M&Aによる会社売却を検討し始めた際に、まず気になるのが「いったいどれくらいの期間を見込んでおけばよいのか」ということではないでしょうか。
- 無駄のないスケジュールで会社を売却したい
- スピーディーに会社を売却したい
このように考えている経営者も多いかと思います。
しかしM&Aによる会社売却を急いでしまうと大きな損失を被ることになりかねません。
この記事では、M&Aによる会社売却にかかる期間・平均的なスケジュール・M&Aをスムーズに進める方法について解説しています。
スムーズかつ希望の条件に近いM&Aを実現するために、ぜひ知っておいていただきたい情報ばかりです。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:M&Aによる会社売却には最低でも6ヶ月~1年以上の期間が必要
会社売却にかかる期間は売却する理由によっても変わってきますが、最低でも6ヶ月~1年は必要です。
なかには「なるべく早く会社を売却したい」と考えている経営者もいるかもしれませんが、焦りはM&Aの失敗に繋がりかねません。
また、業種・地域・希望条件などによって買い手企業の見つけやすさも変わってきます。
より希望に近い条件で会社売却をおこなうためにも、余裕のある期間を設定することをおすすめします。
2章:M&Aをスムーズにおこなうために必要な準備
M&Aをスムーズにおこなうためには、事前の準備が重要です。
準備がしっかりと整っていると、より理想に近いM&Aを実現できる可能性が高まるからです。
何をどのように準備したらいいのか、ひとつずつ解説していきます。
2-1 会社を売却しようと決意した動機の整理
会社の売却が成立するまでに、経営者はたくさんの意思決定をする局面に出会うことになります。
会社を売却する決意をした理由や背景を明確にしておくことで、判断に迷ったり状況が大幅に変化したりした際に有効な意思決定ができる可能性が高まるのです。
またM&Aによる会社売却をスムーズに成功させるために重要なポイントのひとつとして、交渉中にM&Aの目的がブレないことが挙げられます。
事業の継承や金銭の確保など、会社を売却する決断をした動機をしっかりと記録しておくことが重要です。
2-2 会社を売却する希望の時期を決定する
いつまでに会社を売却したいのか、あらかじめゴールを設定しておくことでやるべきことが明確に見えてきます。
経営者にとっても会社売却の意思がより固まり、会社売却へ向けて現実的に動き出す背中を押してくれるきっかけにもなるでしょう。
ゴールを設定することで会社売却プロセスの計画も立てやすく、よりスムーズなM&Aを実行できる可能性が高まります。
会社を売却するには最低でも6ヶ月~1年以上の期間が必要となります。
希望に近いM&Aを実現するためには、余裕を持った売却期間を設定してください。
2-3 会社を売却する条件に優先順位をつける
M&Aは買い手企業があって初めて成立するプロジェクトです。
買い手企業とスムーズに会社売却の交渉を進めるため、会社売却をおこなう際に重視する条件を整理して優先順位を付けておきましょう。
- 売却によって資金を得ること
- 従業員の雇用を守ること
- 事業継承をおこなうこと
- 会社をさらにに成長されること
重視する条件には上記のようなものが考えられますが、他にも色々と出てくることでしょう。また、優先したい条件次第で買い手企業との交渉内容も変わってきます。
どの条件を最優先にしてM&Aを進めていくのかを、しっかりと整理して確認しておくことが重要です。
2-4 財務内容の整理および事業計画の作成
M&Aによる会社売却をおこなう際には、財務状況を整理しておく必要があります。
これは、買い手企業から適切な価格評価を得るためにも非常に大切な作業です。
会社をよりスムーズに売却するために、以下の2点も同時に整理しておきましょう。
- 簿外債務の有無を確認しておく
- 不透明な取引がある場合は透明化しておく
買い手企業からすると、今後も成長が見込まれる会社を買収したいものです。
過去の業務実績だけでなく、将来の事業計画をしっかりと作成し「今後も成長していく会社」であることをしっかりとアピールできるように準備をしておきましょう。
2-5 会社の売却に関する必要な書類の準備
会社を売却するために必要な書類は売却手法によっても異なりますが、代表的な書類は以下のとおりです。
自社のことを知ってもらうための資料 | 自社をアピールできる資料(一番人気の商品や記事のURL等) |
事業計画書・中長期経営計画書 | |
会社の基本的な資料 | 会社案内・会社概要 |
定款 | |
商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書) | |
印鑑証明書(法人・代表者各1通) | |
株主名簿 | |
財務に関する資料 | 過去3期分の決算書 |
月次試算表(事業ごとに用意する) | |
顧客別売上高一覧 | |
事業セグメント別売上高一覧 | |
土地・借地権台帳 | |
人事に関する資料 | 組織図 |
役員の経歴書 | |
従業員名簿(氏名・年齢・勤続年数・給与) | |
就業規則などの各種規則 | |
契約に関する書類 | 取引先との契約書 |
賃貸契約書 | |
リースなどの契約書 | |
保険契約書 | |
許認可などの写し |
これらの資料が揃っていないと、企業価値の算出や企業概要書(IM)の作成などに時間がかかってしまうことになります。
その結果、M&Aの全体的な進行に遅れが生じてしまう原因となってしまうのです。
必要な時が来たら速やかに提出できるように、あらかじめ準備をしておいてください。
またこれらの資料を揃えることによって、自社の強みを分析し整理することができます。
自社の強みを整理しておくことは、買い手に自社の魅力をしっかりとアピールできることにつながります。
その結果、会社売却をより理想に近い条件で成功させられる手段にもなるのです。
2-6 信頼できるパートナーの選定
M&Aによる会社の売却は、高度な専門知識や豊富な経験を必要とします。しかしほとんどの経営者にとって会社を売却するということは初めての経験となるものです。
売却先の企業探し・必要な書類の選定・具体的な交渉などを自力で進めていくことは非常に困難な作業となります。
そこで重要なのが信頼できるパートナーを選定することです。
高度な専門知識と豊富な経験を持ったM&A業者に依頼することで、よりスムーズに理想に近いM&Aをおこなうことができる可能性が高まります。
自身の希望に寄り添い、M&A完了までの長い道のりを併走してくれる信頼できるパートナーを見つけましょう。
3章:M&Aをスムーズにおこなうためのスケジュール
M&Aのスケジュールというと複雑で難しいイメージがあるかもしれませんが、基本的にはM&A業者にお任せで大丈夫です。
ただし事前に大まかなスケジュールを把握しておくことで、やるべきことや考えるべきことの見通しが立てやすくなります。
この章では、基本的なM&Aのスケジュールとそれぞれにかかる平均的な期間を解説しています。
自社のケースに当てはめて全体像をイメージしてみるのも良いでしょう。
3-1 事前準備(2章の作業)
M&Aにより会社の売却を決断したらまず最初におこなうべきことは、2章で解説した事前準備です。
M&Aは、一旦プロジェクトが始まると怒涛のようにプロセスが進んでいきます。
各プロセスにスムーズに対応するため、また、納得のいく結果を得るためにしっかりと事前準備を整えておくことが非常に重要になってくるのです。
会社売却の決意を固めたら、事前準備として以下の6項目に取り組んでください。
- 会社を売却しようとした動機を整理する
- 会社を売却する希望の時期を設定する
- 会社を売却する条件に優先順位をつける
- 財務内容の整理および事業計画の作成
- 会社の売却に関する必要な書類の準備
- 信頼できるパートナーの選定
準備が整ったら、いよいよM&Aに向けて具体的なあゆみが始まります。
後悔の残る結果となってしまわないようにしっかりと準備を整えておきましょう。
3-2 M&A業者との契約~企業概要書の完成
信頼できるM&A業者が見つかったら、まずは契約が必要です。
業者との契約が完了したら、企業概要書(IM)の作成が始まります。
企業概要書とは、売り手企業の企業概要・事業内容・財務諸表などの詳細が記された書類です。
このとき同時にノンネームシート(NN)と呼ばれる書類も作成していきます。
ノンネームシートとは、売り手企業の概要を企業名を伏せてまとめた書類です。
どちらも買い手候補の企業に対し、売り手企業の魅力をアピールするために非常に大切な資料となります。
M&A業者との契約~企業概要書の作成までに必要な期間は、およそ1~3ヶ月程度となっています。
3-3 買い手探索~基本合意契約の締結
自社の魅力をアピールできる書類が揃ったら、M&A業者による買い手候補企業の探索がおこなわれます。
買い手企業候補を探索する第一段階として、まずはノンネームシートを資料として売却先の候補となる企業に買収の提案をおこなうのです。
ノンネームシートに記載されている内容に買い手側が興味を示したら、企業概要書を提示して買収の検討に入ります。
買い手側が売り手企業に興味を示し、双方が話を前に進めたいとの意向があれば、経営陣によるトップ面談がおこなわれます。
そこでお互いに納得のいく相手であれば条件面での調整に入り、売り手が条件に納得し合意すると、基本合意契約書の締結となるのです。
買い手を探し始めてから基本合意契約に至るまでの平均的な期間は、およそ2~4ヶ月ほどです。
買い手がなかなか見つからなかったり、条件面の調整が難航したりした場合にはさらに長い期間が必要になってくることもあります。
3-4 デューデリジェンス(買収監査)
基本合意契約書を締結したら、デューデリジェンス(買収監査)が実施されます。
デューデリジェンスは買い手企業が売り手企業を買収するかどうかを最終的に判断するために実施され、以下のような項目について調査がおこなわれます。
- 企業の正しい価値
- 買収により想定されるリスク
- 買収により期待できる収益性
ただし買収対象となる会社によって調査する項目が変わってくるため、明確な決まりがあるわけではありません。
またデューデリジェンスの結果によっては、条件面の再交渉がおこなわれることもあります。
デューデリジェンスに要する期間は、1ヶ月~1か月半程度が一般的です。
(場合によっては2か月ほどかかるケースもあります)
3-5 最終条件交渉~クロージング
- 上記の一連の作業が無事に完了した
- 取締役会・株主総会での承認が得られた
- 買い手・売り手ともにM&Aを実行することが決定した
以上3点の条件が揃ったら、最終的な条件や内容を取り決めた最終譲渡契約書を締結します。
最終譲渡契約書の締結がおこなわれたらいよいよクロージング作業に入ります。
クロージングとは、経営権を移転する諸々の手続きのことです。
例えば株式譲渡の場合では、株式の譲渡によって経営権の移転がおこなわれるといった具合
いです。
最終条件交渉~クロージングにかかる期間はおよそ1~3か月程度となっています。
4章:スムーズ=短期間ではない!M&Aに焦りは禁物
スムーズなM&Aとは、決して短期間で完了することではありません。
逆に会社売却を焦ってしまうと大きな損失に繋がってしまう可能性があります。
ここではM&Aによる会社売却を焦ったときに起こり得る失敗例について解説します。
4-1 会社売却のタイミングを誤ると売却価格が目標に届かないことも
実は会社売却には「高く売れやすい時期」が存在します。
それは自社が属する業界や、類似する事業をおこなっている上場会社の株価が高い時です。
類似する上場会社の評価が高い時期には業界全体への需要が高まり、良い結果を得られる可能性が大きくなるのです。
逆に類似する上場会社の株価が低い時期には、業界全体への需要も低くなりやすい傾向があります。
その結果、売却価格が目標に大きく届かないといった事態が発生する可能性が出てくるのです。
会社売却を焦るあまり、タイミングを見誤ることのないよう注意が必要です。
4-2 持ち込まれた話に乗ってしまい損をする可能性
「早く会社を売却したい」という思いから、持ち込まれた話に安易に乗ってしまい損をしてしまう可能性があります。
本来なら満足できない売却価格でも、売却への焦りやその場の勢いで安値で売却してしまうと取り返しがつきません。
会社売却の失敗を避けるためには、自身の希望に近い価格や条件で買収を検討してくれる企業が現れるまで「待つ」ことも必要です。
そのためには、売却価格や条件などの目標を明確に設定しておきましょう。
4-3 準備不足により買い手企業から不当な評価を受ける可能性
準備不足が原因で自社の魅力をしっかりとアピールすることのできる企業概要書やノンネームシートが完成していないと、買い手企業から低い評価を受けてしまう可能性があります。
また評価が下がることを恐れて情報の開示を怠った場合にも、M&Aそのものが破談になったり損害賠償請求を受けたりなどのトラブルに発展する恐れがあります。
良いところも悪いところも、包み隠さず全ての情報を公開しましょう。
4-4 売却を焦るあまり買い手側に優位に立たれてしまう可能性
M&Aでは基本的に買い手側の力が強く、条件などの交渉を優位に進める傾向があります。
ただでさえ買い手側が強い状況なのに売り手側に「早く売りたい」という気持ちが強く働いていると、買い手企業に譲歩し過ぎた契約内容になってしまう可能性が高まります。
その結果として売却価格が当初の目標を大きく下回ってしまったり、売り手企業内で交渉への不満が発生し内紛が起こったりするケースが出てくるのです。
さらに売り手企業内で内紛が起こった結果、買い手側との交渉が進まなくなり最悪の場合はM&Aが破談になってしまうという事態に発展する恐れも考えられます。
交渉において意思がブレることのないように、譲れないポイントはしっかりと整理をして優先順位をつけておきましょう。
まとめ
M&Aによる会社売却には、最低でも6ヶ月~1年以上の期間が必要です。
また、焦ってM&Aを進めてしまうと失敗に繋がる可能性もあります。
納得のいく結果を出すためにはしっかりと準備をおこない、M&Aへのビジョンを明確にしておきましょう。