企業において資産よりも負債の方が多い状態、つまり純資産がマイナスの状態であることを「債務超過」といいます。
「倒産」という言葉に近いイメージを受けますが、すぐに倒産してしまう状態ではない場合が多く存在します。
そして実は、債務超過している会社でもM&Aの対象となり、売却が可能なのです。
この記事では、債務超過会社を売却する際の株価について解説するとともに、債務超過会社を売却するメリットや売却の判断基準なども併せて説明しています。
ご自身が経営する会社が債務超過に陥ってしまったとしても諦めずに、再生の手段としてM&Aを検討してみてはいかがでしょうか。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:債務超過会社を売却する際の株価は1円が基本
債務超過会社を売却する際の株価は、基本的には1円です。
なぜ1円なのかというと、1円は会計上で備忘価額といわれているからです。
備忘価額とは、実質的に価値を失った資産などを帳簿に記載するときに用いられる数字を指しています。キリの良い数字なら1円でなくてもかまいません。
そのため、債務超過に陥り実質的に価値を失った会社を売却する際には、株価1円での取引となるのです。
しかし債務超過に陥った会社の売却を決めた社長の心情としては、「とにかく何とかして会社を存続させたい」ではないでしょうか。
また、企業の買収には株式の取得に支払う費用の他にデューデリジェンス(資産査定)の費用・契約時の弁護士費用・M&A仲介会社への手数料などがかかります。
さらに、会社の負債は買い手側が引き受けることになりますので、売り手オーナーにとっては、たとえ株価が1円でも会社を買い取ってもらえるのは非常に有難いことだと言えるでしょう。
2章:債務超過会社を売却するメリット
債務超過会社を売却することで得られる最大のメリットは、会社の倒産を回避できることです。
そして会社の倒産を回避することにより発生する、さらなるメリットが以下の2点です。
- 代表者個人の破産を避けられる
- 従業員の雇用が守られる
それぞれの項目について、詳しく解説していきます。
2-1 代表者個人の破産を避けられる
法人が破産する際に、原則として代表者が会社の債務を負う必要はありません。
しかし多くの中小企業では、銀行などの金融機関から融資を受ける際やリース契約を締結する際に、代表者が連帯保証人となっています。
そのため法人が破産すると、その負債を代表者が支払う必要が発生するのです。
また会社の社屋や工場などの事業資産の他に、個人資産である自宅などの不動産が借入れの抵当に入っていることがほとんどで、法人が破産すると差し押さえられてしまいます。
そのため法人が破産するときには、代表者個人の破産手続きも同時に行うケースが多く発生しています。
しかしM&Aによる会社売却を行えば、資産と負債の全てを買い手企業に引き継ぐことができるため、代表者個人の破産を免れることができるのです。
ただし連帯保証や抵当権は、自動的に引き継がれるものではなく、買い手企業との話し合いや債権者の同意が必要です。
早い段階から話し合いを始め、M&Aの契約書に「買い手が売り手の経営者保証の解除責任を負う」などの条項を盛り込みましょう。
2-2 従業員の雇用が守られる
M&Aにより会社が存続することになれば、当面の間は従業員の雇用を守ることが可能です。
さらにごく稀にではありますが、譲渡先の企業によっては待遇が良くなるケースも存在します。
そして売却後の会社が債務超過を解消し健全な経営が見込める状態になれば、長期に渡って社員の生活を守ることにもつながるのです。
もし債務超過を解消できず倒産してしまったとしても、買収先の企業が大手であれば、他部門に異動するなどして雇用が守られる可能性も存在します。
売り手オーナーにとっても、「自分ができるだけの対策は行った」と考えられるため心理的負担を減らすことができるでしょう。
3章:債務超過会社を売却するデメリット
債務超過会社を売却することには、ほとんどメリットしかありません。
なぜなら買収されることによって会社の倒産を防ぎ、借金などの債務も全て買い手側の企業が引き受けてくれるからです。
しかし実は、代表者個人にとってはデメリットに感じられるかもしれない要素も存在します。
3-1 代表者の立場を降りなければならない
債務超過会社をM&Aで売却した場合、経営権は買い手側の企業へと移ります。
当然のことではありますが、今まで代表者だった売り手オーナーは代表者の立場を降りることになります。
今まで手塩にかけて育ててきた自分の会社が、自分の手から離れてしまうのです。
自分の会社に思い入れが強い人ほど、大きな喪失感を感じてしまうかもしれません。
M&Aで会社の売却を行った後に自分が何をして生きていくか、他にやりがいを見つけておくと良いですね。
3-2 自分で会社を立て直せた場合、売却益を享受できない
会社売却後に新たに雇用契約を結び会社に残留した場合、自分の力量で会社を立て直すことに成功しても売却益を享受することはできません。
貰える報酬はあくまでも給与のみです。
そのため自分で会社を立て直すスキルや自信があるのであれば、まだ会社を売るべき時期ではないのかもしれません。
ただし立て直しに失敗した場合は、その先に法人及び社長個人の破産が待ち受けているというリスクをはらんでいる点に注意が必要です。
自分で会社を立て直すのか、それとも思い切って売却に踏み切るのか。会社にとってもオーナー個人にとっても大きな分岐点となりますので、プロに相談しながらよく考えて決断を下すと良いでしょう。
4章:債務超過会社を売却するための判断基準
債務超過に陥った会社を売却するべきかの判断は「代表者自身がスキルや気持ちの面で会社を立て直す自信があるか」を基準に考えましょう。
もし会社を立て直す自信があるのであれば、もう少し頑張ってみるのも良いでしょう。
ただし注意しておかなくてはならないのは、売却するタイミングが遅すぎるとたとえ株価が1円でも買い手がつかない可能性があることです。
債務超過会社というのはただでさえ売却が難しい会社です。
買い手がつく状態のうちに売却を進めるという決断も、経営者にとっては必要だと思われます。
既に会社を立て直す気力が湧かないような状態であれば、早々に売却の検討を始めてください。
5章:債務超過会社を売却した後の会社との関わり方
債務超過会社を売却した後、売り手オーナーは代表者という立場を離れます。
代表者という立場を離れた後にどのような人生を歩むのかは、「会社を売却しよう」と決めた時点からある程度考え始めておきましょう。
そして買い手側との交渉が始まったら、自身の処遇についても話し合いが必要です。
会社から完全に離れるのか、それとも顧問契約を結んで会社に残るのか。いずれにせよM&Aの契約を締結する際に、しっかりと明文化しておきましょう。
5-1 会社から完全に離れて第二の人生を歩み始める
M&Aで会社売却を行ったオーナーの多くは、リタイアして第二の人生を歩み始めます。
ただし引継期間が必要なため、M&A完了後も半年~1年程度は会社に残るケースが多いようです。
5-2 会社に残って新たなオーナーと共に会社の立て直しに尽力する
買い手側と顧問契約を結び、会社に残るという選択肢もあります。
とはいえ債務超過に陥った理由によっては、会社に残ることが難しい場合も。
買い手側も、会社を債務超過の状態にしてしまった張本人を雇用したいとはなかなか思えないのが現実です。
会社を立て直すために自分に何ができるかを考え、残留することのメリットを買い手側にしっかりとアピールしてください。
まとめ
債務超過に陥ってしまった会社を売却する際の株価は基本的に1円です。
しかしたとえ株価が1円であっても、会社の負債を買い手が引き受けてくれる・従業員の雇用が守られる・代表者の連帯保証が解消できるなど、売り手にとってはほとんどメリットしかありません。
債務超過が悪化した先に待っている最悪の未来は、会社の倒産です。しかも、中小企業の場合の多くは社長の自己破産もセットになっています。
そんな未来が実現してしまわないように、早めに専門家に相談することをおすすめします。