M&A

社長が死亡した後継者なしの会社はどうなる?必要な手続きや社長が考えておくべき準備も解説

人生は、いつ何が起こるか誰にも分からないものです。

もし事故や病気などで社長が突然死亡した場合、後継者なしの会社には何が起こりどのような手続きが必要になるのでしょうか。

結論からいうと、株式の相続をはじめとするさまざまな問題に見舞われます。

ただし生前から準備を進めておくことで、万が一の際にもスムーズに後継者へ会社を引き継げるのです。

本記事では、後継者がいない社長が死亡したら会社に起こる影響や必要な手続きを確認し、今から始めておきたい事業承継の準備についても解説します。

登場人物紹介

齋藤さん

インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!

社長

中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。

1章:社長が死亡した後継者なしの会社はどうなる?

蝋燭の炎

事業承継の準備を何もしないまま急に経営者が亡くなると、会社に次のような影響が起こる可能性があります。

  1. 取引先からの信用が落ちる
  2. 各種支払いが停滞する
  3. 業績が悪化する
  4. 後継者選びでもめる
  5. 相続争いが勃発する
  6. 社長の遺志にかかわらず廃業を選択される可能性がある

特に経営に関する事項を全て1人で決定しているワンマン社長や、自身が会社の顔として業績に大きく貢献していたカリスマ社長の場合は、会社に与える影響も大きなものとなるでしょう。

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1-1 取引先からの信用が落ちる

一般的に、会社の規模が小さいほど社長の影響力は強い傾向にあります。中小企業では、社長と取引先の信頼関係によって取引が成り立っているケースも少なくありません。

そのような場合は、社長の死亡によって取引が終了してしまう可能性があります。

停止された取引内容によっては、業務がストップすることもあるでしょう。そうなると納期や支払いの遅れなどにも影響が出て、会社としての信用度も落ちてしまいます。

1-2 各種支払いが停滞する

中小企業では、社長が経理関連の業務を兼任していることも珍しくありません。

社長が1人で経理業務を行っていて経理に関する業務マニュアルなどを用意していない場合、各所への支払いが滞る可能性があります。

取引先へ支払いの遅れが発生すると、会社の信用問題へと発展する恐れがあるため注意が必要です。

1-3 後継者選びで揉める

後継者を指名しないまま社長が死亡した場合、早急に後継者を立てねばなりません。

しかしそこで「誰が次期社長になるか」で揉めると、経営者不在の時期が長引く可能性が出てきます。

さらに後継者の座を巡って争っている事実が外部へ漏れると、従業員へ不安を与えたりよからぬ噂が立って取引先との関係に悪影響が出たりする恐れがあります。

1-4 業績が悪化する

前述の通り、社長が後継者を指名せずに死亡した場合、各種支払いが停滞したり後継者争いが勃発したりして社内が混乱し、業績が悪化する恐れがあります。

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1-5 相続争いが勃発する

親族が会社を引き継ぐ場合、相続争いが勃発する可能性があります。

後継者は、亡くなった社長が所有している会社の株式を相続します。つまり、遺産を相続することになるのです。

たとえば亡くなった社長に2人の子どもがいた場合、「誰が何株相続するか」を決める遺産分割協議がスムーズに進まないことがあります。

また、協議によって第1子が株式を相続することになった場合では、第2子側が不満を持つこともあるでしょう。

齋藤さん

第1子が相続した会社の株式に数億円の価値がある場合、第2子もその金額に見合った遺産を受け取りたいと思いますよね。

社長

たしかに。第2子が受け取る遺産の内容によっては、不満に思うでしょうね。争いの予感がします。

1-6 社長の遺志にかかわらず廃業を選択される可能性がある

  • 後継者がいない
  • 事業の継続が難しい
  • 相続人全員が相続放棄を行った

上記のケースでは、会社の廃業を選択される可能性があります。

相続人が会社の株式を相続した場合でも、会社経営に興味がなかったりそれまで事業に関わっていなかったりすると、事業価値を正しく判断できないまま廃業を選んでしまう恐れがあります。

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2章:社長が死亡したら速やかに実行すべき手続き

死亡届

会社のオーナーでもある社長が死亡すると、会社は代表者が不在の状態になります。この状態を早急に解決しなければ、会社の運営にさまざまな悪影響を及ぼすことになるでしょう。

1日でも早く社内の体制を立て直すために、早急に以下の点を確認・実行する必要があります。

  1. 社内への報告
  2. 関係各所への連絡
  3. 役員死亡登記の申請
  4. 後任代表者の選定

社長は、もし自分が死亡した場合に上記の項目を誰に確認させるか検討し、本人に伝えておきましょう。

2-1 社内への報告

まずは、従業員へ社長の死を報告しなければなりません。

特に中小企業において社長の存在は大きく、従業員は今後の仕事・給与の支払い・会社の将来などについて不安を抱く可能性があります。

従業員への報告を行う際は、今後の運営方針を説明するとともに、次期社長が決定するまでの間に社長の業務を代行する者を選任します。

社長業務の代行者については社長があらかじめ検討し、本人及び周囲の人間へ伝えておくことが理想です。

2-2 関係各所への連絡

顧客・仕入先・外注先・取引している金融機関など、すべての関係先へ速やかに社長の死去および今後の会社の方針を連絡します。

社葬を行う場合、通知すべき企業のリストアップを行う必要があります。こちらは社長自身が元気なうちに、ある程度実施しておくと良いでしょう。

一方で葬儀を身内だけで行う場合は、書類やFAXなどで亡くなった旨を通知するケースもあります。

社葬にするか身内だけで済ませるかについても、社長の意思を事前に明確にしておくと安心です。

2-3 役員死亡登記の申請

会社の取締役や監査役などの役員が死亡した際には、死亡日を起算日として2週間以内に役員死亡登記を申請しなければなりません。

この期限を過ぎてから申請した場合は、登記懈怠(とうきけたい)として過料が科せられる可能性があるため、速やかに変更登記申請を行いましょう。

2-4 後任代表者の選定

社長が亡くなると「死亡による退任」という扱いとなり、会社の代表権を失います。ただし会社の代表権は相続の対象外となるため、たとえ相続人であっても無条件に社長に就任することはできません。

前述の通り、長期にわたり代表者が不在の状態だと経営が悪化する可能性があります。そのため社長が亡くなった後は、定款に則って速やかに新たな代表者を決める必要があるのです。

社長は自身の意にそぐわない人物が後継者となるのを防ぐため、万一の場合に備えて早めに後継者を指名しておくと良いでしょう。

後任の代表取締役が選任されたら、2週間以内に代表取締役変更の登記を行います。

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3章:社長が考えておくべき事業承継の準備

バトン

病気や不慮の事故などは、いつ誰に起こるか分かりません。

社長自身にもしものことがあった際に会社が機能不全に陥らないため、事業承継の準備を進めておきましょう。

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3-1 後継者候補を指名し本人からの了承を得ておく

後継者の座をめぐる争いが勃発するのを防ぐため、後継者候補を指名し本人から了承を得ておきましょう。

後継者候補は経営者自身の子どもや親族、従業員から指名するケースが多いです。

後継者を指名しておくことで後継者自身も自覚が芽生え、経営者としての教育も実施しやすくなります。

また、社長が亡くなった後スムーズに代表者の交代が可能になるため、会社や周囲に与える混乱を最小限に抑えることができるでしょう。

3-2 遺言書を作成しておく

後継者が決まっている場合、「自社の株式については後継者がすべて相続し、その他の財産は他の相続人が相続する」といった遺言書をあらかじめ残しておきましょう。

これにより遺産分割協議を回避し、後継者に自社の株式を引き継がせることができます。

ただし遺言書は、民法で定められた要件を満たしていないと無効になってしまう可能性があります。

紙とペン、印鑑があれば特別な費用もかからず1人で作成できる自筆証書遺言書を作成する際には、遺言書の全文・日付・氏名の自書と押印が必要です。

自書が不可能になってからでは作成できないため、元気なうちに残しておきましょう。

遺言書の紛失や第三者による改ざんを防ぐには、自筆証書遺言書保管制度の利用がおすすめです。

参考サイト:政府広報オンライン 知っておきたい遺言書のこと。無効にならないための書き方、残し方

3-3 社長の仕事を仕組み化しておく

経理を兼任している社長が亡くなると、各所への支払いが滞ってしまう可能性があります。

せめて後継者が選定される間だけでも残された従業員だけで最低限の業務は遂行できるように、社長の仕事を仕組み化し共有しておきましょう。

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3-4 M&Aを検討する

もし身近に後継者候補がいない場合は、M&Aで第三者に経営権を譲る選択肢を検討しましょう。

会社の株式が相続により家族間で分散してしまうと、揉め事が長引き、その結果会社の機能不全を招く可能性があるためです。

さらにM&Aが成立すれば社長が望まない人物が後継者になることを避けられるだけでなく、会社の更なる発展も期待できます。

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3-5 会社にお金を貸している場合は清算しておく

中小企業では、社長個人が会社へお金を貸していて、返済されないまま帳簿に残っているケースが珍しくありません。

これは言い換えると会社が社長から借金をしている状態のため、可能であれば早めに精算しておくことをお勧めします。

中には社長自身に記憶がなくても、帳簿上では会社が社長から借入をしていることになっているケースがみられます。これを機に、1度帳簿を確認してみてはいかがでしょうか。

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まとめ

事業承継をイメージした積み木

社長が死亡した後継者なしの会社は、さまざまなトラブルに見舞われる可能性があります。

そのような事態にならないためには、スピード感を持って事業承継を実行し、次の社長が就任する必要があります。

いつ不慮の事故や病気に襲われるかは、誰にも分かりません。そのため社長は早い時期から事業承継について検討し、準備を進めておきましょう。

齋藤さん

仕組み化やM&Aに関するご相談を無料で受け付けています。匿名でOKなので、お気軽にご相談くださいね。

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この記事を監修した人 齋藤 和寿
【インバースコンサルティング株式会社代表取締役】 後継者不足の解決や豊かなリタイアを望む経営者様に寄り添い「最幸のM&A」を実現するための情報を発信しています。 仕組み経営コーチとしても活躍中。会社の仕組み化×M&Aで、社長の人生を豊かに彩ります。