近年では中小企業のM&Aが増えています。しかし年商が低いからと、会社売却を諦めている経営者様もいるのではないでしょうか。
年商が低い会社は買い手が付かないイメージがあります。しかし小さな会社とはいえ愛着のある会社です。会社存続のために、可能であれば売却したいです。
実は、年商が低い会社でもM&Aで売却は可能です。
そこでこの記事では、会社売却が可能な最低年商の目安や、年商が低い会社をより良い条件で売却するコツを解説します。
「会社を存続させたいけれど年商の低さが気になっている」という経営者様は、ぜひこの記事をチェックしてくださいね。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:会社売却できる最低年商はいくら?
会社売却が可能な最低年商については、実は明確な基準がありません。しかし過去には、営業利益が数百万円規模の会社でもM&Aに成功した事例があります。
ということは、年商の低い零細企業でもM&Aで会社売却できる望みはあるということですね。
その通りです。零細企業でも、廃業を考える前にM&Aを検討する余地はありますよ。
ただし、社員がゼロもしくは1~2名程度の会社の売却は難しいでしょう。またそのような会社は売却に成功しても、売却価格がかなり低くなると予想されます。
なぜなら社長が1人で切り盛りしている状態に近い会社は社長への依存度が高く、経営者が交代すると事業に大きな影響を与えることが考えられるからです。
つまり、社長がいないと経営はおろか日常業務も回らないような会社は、売却しづらいということですね。
その認識でOKです。買い手としては、社長がいないと回らない会社を買収したいとは思えないのです。
2章:年商から会社の売却価格目安を算出する方法
会社を売却したいと考えている経営者様にとって、「自社がいくらくらいで売れるのか」という点は気になるポイントかと思います。
最終的に会社の売却価格を決めるのは買い手ですが、ざっくりとした目安を知りたいという方は、下記の計算式に自社の数値を当てはめて計算してみてください。
時価純資産+営業利益の2~5年分
上記の計算式でポイントとなる点は、純資産額が時価である点と、年商ではなく営業利益である点の2つです。
時価純資産とは、時価換算した資産から時価換算した負債を差し引いた金額のことですよ。
なるほど。しかし売却価格の目安が見えると、売却すべきかどうかの判断もできそうですね。
M&A仲介会社に手数料を支払った後に残る金額の目安がつかめれば、M&Aへ舵を切る決断もできますよね。
3章:年商の低い会社を売却するメリット
年商の低い会社は、売却価格も低くなりやすいですよね。そのような会社を売却することで得られるメリットについて教えて下さい。
分かりました。年商の低い会社を売却する背景には、売却益の受け取りよりも重要度の高い目的を持っているケースが多いんですよ。
年商の低い会社を売却するメリットとしては、主に以下の4点が挙げられます。
3-1 後継者が不在でも事業承継できる
会社売却は、売り手が買い手へ自社の株式を売却し、経営権を譲渡する仕組みです。
(M&A用語では株式譲渡といいます)
M&A後の経営は買い手が担っていくことになるため、売り手が後継者を立てる必要がなくなります。
そのため、後継者不在ではあるが会社を存続させたいと考えている経営者が、会社売却を選択するケースが増えているのです。
少子高齢化などが原因で後継者不在に悩む中小企業や零細企業が増えているのに伴い、事業承継目的のM&Aも増えているんですよ。
3-2 少額ながらオーナーが売却益を得られる
会社の規模が小さければ、売却価格も少額になるケースがほとんどです。
しかしたとえ少額であっても、経営者が売却益を得られる点は会社売却のメリットだといえるでしょう。
会社売却の際は、経営者個人が売却益を受け取ります。個人が受け取る以上、使い道も個人の自由です。
3-3 従業員の雇用を守れる
会社売却では、従業員の雇用もそのまま買い手へと引き継がれるケースが多くを占めています。
3-1でも少し触れていますが、会社売却で変わるのは経営者だけです。会社自体は何も変わらないので、従業員の雇用もそのままというわけです。
なるほど。従業員が雇用契約を結んでいるのは会社ですものね。
その通りです。売り手の経営者は会社売却で経営権を買い手へ譲渡することで、従業員の雇用を守りながら自身の後継者問題が解決できるというわけです。
会社売却は後継者不在の問題に悩んでいる経営者にとって救世主のような存在じゃないですか!
3-4 新たな事業を開始できる
会社売却で会社を手放し経営から退くことで、売り手は自由な時間が手に入ります。
手にした売却益を新たな事業への資金にする経営者様もたくさんいらっしゃいますよ。
選択したM&Aスキームや締結した契約内容によっては、一定期間同じ地域で同じ種類の事業ができない点に注意(競業避止義務)
特に事業譲渡で会社の事業を売却した際は、向こう20年間は同一市町村と隣接する市町村の区域内で同業種の事業を行えません。(会社法21条)
近年では、自ら立ち上げた会社をある程度成長させたらM&Aで売却し、自身は新たな事業を立ち上げるというシリアルアントレプレナーの存在も注目されています。
4章:年商の低い会社を売却するスキーム(手法)
年商の低い会社を売却する際は、会社を丸ごと売却する株式譲渡と会社の一部を売却する事業譲渡のどちらかを使用するケースが多くを占めています。
4-1 株式譲渡
株式譲渡とは、経営者が所有している株式を売却することで、会社の経営権を第三者へと譲渡するスキームです。
売り手(売主) | 株主(中小企業の場合は社長が多い) |
譲渡対象 | 対象企業の経営権 |
譲渡対価の受け取り | 株主 |
つまり会社の経営権を売却して、対価は株主である社長が受け取るということですね。
そのイメージでOKです。社長が会社の経営を第三者へ託したいときにピッタリのスキームですよ。
株式譲渡は経営者が所有している株式を買い手へ売却するだけなので、手続きが簡単に済ませられるメリットを持っています。
4-2 事業譲渡
事業譲渡とは、会社が行っている事業の一部または全部を、第三者へと売却するスキームです。
売り手(売主) | 会社 |
譲渡対象 | 細かく設定する |
譲渡対価の受け取り | 会社 |
株式譲渡との違いは、売り手=事業を売却する会社になることです。そのため譲渡対価は会社が受け取り、会社の利益として計上されます。
また、譲渡する対象が細かく設定されるため、手続きが煩雑になりやすい一面を持っています。
手元に残しておきたい資産がある場合や、逆に負債を残して事業だけを手放したい場合に利用されることの多いスキームです。
5章:年商の低い会社を売却する際の注意点
M&Aで会社売却を行う際には、情報漏洩や売却タイミングに注意が必要です。さらに、M&A仲介会社へ支払う手数料についても留意してください。
以下でそれぞれの詳細を解説します。
5-1 情報漏洩に注意する
M&Aには「M&Aは秘密保持に始まり秘密保持に終わる」という言葉があるくらい、秘密保持が重要です。
年商の低い会社は規模も小さいことが多いため、良い意味でいうと「風通しの良い」会社が多く見受けられます。
しかし逆に「情報が筒抜けになりやすい」というリスクを背負っているため、特に気を付けなければなりません。
万が一「M&Aで会社売却をする」という情報が外部に漏れた場合には、以下の悪影響が起こる可能性があります。
- 従業員の大量退職
- M&Aの破談
- 会社の倒産
どれも会社にとって致命的なことばかりですね、
非常に恐ろしい情報漏洩ですが、最も大きな原因が社長の言動にあることはあまり知られていません。
- デスクにM&Aの資料を置きっぱなしにしていた
- 社長のメールアドレスを秘書と共有していた
- 知り合いの経営者に冗談交じりでうっかり話してしまった
- M&Aコンサルタントとの会話を従業員に聞かれてしまった
上記のような行動が情報漏洩につながるため、M&A交渉中は特に気を付けて行動したいものです。
その他にも情報漏洩の引き金として、従業員・知り合いの社長・買い手候補企業・M&Aマッチングサイトなどが挙げられます。
情報漏洩を防ぐために、M&Aの最終契約を締結するまでは一切誰にも話さない覚悟で臨むと良いでしょう。
5-2 慌てて安売りしない
会社売却には、高く売れやすい時期とそうでない時期が存在します。
- 業績が伸びている時期
- 業界の需要が高まっている時期
会社の業績が伸びている時期は納得です。業界の需要が高まっているかどうかはどのように判断するのでしょうか?
上場企業の株価が1つの目安になりますよ。同業の上場企業の株価が上がっているタイミングが、高く売れやすい時期の目安だといえます。
また「とにかく早く売却したい」と慌ててしまうと、実際の企業価値より低い金額での取引となってしまう可能性があります。
年商の低い会社を少しでも良い条件で売却するためには、慌てずに売却時期をしっかりと見定めたいものです。
5-3 M&A仲介会社の最低成功報酬額に注意する
M&A仲介会社へ支払う手数料のうち、成功報酬についてはどの会社でも必ず支払いが必要になります。
ここで注意したいのが、成功報酬には最低成功報酬額が設定されている点です。
会社の売却価格に関わらず、M&A仲介会社へ支払う必要のある最低金額
通常M&A仲介会社へ支払う成功報酬額は、最終譲渡契約で成立した譲渡価格から算出されます。
そのため譲渡価格によって、成功報酬額は変わります。
しかし譲渡価格から算出された成功報酬額がM&A仲介会社の設定する最低成功報酬額を下回った場合は、最低成功報酬額を支払わなければなりません。
例えば上の図を見てください。
売却価格が5,000万円となった場合、レーマン方式(成功報酬額の計算方法)で算出された成功報酬額は250万円です(M&A仲介会社により前後する可能性あり)。
最低成功報酬額が250万円のM&A仲介会社Aの場合は、支払う報酬額がレーマン方式で算出された250万円となります。
しかし最低成功報酬額が2,500万円のM&A会社Cの場合だと、レーマン方式で算出された250万円ではなく、2,500万円の支払いが必要になるのです。
これは…。M&A仲介会社次第で、手元に残る金額に大きな差が出てしまいますね。
そうなんです。さらにここから税金の支払いが必要になるため、実際の手取りはもっと少なくなりますよ。
年商の低い会社は売却価格が低くなりやすい特徴を持っているため、成功報酬が最低成功報酬額を下回らないように注意が必要です。
M&A仲介会社と仲介契約を結ぶ際には、最低成功報酬額が低く設定されているM&A仲介会社を選びましょう。
6章:年商の低い会社をより良い条件で売却するコツ
年商の低い会社をより良い条件で売却するためには、買い手やM&A仲介会社との相性が重要です。
6-1 買い手に強みをアピールする
M&Aでは、企業どうしの統合により売上などが飛躍的に成長することがあります。このようにM&Aで1+1=2以上の効果が得られることを、シナジー効果と呼んでいます。
買い手企業はシナジー効果を見込める会社を買収したいと考えているため、自社が買い手にシナジーを与えられる会社である旨をアピールをすると効果的です。
- 高い技術力や営業力
- 優秀な人材
- 独自の流通ルート
- 魅力的なブランド名や特許 など
「自社を買収するとこんないいことがありますよ」というポイントを積極的にアピールしていきましょう。
年商や会社の規模以外で勝負するということですね。
6-2 零細企業のM&Aに強い仲介会社に相談する
M&A仲介会社にはそれぞれ、得意な業種・スキーム・企業規模を持っています。
5-3でも少し触れましたが、規模の小さな会社は零細企業のM&Aに強みを持っているM&A仲介会社へ相談しましょう。
そのようなM&A仲介会社はたいていの場合、成功報酬額も低く抑えられています。
たしかに成功報酬を支払ったら手元にお金が残らなかった…という事態に陥ったら悲しすぎます。
ですよね。それに零細企業のM&Aに強みを持った仲介会社なら、零細企業の魅力を存分に引き出した取引が実現できる可能性が高まります。
零細企業に強いM&A仲介会社を見分ける方法はありますか?
ホームページに明記されていることもありますし、最低成功報酬額も1つの目安になりますよ。
最低成功報酬額が250万円~500万円程度に設定されているM&A仲介会社であれば、零細企業のM&Aに強みを持っている可能性が高いといえるでしょう。
まとめ
年商が低い会社でも、M&Aで売却が可能です。売却可能な最低年商についての明確な基準はありませんが、過去には営業利益が数百万円規模の会社がM&Aに成功した事例があります。
ざっくりとした売却価格の目安を知りたい場合は、下記の計算式に当てはめて計算してみましょう。
時価純資産+営業利益の2~5年分
上記の計算式で算出された金額から、M&A仲介会社へ支払う手数料と課税される税金を差し引いた額が、経営者の手元に残る金額の目安となります。
M&A仲介会社が設定している最低成功報酬額には注意してください。
年商の低い会社を売却する際には、零細企業のM&Aに特化した仲介会社を選ぶと良いでしょう。
また、買い手にしっかりと強みをアピールすることで、より良い条件でのM&A成立が期待できます。
規模の小さな会社でも諦めずに、まずは専門家に相談してみてください。