後継者がいない高齢の経営者様の中には、会社の廃業を考えている方も多いのではないでしょうか。
会社を廃業すると、従業員や取引先に迷惑がかかる可能性が高く、社長自身の手元に残るお金もごくわずかというケースが目立ちます。
そのためできるなら廃業は避けたいものですが、実は、会社を第三者へ売却することで回避できる可能性が高いのです。
そこでこの記事では、廃業と会社売却を比較し、廃業を回避するためには何をすべきかを解説します。
- 会社の廃業について
- 廃業を回避できる方法
- 廃業を検討している会社が本当に売却できるのかどうか
- 廃業を検討しても良いケース
会社の廃業を検討している経営者様は、ぜひこの記事にお目通しください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:後継者がいない会社は廃業するしかない?
後継者がおらず、見つかる見込みもありません…。私が元気なうちに廃業すべきなのか悩んでいます。
後継者がいない会社が取るべき選択肢は、一般的に後継者を探すか廃業するかのどちらかだと考える方が多いのではないでしょうか。
ここでは、廃業する会社の現状と、廃業のメリット及び注意点についてみていきましょう。
1-1 廃業する会社の現状
帝国データバンクの調査によると、2023年に休廃業・解散した企業については以下の特徴がみられます。
休廃業・解散件数 | 59,105件(前年比10%増) |
経営者の平均年齢 | 70.9歳 |
黒字休廃業の割合 | 51.9%(過去最低) |
参考文献:帝国データバンク「全国企業「休廃業・解散」動向調査(2023)」
経営者の平均年齢の高さが目を引きました。これはやはり後継者が見つからなくて、廃業を余儀なくされたと考えて良いのでしょうか。
黒字であっても51.9%の企業が休廃業していることからも、その可能性は大いにありますよね。
さらに中小企業庁のデータによると、2016年の調査では廃業を考えている経営者の33.3%が「後継者を確保できない」点を理由に挙げています。
上記の資料からも、後継者不在で休廃業する企業は少なからず存在することが予想できます。
1-2 廃業のメリット
後継者のいない会社を廃業させるメリットとしては、社長自らが自分の意志で事業を終了させられる点が挙げられます。
自分のタイミングで廃業の時期を決定できる点もメリットの1つだといえますね。
全てが自分の意志の元でできるんですね。自らが興した会社を自らの手で終わらせるのは、潔いといえば潔いですね。
さらに黒字経営の会社を廃業させた場合は、必要な支払いを終えた後に残余財産が発生するケースがあります。
残余財産は株主に分配されるため、社長の元にもお金が残る可能性があるのです。
1-3 廃業の注意点
後継者がいない会社を廃業する際に注意すべき点は、主に以下の4点です。
- 従業員は全員解雇しなければならない
- 取引先との取引も全て解消するため、先方に迷惑をかける可能性が高い
- 培ってきた技術やノウハウが消滅する
- 資産の売却が難航する可能性がある
廃業すると会社が行っている全ての事業がストップするため、従業員や取引先などその会社に関わっている人全てに迷惑をかける可能性があります。
また、優れた技術やノウハウの消滅は、それまで自社の商品やサービスを利用していた顧客へも迷惑をかける恐れがあるのです。
さらに大量の在庫を抱えたまま廃業するケースなどでは、在庫の売却が困難になることが予想されます。
在庫も資産の一部です。資産を全て売却しなければ、その先のステップへ進めません。資産の売却が難航すると、廃業の完了までに長い期間を要してしまいます。
2章:会社の廃業を回避する売却という選択肢
実は、後継者がいなくても廃業を回避できる手段が存在します。それは、M&Aで会社を第三者へ売却することです。
廃業せずに会社を存続させられる手段があるのなら、詳しく知りたいです。
ここでは会社売却についての詳細をみていきましょう。
会社売却のメリットや注意点も解説します。廃業のそれと比較してみてくださいね。
2-1 会社売却とは
会社売却とは、会社の経営権を第三者へ売却することです。
会社売却の方法としては、会社の全てを売却する株式譲渡と、会社の一部を売却する事業譲渡が挙げられます。
さらに会社を売却する側(売り手)からみると、合併もまた会社売却の手段として捉えることができるでしょう。
M&Aとはどう違うのでしょうか?
M&Aは「Mergersand Acquisitions」の略で「合併と買収」という意味です。これは企業を買収する側の視点からみた言葉なんですよ。
なるほど。「会社売却」は会社を売却する立場に立った言葉ですよね。M&Aと中身はほとんど同じということですか?
その認識でOKです。企業を買収する側と売却する側、それぞれの視点からほぼ同じことを言い表しています。
2-2 会社売却のメリット
会社売却のメリットとして、主に以下の5点が挙げられます。
- 会社を第三者へ引き継げる
- 売却の対価を受け取れる
- 個人保証・連帯保証から解放される可能性がある
- 会社の規模を拡大できる
- 従業員の雇用を維持できる
つまり、従業員の雇用を維持したまま会社を第三者へ引き継ぎ、社長自身は売却の対価を得て個人保証や連帯保証も解除できるというメリットが得られるんですよ。
その上会社の規模まで拡大できるなんて、廃業を考えている経営者にとっては夢のような手段ですね!
2-3 会社売却の注意点
廃業を考えている経営者にとってはメリットの多い会社売却ですが、以下の3点には注意が必要です。
- 必ず買い手が見つかるわけではない
- 希望していた売却価格に届かない可能性がある
- 同じ業種で新たな事業を立ち上げられない
会社売却が失敗に終わるケースもあるので、売却の方法やタイミングの見極めが重要です。さらに契約内容によっては、売却後20年は同地域で同業の事業を立ち上げられません。
会社売却後に新たな事業の立ち上げを考えている経営者は、特に注意したほうが良さそうですね。
3章:会社の廃業を検討する前にまずは売却を検討しよう
ここまでで会社の廃業と売却についてみてきました。社長にとって廃業と売却のどちらがメリットが大きいかといえば、断然売却に軍配が上がります。
そのため、後継者の不在や業績の悪化などを理由として会社の廃業を検討する際には、まずは売却へ向けて舵を切ることをおすすめします。
もし会社売却ができなかった場合に、初めて廃業を検討するくらいでいいですよ。
なるほど。たしかに廃業予定の会社が売れたらラッキーですよね。
その通りです。廃業と売却では、会社にとっても経営者個人にとっても天と地ほどの差がありますからね。とにかくまずは売却です。
3-1 廃業予定の会社でも売却できる可能性がある
廃業予定の会社でも売却できる可能性があるんですか?本当に売れるんでしょうか。
企業買収を検討している買い手が求める要素を持っていれば、売却できる可能性は十分にありますよ。
- ブランド力
- 特許・技術
- 独自の販路や仕入れルート
- 取引先
- 優秀な従業員 など
技術や販路など自社にとっては当たり前のことであっても、他社からはとても魅力的な資産として映るケースがあります。
なるほど。だからまずは会社を売りに出してみることがおすすめなんですね。
その通りです。御社の資産を「欲しい」と思う企業が見つかるかもしれませんからね。
3-2 廃業予定の会社を売却するメリット
廃業予定の会社の売却が実現すれば、経営者にとっても会社にとっても大きなメリットを得られます。
- 後継者問題を解決し会社を存続させられる
- 廃業時より多額のお金が手元に残る可能性が高い
- 従業員は大手のグループ社員になれる可能性がある
- 売却後もしばらくは社長として会社に残れる可能性がある
廃業を選択すると、会社はこの世から消滅します。
また会社の経営状態によっては、社長の手元にはほとんどお金が残らない可能性も高く、引退後の暮らしに影響を及ぼしかねません。
それに対して会社売却は、後継者問題を解決し会社を存続させられます。
さらに廃業時に比べて多くのお金が手元に残る可能性が高く、引退後の生活にも安心感が得られるでしょう。
まだまだ元気な社長であれば、会社売却後に社長として会社に残れる可能性がある点も魅力的ですね。
3-3 廃業予定の会社を売却する際の注意点
廃業予定の有無にかかわらず、そもそも売却先が見つからない可能性がある点には注意が必要です。
またたとえ売却先が見つかったとしても、希望通りの条件で売却できるとは限りません。
会社売却に望む条件をピックアップしておくことは必要ですが、状況に応じて柔軟に対応できるようにしておきましょう。
会社売却の最優先事項を「売却すること」に設定しておくくらいの気持ちでいると良いですよ。
なるほど。とにかく売却しないと、廃業せざるを得なくなりますもんね。
また、会社の売却には最低でも6ヶ月~1年程度の期間を要します。
状況によってはそれ以上の期間がかかるケースもあるため、事情があって売却の完了を急いでいる場合などは注意が必要です。
焦らず気長に構えた方が良さそうですね。
4章:自社が本当に売却できるのかを見極める方法
自社が本当に売却できるかどうかを見極めるためには、実際に買い手を探すことが最も有効な手段です。
でも買い手を探してもらうとなると、M&A仲介会社にそれなりの手数料を支払わないとダメなんですよね?
上手にM&A仲介会社を選べば、手数料要らずで探してもらえますよ。
相談料・着手金・月額報酬が無料のM&A仲介会社に依頼しよう
例えば、M&Aが成立した際に発生する成功報酬のみを支払う完全成功報酬型のM&A仲介会社などがおすすめです。
完全成功報酬のM&A仲介会社なら、買い手探しから始まりM&A交渉中に至るまで、基本的に手数料の支払いはありません。
(交通費などの実費が発生するケースがあるため、依頼する仲介会社に確認してください。)
そのため本当に自社が売却できるのか不安を感じている経営者様でも、安心して買い手探しを依頼できるでしょう。
いきなりM&A仲介会社と仲介契約を締結することに不安を覚えるのであれば、まずは無料相談などを利用して、売却価格の試算を出してもらっても良いですよ。
5章:会社の廃業を検討しても良いケース
廃業か売却かで迷ったら、まずは売却を検討するべきだと前述しました。しかし、買い手を探しても見つからなかった場合は、廃業を検討することになります。
また、以下のような会社を経営している場合は、売却を考えず廃業を検討しても良いでしょう。
- 従業員が0名の会社
- 資金が潤沢な会社
5-1 会社売却で買い手が付かなかった会社
会社売却へと舵を切ったものの、買い手が見つからなかった場合は、廃業を選択することになります。
しかし廃業するにもお金がかかりますし、従業員や取引先と築いてきた関係も全て白紙に戻ってしまいます。
そのため可能であれば、少々の希望は譲ってでも売却すべきです。
他のM&A仲介会社へ買い手探しを依頼したり商工会議所で相談してみたり、売却へ向けてできることは全て実行してください。
そしてどうしても買い手が付かなかった場合にのみ、廃業の選択を検討してください。
5-2 従業員が0名の会社
廃業を避けたい理由の1つとして、従業員を全員解雇しなければならない点が挙げられます。
しかし逆に従業員が0名の会社、つまり社長1人で業務を回している会社であれば、売却の検討を経ずに廃業を選択しても良いかもしれません。
路頭に迷う従業員がいなければ、他人に迷惑を掛けずに廃業できますもんね。
5-3 資金が潤沢な会社
会社を廃業する際には、所有する資産を全て現金化した後に、借入や買掛金など未払いとなっていたお金を返済します(債務の弁済)。
もし資産を全て現金化しても債務を弁済しきれない場合は、廃業の手続きから倒産手続きとしての特別清算もしくは破産手続きへと切り替えなければなりません。
中小企業の倒産は、多くのケースで社長個人の破産がともなう
また倒産までは至らなくても、財務状況によっては廃業した後に手元にほとんどお金が残らないケースも発生します。
売却を検討せずにすぐに廃業するのであれば、潤沢な資金を持っている必要があります。
廃業に必要なお金を計算し、十分な額が手元に残ることをしっかりと確認してください。
ただ資金繰りの順調な会社は、そうでない会社に比べて売れやすい傾向があります。売却のメリットの方が大きいので、先に売却を検討することをおすすめします。
まとめ
会社の廃業か売却かで悩んだときは、まず売却を試みましょう。
なぜなら、廃業より売却の方がはるかに大きなメリットを得られる可能性が高いからです。
会社を廃業すると、従業員は全員解雇になり、取引先との関係も全て終了します。
そのため周りに迷惑がかかる可能性が高く、培ってきた技術やノウハウを承継することもできません。
一方で会社売却ならば、従業員の雇用や取引先との関係も維持され、技術やノウハウも次代へ繋げられます。
さらに売主には売却の対価が支払われるため、多額のお金を手に入れられるのです。
廃業を検討している会社でも、十分に売却できる可能性はあります。
自社が本当に売却できるかを確かめるためにも、着手金などがかからないM&A仲介会社へ買い手探しを依頼すると良いでしょう。
買い手が見つからなかった会社・従業員が0名の会社・廃業に必要なお金を差し引いても十分な資金が残る会社などは、売却ではなく廃業を検討しても良いかもしれません。
ただし、売却のメリットの方が大きいことに変わりはありません。廃業を検討する前に、売却可能かどうかだけでも調べましょう。
廃業が頭をよぎったら、まずはM&A仲介会社へ売却の相談をおすすめします。