昨今の運送会社では、M&Aが活発に行われています。
この記事では運送会社のM&A動向を明らかにした上で、買収の目的やメリット・デメリット・M&A相場の計算方法・注意点について解説します。
- 運送会社の買収を検討している方
- 運送会社を買収する目的について詳しく知りたい方
- 運送会社の買収を成功させたい方
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:物流業と運送業の違い
運送とよく似た言葉に物流があります。この記事は運送業を行う会社に関する記事ですので、まずは物流業と運送業の違いを明確にしておきましょう。
生産者やメーカーが生産した商品を消費者へ届けるための一連の業務
例えば、工場で生産されたペットボトル飲料がコンビニの店頭へ並ぶまでの間の工程を担っているのが物流業です。
物流業を細分化すると輸配送・保管・包装・荷役・流通加工・情報管理を担っており、これらは物流6大機能といわれています。
そしてその中の輸配送を担っている業種の1つが、運送業なのです。
主にトラックで品物を運ぶ仕事
運送業は法人や個人から預かった品物を定められた場所まで運び、その送料と手数料を受け取っています。
身近な運送業の例としては、宅配便が挙げられますね。私もよくお世話になっています。
ただし、鉄道や飛行機を使用した物の移動は運送業に含まれません。運送業はあくまでもトラックで物を運ぶ仕事だという点に注意してください。
つまりこの記事は、トラック運送事業を取り扱う会社の買収について解説している記事だということです。
2章:運送業界のM&A動向
昨今では業種を問わず、中小企業のM&Aが増えています。
参照元:中小企業庁 事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性について
中小企業庁によると2022年度の中小M&Aの実施件数は合計5,717件で、2014年度の362件と比べると実に15倍以上にもなっているのです。
運送業のM&Aにおいても例外ではありません。中小企業全体の傾向と同じく、年々増加しているといえます。
ここからは、特に運送業界のM&Aについて、その動向を探っていきましょう。
2-1 M&A件数は増加傾向に
中小企業全体で増えているM&Aですが、特に運送業においては活発に取引が行われています。
その背景として挙げられるのは、人手不足や燃料費の高騰で利益が上げづらい現状や、2024年問題による売上の減少および価格競争の激化などです。
また、後継者不在問題を解決するためにM&Aを選択する運送会社の経営者も増え続けています。
2-2 同業他社を買収するケースが多い
運送会社のM&Aで目立つケースは、同業他社の買収です。
運送業界が抱えているドライバー不足や長時間労働を解消するための手段として、運送会社が運送会社を買収するケースが多くみられています。
さらに運送エリアの拡大や、事業拡大を図るためにM&Aを行うケースも多いです。
3章:運送会社を買収する目的とは
運送会社を買収する企業の多くは、明確な目的を持ってM&Aを実行します。
買い手企業が運送会社を買収する目的としては、主に以下の4点が挙げられます。
- 2024年問題の解決
- 業務の効率化やコスト削減
- 事業規模の拡大
- 物流・運送業界への新規参入
各項目について、詳しくみていきましょう。
3-1 2024年問題の解決
運送業界では、2024年4月1日から自動車運転業務の時間外労働時間が年間960時間に制限されることにより起こり得る「2024年問題」への対策が迫られています。
2024年問題ではまず、ドライバー1人あたりの走行距離が短くなるため、遠隔地への運送が困難になることが懸念されています。
その上で、運送会社の売上・利益の減少や荷主側における運賃の上昇、ドライバーの収入減少などの問題が生じる可能性があるのです。
この2024年問題を解決するため、M&Aで運送会社を買収する企業が増加しています。
中継地の運送会社や、多数のドライバーを抱えている運送会社を買収することで、2024年問題の解決を図る企業が増えていますよ。
3-2 業務の効率化やコスト削減
昨今では競争の激化による熾烈な価格競争に加え、燃料費の高騰などで利幅の減少が起こっており、過半数を超える運送会社が赤字経営に陥っているといわれています。
M&Aで運送会社が同業他社を買収することで、トラックや設備など運送会社に欠かせない経営資源を獲得でき、実働率や積載効率の改善につながります。
事業の効率が高まると、これまで実現できなかったコスト削減を図ることができ、結果的に収益の拡大へとつながるのです。
3-3 事業規模の拡大
運送会社の買収は、買い手企業が自社の事業規模を効率的に拡大することを目的として実行されるケースも多く存在します。
運送会社が同業他社を買収することで運送業に必要な経営資源をまとめて確保でき、その結果、費用と時間を抑えて効率的に事業規模の拡大を図れるのです。
3-4 物流・運送業界への新規参入
他業種の企業が運送業界への新規参入を目的として、運送会社を買収するケースも少なくありません。
既に軌道に乗っている運送事業を買収することで、コストと必要期間を抑えて運送業界へ新規参入することが可能になるのです。
4章:運送会社を買収するメリット
運送会社の買収で、企業はさまざまなメリットを得られます。ここでは、運送会社を買収するメリットについてみていきましょう。
4-1 コストを抑えて事業規模が拡大できる
運送会社を買収すると、ドライバーやトラックなどを獲得できます。
さらに、売り手が持っている取引先・顧客・販路の獲得もできるため、効率的に事業規模の拡大を図れます。
4-2 新規参入のリスクを抑えられる
運送業を営むにはトラックやドライバーが必要となり、多くの費用が必要です。また、ゼロからノウハウの獲得に取り組むと、膨大な時間を費やすことになるでしょう。
運送業は特に多額の設備投資が必要な業界のため、ゼロから参入するのは失敗のリスクも大きいですよ。
運送会社を買収することで、既に軌道に乗っている事業の獲得が叶います。
つまり、スピーディーかつ失敗のリスクを抑えて、運送業への新規参入が実現するのです。
4-3 必要な経営資源をまとめて獲得できる
中小の運送会社は経営資源が不足しやすく、多くの経営者の頭を悩ませています。
その解決策として、運送会社が同業他社を買収するケースがみられます。
なぜならM&Aで運送会社を買収することで、ドライバーやトラックなどの必要な経営資源を一括で確保できるメリットが得られるからです。
さらに新たな販路や物流拠点の確保も期待できるため、業務の効率化や事業規模の拡大も目指せます。
4-4 運送業のノウハウを獲得できる
運送会社の買収では、運送ノウハウの獲得が大きなメリットとなります。
異業種の企業が運送業界へ参入したいと思っても、ノウハウがなければ実現は難しいものです。
短時間で効率よく運送業のノウハウを獲得できるM&Aは、非常に有効な手段だといえるでしょう。
4-5 シナジー効果を得られる
運送会社をM&Aで買収すると、シナジー効果の獲得が期待できます。
2社の統合により1+1以上の効果が得られること
シナジー効果は例えば、売り手が持っている販路を活用して売上が向上したり、業務の効率化が実現してコスト削減につながったりすることを指しています。
M&Aの活用で自社の強みを伸ばしたり弱みを補ったりして、企業としてのさらなる成長が目指せるのです。
5章:運送会社を買収するデメリット
運送会社の買収で得られるのは、メリットばかりではありません。
買収を成功させて目的を達成するためにも、デメリットの存在に目を向け、対策を講じておくことが重要です。
5-1 簿外債務や偶発債務を引き継ぐ可能性がある
運送会社の経営権を買収する株式譲渡や、売り手を自社の一部として統合する合併などのM&Aスキームを選択すると、簿外債務や偶発債務を引き継ぐ可能性が出てきます。
簿外債務は貸借対照表に載っていない債務のことで、債務保証や未払い残業代などが該当します。
偶発債務とは、現時点ではまだ発生していないけれど、将来一定の条件が成立した場合に発生する債務の総称です。
簿外債務や偶発債務を引き継ぐと経営に大きなダメージを受ける可能性が大きくなり、最悪の場合は経営破綻へと追い込まれる可能性もゼロではありません。
特に中小企業の場合は簿外債務が発生しやすい会計の仕組みとなっているため、買収前にデューデリジェンスを実施し、リスクをしっかりと洗い出しておく必要があります。
リスク回避のために、M&Aスキームを事業譲渡に変更するという手段もあります。
5-2 従業員が流出する可能性がある
慢性的なドライバー不足に悩まされている運送会社にとって、優秀な人材は非常に重要な存在です。
しかしM&A後に、企業風土や労働条件が合わない・理念に共感できない・買収企業の従業員とうまくやっていけないなどの理由で、従業員が流出するリスクがあります。
運送会社を買収する際には、優秀な従業員が流出しないように対策を講じることも重要です。
5-3 のれんの減損リスクを伴う
M&Aにおける「のれん」とは、売り手が持っている無形固定資産に付けられた価値を指しています。
M&Aで企業を買収する際には、売り手の純資産に「のれん代」を加えて買収価格が算出されます。
こののれん代は、買収後に回収を見込める金額で算出します。
そのため買収後の事業展開がスムーズに進み、のれん代を上回る利益を上げれば問題はありません。
しかし実際には、M&A後の経営統合が難航していることなどが原因で、上手くいかないケースもあるでしょう。
回収が見込めないれん代は減損損失として計上する必要があります。損失額が大きいと、経営そのものに影響を与える恐れがあるため注意が必要です。
6章:運送会社のM&A相場は?
運送会社にとどまらず一般的に中小企業の場合は、M&Aの相場はないに等しいといっても過言ではありません。
なぜならM&A取引は、提示した買収価格に売り手が納得すれば成立するものだからです。
しかしながら買い手は、実際の企業価値より高い値段で買収してしまう、いわば「高値掴み」を避けたいものです。
売り手としても、安値で買い叩かれる可能性は取り除きたいため、適切な取引価格の基準が必要です。
そこで一般的には、以下の計算式でおおよその相場を算出しています。
時価純資産+営業利益(2~4年分)
上記の計算式でポイントとなる点は、純資産額が時価である点です。
貸借対照表に記載した時点での価値と変わっている場合があるので、現在の価値に置き換えて計算します。
なるほど。買収するのは「今」ですものね。今の価値で計算する必要があるのも納得です。
ただし上記の計算式はあくまでも目安です。売り手企業の経営状態や、買収後に得られるシナジー効果などを総合的に検討して、買収価格を算出します。
適切な企業価値の算出は非常に難しいため、専門家の力を借りましょう。
7章:運送会社を買収する際の注意点
M&Aを活用して運送会社を買収する際には、いくつか注意しておくべき項目があります。
- 国土交通省の認可が必要になる場合がある
- デューデリジェンスを徹底する
- 従業員のケアを売り手任せにしない
これらについての注意を怠ってしまうと買収の失敗を招く恐れがあるため、しっかりと確認しておきましょう。
7-1 国土交通省の認可が必要になる場合がある
事業譲渡で運送会社の買収を行う場合には、運送業許可に注意が必要です。
なぜなら事業譲渡では、運送業許可が自動で買い手へと引き継がれないからです。そのため買い手は、許可取得の手続きを実施しなければなりません。
事業譲渡で許可申請を行う場合には、下記を記載した譲渡譲受認可申請が必要です。
- 譲渡人および譲受人の氏名あるいは名称と住所(法人は代表者氏名)
- 譲渡および譲受しようとする事業の種別・営業区域
- 譲渡価格
- 事業譲渡の予定日
- 事業譲渡が必要な理由
また申請時には、以下の書類を添付する必要があります。
- 譲渡譲受契約書の写し
- 事業譲渡価格の明細書
- 定款・資産目録・貸借対照表などの資料(譲受側が一般貨物自動車運送事業を経営していない場合)
事業譲渡で運送業を買収するのは、手続きが大変なんですね。株式譲渡ではこの手続きは必要ないのでしょうか。
株式譲渡では必要ありませんよ。
ただし買収した運送会社を庸車先(※)とする場合、貨物自動車利用運送に関する手続きが必要です。
これまで庸車を使ったことのない運送会社の場合は、貨物自動車利用運送をはじめる認可を受ける必要があります。
すでに庸車を使っている運送会社の場合は、買収した運送会社を庸車先として追加する変更届出手続きが必要です。
(※)庸車(ようしゃ)とは、繁忙期などで車両が不足したときに他の運送業者からトラックを一時的に借り受けて配送してもらうこと。つまり、自社の仕事を下請けの運送会社や個人の運送業者に依頼することを指す。
7-2 デューデリジェンスを徹底する
簿外債務や偶発債務を引き継ぐリスクを避けるためには、適切かつ慎重なデューデリジェンスの実施が非常に重要です。
買い手企業が売り手対象会社の実態を詳細に調査すること。デューデリジェンスの結果を元に、最終譲渡価格が決定する。
さらに運送会社を買収する際は、売り手対象企業の労務管理についてもしっかりと確認しておきたいものです。
なぜなら運送業は特に長時間労働が日常化しやすく、サービス残業が当たり前になっている会社も少なくないからです。
ずさんな労務管理を行っている企業の買収は、従業員から未払い残業代を請求されるリスクを伴います。
そのようなリスクを回避するためにも、デューデリジェンスが重要な役割を果たします。
7-3 従業員のケアを売り手任せにしない
運送会社を買収する際には、引き継ぐ人材にとって働きやすい環境を整えておくことも大切です。
会社がM&Aで買収されることを知った従業員は、自分にこれから起こる未知の変化に対して不安や恐怖といった感情を抱きやすいものです。
彼らにとって買い手企業は「得体のしれない未知の会社」であり、買い手企業そのものに対して不安や恐怖を抱く従業員もいることが予想されます。
そのため買収後も安心して働いてもらえるように、買い手企業としても従業員のケアを実施すると良いでしょう。
従業員のケアとは、具体的に何を実施すればよいのでしょうか。
買い手企業の担当者と従業員との間で、個別に面談の機会を設けるのがおすすめです。
面談を通じて買い手企業のことを従業員に理解してもらい、M&Aへの恐怖や不安を取り除いてあげましょう。
さらに個別面談とすることで、買い手企業側が直接従業員1人1人の能力や適性を確認できます。
本人の希望も直接確認できるため、より適切な人員配置が可能になり、従業員の満足度を高められる可能性が高まります。
買い手企業としても、従業員の能力を十分に活かせる人員配置ができるため、M&A後の事業が軌道に乗りやすくなりますよ。
まとめ
昨今の運送業界では、2024年問題の解決や慢性的に不足しやすい経営資源の獲得などを目的として、M&Aが活発に行われています。
運送会社のM&Aでは、異業種が運送会社を買収する事例もありますが、同業他社が運送会社を買収するケースが多くなっています。
なぜなら、ドライバー不足やコスト高騰の問題に直面している運送業界にとって、M&Aは企業の成長と生き残りをかけた重要な経営戦略の1つだといえるからです。
運送会社の買収を実行する際には、メリット・デメリットを検討した上で、問題やリスク管理への対策を練っておくことが大切です。
また、運送会社の買収が自社にとってどのような利益をもたらすのかを慎重に検討し、シナジー効果の見込める買収先を探しましょう。
さらに運送会社の買収を成功させるためには、運送会社のM&Aに強いM&A仲介会社との連携も欠かせません。
運送会社の買収を検討し始めた際にはぜひ、経験と実績が豊富なインバースコンサルティングの無料相談を活用してください。
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