ほとんどのケースにおいて会社売却は、社長自身や会社がメリットを得るために実行されます。
そこで納得のいく会社売却を実現させるためには、まず会社を売るメリットについて知っておく必要があります。
また、メリットがあるものにはデメリットの存在もつきものです。
メリットしか見ずに会社売却を実行して大きなデメリットに直面した場合、会社売却を後悔してしまう可能性も否めません。
「こんなはずじゃなかった」とならないためにも、メリットと併せてデメリットも把握しておく必要があるのです。
この記事では、会社を売るメリット・デメリットについて解説します。
メリットを最大化する方法や会社売却後に待っている人生についてもご紹介していますので、会社を売ろうか迷っている人にはおすすめの記事となっています。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:会社を売るメリット
「会社を売る」というと、「身売り」や「裏切り」のようなマイナスイメージを抱く人もいるかもしれません。
しかし現代の日本では、後継者対策や経営戦略の一環を理由に会社を売る中小企業の社長が増えています。
なぜなら、会社を売ることで会社や社長自身に様々なメリットが得られるからです。
会社を売ると得られるメリットには、主に以下の6点が挙げられます。
- 株主(オーナー)に大金が入る
- 後継者問題を解決し会社を存続させられる
- 経営者の重圧から解放される
- 個人保証・連帯保証から解放される可能性がある
- 会社の規模を拡大できる
- 従業員の雇用を維持できる
後継者がいなくても会社を存続させられるだけでなく、社長自身も売却益を得られることが最大のメリットだといえますね。
後継者不足で悩んでいる私にとっては救世主のような存在じゃないですか!詳しく知りたいです!
それぞれの詳細について、詳しくみていきましょう。
1-1 株主(オーナー)に大金が入る
株式譲渡や会社分割など株主が売却益を受け取るスキームを選択すると、株主個人に大金が入ります。
手にした売却益は引退後の生活費にしたり、新しい事業を始めるための資金にしたり、使い道は個人の自由です。
豊かな第二の人生をスタートするために会社を売る選択をする社長も多いですよ。
たしかに退職金以上の大金を手にできますものね。自分の未来のために会社を売るという選択肢もアリな気がしてきました。
1-2 後継者問題を解決し会社を存続させられる
株式譲渡や合併などで会社を丸ごと第三者へ譲渡するスキームを選択すると、会社の経営権を手放すことになります。
次期社長の決定権も親会社であり経営者でもある買い手企業が握っているため、売り手側が後継者を立てる必要がなくなります。
会社を売ると、後継者が不在でも会社の存続が実現するのです。
後継者の心配をする必要がなくなるので、「引退したいのに後継者がいない」という社長にとって会社売却は非常に有用な手段だといえますよ。
1-3 経営者の重圧から解放される
前述の通り、会社を売ると経営権が買い手へと移ります。
それまで経営のストレスに晒されてきた社長は、その重圧から解放されるのです。
長年高血圧に悩んでいた社長が、会社売却後にすっかり正常値に戻ったという話を聞いたことがあります。プレッシャーの大きさがうかがい知れますよね。
私も経営への不安から夜眠れなくなることがあります。やりがいを感じてはいますが、不安から解放される点は嬉しいですね。
1-4 個人保証・連帯保証から解放される可能性がある
株式譲渡や合併など、会社を丸ごと売却するスキーム(手法)を選択すると、社長個人の保証や連帯保証を解除できる可能性があります。
個人保証や連帯保証は会社売却実行後に自動で解除されるわけではない
社長の個人保証や連帯保証を解除したい場合はその旨をM&A交渉の条件として掲げ、買い手から同意を得ておく必要があります。
さらに、買い手から同意を得ただけでは保証の解除はできません。
買い手と共に借入を行っている金融機関へ掛け合い、同意が得られると保証の解除が実現するのです。
1-5 会社の規模を拡大できる
大手企業に会社を売りその傘下に入ると、会社の規模を拡大できます。
会社売却により買い手企業のノウハウ・販路・顧客などを使えるようになることで、売り手企業は更なる成長を見込めるのです。
大手企業の安定した財務基盤の元で事業を行えるようになるため、会社の規模拡大とともに業績の安定も期待できますよ。
また「大手企業のグループ企業」と世間からの認知度が向上することも、会社の成長にとってプラスとなるでしょう。
1-6 従業員の雇用を維持できる
株式譲渡や合併など会社の資産や業務を包括的に承継するスキームでは、従業員の雇用が自動的に買い手へと引き継がれます。
従業員も譲渡する資産の一部ということですね。
その通りです。自動的に雇用が引き継がれれば、社長も安心ですよね。
その一方で譲渡する資産を個別に指定する事業譲渡では、従業員は一旦売り手企業を退職し、買い手企業と新しく雇用契約を締結することになります。
事業譲渡の場合は1ステップ必要になるのですね。とはいえ雇用が継続されることは非常に有難いし、安心感がありますね。
廃業を考えていた社長が、従業員を路頭に迷わせないためにM&Aへと舵を切った事例もありますよ。
2章:会社を売るデメリット
後継者の不在に悩む中小企業の社長にとっては救世主のような会社売却ですが、デメリットはあるのでしょうか。
残念ながらデメリットも存在します。しかし後継者の不在に悩む社長にとっては、メリットの方が上回るケースが多いのではないでしょうか。
とはいえメリットだけを見て会社売却を決めてしまうことは非常に危険です。
デメリットについても把握し、メリットと比較検討を行ったうえで会社を売る決断を下すことが、会社売却を成功させるポイントともいえます。
ここでは、会社を売る主なデメリットについてみていきましょう。
2-1 必ずしも成功するとは限らない
現代日本において、M&Aで会社を売りたいと考えている社長は増加の一途をたどっています。
会社を売りたい理由については、後継者問題だったり少子化による労働力不足だったり様々です。
しかし会社を売りたい社長が増える一方で、買収を検討している企業の数はそこまで増えていないという現実があります。
つまり、需要と供給のバランスが崩れてきているのです。
会社を売りたい社長の数が、買収したい企業の数を上回っている状態だということですね。
そのため実際に会社を売るために買い手探しを始めても、必ず買い手が見つかるとは限りません。
たとえ買い手が見つかったとしても、希望していた売却価格に届かないというケースも目立っています。
必ず成功するとは限らない点を念頭において、会社を売る手続きを始めるようにしましょう。
2-2 会社を売却した後に寂しさを感じる
会社を売ると、経営権が第三者へと移ります。
自分で会社を立ち上げて成長させてきた社長にとっては、わが子が自立して巣立っていくときの気持ちに似た感情を抱くでしょう。
人生の大半をかけて取り組んできた会社経営が終わりとなり、寂しさを感じる社長も少なくありません。
会社を売った後は遠からず引退する未来がやってきます。会社から完全に離れたときのことを考えて、次にやりたいことを見つけておくと良いでしょう。
2-3 同じ業種で新たな事業を立ち上げられない
事業譲渡で会社の事業を売った場合は、法律により競業避止義務が発生します。
会社売却後の一定期間において、売却した業種と同業種の事業を行えないという取り決め
つまり、飲食業の会社を売却したら、新たに飲食業の会社を立ち上げられないということですか?
そのイメージでOKですよ。
事業譲渡以外のスキームを選択した場合でも、買い手との交渉次第では競業禁止義務が盛り込まれるケースが存在します。
そのため、会社売却の後に新たな事業を立ち上げたいと考えている社長は注意が必要です。
2-4 すぐに引退できるわけではない
会社からの引退を目的として会社を売却する社長は年々増えています。しかし実は、会社売却が成立してもすぐに社長から引退できるわけではありません。
なぜなら、会社売却後には経営に関する引継ぎが必要になるからです。
たしかに!引継ぎを行わないと、買い手も困ってしまいますよね。
会社売却後の事業をスムーズに軌道に乗せるためにも、経営の引継ぎは重要ですよ。
経営の引継ぎ期間は3ヶ月~1年程度
経営の引継ぎに要する期間は、会社が社長にどの程度依存しているかにもよります。
社長への依存度が高ければ高いほど、引継ぎにかける時間は長くなる傾向にあります。
引継ぎ期間を短縮したいのであれば、社長に依存している仕事を極力減らしておきましょう。
3章:会社を売るメリットを最大化するポイント
会社を売るということは、多くの社長にとって最初で最後の経験になるかと思います。
しかし経験のないプロジェクトとはいえ、やるからには必ず成功させたいところです。
わが子同然の会社を売るわけですから、絶対に成功させたいし、最高の結果を得たいです。
会社売却は、やみくもに取り組んでいては最大限の結果を得られません。いくつかのポイントを押さえたうえで売却活動を行うことが、会社売却を成功へと導きます。
ここでは、メリットを最大化できる会社売却の方法についてみていきましょう。
3-1 ”会社の売り時”を逃さない
会社は、いつ売っても同じ値段がつくわけではありません。良い条件が付きやすい時期とそうでない時期があるため、”売り時”の見極めが重要です。
- 業界全体の株価が上がっている時期
- 会社が成長を続けている時期
業界全体の株価が上がっている時期というのは、業界全体のニーズが高まっている時期とも言い換えられますよ。
逆に業界全体の株価が下がっている時期や会社の業績が下降している時期は、会社売却に不利な時期といえるでしょう。
ただし業績が下降の一途をたどり、自社のみでの回復が困難だと思われるケースについては例外です。
倒産の二文字が現実のものとならないように、一刻も早く売却活動を開始し、とにかく「会社を売り切る」ことに全力を尽くしてください。
3-2 会社の強み・弱みを明確化しておく
会社の売却活動を始める前に、自社の強みと弱みを明確にしておきましょう。なぜなら、自社の強みと弱みを明確化しておくことで、以下のメリットを得られるからです。
- 自社の強みを活かせる買い手候補を探せる
- 自社の弱みをカバーしてくれる買い手候補を探せる
- 自社の弱みを明確にすることが克服のきっかけになる
自社の強みと弱みを明確にすると、自社にマッチした買い手探しができるというわけですね!
見つけ出した強みはより磨き上げ、他社との差別化を図りましょう。また、明らかになった弱みは克服のチャンスです。
完全に克服できていなくても「対策を講じて実行中」である事実が評価されるケースもあるんですよ。
なるほど。弱い部分を放置せずに改善しようとする姿勢も大切なのですね。
3-3 魅力的な経営資源を確保しておく
買い手企業から「買収したい」と思われる企業になるためには、魅力的な経営資源の確保も欠かせません。
最も重要な経営資源は「ヒト」
経営資源には、モノ・カネ・情報などがありますが、それら全ては「ヒト」が活用することで初めて「資源」になります。
そのため最も重要な経営資源は「ヒト」なのです。
優秀な人材を擁している売り手は、良い条件での会社売却を実現できる可能性が高いですよ。
なるほど。まさに「従業員は宝」ですね。
3-4 シナジー効果の望める買い手を探す
お互いがお互いを高め合える要素を持った買い手候補を選ぶことも、会社売却をより良い条件で実行させるポイントの1つです。
会社を売るメリットの1つに会社の規模を拡大できるという項目がありましたが、それを実現するためにはシナジー効果が期待できる買い手とのマッチングが必要です。
2社の統合により1+1以上の効果を得ること。相乗効果。
シナジー効果が期待できる相手であればM&A後の急成長が見込めるため、会社を売る値段に良い影響を与えやすいのです。
3-5 経営者どうしの相性が良い買い手を探す
会社売却は会社どうしの取引というイメージが強いかもしれません。しかし条件の交渉などにおいては、人対人の取引という性格が強いものです。
そこで会社のビジョンや経営への考え方など、経営者どうしで共感し合える要素が多い買い手との出会いが重要となってきます。
社長としても、考え方が自分と似ていて信頼できる社長が経営している会社に自社の未来を任せたいと思いませんか?
たしかにおっしゃる通りです。逆に信用できない人に大切な我が社を託すことはできません!
4章:会社を売る代表的な方法
ひとくちに「会社を売る」といっても、いくつかのスキーム(方法)が存在します。
M&Aで会社売却を行う際は、社長や会社が実現したい未来を叶えられる可能性が高いスキームが選択されます。
場合によっては、M&Aの交渉中にスキームが変更されるケースもあるんですよ。
社長や会社の希望を叶えるための代表的なM&Aスキームについてご紹介します。
4-1 株式譲渡
株式譲渡とは、譲渡対象企業のオーナーが、自身が所有する株式を第三者へ譲り渡すことで経営権を移転させるスキームです。
中小企業では、社長が100%の株式を保有しているケースが多くを占めています。この100%の株式を買い手へ売却して、経営権を譲渡するイメージを持つと分かりやすいでしょう。
株式譲渡の場合は売り手=株主となる
自身の所有する株式を売却するスキームであるため、株式譲渡の売却益は株主個人が受け取ります。
また、会社を丸ごと第三者へ譲渡するため後継者の問題も解決できるほか、従業員の雇用も自動で継続されます。
株式譲渡は、後継者問題を解決してリタイアを目指している社長におすすめできるスキームの1つですよ。
4-2 吸収合併
吸収合併とは、既存の買い手企業に売り手企業が吸収されるM&Aスキームです。
買い手企業はそのまま存続し、存続会社と呼ばれます。一方の売り手は、吸収合併により法人格が消滅するため消滅会社と呼ばれます。
合併により消滅する会社の権利義務は全て、存続する会社へと引き継がれます。
会社の法人格は消滅しますが、存続企業の中で生き続けるイメージです。
4-3 一部の事業を手放すなら会社分割もしくは事業譲渡
手元に残したい事業がある場合や不要な事業を切り離してメイン事業に集中したい場合などは、事業の一部を譲渡するスキームを選択します。
- 会社分割
- 事業譲渡
会社名義の収益不動産を手元に残したい場合も、会社分割か事業譲渡の選択がおすすめです。
○会社分割
会社分割は会社の事業を分割して別の会社へと引き渡すM&Aのスキームで、事業に関わる権利や義務を包括的に引き継ぐという特徴を持っています。
譲渡したい事業に含まれる資産や負債などを、丸ごと買い手へ譲渡できるスキームなんですよ。
会社分割は、事業を引き継ぐために新しく会社を設立する新設分割と、既存の会社に事業を引き継ぐ吸収分割の2種類に分類されます。
さらに対価の受け取りは、株主個人と売り手企業のどちらも選択が可能です。
○事業譲渡
事業譲渡とは、会社が行っている事業の一部または全部を切り離して第三者へ譲渡するM&Aスキームです。
先に出てきた会社分割とよく似ていますね。
そうなんです。会社分割との大きな違いは、事業譲渡では譲渡する資産を個別に指定する点です。
買い手としても譲渡対象が限定されているため、無駄のない買収が実現可能なスキームです。
負債や個人保証は買い手に引き継がないケースがほとんど
また事業譲渡の場合、売却益は売り手企業が受け取ることになります。
そのため、不要事業を切り離して会社の発展を目指す目的で実施されるケースが多いスキームとなっています。
5章:会社を売った後の人生
会社売却を検討する際に意外と見落としがちな点に、社長がその後の人生をどう歩んでいくかということが挙げられます。
たしかに、私は会社を存続させたい一心で会社売却を検討していました。実際に会社が売れた後の自分がどのような人生を送るかは、全然考えていませんでした…。
会社を売った後に社長が送る人生は、会社に残留するか引退するか、大きく2つのパターンに分けられます。
会社売却の交渉時に買い手へと伝え了承してもらう必要があるため、ご自身のその後については早めに希望を固めておきましょう。
5-1 会社に残留して働き続ける
会社売却後も、買い手の承諾が得られれば会社に残って働きつづけられます。その際の選択肢は、以下の3つです。
- 引き続き社長として残留する
- 顧問などの立場となって会社に関わり続ける
- 一般の社員として働き続ける
事業譲渡や会社分割で一部の事業を売却した場合は、手元に残った事業の経営を続ける必要があるため引き続き社長として働き続けることになるでしょう。
株式譲渡で会社の経営権を譲渡した場合でも、買い手の了承が得られれば引き続き社長として働くことが認められるケースもあります。
ただしその際の任期は、1年程度であることが多いようです。
長期に渡り会社と関わり続けたいのであれば、顧問や一般の社員となる選択肢を選ぶと良いでしょう。
ただ、一般の社員として会社に残る選択をする社長はほとんどいないのが現実です。
今まで部下として接してきた社員たちと同じ立場になるということですよね。社員にとっても気まずいような気がします。
5-2 引退して第二の人生を歩む
会社売却後に残留を選択しなかった場合は、会社から引退することになります。
むしろ「会社から引退したい」という目的を持って会社を売る決意を固める社長も多いんですよ。
- 会社の未来を心配する必要がなくなる
- 会社を売って得た対価を引退後の生活費に充てられる
ストレスフリーな引退生活を送れそうですね…!
後継者不在に悩む中小企業の社長にとって、会社売却は理想の手段だといえるかもしれません。
まとめ
会社を売って得られるメリットには、以下の6点が挙げられます。
- 株主(オーナー)に大金が入る
- 後継者問題を解決し会社を存続させられる
- 経営者の重圧から解放される
- 個人保証・連帯保証から解放される可能性がある
- 会社の規模を拡大できる
- 従業員の雇用を維持できる
上記のメリットは、後継者が不在ではあるが引退を考えている社長にとって、非常に魅力的なものとなっています。
しかしその一方で、会社を売るデメリットも存在します。
- そもそも必ず成功するとは限らない
- 会社売却後に寂しさを感じる
- 同じ業種で新たな事業を立ち上げられない
- 会社売却後すぐに引退できるわけではない
会社売却を検討するのであれば、上記のデメリットも検討したうえで決断することをおすすめします。
会社を売るメリットを最大化させるためには、売り時を逃さない・強みや弱みの明確化・魅力的な経営資源の確保など、いくつかのポイントがあります。
自社にできる範囲で構いませんので、成功のために実践できることは積極的に行っていきましょう。
会社を売る方法としては、株式譲渡・吸収合併・会社分割・事業譲渡など様々なスキームが存在するため、社長個人や会社の目的に合致する最適なスキームを選択してください。
スキームの選択や売却時期などは、早めに専門家へ相談することをおすすめします。