会社を経営していると、M&A仲介会社からDMや営業電話を受け取る機会が割と多いのではないでしょうか。
後継者不在に悩む中小企業の経営者にとって、問題を解決した上に売却益も受け取れるM&Aは、非常に魅力的な取引です。
そして多くの場合、M&A仲介会社から受け取るDMや電話はメリットと成功事例しか紹介していません。
しかしここには落とし穴が潜んでいます。なぜなら、残念ながらM&Aは失敗に終わるケースもあるからです。
そこで本記事ではM&Aの失敗について、詳細および売り手が受ける影響・要因・注意点などを詳しく解説します。
失敗について深く知ることで、失敗を回避する対策の立案が可能になります。
M&Aを必ず成功させたいと考えている方は、ぜひ本記事をお役立てください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:M&Aは失敗に終わるケースがある

2024年版の中小企業白書によると、買い手・売り手ともに10%前後の企業が実施したM&Aに対して不満を感じているという結果が出ています。
つまり、中小企業のM&Aはおよそ10%の確率で失敗するということです。
確率としてはそんなに高くないですね。数字を見て少し安心しました。
そうですね。全体的には実施したM&Aが成功だったと感じている企業の方が多いです。しかし自分が失敗の10%に入る可能性は十分にありますので、しっかりと対策を練って臨みましょう。
2章:売り手がM&Aで失敗を実感するとき

中小企業のM&Aで失敗を実感するのは、具体的にどのようなときでしょうか。
ここでは、特に売り手がM&Aで失敗を実感するシーンについて確認していきましょう。
2-1 理想の買い手が見つからなかったとき
M&Aで理想のお相手といえば「M&Aに求めている目的を達成できる企業」です。
しかしながら、求める条件が多すぎたり買い手探しのタイミングが合わなかったりすると、理想のお相手に出会えないケースも出てきます。
M&Aの成立前であれば引き続き理想のお相手を探せますが、妥協して最終契約を締結してしまうと後戻りはできません。
実際の買い手が理想とかけ離れているほど、売り手はM&Aの失敗を実感するでしょう。
2-2 希望する価格で売却できなかったとき
中小企業のM&Aでは、引退後の生活費に充てるなど、創業者利益の獲得が目的となっているケースも目立ちます。
そのような場合ですと、売り手はM&Aの諸条件の中でも売却価格を重視する傾向にあります。そのため希望の価格に届かない場合は、失敗を感じるのです。
確かに老後に必要な資金を得られないと、生活そのものが成り立たなくなってしまいますものね。失敗を感じるのも納得です。
2-3 希望する条件が買い手に受け入れられなかったとき
M&Aでは売り手・買い手共に様々な条件を提示して、それらをお互いにすり合わせて契約の成立を目指します。
しかしながらお互いの希望条件が相反するケースも多く、特に優先度の高い条件が受け入れられなかったにもかかわらずM&Aを成立させた際には、失敗を実感することになるでしょう。
優先度の高い条件が受け入れられなかったら、M&Aそのものを再検討するべきだと思うのですが…。
社長のおっしゃる通りです。しかし実際には、交渉中にいつの間にかM&Aの成立が目的となってしまい、本当の目的を見失ったまま契約してしまうケースがあるんですよ。
2-4 買い手との間にトラブルが発生したとき
M&Aの失敗を実感しやすい要因として、買い手間とのトラブル発生が挙げられます。
- デューデリジェンス時に簿外債務が発覚した
- 期限までにクロージング条件を満たせなかった
- あれこれ難癖を付けられて取引価格が大幅に下方修正された
- M&A成立後に表明保証違反が発覚した など
両者の話し合いで解決できるトラブルであればリカバリーできる可能性もありますが、中には話がこじれて訴訟へ発展するケースもあるため注意が必要です。
訴訟に発展するまではいかなくても、損害賠償を請求される可能性もありますよ。
2-5 進んでいた交渉が破談になったとき
契約成立へ向けて交渉が進んでいたにもかかわらず、途中で破談になるケースが存在します。そのようなときに、交渉の失敗を実感するでしょう。
破談になるとこれまでの時間や労力が全て無駄になってしまいますものね。失敗を実感しやすいのも納得です。
M&A交渉が破談になる原因は案件によって様々ですが、発生頻度の高いものとして以下の3点が挙げられます。
- 独占交渉権に違反した
- 情報漏洩が起きた
- 信頼関係を構築できなかった
中には売り手が破談の原因を作るケースもみられます。M&Aの交渉が始まったら、正直かつ誠実な対応を心がけましょう。
2-6 想定していたシナジー効果が発揮されなかったとき
M&Aは、シナジー効果の獲得を目的として実行されるケースも多くみられます。しかしながら、想定していたシナジー効果が発揮されないということも起こり得るのです。
たとえばM&Aによるシナジー効果で売上が1.5倍になると見込んでいたのに、いざ蓋を開けてみたら昨年度の0.8倍にとどまってしまった、というようなイメージですかね。
売上に例えるとそんな感じですね。具体的な数字で見ると、失敗を実感しやすいですよね。
想定していたシナジー効果が発揮できない原因としては、そもそものシナジーを見誤っていたことの他に、PMIの遅れなどが挙げられます。
3章:M&Aの失敗で売り手が受ける影響

M&Aの失敗により、売り手は様々な影響を受けます。中にはM&Aの実行そのものを後悔することになってしまうケースもあるため注意が必要です。
ここではM&Aを失敗すると何が起こるのかを、具体的にみていきましょう。
3-1 事業承継を実現できない
買い手が見つからなかったり交渉途中で破談になったりすると、M&Aそのものが実行できません。M&Aの目的を事業承継としていた場合は、それが実現できないことになります。
事業承継が実現できないと、会社は将来的に廃業か倒産の可能性が高まります。会社の未来を守るためにも、失敗を回避しなくてはなりません。
3-2 想定していた譲渡益を受け取れない
希望の売却額に届かなかった場合、想定していた譲渡益を受け取れません。
譲渡益の使い道や金額次第では、売り手のM&A後の人生設計が大きく狂うことになってしまいます。
例えば譲渡益の使い道が引退後の生活費だった場合、想定していた金額に届かないと引退している場合ではなくなってしまいますよね。
M&A後も会社に残らせてもらうか、新たに仕事を探すことを考えなければいけませんね…。
3-3 従業員が離職する
M&Aでは、譲渡対象となっている従業員も大切な資産です。
しかしながら、自分が働いている会社がM&Aで売却されるという事実を知った従業員の中には、自身や会社の将来に不安を抱き退職を選択する者が出てくるかもしれません。
一度に大量の従業員が退職したり、たとえ1人であっても会社にとってのキーマンが辞めたりすることは、売却する資産の減少を意味します。
そのため買い手から取引価格の減額を言い渡されたり、場合によってはM&A交渉が白紙に戻ったりする可能性が出てきます。
たとえ取引に支障が出ない範囲であっても、今まで頑張ってきてくれた従業員がM&Aをきっかけとして退職してしまうのは心苦しいですね。
3-4 取引先との取引が停止する
従業員と同様に、M&Aの事実を知った取引先から取引の停止を通達される場合があります。いきなり取引停止とまではいかずとも、取引を縮小されるケースもあります。
取引の停止や縮小が選択される理由は、主に以下の2点です。
- M&Aに対して不安や不満を抱いた
- 会社ではなく経営者個人との繋がりが大きい
さらに取引先の意向ではなく、買い手の意向で取引停止が選択されることもあることに留意しましょう。
たとえば取引先との関係が続いている理由が「長年の付き合い」である場合は、よりコストダウンが図れる取引先へ変更される可能性があるのです。
重要な取引先との取引が停止してしまうと困りますね…。しかし「長年のしがらみ」から解放されるのは嬉しいかもしれません。
ポジティブに捉えると、M&Aは取引先との関係を見直すチャンスにもなりますね。
3-5 買い手から損害賠償を請求される
買い手との間にトラブルが発生し、買い手が金銭的な損失を被った場合、売り手に対して損害賠償請求が行われることがあります。
その結果、売り手および売り手対象企業の信用は失われ、金銭的にも時間的にも大きな損失が発生することになるでしょう。
訴訟へと発展する最悪のケースもありえます。
絶対に避けたい…いえ、避けねばなりませんね。

4章:M&Aが失敗する売り手側の要因

M&Aは会社を売買する取引ですが、取引の中心にいるのは「人」です。そのため失敗する原因のほとんどは「人」にあるといって良いでしょう。
ここではM&Aが失敗する要因を紐解き、そこに売り手がどう関わっているのかを確認していきます。
4-1 M&Aの目的や希望条件が曖昧だった
M&Aで会社を売却しようとしている経営者にとって最も大切なのが、M&Aの目的および希望条件を明確にしてからプロセスに臨むことです。
なぜなら、目的や希望条件を明確にしておかないと、M&A交渉中に思考のブレが発生してしまうからです。
たとえば買い手を選ぶ際について考えてみましょう。M&Aに求める目的がハッキリしていれば、他の条件は一旦置いておいて、目的を叶えられる買い手をピックアップできます。
しかし目的が曖昧なままだと、他の条件に目移りしてしまい、本来の目的を叶えられる相手を選べない可能性が出てくるのです。
他の条件に目移りした結果、最も叶えたい目的が叶えられないM&Aを実行してしまう可能性が出てくるということですね…。
その通りです。M&Aの現場では本当に多くの条件について交渉するので、ブレない軸をしっかり持っておかないと、失敗につながってしまいます。
4-2 自社の価値を冷静に判断できていなかった
買い手が見つからなかったり希望する売却価格に届かなかったりといったケースでは、自社の企業価値を実際の企業価値より高く評価している可能性が高いです。
長年手塩にかけて育ててきた会社ですから、高く評価したい気持ちはよく分かります。
しかし我が子への愛情のようなその気持ちが、M&Aの失敗につながってしまう可能性があるのです。
普段の買い物に当てはめて考えてみると分かりやすいですよ。「コスパ」の良い商品は欲しくなるし、価格に見合った魅力のない商品は買わないですよね。
確かに…!自社を高く評価しすぎるということは、価格に見合った魅力のない会社にしてしまうということですね。
4-3 交渉中の対応が不誠実だった
M&Aの交渉が破談になってしまう原因の1つとして、お互いの信頼関係が構築できなかった点があげられます。
売り手の不誠実さが招いた破談の例
運送業を営むA社は、社長が高齢化し後継者もいなかったことから、M&A仲介業者に相談をしました。
A社は地域内で有名な企業であったこともあり、すぐに買い手候補が見つかり基本合意契約の締結までを終えました。
しかし最終交渉の段階で、A社の社長が急に態度を硬化させ、条件の変更を要求。
じきに買い手はA社の態度に嫌気がさし、信頼関係が損なわれたことを理由にM&A交渉は破談に終わっています。
その後A社は他の企業とのM&Aも成立せず、数年後に社長は持病で他界。他の役員が代表に就任したものの、業績の悪化を止められず廃業へと至っています。
上記の例は、すんなり買い手が決まったことで売り手オーナーが「売り惜しみ」をしたことが原因で破談になったといわれています。
基本合意契約の締結後に条件変更を要求したら、そりゃ買い手としても「話が違う」となりますよね。
M&A交渉も他の取引と同じで、信用が重要ですからね。コロコロ意見が変わる人間が経営していた会社を買収したいと思う企業はありませんよ。
4-4 買い手の言いなりになってしまった
M&Aで売り手はどうしても「買ってもらう立場」だという思いになりやすいです。
何としてでも会社を売却したいという気持ちから、自分の希望より買い手の希望を優先してしまう売り手が残念ながら一定数いることも事実です。
(本来ならば中立な立場であるはずの担当M&Aコンサルタントが止めるべきなのですが、こちらも残念ながら買い手の味方をするコンサルタントが一定数存在します。)
買い手の言いなりになり提示された条件をほとんど受け入れた結果、M&Aに求めていた目的を達成できずに失敗を実感してしまうのです。
4-5 M&Aの交渉中に業績が大幅に悪化した
M&Aの交渉中に業績が大幅に悪化すると、取引価格の下方修正につながるほか、場合によってはM&A交渉そのものが破談になる可能性があります。
交渉中の業績悪化は失敗の原因になるということですね。
そのためM&A交渉中においては、今まで以上に業績の維持に努める必要があります。とはいえ秘密保持の観点から、従業員に「M&Aするから業績を落とさないように」とはいえません。
売り手は市場の動向や自社の成長サイクルを見極め、適切な時期に売却活動を行いましょう。
5章:M&Aを失敗しないための5つのポイント

M&Aを失敗すると、目的が達成できないどころか信用・お金・時間などを失ってしまう恐れがあります。
そして失敗の原因がほとんど「人」にあることを前述しましたが、失敗を回避する対策を講じられるのもまた「人」です。
ここではM&Aを失敗しないためのポイントを5つ解説します。全て重要なことですので、M&Aプロセスに臨む際には漏れなく実践してください。
5-1 M&Aの目的および希望条件を明確にする
M&Aは、目的を達成するための手段です。そのためまずは「M&Aでどのような目的を達成したいのか」について明確にしておく必要があります。
もっというと「その目的を達成する手段として果たしてM&Aが最適なのか」というところまで検討すべきです。
目的を達成するための手段としてM&Aが最適であると結論が出たならば、次に希望条件を明確にしましょう。
この希望条件ですが、大切なのは優先順位を付けることです。
なぜなら、希望条件はいくつも出てくるかと思いますが、それを全て受け入れてくれる買い手に出会える可能性は限りなく低いからです。
絶対に譲れない条件(目的を達成するために必要な条件)と、交渉の内容によっては譲っても良い条件に分けて、譲れない条件は優先順位を1位にします。
そして譲っても良い条件の中でも、優先度の高いものとそうでもないものに分けてランク付けをしておきましょう。
さらに明確にした目的および希望条件は、文書にして残しておくことが重要です。
M&Aプロセス中はいつでも見返せるようにしておきこまめに確認する癖をつけることで、迷ったり悩んだりすることも減り、目的を達成するためのベストな選択ができるようになります。
5-2 自社の価値を正確に把握する
自社の価値を評価する際は、売り手自身が行うのではなく、外部の第三者へ依頼するようにしましょう。客観的かつ冷静に見てもらうことで、企業の実態に即した企業価値が算出されます。
その価格を元に売却希望価格を設定すれば、適切な買い手が見つかりやすくなります。
算出された企業価値が希望の価格に届いていなかったら、ショックを受けてしまいそうです。
確かにショックですよね。しかし企業価値を上げるチャンスはまだあります。諦めずに対策を始めましょう!
5-3 全ての関係者に対して誠実な対応を貫く
信頼関係を構築したいM&A交渉の場において、誠実な対応を貫くことは非常に重要です。
自社を良く見せたいがあまりに吐いてしまった小さな嘘が、後にトラブルや破談の原因になり得るのがM&Aなのです。
また、誠実な対応が必要なのは買い手に対してだけではありません。自社で働く従業員や、日頃お世話になっている取引先に対しても同じです。
従業員や取引先にM&Aの実行を伝える際には、経営者自らが全員に対して対面で行い、安心感を抱いてもらえるように努めましょう。
ただし「伝えたら終わり」ではなく、必要に応じて個別のケアを行うなどの工夫もしていきたいものです。
5-4 デューデリジェンスには全面的に協力する
交渉が順調に進み基本合意契約の締結に至ると、買い手によるデューデリジェンスが行われます。
買い手企業が売り手対象企業もしくは買収予定事業に対して、その実態を念入りに調査する行為
デューデリジェンスの実施にあたり、買い手から様々な資料の提出を求められたり質問を受けたりします。
このときの対応次第では、買い手から大きな信頼を得られるでしょう。逆にいうと、不誠実な対応をすると信頼関係を構築できません。
そのため求められた情報は正確かつ迅速に買い手へ提供するなど、全面的に協力してください。
デューデリジェンスで不利な情報を隠していると、後の損害賠償請求にもつながりかねません。自社の情報は、良いことも悪いことも包み隠さず買い手へ報告してくださいね。
5-5 信頼できる専門家をパートナーに選定する
M&Aでは、買い手との間で様々な条件のすり合わせや手続きを行うことになります。
そして実は、売り手の多くが初めてM&Aに臨むのに対し、買い手は既に企業買収の経験があるケースも珍しくありません。
未経験者と経験者では、どうしても未経験者の方が不利になりやすい傾向が見られます。
そこで知識不足や経験不足からくる失敗を防ぐために、信頼できる専門家をM&Aのパートナーに選定してください。
M&Aに対する懸念や疑問点などのあらゆる相談を無料で受け付けている専門的な企業もありますので、まずは検討段階で相談すると良いでしょう。
コンサルタントによって人柄・経験・得意業種はもちろん、依頼先ごとに料金体系も異なります。
安心して任せられるパートナーを選定するために、複数の専門家を比較検討することをおすすめします。
まとめ

M&Aでは、M&Aに求めていた目的が達成できなかったり、トラブルが発生したりした際に失敗を実感することが多いようです。
中小企業のM&Aは、およそ10%の確率で失敗します。また、失敗する要因については、そのほとんどが「人」に由来しています。
10%の中に自分が入らないために、M&Aプロセスを始める前に失敗の要因と対策ポイントについて確認し、対策を講じておきましょう。
















