作ってくと良いでしょう。
また自席制度を廃止し、社内の好きな場所で仕事に取り組めるようにするのも効果的です。
メンバー同士がコミュニケーションを取ることが刺激となり、モチベーションの維持にも効果を期待できます。
5-3 目標を設定する
メンバーそれぞれが意思決定を行いながら業務を遂行していく自律型組織では、最適な目標の設定が重要です。
メンバーのモチベーションを維持するためにも、目標は簡単すぎても難しすぎてもいけません。
目標に向かって意欲的にメンバーが行動できるよう最適な目標を設定し、メンバー全員に周知徹底しましょう。
まとめ
メンバー全員がフラットな立場で意思決定を持つ自律型組織は、メンバーそれぞれが個性を活かしながら自らの意思で事業を展開していきます。
そのため特定の人間が意思決定権を持っている階層型組織とは異なり、社長(上司)がいなくても成長を続けられる会社になり「誰が社長になっても変わらず成長を続けられる」という状態が生まれるのです。
さらにメンバー全員が同じ目標に向かって同じ方向を向いている組織のため、社内から次期社長を任命しやすい環境であるといえます。
したがって、自律型組織を作ることが後継者問題の解決へとつながっていくのです。
しかし自律型組織作りに失敗してしまうと、仕事が属人化してしまうなどの弊害が生まれてしまいます。
一度に社内の全てを変えてしまうのではなく、まずは1部署から始めてみるなど段階的な導入を検討しても良いでしょう。
後継者問題を解決へと導いてくれる自律型組織の導入は、自分たちだけで行うことが困難であると感じるかもしれません。
そのような場合は、自律型組織で働いていた人材を新たに採用したり、プロの手を借りたりすることも検討してみましょう。