M&Aはさまざまな目的を持って実行され、その目的が達成されたときに成功を実感しやすい取引です。
ただしM&Aは、実行したら必ず成功するとは限りません。失敗のリスクがあるからこそ、成功事例を知りたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、大企業から中小企業まで、M&Aの成功事例10選をご紹介します。
中小企業がM&Aを成功させるコツについても解説しているため、M&Aで会社や事業の売却を検討している経営者様は必見です。
- M&Aの成功事例を知りたい方
- 成功事例を知り、自社のM&Aの参考にしたい方
- M&Aを成功させるコツを知りたい方
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:M&Aの成功とは
そもそも、M&Aの成功とはどのような状況を指しているのでしょうか。実はこれには明確な基準がありません。
しかし一般的には、M&Aに求めていた目的を達成した際に成功を実感する企業が多いようです。
そしてその目的は、企業の数だけ存在します。そのため、明確な基準を設けることが難しいのです。
例えば中小企業のM&Aでは、後継者不在問題の解決をM&Aに求めるケースが多く存在します。
そのような場合は、M&Aで買い手が見つかり大きなトラブルもなく譲渡が成立すると、売り手はM&Aの成功を実感するでしょう。
一方の買い手は、自社を発展させるための手段としてM&Aを選択する企業が多くを占めています。
ただしその目的は、シナジー効果の獲得だったり新たなノウハウや販路の獲得だったりと、企業によってさまざまです。
シナジー効果の獲得を目的としてM&Aを実行した企業は、想定していたシナジー効果を得られたときにM&Aの成功を感じる、といった具合です。
成功の基準は企業ごとに異なるというわけですね。私もM&Aで売却を検討しているので、どうなったら成功だと感じられるのか、一度考えてみます。
2章:M&Aの成功事例5選【大企業編】
M&Aの成功基準はそれぞれの企業によって違うことが分かりましたが、そうはいっても具体的な成功事例を知りたいです。
そうですよね。「M&Aが成功した」状態がどのようなものなのかを知るためにも、成功事例を知っておくのは良いことだと思います。
ここでは、誰もが知っているような大企業がM&Aに成功した事例についてご紹介します。
2-1 楽天の成功事例
楽天グループは、M&Aによって成長してきた企業だといっても過言ではありません。
楽天は2013年に東証一部に昇格すると(2022年よりプライム市場)、次々と買収・合併を行い、さまざまな事業を行う企業を傘下に収めました。
- 事業の多角化(新規事業への参入)
- シナジー効果の獲得
楽天によって買収・合併された企業は以下の通りです。
- マイトリップ・ネット(旅行業)
- DLJディレクトSFG証券(証券会社)
- あおぞらカード(一般消費者向け無担保ローン事業)
- Fablic(フリマアプリの運営)
- イーバンク銀行(インターネット銀行)
- ビットワレット(電子マネーサービス事業)
ところで「楽天経済圏」という言葉を聞いたことはありませんか?
よく耳にします。買い物をはじめとした各種支払いなどで、楽天ポイントを貯めたり使用したりするシステムのことですよね。
その通りです。この楽天経済圏は、M&Aによって築き上げられたものだといっても良いくらいなんですよ。
楽天がM&Aの目的としていた事業の多角化が実現し、楽天経済圏の確立に至っているため、これらのM&Aは成功だといえるでしょう。
2-2 ヤフーの成功事例
ヤフーは2019年に、ZOZOの買収を行いました。
ZOZOはファッションECサイト「ZOZOTOWN」を運営している会社で、国内では圧倒的なシェアを誇っています。
一方買い手であるヤフーはインターネット事業の大手で、ECサイト「PayPayモール」を運営しています。
ZOZOTOWNをPayPayモールへ出店させることによる集客力の向上
このM&Aは、ヤフーが約4,700億円でZOZOの発行済み株式の取得に成功しています。
ちなみにこのM&Aで使用されたスキームは、TOB(株式公開買付け)です。
2-3 マツモトキヨシとココカラファインの成功事例
マツモトキヨシとココカラファインは両社ともに、ドラッグストアと調剤薬局を展開する会社です。
この2社は2021年、経営統合に合意した旨を発表しました。
厳しい経営環境が続いている業界の中において事業をさらに成長させるため
両社は各種リソース・インフラ・ノウハウを共有することにより、デジタル化やグローバル展開を強化するとのことです。
そしてこの経営統合によりマツキヨココカラ&カンパニーは、競争の激しいドラッグストア業界のトップに躍り出ました。
このM&Aでは、株式交換・新設分割・吸収分割と複数のスキームが使用されています。
2-4 富士フィルムホールディングスの成功事例
富士フィルムホールディングスは2008年に富山化学工業と資本・業務提携で合意し、66%の株式を取得して連結子会社化しました。
買収された富山化学工業は、インフルエンザ治療薬やアルツハイマー病治療薬のパイプラインを有している会社です。
買い手である富士フィルムは写真業界の大手でしたが、写真関連事業のリストラクチャリング(事業構造改革)にのりだし選択と集中を進めていました。
そしてこのM&Aにより、本格的に医療用医薬品事業へ参入しています。
新規事業への参入
私たち世代の人間から見ると、富士フィルムといえば写真用のカラーネガフィルムというイメージが強いですよね。
デジタルカメラの急速な発達で、写真用フィルムの製造販売を行っていた企業は軒並み大きなダメージを受けました。富士フィルムはそんな逆境から、事業の方向転換に成功した事例だといえますね。
2-5 ビックカメラの成功事例
2018年に家電量販店のビックカメラが、エスケーサービスを完全子会社化しました。
買収されたエスケーサービスは、家電の配送・取り付け・製品の納品などを行っている企業です。
配送サービスの品質向上
このM&Aでビックカメラは製品の販売から配送、設置までを一貫してできるようになり、利用者増加が期待できるとしています。
ビックカメラは自社の事業に関連する事業を行っているエスケーサービスを買収し、自社サービスの向上を図ったというわけです。
このM&A取引は株式交換で行われ、ビックカメラ1に対して、エスケーサービスが301の比率でした。
3章:M&Aの成功事例5選【中小企業編】
ここまでは大企業のM&A成功事例を取り上げてきましたが、ここからは中小企業のM&A成功事例をみてみましょう。
とはいえ中小企業は非上場企業が多いため、情報が少ないのが現状です。そこでここでは、中小企業白書に掲載されている成功事例を中心にご紹介します。
3-1 株式会社坂井製作所
岐阜県各務原市の株式会社坂井製作所は、真ちゅうや青銅などの金属を水栓金具などの部品に加工する会社です。
1952年の創業以来築き上げてきた多数の取引先との友好な協力関係を武器に、顧客であるメーカーや商社の発注に対応してきました。
事業拡大へ向けた経営資源の獲得
坂井製作所は、2015年に取引先の子会社であった各務原市内の株式会社サンエースを買収します。
同社は部品加工業務の後工程に当たる組立て業務を主に担っており、相乗効果を見込めたことが買収の決め手となりました。
さらに2020年には、後継者の不在に悩む岐阜県海津市の野村精機株式会社を買収。2021年3月にはグループ3社を束ねる「SAKAIホールディングス株式会社」を設立しています。
一連のM&Aの結果、自社グループで加工できる範囲が広がり、美容機器部品や半導体製造装置部品など新しい事業分野への進出が実現しました。
また3社はグループ同士でシナジー効果の発揮にも成功し、各社の業績が向上。グループ全体の売上高は15.5億円にのぼっています。
3-2 株式会社タカハシ包装センター
株式会社タカハシ包装センターは、食品トレーなどの包装資材を漁業者・食品加工業者・スーパーなどに卸す島根県の企業です。
地域市場の縮小により首都圏への進出を検討していたものの、従業員の地元志向が強く、転勤可能な人材がいませんでした。
首都圏の人材を含む経営資源の獲得
そして2019年にM&Aを実行し、その1年後には首都圏市場参入への手応えを感じています。
いずれは東京の拠点を活用して外貨を稼ぐことを目標とし、更なる成長を狙っています。
3-3 株式会社新家製作所
石川県加賀市の株式会社新家製作所は、産業用コンベアチェーン部品を中心とした金属部品の加工を営む企業です。
2019年に当時社長であった新家剛氏が急逝し、急きょ実弟の正幸氏が一時的に社長を継ぎました。
しかし正幸氏自身も高齢なうえに経営の経験もなかったため、第三者への事業承継を検討し、石川県事業引継ぎ支援センターに相談しています。
事業承継
その後地元での創業を目指す現社長の山下公彦氏に出会い、利益を求めない金額の株式譲渡でM&Aが成立しました。
このM&Aにより売り手企業は後継者不在で不安定だった経営体制が安定し、地域の重要な雇用を守ることに成功しています。
一方の買い手である山下氏も自身の希望通り地元に戻って働くことができ、双方にとってメリットの大きいM&Aとなったのです。
3-4 株式会社萬坊
佐賀県唐津市の株式会社萬坊は、活魚料理店の経営と水産物加工品の製造・販売をする企業です。
同社は本業は順調だったものの、フグ養殖業の不振により債務超過に陥っていました。
生産の効率化・販路拡大・経営基盤の安定化による会社の成長
本業には収益力とブランド力があるため、相乗効果の高い企業の力を借りることで更に成長できると考えていた太田社長は、M&Aを決意。
提案された約40の買い手候補企業の中から九州旅客鉄道株式会社(以下JR九州とする)を選び、第三者割当増資により、JR九州の子会社になりました。
M&A後はJR九州から常務取締役が2名派遣され、社長を続投した太田氏と共に経営改善を加速させました。
さらにJR九州の販売網を活用して新たな販路の獲得や、増資で得た資金を工場設備の改修に活用するなど、子会社化で多くのメリットを得ています。
中小企業が大手企業の子会社になることで、自社を飛躍的に成長させることに成功した典型的な事例だといえますね。
たしかに。M&Aでここまで会社を良い方向に変えられるのかと驚きました。
3-5 株式会社リース東京
東京都板橋区の株式会社リース東京(以下「リース東京」とする)は、病院で利用されるテレビなどのリース・レンタル業を営む企業です。
テレビのブラウン管から液晶モニターへの大転換に対する準備不足などから経営が悪化し、債務超過が続いた同社は、M&Aによる経営再建を考え始めました。
経営再建
しかしリース東京の財務状況がネックとなり、なかなか買い手が見つかりません。
そのような状況下で唯一手を挙げた日本エンドレス株式会社(以下「日本エンドレス」とする)とM&Aを実施。リース東京は日本エンドレスの子会社となります。
リース東京は日本エンドレスからの借入れにより銀行借入を返済し、本社ビルの抵当を外して売却したことで大幅な資金繰りの改善に成功しました。
さらに日本エンドレスから営業ノウハウを学び、徹底的なコスト削減にも取り組んだ結果、M&Aの2年後に黒字転換しています。
そしてさらにその3年後には、債務超過の解消にも成功しました。
債務超過を解消できたのですね!M&Aにものすごい可能性を感じます。
ちなみに買い手の日本エンドレスも、リース東京の販路を活用して従来取引のなかった医療分野に進出することができるなど、シナジー効果が出ています。
4章:中小企業がM&Aを成功させるコツとは
中小企業がM&Aを成功させるためには、M&Aに対して求めている事柄を明確にし、失敗を避けるための対策を講じておくことがポイントです。
具体的には、以下の6つの項目を押さえておきましょう。
4-1 M&Aの目的やビジョンを明確にしておく
1章でも言及していますが、M&Aの成功には明確な定義がありません。
しかしそれぞれの企業がM&Aに求めていた目的を達成した際に、成功を実感することが多いという事実があります。
つまり、M&Aの成功を実感したいのであれば、M&Aへの目的をハッキリさせておくことが重要なのです。
- M&Aで何を達成したいのか
- M&A後にどのような未来を得たいのか
上記2点について熟考し、箇条書きで良いので記録に残しておきましょう。
パソコンやスマホのメモ機能でもいいですし、手帳に記入しておいてもOKです。とにかく文章にして残してくださいね。
頭の中で考えておくだけではダメですか?
人間の考えは、その時々によって少しずつ変化していきます。目標やビジョンがブレないように、明文化しておくことが重要ですよ。
4-2 希望条件を整理し優先順位を付けておく
目的やビジョンと同じように、M&Aへの希望条件もまた、全て書き出しておきましょう。そしてそれらに優先順位を付けてください。
M&Aの交渉では、自身の希望条件が全て通るケースは残念ながらほとんどありません。
そのため、希望条件には優先順位を付けて、さらに譲れない条件と譲っても良い条件に分類しておくと良いでしょう。
譲れない条件を明確にしておくことで、買い手選びがスムーズに進みますよ。
なるほど。譲れない条件を認めてくれる買い手を選び、他の条件は買い手との交渉で柔軟に対応していくイメージですね。
その通りです。
4-3 自社の強みと弱みを整理しておく
売り手としてM&Aを成功させるには、自社にマッチした買い手候補と出会うことが重要です。
そのためには、M&Aプロセスを開始する前に、自社の強みと弱みを明確化しておきましょう。それにより以下のメリットを得られます。
- 自社の強みを活かせる買い手候補を探せる
- 自社の弱みをカバーしてくれる買い手候補を探せる
- 自社の弱みを克服するきっかけになる
優秀な人材・販売のネットワーク・独自の技術など、見つけ出した強みはより磨き上げ、他社との差別化を図りましょう。
他社にない強みは会社にとって資産となり、売却価格に良い影響を及ぼします。
また、明らかになった弱みは、M&Aを実行するまでに克服するチャンスです。
たとえ完全に克服できなくても「対策を講じて実行中」という事実が評価されるケースもあるため、改善へ向けて動き出してください。
弱みの存在が売却価格に影響を与える可能性は否めません。ただし改善へ向けて動いている事実の存在で一気にプラスイメージへ転換できるため、積極的に対応していきましょう。
4-4 経営者同士の相互理解を深める
買い手候補が見つかり、M&Aの交渉へと入ったら、ぜひ経営者同士での相互理解を深めましょう。
M&Aは企業間の取引というイメージが強いかもしれませんが、条件の交渉などを行うのは人間です。
実は、考え方が似ている社長が経営する企業同士は似た雰囲気を持つことが多く、M&A後の統合作業もスムーズに完了しやすい一面を持っています。
そのため会社のビジョンや経営への考え方など、経営者同士で共感し合える要素が多い買い手との出会いが重要となってくるのです。
4-5 念入りかつ慎重にデューデリジェンスを実施する
中小企業のM&Aでは、買い手が簿外債務や偶発債務を引き継いでしまうリスクを背負っています。
簿外債務や偶発債務が見つかるとどうなるのでしょうか。
買い手から損害賠償を請求される可能性が出てきます。中には社長自身が把握していない簿外債務が存在するケースもあるため、注意が必要なんですよ。
特に中小企業の場合は簿外債務が発生しやすい会計の仕組みとなっているため、買収前にデューデリジェンスを実施し、リスクをしっかりと洗い出しておく必要があります。
買い手企業が売り手対象会社の実態を詳細に調査すること。
実際にデューデリジェンスを行うのは買い手企業ですが、正確な調査を行うためには売り手の全面的な協力が欠かせません。
デューデリジェンスの結果次第ではM&Aが破談になる可能性もあるため、買い手企業には正確な情報を提供してください。
4-6 早めに専門家へ相談する
M&Aは、高度な専門知識を必要とする取引です。
しかし売り手にとっては初めてのM&Aとなるケースがほとんどであるのに対し、買い手は既に企業買収を経験しているケースが多いという事実が存在します。
そのため、買い手優位で交渉が進んでしまう可能性も否めません。
そこでお互いに対等な立場で交渉を進めるためにも、信頼できる相談先を見つけておきたいものです。
さらにM&Aの成功は、会社を売却するタイミングが重要なカギを握っています。
適切なタイミングで実行できるように、M&Aの検討を始めたら早めに専門家へ相談しましょう。
中小企業の相談先としては、商工会議所や事業承継・引継ぎ支援センター、M&A仲介会社などが挙げられます。
まとめ
M&Aの成功に明確な定義はありませんが、売り手・買い手それぞれがM&Aに求めていた目的を達成できたときに、成功を実感することが多いようです。
この記事で挙げた成功事例でも分かるように、M&Aへ求めるものは企業の数だけ存在します。
そのため自社のM&Aを成功させるためにはまず、その目的を明確にしておくことが重要です。
その上で希望条件や自社の強みなどを整理しておくと、M&Aの成功率が高まります。
M&Aの検討を始めたら、早めに専門家へ相談することも大切です。「自社の目的は本当にM&Aで叶えられるだろうか」などの疑問があれば、ぜひ無料相談を活用してくださいね。