中小企業を経営している社長の多くが、M&Aは初めての経験になるかと思います。
そのためどうやって会社に値段が付くのか、疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。
自社がいくらで売れるか気になりますし、誰が会社の値段を決めるのかも知りたいです。
そこでこの記事では、会社を売る値段の決まり方について解説しています。
- 会社を売る値段は誰が決めるのか
- 会社を売る値段の決め方
- 会社を売る値段に影響を与える項目
- 会社の価値を高める方法
会社売却を検討している社長はぜひこの記事をチェックして、会社を売る値段について詳しくなってくださいね。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:会社を売る値段は誰が決める?
会社を売る値段を決めるのは、買い手です。買い手が売り手企業の価値を判断し、「この価格で買収したい」という値段を決定するのです。
提示された価格に売り手が納得すれば、それで売買契約は成立します。
売り手である私の希望は聞いてもらえるのでしょうか。
もちろん、売却希望価格を提示することは可能です。しかしその価格が買い手が算出した買収価格とあまりにも乖離している場合、売買契約の成立は難しいといえるでしょう。
困ったことに、会社を売る値段に「相場」という概念はほとんどありません。なぜならM&Aの対象企業ごとに、資産や経営の状態が異なるからです。
さらに買い手によって、売り手企業に抱く魅力や期待値の違いも買収価格に現われます。
例えば売却希望のA社に対して、買い手候補Bは2億円の価格を提示し、買い手候補Cは3億円の価格を提示するというケースも往々にしてありえるのです。
2章:M&Aにおいて会社を売る値段を決める方法
会社を売る値段は買い手が決めるとはいえ、合理的で明確な基準がないと、正しい企業価値を算出できません。
明確な基準がないと、M&Aがスムーズに進みませんよね。
たしかに。提示された買収価格の根拠って重要ですよね。「何となく」では会社を売りたいと思えませんもの。
ここでは、会社の価値を正確に算出するための方法についてご紹介します。
2-1 コストアプローチ( 純資産法)
コストアプローチは、貸借対照表に記載されている純資産を基準に企業価値を算出する方法です。
M&Aの現場では、よく使われている方法です。
コストアプローチは、貸借対照表に記載されている純資産をそのまま企業価値の根拠とする簿価純資産法と、現在の実態に合わせて修正を行う時価純資産法に分けられます。
○簿価純資産法
簿価純資産法は貸借対照表を見るだけで企業価値の根拠が分かるため、非常に分かりやすく簡単な方法です。
しかし会社の実情とかけ離れているケースも多いため、M&Aの現場で簿価純資産法を採用することはほとんどありません。
○時価純資産法
時価純資産法は、M&Aの現場で採用されることの多い企業価値算出方法です。
一定の基準日における資産を時価で再評価したうえで、同じく時価で再評価した負債を差し引いた実質資産額を算出します。
- 土地の価値を現在の価値に修正する
- 有価証券の価格を現在の価格に修正する
貸借対照表に計上されている資産の価値を、最新の情報に更新するイメージですよ。
貸借対照表に計上された金額を実態に即した数値に修正することで、より正確で客観性の高い企業評価が可能になるのです。
2-2 インカムアプローチ(DCF法)
インカムアプローチとは、企業が将来生み出すであろう利益を基準として、現在の企業価値を算出する方法です。
いくつか存在するインカムアプローチの中でも、DCF法は日本で多く採用されている算出方法です。
DCF法は、将来得られるフリーキャッシュフローを基に企業価値を算出します。
つまり、買い手は「この売り手は将来どれくらいのキャッシュを生み出してくれるのだろうか」という観点から企業価値を算出するということです。
なるほど。買い手にとっては自然な考え方ですよね。
ただしDCF法では、将来のキャッシュフローを正確に見積もる必要があります。そのため正確かつ客観的に信頼できる事業計画書が必要です。
2-3 マーケットアプローチ(類似会社比準法・市場株価法)
マーケットアプローチは、規模が近い他企業の企業価値や市場取引価格を基準にして企業価値を算出する方法です。
代表的な算出方法として、類似会社比準法と市場株価法が挙げられます。
○類似会社比準法
類似会社比準法は、売り手企業と事業内容や会社の規模などが似ている上場企業を参考にして、企業価値を算出する方法です。
具体的には、EV/EBITDA倍率を用います。
EV(企業価値)がEBITDA((営業利益+減価償却費)の何倍かを表す指標
自社のEBITDAに参考企業のEV/EBITDA倍率を掛け合わせることで、自社の企業価値を把握するという方法です。
○市場株価法
市場株価法は、過去数カ月の平均株価を基準に企業価値を算出する方法です。
過去数カ月の平均株価…?
社長がお察しの通り、市場株価法を適用できるのは上場企業のみです。「こんな方法もあるんだな」くらいの認識でOKですよ。
3章:会社を売る値段に影響を与える要素
自社の企業価値を算出する方法がいくつかあることは分かりましたが、会社を売る値段はそれだけで決まるのでしょうか。
会社を売る値段は、基準に当てはめて算出した企業価値以外にもたくさんの要素を検討して決められますよ。
買い手にとって魅力的な企業であれば、算出された企業価値以上の価値が見いだされる可能性が高くなります。
その一方で、買い手にとって魅力の乏しい企業の場合は、算出された企業価値の価格でも買収を見送られる可能性があるのです。
ここでは、M&Aで会社の売却価格に影響を与える要素についてみていきましょう。
3-1 業績および市場シェア
多くの人が予想できるかと思いますが、売上や市場シェアなどの項目は、会社を売る値段に大きな影響を与えます。
売上額の多さだけではなく、成長しているかどうかも重要ですよ。
3-2 顧客や取引先
業界内のリーダー的企業と取引があったり、他社と差が付けられる顧客が付いていたりする場合も、会社を売る値段が上がりやすくなります。
魅力的な取引先や大口の顧客などは、買い手としても欲しいところですからね。
なるほど。売り手企業を買収することで取引先や顧客も同時に手に入れられるなら、新規で開拓するより効率的かもしれません。
その通りです。顧客や取引先のリストは、内容によっては売り手の大きな武器になりますよ。
3-3 技術・ノウハウ・特許
技術・ノウハウ・特許などいわゆる知的財産も、売却価格に影響を与えやすいといわれています。
なぜなら独自の技術やノウハウを持っていると、他社との差別化につながるからです。
技術の面においては開発力や製造力、ノウハウに関しては営業力・マーケティング力・独自のIT技術なども含まれます。
3-4 優秀な社員の存在
人材=人財と表現することもあるように、優秀な社員の存在は会社を売る値段にも良い影響を与えます。
高いスキルを持っていたり豊かな経験を持っていたりする社員が多いほど、良い影響は大きいといえるでしょう。
実際に買い手の中には、優秀な人材を確保することを目的に買収を検討している企業もあるんですよ。
特に専門的な資格を要する事業の場合は、有資格者が多いほど有利な条件での売却が可能になる可能性が高いのです。
3-5 会社のビジョン・経営者の人間性
M&Aのゴールは、2社の統合でM&A前に思い描いていた未来を実現することです。
そのためにはM&A後のスムーズな統合作業が欠かせません。
買い手と売り手のビジョンが似ているほど、経営統合がスムーズに進む可能性が高まります。
また会社のビジョンと同じく、経営者の人間性も統合作業の成功に大きく関わっているといえるでしょう。
買い手と売り手の経営者どうしの馬が合えば、統合作業がスムーズにいく可能性が高いですよ。
たしかに。最初から同じ方向を見ていたら、ゴールまでの道筋が立てやすいですね。
4章:M&Aの会社売却をより良い条件で成功させるポイント
会社の値段に良い影響を与える要素を満たしていれば、確実に良い条件で会社を売却できるのでしょうか。
実は、一概に可能だとは言い切れないのが正直なところです。
たとえ会社を売る値段に良い影響を与える要素を持っていても、思ったような条件での売却ができないケースも往々にして存在します。
会社売却をより良い条件で成功させるためには、いくつかのポイントを押さえたうえで売却活動を行うことが欠かせません。
4-1 M&Aの専門家に相談する
M&Aで会社を売る際には、専門的な知識と経験が必要です。M&Aを成功へ導くためには、専門家のサポートが欠かせません。
会社売却を決意したら、なるべく早めに専門家へ相談してください。その際は1社だけでなく、複数のM&A仲介会社へ相談することをおすすめします。
何人かと話をしてみて、ご自身が信頼できるM&Aコンサルタントを見つけましょう。
4-2 会社を売るタイミングを見極める
会社には、売れやすい時期とそうでない時期が存在します。
- 業界全体の株価が上がっている時期
- 会社が成長を続けている時期
上記の時期に会社を売却すると、良い条件が付きやすくなるのです。
逆に業界全体の株価が下がっている時期や、会社の業績が下がっている時期などは会社売却が難しくなる傾向にあります。
会社売却を成功させるためには、売却タイミングの見極めも重要です。
最適な売却タイミングを見極めるためにも、早めに専門家へ相談すると良いですよ。
4-3 自社の強みと弱みを明確にしておく
自社の強みと弱みを明確にしておくことで、以下のメリットを得られます。
- 自社の強みを活かせる買い手候補を探せる
- 自社の弱みをカバーしてくれる買い手候補を探せる
- 自社の弱みを明確にすることが克服のきっかけになる
自社の弱みを相手にさらすことはマイナスかと思っていましたが、逆にしっかりと把握しておくべき点なのですね。
その通りです。買い手候補に敢えて弱みをアピールする必要はありませんが、きちんと把握しておくことで、より自社にマッチした買い手探しができるんですよ。
○強みはより伸ばしておく努力を
自社の強みは、他社との差別化に非常に有利な要素です。そのため現状に満足することなく、強みはどんどん伸ばしていきましょう。
御社の強みを「欲しい」と思う買い手はきっといます。
強みが魅力的であればあるほど、複数の買い手候補が名乗りを上げる可能性もあるってことですよね。
その通りです。複数社で競争が起これば、買収価格に良い影響がもたらされるでしょう。
○弱みやマイナス要素は改善しておく
弱みやマイナス要素はないに越したことはありません。そのため自社にそのような部分が見つかった場合は、直ちに改善策を講じましょう。
すぐに成果が現れなくても、「改善策を講じて実行中」という事実が企業価値を高めてくれる可能性がありますよ。
4-4 向こう3年分の事業計画書を用意しておく
会社を売却するのであれば、未来の事業計画書は不要だと感じるかもしれません。
しかし実は、未来の事業計画書は会社の経営戦略を買い手へアピールする絶好の材料となるのです。
さらには、事業計画書の存在そのものが企業価値を高めてくれる可能性もあります。
事業計画書を作成する習慣のある中小企業は、まだまだ少ないのが現状です。そのため事業計画書の存在そのものが、M&Aの現場ではキラリと光る要素になり得るんですよ。
4-5 仕組み化で企業価値を高めておく
一生懸命考えましたが、特にこれといって強みがありません…。ごくごく平凡な会社です…。
自社に強みが見つからないのであれば、強みを作れば良いのです。
どの企業でも取り組める企業価値の高め方で最もおすすめな方法が、会社を仕組み化することです。
人に依存することなく業務が回る仕組みを社内に構築すること
会社が仕組み化されると「誰でもできる仕事」が多くを占めるようになり、人依存から脱却できます。
その結果、業務が効率的になり、業績へも良い影響を与えるでしょう。
業績が改善されれば、会社を売る値段にも反映されますよ。
また、構築した仕組みそのものが会社にとって独自の資産となります。つまり、仕組み化は会社にとって強みになるということです。
4-6 事業の収益性を高めておく
事業の収益性は、M&Aで会社を売る際の売却価格に影響を与えます。
収益性の高い企業とそうでない企業があったら、どちらの企業を買収したいですか?
そりゃもちろん収益性の高い企業に決まっています。効率よく収益を挙げられる企業を買収したほうが、投資金額の回収も早そうです。
その通りです。買い手の立場で考えていると簡単に分かりますね。
収益性を高めるためには、営業力の強化や競合他社との差別化が必要です。また、先に挙げた会社の仕組み化も、業務を効率化して収益性を高める効果が期待できます。
4-7 シナジー効果が期待できる買い手候補を選ぶ
お互いがお互いを高め合える要素を持った買い手候補を選ぶことも、会社売却をより良い条件で実行させるポイントの1つです。
M&Aにより2つの会社が1つに統合されたとき、1+1以上の効果を発揮することをシナジー効果と呼んでいます。
シナジー効果が期待できる相手であればM&A後の急成長が見込めるため、会社を売る値段に良い影響を与えやすいのです。
まとめ
会社を売る値段は買い手が決定するものであり、明確な相場はありません。
買い手が「この価格で買収したい」という価格に売り手が合意すれば、その価格でM&Aが成立するのです。
ただし正確な企業価値を測るために、コストアプローチ・インカムアプローチ・マーケットアプローチといった算出方法が存在します。
そのうえで業績・顧客・技術などの価値を検討し、買収価格が決定するのです。
会社売却をより良い条件で成功させるためには、会社を売るタイミングが重要です。タイミングを見誤らないためにも、早めに専門家へ相談しましょう。
その他に会社売却を成功へ導くポイントとしては、以下の5点が挙げられます。
- 自社の強みと弱みを明確にしておく
- 向こう3年分の事業計画書を用意する
- 会社を仕組み化して企業価値を高めておく
- 事業の収益性を高めておく
- シナジー効果が期待できる買い手を探す
努力次第では今からでも買い手にとって魅力的な企業へ近付くことが可能です。
M&Aで会社を売ろうと検討しているのであれば、できることからすぐに取り組み始めましょう。