M&Aで会社売却を検討し始めた社長の中には、「本当にこんな理由で会社を売却してよいのだろうか」と後ろめたさを感じている人もいるのではないでしょうか。
会社に対して全責任を負う立場にも関わらず、個人的な理由で会社売却を実行しても良いのか悩んでいます。
実はM&Aによる会社売却は、責任感の強い社長ほど「自分は無責任な人間なのではないか」という後ろめたさが芽生えやすい特徴を持っています。
しかし現在のM&Aは、経営戦略の一環としての認識が浸透しつつあります。つまりM&Aは、会社を成長させるための手段の1つとなっているのです。
M&Aを決断する理由は十人十色。それぞれの理由で会社売却を行っていいんですよ。
そこでこの記事では、社長がM&A実行を決断する理由や買い手がM&Aを行う理由について解説します。
M&Aを成功へ導くために取り組みたいプロジェクトについてもご紹介しています。ぜひチェックしてくださいね。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:売り手がM&Aを行う理由と目的
売り手がM&Aを行う目的は多岐にわたっています。
会社を売却したい社長の数だけ理由があるといっても過言ではありません。それだけ会社を売る理由はさまざまなのです。
1-1 経営に対するモチベーション低下のため
社長が経営に対するモチベーションを維持できなくなった
一見すると社長の個人的な理由に感じられるかもしれませんが、会社売却を行うための立派な理由です。
なぜなら、経営に対するモチベーションが低い状態が続くと業績の悪化を招く恐れがあるためです。
業績の悪化は会社の倒産にもつながりかねません。
そのような事態を避けるために、M&Aで第三者に経営を任せる選択肢を選ぶのです。
会社の業績を上げていくためのM&Aなので、これも経営戦略の1つですよね。
1-2 社長及び身近な人の健康問題のため
社長や社長の家族など、身近な人の健康問題でM&Aを実行するケースも少なくありません。
なぜなら社長自身に健康問題が発生すると、社長業務が滞ってしまう可能性があるからです。また、家族の介護が必要になった場合なども同様です。
社長業務が滞るとやがて会社の業務全体が滞るようになってきます。さらに健康問題で社長の出社日数が減少すると、従業員全体の士気にも関わってきます。
その結果業績の悪化を招く可能性があるため、M&Aで健康な第三者に経営を任せる選択をするのです。
1-3 M&Aで良い値段が付きそうなため
業績が伸びている会社や他社にはない強みを持っている会社は、良い条件で売却できる可能性が高いです。
そのような会社を経営していてリタイアを考えている社長は、リタイア後の資金を得るためにM&Aを行うことがあります。
「高く売れそうだから売る」という理由もアリなんですね!
全然アリですよ。高く売れる会社に成長させてM&Aを行い、その資金を元手に新たに起業するシリアルアントレプレナーと呼ばれる人たちがいるくらいです。
なるほど。これも経営戦略の一環といえますね。
その通りです。事業を0から立ち上げるのが上手い人や、軌道に乗った事業を伸ばすのが得意な人など、経営者にもさまざまなタイプの人がいますよね?
たしかに。営業が得意な人もいれば技術者や職人のような人もいますよね。会社を立ち上げて成長させるまでの全てが経営者の仕事だと思ってました。
M&Aを上手く活用してそれぞれの経営者が得意な分野で会社を伸ばしていけば、会社も従業員もハッピーになれるかもしれませんよね。
1-4 後継者問題を解決するため
日本の中小企業で深刻化している問題の1つに、後継者問題があります。
若い労働人口が減って、中小企業に人が集まらなくなってしまったことが原因です。
若い人たちにとっては大企業の方が魅力的ですもんね…。わが社も後継者問題には頭を抱えています。
M&Aの会社売却で、後継者が不在でも事業承継が実現し会社の存続を図れます。
会社の廃業を免れるだけでなく、売却益を得られるなど社長にとっても嬉しいメリットを享受できる
1-5 経営を安定化させるため
M&Aでは、買い手企業が売り手企業より規模の大きな会社であるケースが多くを占めています。
そのためM&Aで会社売却を行うと資本面が安定し、経営の安定化が実現できる可能性が高いのです。
M&Aで経営の安定化を図るためには、シナジー効果を見込める買い手探しが重要ですよ。詳しく知りたい方は下記の記事もご覧ください。
1-6 事業を整理するため
M&Aでは、会社の一部のみを切り離しての譲渡も可能です。
複数の事業展開を行っていると、業績が伸び悩んだり経営資源をうまく配分できていなかったりするケースが出てきます。
不要な事業のみを切り離して売却することで、中核事業に集中できる環境が整うのです。
2章:買い手がM&Aを行う理由と目的
買い手企業がM&Aを行う主な目的は、自社の発展のためです。
自社のみで取り組むと時間やコストがかかりすぎてしまうことを、企業買収という形で手に入れるのです。
自社のみで1から作り上げるより、既に出来上がっている状態で買った方が時間・コスト・リスクの面で有利ですよね。
なるほど。買い手側は完全に経営戦略の一環で企業買収を行うのですね。
2-1 新規事業への参入
買い手がM&Aを行う目的の1つとして、新規事業への参入が挙げられます。
新規事業への参入は、自社で新規事業を立ち上げるよりも、M&Aで譲り受けた方がリスクやコストの軽減が見込めます。
なぜなら、技術・ノウハウ・販路・人材など新規事業に必要な全てを一度に手に入れられるためです。
2-2 既存事業の拡大・強化
既存事業の拡大や強化を目的としてM&Aを実施するケースも少なくありません。
自社の事業とシナジー効果が見込める企業を買収すると、既存事業の強化が期待できます。
また、自社の事業と関連性のある事業を得ることで、事業の拡大に必要な以下を得られます。
- 優秀な人材
- 生産性の向上
- 新たな取引先
2-3 技術やノウハウなどの取得
買い手企業はM&Aで売り手の持つ高い技術力・ノウハウ・許認可・権利などを得られます。
特に研究開発などは、自社のみで行うと膨大な時間とコストがかかります。M&Aの活用で、時間やコストの圧縮が実現できるのです。
3章:M&Aの決断はタイミングが重要
M&Aの決断が遅すぎると、希望した条件での売却ができない可能性が出てきます。
そのため決断するタイミングが重要になるのです。
迷っているうちに業績が悪化して、自社の企業価値が下がってしまう恐れがあるんですよ。
M&Aを行うのなら、少しでも良い条件で売却したいです。売却に最適なタイミングはありますか?
会社には、高値で売れやすいタイミングがいくつか存在します。
- 業績が上がり会社が成長している時期
- 業界全体に勢いがある時期
- 自社が有する技術や商品に対するニーズが高まっている時期
”売れるタイミング”を逃さないためには、時流を捉えた柔軟な対応が必要です。
ただし、モチベーションや健康に問題を抱えている社長などは、売れるタイミングを待っている余裕のないこともあるでしょう。
時間的な余裕のない社長にとっての売り時は今かもしれません。タイミングを逃さないためにも、会社売却を検討し始めたらすぐに専門家へ相談すると良いでしょう。
4章:M&Aを成功へ導くために今すぐ準備しておくべきこと
M&Aを成功へ導くためには、検討段階からの準備が欠かせません。
検討段階から準備しても、結局M&Aをしないとなると時間の無駄になってしまいますよね。
今からご紹介する2点はたとえM&Aを行わない結果になっても、会社にとって役立つことばかりですよ。
ということは、全ての会社が今すぐ取り組んだ方が良いということですか?
自社の価値を高めたいのであれば、M&Aを検討していない会社でもぜひ取り組んでほしいですね。
4-1 会社の仕組み化を実行する
M&Aを視野に入れたときに取り組んでおきたいプロジェクトの1つが、会社の仕組み化です。
人に依存した仕事(属人的な仕事)を排除し「誰がやっても同じ結果を得られる」仕事の仕組みを作ること
仕組み化で得られるメリットは以下の通りです。
- 仕組み化自体が会社の独占的な資産になる
- 社長がいなくても存続できる会社になる
- スムーズな事業承継が可能になる
仕組み自体が会社の独占的な資産になるため、企業価値そのものを高められます。
また、社長がいなくても存続できるということは、M&Aで買い手企業から新たな社長が就任してもスムーズな交代が可能だということです。
そのため仕組み化された会社は、良い条件でのM&Aを実現しやすいのです。
仕組み化が整っていると、M&Aを行わず後継者に会社を譲る際にもスムーズな事業承継が期待できますよ。
4-2 向こう3年分の事業計画書を作成する
M&Aで会社売却を成功させるためには、向こう3~5年分の事業計画の存在が大きなカギを握っています。
会社を売却しようとしているのに、未来の事業計画が必要なんですね?
事業計画書は、買い手に対して経営戦略などをアピールする材料になるんですよ。
また「事業計画の存在そのもの」が企業の評価を高めてくれる可能性もあるのです。
M&Aを成功へ導くために、経営理念と将来のビジョンを明確にした現実的で具体的な事業計画を立てましょう。
自社の強みと弱みも明確にしておきましょう。その方が買い手も安心してM&A交渉を進められますよ。
さらに、作成した事業計画を全ての従業員に周知させることで従業員1人1人が会社の目標を把握し、業績の向上へとつながります。
事業計画書の作成は企業価値の向上にもつながっているのですね。これは早速取り組まないと!
まとめ
M&Aを行う理由は会社や社長の事情によってさまざまですが、ほとんどのケースで経営戦略としての一面を持っています。
そのため「こんな理由でM&Aを決断して良いのだろうか」と心配する必要はありません。
社長自身が経営に対するモチベーションを保てなくなったという理由でも、健康問題が理由でも、一向に構わないのです。
むしろモチベーションの低い社長が組織を率いる状態が続いていると、会社の成長や従業員にとってマイナスの影響を与えかねません。
その一方で買い手側は、自社を成長させるための手段としてM&Aを行います。
買い手側のニーズと売り手企業が持っている価値が合えば、お互いの利益が合致しM&Aは成立します。
そのために売り手側は、M&Aの検討段階から自社の企業価値を高める努力を行いましょう。
今すぐできる企業価値を上げるための取り組みには、会社の仕組み化と事業計画書の作成が挙げられます。
また、会社売却はタイミングも重要です。タイミングが遅すぎると、希望の条件で会社売却を実現できない可能性が高まります。
良い条件で売却できるタイミングを見逃さないように、しっかりと時流を見極めてください。
売却理由や売却のタイミングに悩んだら、専門家への相談がおすすめです。