M&Aの実行には高度な専門知識と経験を要するため、M&A仲介会社にサポートを依頼するケースがほとんどです。
M&A仲介会社へサポートを依頼すると仲介手数料が必要になりますが、この手数料は一体誰が支払うのでしょうか。
本記事では仲介手数料の支払いは誰が行うのかを明らかにするとともに、手数料の内訳・計算方法・節約方法も併せて解説します。
M&A仲介会社へサポートの依頼を検討している方は、ぜひ本記事をお役立てください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:M&Aの仲介手数料は売り手・買い手それぞれが払う

結論からいうと、M&Aの仲介手数料は仲介を依頼した本人(または企業)が支払います。
例えば株式譲渡で会社を売却する場合でいうと、売主は株主個人です。そのためM&A仲介手数料を支払うのは、株主個人になるというわけです。
中小企業の場合は株主=社長のケースが多いですよ。
なるほど。弊社の場合、株主は社長である私なので、私個人がM&A仲介手数料を支払うことになるわけですね。
一方で事業譲渡で事業を売却する場合、売主は会社となります。したがって、M&A仲介手数料は、売主である会社が支払います。


1-1 両手取引の場合

両手取引は、売り手・買い手双方が同一のM&Aコンサルタントと仲介契約を結びます。
担当のM&Aコンサルタントは売り手と買い手の中間に立ち、双方の意見や主張を聞きながら、M&Aの成立を目指すのです。
このケースでは、1人の担当コンサルタントに対して売り手・買い手それぞれが仲介手数料を支払います。

1-2 片手取引の場合

片手取引は売り手・買い手それぞれが別のM&Aコンサルタントへ依頼し、それぞれの担当コンサルタントが依頼人の利益を最大化するために相手方と交渉を行います。
片手取引の場合は、売り手から手数料を受け取るコンサルタントと、買い手から手数料を受け取るコンサルタントが別に存在するんですね。
そうなんです。ただし片手取引は手数料が高額になりやすいため、中小企業のM&Aではあまり利用されていないんですよ。
なるほど。では我々中小企業がM&Aを実行しようと思ったら、両手取引のM&A会社へ依頼することになるんですね。
そうですね。「M&A仲介会社」を名乗る会社であれば、両手取引の可能性が高いですよ。ただし全てがそうとは限りませんので、あくまでも1つの目安として捉えてくださいね。
2章:M&A仲介会社へ支払う手数料の内訳

ひとくちに「M&A仲介手数料」といっても、実はさまざまな項目が存在します。
さらにM&A仲介会社によって支払いが必要な項目も異なるため、仲介を依頼する会社を探す際には注意が必要です。
- どのような項目の手数料が発生するのか
- それぞれの手数料はいつ支払う必要があるのか
M&A仲介会社を探す際には、上記2点を念頭に置いて複数社を比較検討することをおすすめします。
2-1 相談料
相談料とは、M&A仲介会社へ何かしらの相談を行った際に発生する手数料です。
何かしらの相談とは、具体的にどのような内容が多いのでしょうか。
相談内容は多岐にわたりますが、「自社がいくらくらいで売れるのか」とか「M&Aをすべきかどうか相談したい」といった内容が多いですよ。
相談料の相場:無料もしくは1万円前後
相談料は無料としているM&A仲介会社も増えてきていますが、中には「初回のみ相談無料」を謳っているところもあります。
2-2 着手金
着手金とは、M&A仲介会社と仲介契約を締結した際に発生する手数料です。
手付金のような感覚で捉えて良いですよ。
着手金の相場:無料もしくは100万~200万円前後
着手金も相談料と同じく、無料としているM&A仲介会社が多く存在します。
無料の方がお得に感じるかもしれませんが、スピーディーにM&Aを成立させたい場合は、着手金の支払いが必要なM&A仲介会社を選ぶのもおすすめです。
なぜなら、着手金を支払う=本気でM&Aに取り組みたい意欲の表れであり、「とりあえず契約しておこう」という企業がないからです。
そのため、売り手・買い手共にスムーズにお相手が見つかりやすい傾向があります。
ただし一度支払った着手金は、M&Aが成立しなかった場合でも返金されません。着手金が必要なM&A仲介会社と契約する際には、その点に注意が必要です。
2-3 月額報酬
月額報酬はリテイナーフィーとも呼ばれ、毎月支払う手数料を指しています。
月額報酬の相場:無料もしくは50~100万円前後
M&A仲介契約を締結している期間は毎月支払い続ける必要があるため、M&Aプロセスが長引くほど費用がかさむ点には注意してください。
2-4 中間報酬
中間報酬は、M&Aの基本合意契約を締結した際に支払う報酬です。

「基本合意契約まで導いてくれてありがとう」という意味で支払うイメージでしょうか。
そんな感じでOKです。基本合意契約締結までに対するコンサルタント料金といった感覚ですね。
中間報酬の料金体系は、無料・100万円程の固定報酬・成功報酬の10~30%程度と主に3パターン
中間報酬で注意すべきは、支払い後にM&Aが不成立に終わったとしても返還されない点です。
ただしM&Aが無事に成功した場合は、中間報酬が成功報酬に含まれるケースが多いです。
成功報酬の一部を前払いするイメージですね。

2-5 成功報酬
成功報酬はM&Aが成立した際に支払う手数料で、全てのM&A仲介会社で支払いが必要となる項目です。
支払うタイミングとしては、最終譲渡契約の締結後もしくはクロージング前後になるケースが多数を占めています。

成功報酬はM&A会社に支払う報酬の中で最も金額が大きくなりやすい
金額が大きくなりやすい成功報酬ですが、売り手の場合は買い手から受け取ったM&Aの対価で支払うことができますよ。
なるほど。M&Aが成立した後に支払うんですものね。費用をあらかじめ用意しておかなくても良いとなると、安心です。

2-6 その他
これまでに紹介した手数料の他にも、M&A仲介会社によってさまざまな手数料が設定されています。
- M&Aマッチング調査のための企業調査手数料
- 遠方への視察などが必要になった場合の交通費 など
たとえひとつひとつは少額であっても、いくつか重なると予算をオーバーしてしまう可能性も否めません。
M&A仲介会社と契約を締結する前に、どのような種類の手数料が必要なのかを確認しておきましょう。

3章:成功報酬の計算方法「レーマン方式」とは?

M&A仲介会社へ支払う手数料の中で最も高額になる成功報酬額の多くは、レーマン方式という計算方法で算出されます。
成功報酬額=報酬基準額(取引金額)×報酬率
報酬基準額とは、成功報酬を算出するための基準となる金額を指します。
そして報酬基準額にもいくつかのパターンがあり、M&A会社によって採用している基準額が異なる点に注意が必要です。
最も分かりやすいのが、株式譲渡額を報酬基準額とする方式です。これはつまり、株式譲渡が成立した価格がそのまま報酬基準額になるということです。
なるほど。株式譲渡額に、報酬率をかけた金額が成功報酬額になるというわけですね。ところで報酬率とはどのようなものなのでしょうか。
報酬率というものは、M&A仲介会社によって設定が異なる場合があるんですよ。代表的な報酬率を以下にまとめましたので、確認していきましょう。
報酬基準額 | 報酬率 |
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超10億円以下の部分 | 4% |
10億円超50億円以下の部分 | 3% |
50億円超100億円以下の部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
中小企業のM&Aでは、報酬基準額が5億円以内に収まるケースが多くを占めています。M&A仲介会社によって報酬率は異なりますが、だいたい5%前後だと覚えておくと良いですよ。
なるほど。報酬基準額が5億を超えるようであれば、超えた分にかかる報酬率が変わってくるという認識で大丈夫そうですね。
4章:M&Aの仲介手数料を抑える方法

中小企業の経営者がM&A仲介手数料を節約するには、2つのポイントを押さえておく必要があります。
- 最低成功報酬額が低めに設定されているM&A仲介会社を選ぶ
- 報酬基準額を株式譲渡額に設定しているM&A仲介会社を選ぶ
4-1 最低成功報酬額が低めに設定されているM&A仲介会社を選ぶ
M&A仲介会社には、それぞれ最低成功報酬額が設定されています。最低成功報酬額とは、M&A仲介会社に支払いが必要な最低金額です。
つまり、レーマン方式により算出された成功報酬額に関わらず、「最低でもこの金額は支払ってください」という金額のことを指しています。

上図からも分かるように、最低成功報酬額の設定が高額なM&A仲介会社を選んでしまうと、レーマン方式で算出された成功報酬額以上の金額を支払わなければなりません。
M&A仲介手数料を抑えるためには、最低成功報酬額が低めに設定されているM&A仲介会社を選びましょう。
中小企業の場合は、最低成功報酬額が1,000万円以下に設定されているM&A仲介会社を選ぶことをおすすめします。
M&A仲介会社を選ぶ際には、自社がいくらくらいで売却できそうか、見積もりを取ることも大事ですね!
4-2 報酬基準額を株式譲渡額に設定しているM&A仲介会社を選ぶ
報酬体系だけでなく、成功報酬の計算方法にも注目が必要です。
3章でもお伝えした通り、成功報酬額を算出するための報酬基準額には、いくつかの種類があります。
中でも最も成功報酬額を抑えられるのが、株式譲渡額を報酬基準額として設定しているパターンです。
ただし報酬基準額については、聞かないと教えてもらえない場合があるかもしれません。見積もりをもらう際に、しっかりと確認しておいてください。
まとめ

M&Aの仲介手数料は、売り手・買い手それぞれM&A仲介を依頼した本人(または企業)が支払います。
仲介会社から請求された金額を支払うイメージですよ。
売り手と買い手で折半というわけではないのですね。承知しました。
M&A仲介手数料にはいくつかの項目があり、それぞれ支払うタイミングが異なる点に注意が必要です。
もしM&A仲介手数料をできるだけ節約したいと考えているのであれば、両手取引かつ完全成功報酬制を採用しているM&A仲介会社を選びましょう。
複数のM&A仲介会社で、具体的な金額を見積もってもらうと良いですよ。



