M&A

M&Aの目的を買い手・売り手別に解説|M&Aを成功へ導くポイントも紹介します

近年ではM&Aを活用する中小企業が増えています。M&Aでは、買い手・売り手ともに達成したい目的を持っており、実行する理由は企業によって異なります。

逆に目的を明確に定めていない状態でM&Aを実行すると、理想とかけ離れた結果を招いてしまい、後悔する可能性が高いためおすすめできません。

そこで本記事では、中小企業がなぜM&Aを実行するのか、その目的について買い手・売り手それぞれの立場から解説します。

M&Aを成功へ導くポイントについても紹介していますので、検討中のM&Aを成功させたいと考えている経営者様は、ぜひ本記事をお役立てください。

登場人物紹介

齋藤さん

インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!

社長

中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。

1章:M&Aの目的:買い手側(譲受企業)

ゴール

M&Aで買い手、つまり企業を買収する側は、主に自社の更なる発展を目的としています。

自社の発展のために「どの部分を強化したいか」により、買収する企業を選定するのです。

齋藤さん

売り手からみると、買い手が求めている要素に強みを持っていると、買収の候補に挙がりやすいといえますよ。

社長

なるほど。この章は買い手選びの参考になりますね!

買い手が目的とする項目について、以下で詳しくみていきましょう。

1-1 売上・市場シェアの拡大

買い手は同業種の会社を買収することで、売り上げ及び市場シェアの拡大を図ることができます。さらに関連事業の買収で、事業領域の拡大も期待できます。

1-2 事業エリアの拡大

事業エリアの拡大を目的としたM&Aもしばしばみられます。自社が展開していないエリアに販路を持つ企業を買収することで、事業エリアの拡大を実現するのです。

また、既に構築されている販売網だけでなく、顧客の基盤も活用が可能になります。そこに自社のサービスを展開することで、新たなビジネスチャンスを掴む可能性が生まれます。

1-3 人材の獲得

人口の減少が進んでいる日本において、人材確保は重要なM&Aの目的です。

特に専門的な資格を要する事業を行っている場合などは、人材の獲得を目的としてM&Aを実行するケースが多くみられます。

なぜなら場合によっては自社で新規に人材を採用し育成するよりも、M&Aで即戦力となる優秀な人材を会社ごと買収した方がコストや時間の節約につながるからです。

さらに優秀な人材の確保は、新たなノウハウの獲得にもつながります。

1-4 新規事業の展開・異業種への参入

新規事業の展開や異業種への参入を考えている場合にも、M&Aが検討されます。

通常ゼロから新規事業を立ち上げると、社内にノウハウが蓄積されておらずリソースも不十分なことが多いため、失敗のリスクが高くなります。

新規参入を検討している分野で実績を持つ企業をM&Aによって獲得すれば失敗のリスクが抑えられるだけでなく、成功までの時間やコストを大幅に削減できるのです。

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1-5 技術・ノウハウの獲得

M&Aは、技術やノウハウの獲得を目的として実行されるケースもあります。なぜなら技術やノウハウを獲得することで、既存事業を強化できるからです。

自社だけでそれらを獲得しようとすると膨大な時間とコストが必要ですが、M&Aではより短期間かつ低コストで目的を達成することができます。

1-6 コスト低減・合理化

外注費やコミュニケーションコストを削減するため、M&Aを活用して業務の内製化を図るケースもみられます。

業務の内製化で業務効率の向上が期待できるだけでなく、社内にスキルやノウハウを蓄積することも可能です。

齋藤さん

スキルやノウハウは長期的にみると会社の資産になり、企業価値の向上も期待できますよ。

1-7 設備・土地等の獲得

M&Aで企業を買収すると、売り手対象企業が所有している設備や土地などの資産も譲り受けます。

それらの活用により、買い手は今までできなかった事業を開始したり、業務の効率化を目指したりすることができます。

1-8 ブランドの獲得

自社製品とマッチする魅力的なブランドの獲得により、販売力や競争力の強化が見込めます。

なぜなら自社で新たなブランドを立ち上げるより既に広く知られている既存のブランドを買収した方が、売り上げ増加や宣伝広告費の削減につながる可能性が高まるからです。

そのため、ブランド獲得を目的にM&Aを実行するケースも少なくありません。

2章:M&Aの目的:売り手側(譲渡企業)

契約を交わすイメージ

買い手側の目的に続き、売り手がM&Aの目的とする事柄について確認していきましょう。売り手経営者個人および自社のケースに当てはまりそうな項目を探してみてください。

2-1 事業承継

現代日本では、少子化の進行や価値観の多様化などが原因で、後継者不在問題に直面している中小企業が増えています。

これまでの事業承継といえば、経営者自身の子どもや親族に経営のバトンを渡す親族内承継が一般的でした。

しかし上記の理由から親族内承継の割合は年々減少しており、代わりに親族外承継の割合が増加しています。この親族外承継の手段の1つとして、M&Aが広く用いられるようになりました。

M&Aで会社を売却することで買い手が新たな経営者(後継者)となり、事業承継が実現します。

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2-2 経営基盤の強化

M&Aを活用し買い手企業の経営資源(設備・技術・販路・顧客情報・人材・ノウハウなど)を得ることで、不足していた経営基盤を強化できます。

それにより売上の増加やコスト削減が実現し、会社の更なる発展が期待できるのです。

また、技術の融合・販路の拡大・顧客情報の共有といったシナジー効果の創出で、事業拡大の加速が見込めます。

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2-3 創業者利益の獲得

中小企業におけるM&Aは、経営者個人による創業者利益の獲得を目的とするケースも多くみられます。

M&Aで得た創業者利益は経営者引退後の生活費に使われるほか、新規事業立ち上げの資金とされる場合もあります。

いずれにせよ、経営者個人が多額の現金を得たい場合にM&Aが活用されるのは、ごく一般的なことだといって差し支えありません。

社長

「自分自身の利益のために会社を売る」ということに少々抵抗を感じていましたが、一般的な目的だと聞いて安心しました。

齋藤さん

そう言われる方は多いですよ。創業者利益は「今まで苦労して経営に向き合ってきたことに対する報酬」だと考えると良いかもしれませんね。

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2-4 事業の整理

多角化経営は経営戦略の常套手段ですが、多角化した事業の全てがうまくいくとは限りません。中にはほとんど収益の出ていない事業や、赤字となって経営の足を引っ張る事業の存在もあるでしょう。

こうしたケースでは、不要な事業を整理して主力事業に経営のリソースを集中させた方が、経営の効率化や業績の拡大化が図りやすくなります。

そのための手段として、M&Aを活用するケースは多いです。

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2-5 事業の再生

経営不振に陥ってしまった企業の廃業を回避し、経営を立て直す目的でM&Aを選択することがあります。

社長

廃業寸前ってことですよね?そんな会社に買い手がつくのでしょうか?

齋藤さん

独自の技術や特許を持っているなど、買い手にとってメリットとなる要素があれば売却できる可能性はありますよ。

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3章:中小企業のM&Aを成功に導くためのポイント

ハイタッチするビジネスパーソン

中小企業の経営者にとって、M&Aで会社を売却するということは、恐らく最初で最後の経験になるでしょう。

社長

私も最初で最後のM&Aを検討している身ですが、やるからには絶対に成功させたいです!しかしいかんせん初めてのことなので、知識もノウハウもありません…。

齋藤さん

安心してください。売り手の多くは社長と同じような状態です。これから中小企業のM&Aを成功に導くためのポイントを紹介していきますね。

中小企業のM&Aを成功させるためには、以下に挙げる3つのポイントについて検討してください。

  1. M&Aの目的を明確化する
  2. 自社の強みを把握しておく
  3. 信頼できる専門家へ依頼する

そしてその上で、売り手・買い手双方の目的を達成できる相手に出会うことが重要です。

3-1 M&Aの目的を明確化する

M&Aを成功へ導くために、まず最初に明確にしておきたいのが「自分と会社がM&Aで何を達成したいのか」という点です。

齋藤さん

つまり、M&Aの目的をハッキリさせるということですね。

まれにM&Aの実行そのものが目的となってしまっている案件に出会いますが、M&Aはあくまでも目的を達成するための手段だということを忘れてはいけません。

経営者自身や会社の目的を達成するために、M&Aという手段を選ぶのです。

また、目的が明確になっていないと、M&A交渉の軸がブレてしまいます。

結局何がしたかったのか分からないまま交渉が進んでしまい到底納得できない内容の契約書にサインをしてしまう可能性があるため、M&Aの検討段階で目的を明確にしておきましょう。

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3-2 自社の強みを把握しておく

M&Aのお相手は、ただ待っているだけでは現れません。理想的なお相手に出会うために、能動的にアクションを起こす必要があります。

そして理想的なお相手とは、資本力のある大企業ばかりではありません。双方が良い影響を与えあい共に成長できる企業こそが、理想的なお相手だといえるのです。

最適なお相手を見つけるためには、自社の強みを洗い出し、効果的にアピールすることが重要です。それにより買い手候補が買収を検討しやすくなり、M&Aの成約率も高まります。

また、シナジー効果の獲得を検討する材料にもなるため、できる限り多くの強みを見つけておきましょう。

3-3 信頼できる専門家へ依頼する

M&Aの実施には専門的な知識が必要となるため、信頼できる専門家への相談がおすすめです。特にM&A仲介会社であれば、お互いの目的を達成できそうな相手企業とのマッチングが期待できます。

ただし、サポートを依頼する先によって支払う報酬額が異なります。

場合によってはM&Aで得た売却益以上の支払いが必要になる恐れがあるため、支払い総額の目安を確認した上で依頼しましょう。

無料相談などを活用して複数の専門家を比較検討し、相性の良いパートナーを選定してください。

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まとめ

書類の上で握手するイメージ

M&Aの主な目的は、以下の通りです。

買い手(譲受)側

  • 売上・市場シェアの拡大
  • 事業エリアの拡大
  • 人材の獲得
  • 新規事業の展開・異業種への参入
  • 技術・ノウハウの獲得
  • コスト低減・合理化
  • 設備・土地等の獲得
  • ブランドの獲得

売り手(譲渡)側

  • 事業承継
  • 経営基盤の強化
  • 創業者利益の獲得
  • 事業の整理
  • 事業の再生

M&Aを成功させるポイントは、買い手・売り手双方の目的を達成できるお相手とのマッチングです。

そのためにはM&Aに求める目的を明確にし、相手候補企業へアピールできる強みを洗い出しておきましょう。

また、専門家のサポートも欠かせません。無料相談などを活用し、信頼できる依頼先を見つけてください。

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ABOUT ME
この記事を監修した人 齋藤 和寿
【インバースコンサルティング株式会社代表取締役】 後継者不足の解決や豊かなリタイアを望む経営者様に寄り添い「最幸のM&A」を実現するための情報を発信しています。 仕組み経営コーチとしても活躍中。会社の仕組み化×M&Aで、社長の人生を豊かに彩ります。