M&A

会社売却で役員はどうなる?処遇や役員報酬・役員退職慰労金についても解説します

Icatch-0109

中小企業には、代表取締役である社長の家族や親族を役員に選任している企業が多く見受けられます。

そのような企業がM&Aで会社売却を検討し始めた際に気になるのが「会社売却後に役員の地位や処遇はどうなるのか」という点ではないでしょうか。

そこでこの記事では、会社売却で代表取締役とそれ以外の取締役の処遇・役員報酬・役員退職慰労金がどうなるのか解説します。

この記事で分かること
  • 会社売却で代表取締役の処遇はどうなるか
  • 会社売却で代表取締役以外の役員の処遇はどうなるか
  • 会社売却後の役員報酬はどうなるか
  • 役員を退任する際の役員退職慰労金の扱いについて

登場人物紹介

齋藤さん

インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!

社長

中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。

1章:この記事における役員の定義

会社役員

本題に入る前に、この記事における「役員とは誰のことを指しているのか」について定義しておきましょう。

齋藤さん

会社法で規定されている役員と、中小企業の社長がイメージしている役員が少々乖離している可能性があるので、ここで定義づけておきますね。

会社法で規定されている役員
  • 取締役
  • 会計参与
  • 監査役

会社法で規定されている役員は上記の3種類ですが、中小企業においては、会計参与と監査役の設置は必須ではありません。

齋藤さん

実際に中小企業で会計参与および監査役を置いている企業は少ないですよ。

社長

つまり、役員=取締役のみという企業が多いんですね。

取締役が複数いる企業の場合は取締役内で序列を作るケースが一般的で、中小企業における役員といえば、こちらのイメージが近いでしょう。

取締役の序列一例
  1. 代表取締役
  2. 専務取締役
  3. 常務取締役
  4. 取締役

そして中小企業の場合では、社長(代表取締役)の家族や親族が専務取締役や常務取締役に就いているケースが多く存在します。

社長

代表取締役の他に、身内が取締役として役員職に就いていることが多いのですね。周りの経営者仲間の会社を思い出してみても、たしかにそうかもしれません。

以上のことからこの記事において「役員」とは、主に取締役に就いている役員を指します。

2章:代表取締役の処遇について

仕事をしている社長のイメージ

中小企業の場合、会社を売却する前の代表取締役は、社長であり経営者であり売り手本人であるケースがほとんどです。

社長=売主

会社売却後は経営権が買い手企業へと移るため、社長は代表取締役・筆頭株主・オーナー・経営者全ての立場から退くことになります。

社長

つまり、代表取締役から引退することになるのですね。

齋藤さん

その通りです。

2-1 買い手から新しい代表取締役が選任されるケースが一般的

会社売却で経営権が買い手へ移った後は、買い手企業の株主総会による決議で専任された、新しい代表取締役が就任するケースが一般的です。

社長

新しい代表取締役が選任されたら、それまで代表取締役だった売り手社長はすぐに引退するのでしょうか。

齋藤さん

一般的には、経営の引継ぎが完了してから引退するケースが多いですよ。引継ぎ期間は平均しておよそ3ヶ月~1年ほどです。

Icatch-0071
M&Aで会社を売却した社長はどうなる?後継者がいない場合の最適解も解説!M&Aで会社を売却した後、社長自身の処遇はどうなるのでしょうか。社長を続投したい・リタイアしたいなど、自分の希望が叶えられる可能性を解説し、M&Aを選ばない未来との比較を行います。...

2-2 代表者として会社に留まるケースも

引退するケースがある一方で、会社売却後も代表者として会社に残り、引き続き会社の代表としてその手腕をふるい続けるケースも少なくありません。

齋藤さん

買い手が持っている経営資源を活用して、会社の成長を加速させている社長も多いですよ。

ただしここで注意しておきたいのが、たとえ代表者として留まったとしても、経営権は買い手企業が持っているという点です。

社長

会社に関する重要な決定を自分の一存でできなくなるんですね。

齋藤さん

そういうことです。親会社へお伺いを立てて、決済を仰ぐ必要が出てきますよ。

Icatch-004n
M&Aで会社売却した人その後の人生3パターン【実例付き】M&Aで会社を売却した社長はその後どんな人生を歩むのでしょうか。会社に残る?それとも第二の人生を歩み始める?会社売却のその先に待っている人生を、実際の事例も含めて解説しています。...

3章:その他取締役の処遇について

社長と役員

専務取締役や常務取締役といった代表取締役以外の取締役についても、役員であり続けるケースと退任するケースの2つのパターンに分かれます。

ここでは代表取締役以外の取締役が、会社売却後にどうなるのかをみていきましょう。

3-1 ポジションと処遇をそのまま受け継ぐケース

中小企業の経営は人に依存している場合が多く、役員の仕事に関しても例外ではありません。

買い手企業内に役員の仕事を引継げる人物がいない場合は、そのままその役員に仕事を継続してもらう必要があるのです。

そのため中小企業のM&Aでは、役員の雇用を一定期間継続することを条件としているケースが多くみられます。

社長

「一定期間」ということは、その期間が過ぎたら役員は退任になるということですか?

齋藤さん

その可能性もありますね。期間については、M&Aの交渉時に買い手と取り決めます。

定められた期間が終了した後に役員がどうなるかは、買い手企業の意向次第だという点に注意が必要です。

3-2 役員を退任するケース

中小企業では、社長(代表取締役)の配偶者・子供・親などの人物を役員としている企業も多くみられます。

役員としての役職はついているものの実際には会社の仕事に関与していないケースも多く、そのような場合は会社売却の成立と同時に退任となります。

齋藤さん

上記のパターンは中小企業のM&Aで非常に多いんですよ。

ただし実際に会社の業務を担っている場合は、いち社員として会社に残るケースも珍しくありません。

社長

会社の業務というのは、経営に関わるというより、事務とか経理とかのことですね。

齋藤さん

その通りです。従事している仕事の実態に合わせた処遇になりますよ。

4章:会社売却後の役員報酬や役員退職慰労金について

札束
社長

会社売却後に支払いが発生する役員報酬や役員退職慰労金は、誰が支払って金額はどのように決定するのでしょうか。

M&A後に発生する役員報酬や役員退職慰労金の金額は、M&A交渉時に売り手と買い手が協議のうえで決定するケースが一般的です。

決定した金額については多くの場合、最終譲渡契約書内に明記されます。

社長

M&A交渉の中で決まっているんですね⁉それはこちらの希望が聞いてもらえるということでしょうか?

齋藤さん

ある程度の希望は聞いてもらえるかもしれませんが、それよりも買収予算の兼ね合いに関する部分が大きいですね。

買収予算の内訳

買収予算=買収資金(株式譲渡の金額)+任期分の役員報酬+役員退職慰労金

多くのM&Aで買い手は、買収に必要な資金がトータルの予算内に収まるように、役員報酬や役員退職慰労金も調整の対象としているのです。

Icatch-0081
 M&A後の役員報酬はどうなる?支給の有無や進退の選択肢についても解説M&Aで会社を売却した後も社長として会社に残る場合、今まで通り役員報酬が支払われます。ただし会社から引退したり社長から退任したりすると、役員報酬の支払いはありません。会社売却検討時には、役員報酬が支払われる条件や金額の目安について確認しておきましょう。...
Icatch-0003
会社売却で退職金の仕組みを活用し利益を最大化する方法【M&A】M&Aで会社売却を行う際には、極力たくさんのお金を社長の手元に残したいものです。そこで活躍するのが「退職金スキーム」を活用した節税テク。なぜ退職金スキームを活用すると社長の手取りが増えるのか、詳しく解説します。...

まとめ

窓辺のビジネスマン

会社売却後、売主である社長は代表取締役を退任するケースが多数を占めています。

しかし中には会社の代表として残り、会社売却前と変わらず会社の顔として存在し続けるケースも存在するのです。

代表取締役以外の取締役についても、退任と続投の両方のケースが考えられます。

ただし名前だけの役員で実態を伴っていない場合は、退任することになるでしょう。

また、役員でありながら経理や総務などの仕事に従事している人の場合は、M&A後に一般の社員として雇用されるケースもみられます。

取締役の処遇や役員報酬などに関しては、買い手が決定権を持っているため、売り手の一存では決められない点に注意してください。

Icatch-0103
会社を売却して社長が退職する方法とは?必要な期間や成功のポイントも解説社長が退職する方法の1つに、M&Aでの会社売却が挙げられます。この記事では、会社を売却して社長職から退職する方法を解説しています。...
Icatch-0102
会社売却は年商が低くても可能?最低年商の目安やより良い条件で売却するコツを解説M&Aというと大企業同士が行うものというイメージがあるかもしれませんが、中小や零細企業間でも増えています。この記事では、会社を売却できる最低年商の目安や、年商の低い会社を売却するコツをお伝えします。...
Icatch-0055
事業譲渡は役員退職金で節税できる?社長の手取りを増やす方法を解説会社が行っている事業の一部または全部を第三者へ譲渡する場合は、退職金の制度を利用して節税が可能なのでしょうか。事業譲渡で節税し、社長の手取りを増やす方法を解説します。...
ABOUT ME
この記事を監修した人 齋藤 和寿
【インバースコンサルティング株式会社代表取締役】 後継者不足の解決や豊かなリタイアを望む経営者様に寄り添い「最幸のM&A」を実現するための情報を発信しています。 仕組み経営コーチとしても活躍中。会社の仕組み化×M&Aで、社長の人生を豊かに彩ります。