後継者不在問題の解決や自社の更なる発展など、会社売却の目的は様々です。
しかし「会社を売却する」という目的をかなえた後、社長自身はどのような人生を歩んでいるのでしょうか。
この記事では、会社売却後に社長が歩む人生の選択肢と、理想の引退を叶えるためのポイントについて解説しています。
会社売却を検討している社長は、ご自身がその後歩む人生について今一度考えてみてください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:会社売却後に社長が歩む人生は3パターン
M&Aによる会社売却が無事に済んだ後、社長はどのような人生を送ることになるのでしょうか。
代表的な3つのパターンをご紹介します。
1-1 引継ぎ後は会社から完全に引退する
会社売却後に社長が歩む道として多いケースが、引継ぎ後の引退です。
引継ぎ後ということは、会社売却後すぐには引退できないのですね。
そうなんです。会社を売却して経営権を手放した社長は、引継ぎのためにしばらくの期間会社へ残ります。
引継ぎに必要な期間は企業規模や社長への依存度にもよって変わってきますが、だいたい3ヶ月~1年程度かかるケースが多いようです。
そしてその後会社からは完全に引退し、第二の人生を歩み始めるのです。
M&Aの目的が事業承継であった場合、社長は会社売却後に引退を望むケースがほとんどですよ。
中小企業庁の中小企業白書(2021年版)によると、M&Aを実施した中小企業の経営者のうち21.6%が、引継ぎ後に引退しています。
参照元:中小企業白書(2021年版)
1-2 会社売却後も社長として経営を続ける
- 会社売却後もしばらくは社長を続けたい
- まだまだ元気なので、引退には早いと思っている
上記のように考えている社長の場合は、会社売却後も社長として会社に残り、経営を続けることを選ぶ傾向にあるようです。
会社売却後は会社の経営権を持っていない点に注意
会社売却後も社長として働き続ける場合は、買い手のルールに従って経営を行っていくことになります。
そのため今まで自分の思い通りに経営手腕を振るってきた社長にとっては、少々物足りなさを感じるかもしれません。
1-3 役員や一般社員として残る選択肢も
会社に残る社長の中には、社長としてではなく役員や顧問、はたまた一般社員として残る方もいらっしゃいます。
このような場合は、会社が「社長に抜けられると業務が回らない」状態であることも多く、業務上必要だから残るといったケースも考えられます。
社長が希望したからではなく、買い手側の希望という場合もあるということですね。
そうなんです。会社の業務を社長に依存している場合に起こりやすいですね。もちろん、社長自身が望んで顧問等に就任するケースもありますよ。
2章:会社売却後に社長が歩む人生は誰が決める?
会社売却が完了した後に社長がどのような人生を歩むのか、それを決めるのは社長自身です。
決定権は買い手が持っているのではないんですか?
たしかに社長の希望を聞き入れるかどうかの決定権は買い手が持っていますが、最終的にそれを受け入れるかどうかは社長自身が決めるんですよ。
買い手が社長の希望条件を聞き入れられない場合は、別の条件が提示されるか、会社売却の取引自体が白紙になるかのどちらかになるでしょう。
買い手から別の条件が提示された場合、受け入れるかを決めるのは社長です。また、破談の申し出があった場合でも、了承するのは社長自身となります。
つまりいずれの場合でも、社長の人生を決めるのは社長自身に他なりません。
破談を防ぎ会社売却を成立させるためには、事前に諸条件の希望を決めておく
会社売却プロセスを始める前に社長の人生や売却の条件について明確にしておくことで、買い手の意向に応じて柔軟な対応が可能になり、会社売却がより成立しやすくなるでしょう。
条件については、優先順位を決めておくと良いですよ。
うまく優先順位を決められない場合はどうしたら良いでしょうか。
絶対に譲れない条件と、場合によっては譲っても良い条件に分けましょう。それだけでも十分に効果的です。
3章:理想の引退を叶えるために考えておくべきこと
前章でも述べたように、会社売却後の人生を決定するのは社長自身です。たとえ売却後は会社に残る選択をしたとしても、いつか必ず引退する日が訪れます。
そのため社長は、会社売却プロセスに臨む前に、理想の引退について考えておきましょう。
理想の引退について明確にしておくと、会社売却後の社長の処遇に対する希望についても明らかになりやすいですよ。
理想の引退への通過点に、会社売却が位置しているイメージですね。
3-1 引退したい時期を明確にしておく
会社売却時に希望の引退時期を具体的に考えておくと、社長の処遇についての希望が明確になりやすくなります。
希望する引退時期と会社売却後の社長の処遇について、下記の表にまとめてみました。
希望の引退時期 | 3年以内 | 5年後くらい | 10年後くらい |
希望する社長の処遇 | 引継ぎ後に引退 | 社長として残る | 役員や顧問・一般社員として残る |
上記はあくまでも一例ですが、社長自身が希望している引退時期と照らし合わせて参考にしてください。
また、引退の希望時期によっては、会社売却の時期そのものをずらした方が良いケースも存在します。
- 業界全体の需要が落ち込んでいる時期
- 会社の成長が下降している時期(上昇する見込みがある場合)
上記のケースのように、会社が「少し待てばより高く売れそう」な時期にあると判断された場合は、ふさわしい時期が来るのを待っても良いでしょう。
ただし、タイミングの見極めは非常に困難です。信頼できる専門家へ早めに相談して、アドバイスを仰いでくださいね。
3-2 自分自身の処遇に対する希望とその他の希望についての優先順位を付けておく
社長自身の希望を優先させるあまり他の条件をおろそかにしてしまうと、会社売却そのものが失敗してしまう可能性があります。
そのため社長自身に関する希望だけでなく、従業員の処遇や売却価格についてなど、会社売却全般に関する希望条件も明らかにしておきましょう。
そして全ての条件を並べて、優先順位を付けてください。
そうすることで会社売却プロセス全体に希望する条件の優先度が明らかになり、トータルでの成功について考えられるようになります。
たしかに引退の希望時期を優先させすぎて安値で買い叩かれるなんてことがあると、引退後の生活が不安になりますね。それでは理想の引退とはいえません…。
おっしゃる通りです。譲れない条件と譲っても良い条件を明確にしておくことで、結果的に会社売却全体への満足度が上がりますよ。
まとめ
会社売却後に社長が歩む人生は、主に以下の3パターンです。
- 引継ぎ後は会社から完全に引退する
- 会社売却後も社長として経営を続ける
- 役員や一般社員として会社に残る
どの選択肢を選ぶにしても買い手から了承してもらう必要がありますが、最終的に決定するのは社長自身であることを忘れてはいけません。
また、売却後も何らかの形で会社に残る選択をしたとしても、引退する日はいつか必ずやってきます。
そのため会社売却プロセスを始めるまでに、自身の理想の引退について具体的なイメージを固めておきましょう。
希望の引退時期と処遇のすり合わせが難しいと感じたときなどは、お気軽に専門家へ相談してくださいね。