「親会社」と「子会社」という言葉はよく耳にするかと思います。特にM&Aを検討している経営者様なら、なおさらなのではないでしょうか。
M&Aを実行すると、買い手と売り手は親会社と子会社の関係になります。
親会社と子会社の関係性をあらかじめ理解しておけばM&A後の体制についてイメージしやすくなり、M&A実行へ向けてより具体的に検討を始められるでしょう。
本記事では、親会社と子会社の関係について、定義・両社のパワーバランス・社員関係などの詳細を解説します。
さらに、M&Aで買い手の子会社になるメリット・デメリットや、買い手と極力対等な関係を築き上げるポイントも紹介しています。
M&A後のイメージを掴みたい方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:親会社と子会社の関係とは?

親会社と子会社は、経営を支配する会社と支配される会社という関係性で成り立っています。また、親会社と子会社の関係をまとめてグループ会社と呼びます(関連会社も含む)。
1-1 親会社とは
親会社とは「ある会社の経営を支配している会社」のことです。会社法による定義は以下の通りです。
株式会社を子会社とする会社その他の当該株式会社の経営を支配している法人として法務省令で定めるもの(会社法 第2条4項)
ちなみに「法務省令で定めるもの」とは、「財務及び事業の方針の決定を支配している場合」を意味しており、株式の50%超を保有していることが主な判断基準です。
ただし親子関係は株式の所有率だけでなく、財務や事業の決定など経営の支配という観点からも判断されます。
親子関係の判断方法にも色々あるんですね。
そうですね。一般的には2社以上の会社が支配従属関係にあるときに、他社の経営権を持っている会社を親会社と呼んでいます。
ちなみに子会社の株式を100%保有している会社は「完全親会社」といいます。
1-2 子会社とは
子会社は「ある会社から経営を支配されている会社」を指しており、会社法では以下のように定義されています。
会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるもの
具体的な子会社の条件としては、以下の2点が該当します。
- 親会社が会社の株式の過半数を保有している場合
- 議決権が40%以上50%以下の場合でも、実質的に親会社が財務や事業の方針の決定を支配している場合
子会社の中でも、親会社が100%の株式を所有している会社を完全子会社といいます。
さらに子会社が親会社の連結決算の対象になっている場合は連結子会社、そうでない場合は非連結子会社と呼ばれることもあります。
ちなみに連結決算が義務付けられているのは大会社のみです。中小企業は必ずしも連結決算を行う必要はありません。
2章:親会社と子会社の力関係

親会社は子会社の経営を支配していますが、子会社に対して責任を負う立場でもあります。
以下で親会社と子会社の力関係について解説しますので、確認しておきましょう。
2-1 親会社は子会社の経営を支配している
たとえば中小企業がM&Aを活用して経営権を売却するケースでは、多くの場合において売り手対象企業は買い手の完全子会社になります。
この場合、親会社は子会社の経営を完全に支配することとなり、どうしても親会社の方が立場が上という認識になりやすいです。
中には、子会社が親会社の言いなりになっているというケースもあるようです。
会社を売却したい立場でこんなことを言うのは気が引けますが、親会社の言いなりにならざるを得ない状況というのは悲しいですね。
実は、ある程度独立性の維持を約束してくれる買い手を選ぶことで、その状況を回避できますよ。
2-2 親会社が子会社に対して負う責任とは
親会社にとって子会社は会社の重要な資産となるため、親会社の取締役には善管注意義務ないし忠実義務が生じます。
子会社を管理し、親会社に損害を与えないようにする注意義務
これにより、子会社が起こした不祥事において親会社が損害を被った場合、親会社の取締役が監督責任を問われる可能性があるのです。
さらに親会社が大会社(資本金5億円以上もしくは負債が200億円以上ある会社)である場合、親会社は子会社の内部統制体制を構築する義務を負っています。
具体的な子会社管理体制として、概ね以下の項目を整備すべき旨が定められています。
- 子会社の取締役等が職務執行にかかわる事項について親会社へ報告を上げる体制
- 子会社のリスク管理に関する規程および体制
- 子会社の取締役等の職務執行を効率的に行うための体制
- 子会社の取締役等及び使用人の職務執行についてのコンプライアンス体制
ということは、大会社の子会社になれば様々な内部統制体制が作られるというわけですね。
そのとおりです。極端な例でいえば、今までほぼ家族経営状態だった会社が、M&Aでいわゆる「会社らしい会社」に生まれ変わるのです。
さらに連結財務諸表の債務には子会社の債務も含まれるため、親会社は子会社の負債に対しても責任が生じる可能性があります。
2-3 業務や技術の連携について
親会社は子会社の経営を支配している立場ですが、あくまでも別の法人です。
そのため親会社が子会社に業務を依頼する場合は、一般的な社外取引先と同じように請負契約・派遣契約・委任契約などを締結し、契約内容に則って業務を行います。
ちなみに共同で業務を行う場合は業務提携契約を、技術を共有する場合は技術提携契約を締結する必要がありますよ。
3章:親会社と子会社の社員の関係

前述のとおり親会社は子会社の経営を支配していますが、社員にも親子関係が生じるのでしょうか。
答えはNOです。
親会社と子会社はあくまでも別法人のため、社員間で縦の関係が生じることはありません。
まれに親会社の社員が子会社の社員に対して「俺は親会社の社員だ」と高圧的な態度を取ることがありますが、親会社の社員が子会社の社員より偉いといったことはありません。
そもそも子会社の社員が親会社の社員と顔を合わせる機会がほとんどない、というグループ会社も多いですよ。
3-1 親会社と子会社間の人事異動はない
親会社と子会社はそもそも別法人のため、人事異動はありません。親会社の社員が子会社で働くことになった際は、出向や転籍扱いになります。
出向とは
もとの会社との雇用契約を維持したまま相手の会社に異動すること
転籍とは
もとの会社を一旦退職し、これから働く会社と新たに雇用契約を結ぶこと
出向は人事異動とは違うのですか?
人事異動は同一法人内での配置換えを指しています。親会社と子会社は別法人であることに加え、指揮命令権の主体が移転するため出向扱いになるんですよ。
3-2 親会社と子会社で給与の違いはある
親会社と子会社では給与体系が異なるため、給与に違いが生じます。
一般的には親会社の方が給与が高く、子会社の給与は親会社の7割〜8割程度にとどまることが多いようです。
親会社の社員がより高い給与や福利厚生を享受している一方で、子会社の社員はそれらの恩恵を受けられない状況が生じることがあり、待遇の格差がしばしば問題になっています。
給与格差があるとはいっても、子会社になったから給与が下がるというわけではありません。子会社になっても雇用契約はそのまま変わらないので、社員にとっては「今まで通り」です。
そもそも元々の給与が違うという話なんですね。

4章:M&Aで買い手の子会社になるメリット・デメリット

現在M&Aで会社の売却を検討している売り手の対象企業は、M&A成立後に買い手の子会社になるケースが多いです。
ここでは、買い手の子会社になるメリットとデメリットについてみていきましょう。
4-1 子会社になるメリット
M&Aを実行する目的が事業承継の場合、M&Aで買い手の子会社になることそのものが最大のメリットになるといえるでしょう。
なぜなら、M&A後は買い手である親会社が経営を担っていくことになるからです。M&A後の経営は親会社に任せて、売り手である経営者は安心して引退することができます。
さらにM&Aで子会社になると、親会社の経営資源を活用できるようになります。
それにより親会社が持つ販売ルートに自社の商品を流通させることで販路の拡大を実現したり、資材発注を一本化してコスト削減が実現したりと、様々なメリットを得られるでしょう。
つまり、M&Aには自社をさらに発展させられる可能性が秘められているということです。
4-2 子会社になるデメリット
子会社になるデメリットとしては、経営の自由が奪われる点が挙げられます。交渉しだいでは売り手がM&A後も社長として残ることができますが、経営権を持たないいわゆる「雇われ社長」になります。
会社の重要事項を決定するためには親会社の決済が必要になるため、これまで会社の全てを自分自身で決定してきた経営者にとってはもどかしさを感じるかもしれません。
また、経営方針や制度などが変更になる可能性にも注意が必要です。変化の大きさに不安を覚え、人材や顧客が離れていく恐れがあるからです。
子会社になることでビジネスが有利になる可能性がある一方で、業績悪化のリスクもはらんでいるのですね。
怖いですよね。でも大丈夫。社員や取引先に対して適切な対応を行えば、離れていくリスクを最小限に抑えられますよ。
5章:M&Aにおいて買い手と対等な関係を築くポイント

M&Aで買い手の子会社になると、親会社となる買い手に経営を支配されることになります。しかし中には、親会社の言いなりになることへ抵抗を感じる売り手もいることでしょう。
たしかに経営をお任せするためにM&Aを検討しているのですが、好き放題されるのはいい気分ではありませんね。
M&A交渉の場において、本来ならば両者は対等な関係にあります。
しかしながら売り手は「会社を買ってもらう立場なのだから」という心理が働き、立場が弱くなりがちなのが現状です。そしてそのままの関係がM&A後も続くことになるでしょう。
交渉段階から立場が弱い状態だと、子会社になってからも弱い立場であり続けなければならなくなります。
つまり、M&Aにおいて買い手となるべく対等な関係を築いていくためには、交渉段階から対等な関係を築き上げることに注力すれば良いのです。
5-1 希望や要望をハッキリと伝える
売り手の心理としてありがちなのが「要望をハッキリ伝えたら、この買い手候補は交渉を続けてくれなくなるのではないだろうか」というものです。
たしかに交渉の条件が折り合わなければ、その交渉は破談になります。しかし心配することはありません。破談になったのなら新しい買い手候補を探せば良いのです。
他の買い手が見つからない可能性もゼロではありませんが、希望や要望を伝えられないまま今後ずっと買い手の言いなりになる未来と天秤にかけてみてください。どちらが会社のためになると思いますか?
また、売り手が自分の要望をハッキリ伝えられないと、M&Aに求めていた目標を達成できない可能性が高まります。
M&A自体は実行できたとしても、掲げていた目標が達成できないM&Aは失敗だといえます。失敗しないためにも、希望や要望を明確に伝えることは重要なんですよ。
最後に1つ、売り手が希望や要望を明確にすることで嫌な顔をする買い手はあまりいないことを申し添えておきましょう。
お互いの希望条件が異なる場合は、すり合わせていけばいいだけの話です。直接言いづらいのであれば、私たち担当コンサルタントが代わりにお伝えするので安心してくださいね。
5-2 強固な信頼関係を構築する
買い手と対等な関係を築き上げたいのであれば、信頼関係の構築に努めましょう。
信頼関係は一朝一夕にできあがるものではありません。一般的には長い年月を経て構築していくものです。
とはいえ、信頼関係の構築は難しいものではありません。嘘をつかない・約束を守る・リスペクトの気持ちを忘れないなど人として当たり前の行動をしていれば、自ずとできてくるものです。
特にM&Aの現場において、売り手は自社を良く見せたいがあまり隠しごとをしたり、虚偽の情報を伝えたりしてしまうことがあります。
そのような行動は相手との信頼関係を構築することができないだけでなく、M&A交渉を破談へと導いてしまう恐れがあるため絶対にしてはいけません。
誠実な態度で相手と接していれば大丈夫そうですね。
その通りです。誠実に接していれば、相手からも誠実な対応が返ってきますよ。
まとめ

親会社と子会社は、経営を支配する会社と支配される会社という関係性で成り立っています。
ただそれだけでなく、親会社は子会社の経営を支配する代わりに、子会社に対して善管注意義務などの責任が生じます。
つまり、親会社は子会社の経営を支配していると同時に、子会社を守る存在でもあるのです。
子会社はどうしても親会社より下の立場という認識が強くなりやすいですが、子会社になることで事業承継の実現や自社の発展など多くのメリットを得られます。
親会社の言いなりになってしまうのを避けるには、M&A交渉中に相手との信頼関係をしっかりと築き上げていくことが重要です。
















