非上場の中小企業を経営しているオーナーの中には、後継者不在などを理由にM&Aで会社の売却を考えている方も多いのではないでしょうか。
M&Aを検討している経営者様に覚えておいていただきたい事項の1つに、自分以外の株主の存在が挙げられます。
私がオーナーなので全ての株式を持っているのですが、それが何か問題になるのでしょうか。
実は、オーナーの知らないところで他に株主が存在しているケースがあるのです。
自分以外にも株主が存在した場合、その数によってはM&Aの実行そのものができなくなってしまう可能性もあるため注意が必要です。
そこでこの記事では、自分以外に株主が存在するかどうかを確認する方法や、株主に対する適切な対応について詳しく解説しています。
M&Aに反対する株主への対処法もご紹介していますので、スムーズなM&Aを成功させられる道標となるでしょう。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:自分以外に株主がいてもM&Aは実行できる?
中小企業の多くはオーナーが経営している会社となっているため、全ての株式をオーナーである社長が所有しています。
しかし中には株式の一部を親族が持っている場合があるほか、経営が長い会社では従業員の一部に株式を所有させるケースが発生することもあります。
その結果、自分以外に株主がいる状態が生まれるのです。
自分以外の株主がいる場合、M&Aで会社売却は実行できないのでしょうか?
ご自身が所有している株式の割合によりますが、中小企業の場合だと会社売却できるケースが多いですよ。
全株式の3分の2以上を所有していればM&Aの実行が可能
M&Aでは株主総会の特別決議が必要になることがありますが、持ち株比率が3分の2を超えていれば、単独で可決する権利を有しています。
そのためオーナー自身が3分の2以上の株式を所有していれば、オーナーの一存でM&Aの実行が可能です。
2章:自分以外に株主がいると分かったら確認すべきこと
実は、親や第三者から会社を継いでいる場合だと、自分が把握していないところで自分以外にも株主が存在する可能性があります。
そのためM&Aの実行を検討し始めたら、株主が本当に自分だけであるか確認しておくと良いでしょう。
株式の売買に関わる書類や、古い入金記録などを調べてくださいね。
もし自分以外に株主がいることが判明したら、さらに以下の項目について調査を実施してください。
- 自分以外の株主を特定する
- 自分以外の株主が本当に株主であるかを確定させる
2-1 自分以外の株主を特定する
自分以外にも株主がいるらしいことが分かったら、まずはその株主を特定する必要があります。
- 株主の氏名・連絡先
- 存命かどうか
- 所有している株式の割合
主に上記3点についてを明らかにしておきましょう。
氏名や連絡先を調べる必要は何となく分かりますが、存命かどうかを調べる必要もあるんですか?
何代か続いている会社の場合だと、株主が既に他界している可能性もあるからです。
株券の発行がない中小企業の場合は、株主自身が株主だということを忘れている可能性も少なくありません。
そのため自身が株主だという自覚がないまま相続もせず他界していた、というケースもよくあることなのです。
また、自分以外の株主が所有している割合にも注意しなければなりません。
もし自分以外が所有している株式の割合が、トータルで3分の1以上になることが判明した場合は、オーナーの一存でM&Aを実行できなくなってしまうからです。
2-2 自分以外の株主が本当の株主なのかを確定させる
自分以外の株主について特定ができたら、果たしてその株主が本当に株主であるかどうかを確認する必要があります。
株主は株主ですよね?本当の株主とはどういうことなのでしょうか。
実は、名義だけの株主というものが存在するのです。
昔の商法では、会社設立時に7名以上の発起人が必要でした。
7名という頭数を揃えるために、本当は出資していないにもかかわらず、形式上では出資したように見せている場合があるのです。
なるほど。株主として名を連ねていても、実は出資していないということがあり得るのですね。
そうなんです。このような株式は「名義株」と呼ばれています。
3章:M&A実行時に自分以外の株主への適切な対応は?
中小企業のM&Aでは、買い手が売り手対象企業の100%の株式取得を望むケースが多くを占めています。
そのため売り手オーナーが100%の株式を取得していない場合は、自分の元へ全ての株式を集める作業が必要になるのです。
ただし、たとえ100%の株式を取得できなくても、反対する株主がいなければ比較的スムーズにM&Aを実行できる方法があります。
ここでは、M&Aを実行するために自分以外の株主へ行うことについて確認していきましょう。
3-1 自分以外が所有している株式を買い取る
自分以外に株主の存在が明確になった場合に最も適切な対処法として考えられることが、分散した株式の買い取りです。
なぜなら、社長自身が100%株主となることで、スムーズなM&Aが実現できるからです。
たしかに自分が100%の株主であれば、全て自分の一存で決められますものね。
M&A後の将来を考えても、100%の株式を買い手へ譲渡できることが最善です。買い手もそれを望んでいるケースが多いですよ。
非上場の会社の場合、株式の買い取り価格に関しての法律上明確な指針がありません。そのため当事者が合意した価格で株式を買い取ることになります。
3-2 自分以外の株主に委任状を書いてもらう
株式の買い取りに同意が得られないケースでは、自分以外の株主にM&Aの実行をオーナーに一任する旨の委任状を書いてもらいましょう。
そうすることで、オーナーが株主全員の代理人として株式譲渡契約書への調印が可能になるのです。
自分以外の株主に書いてもらう委任状は、後のトラブルを回避するために実印を押印して、印鑑証明書の提出を受けておきましょう。
後になって「自分は委任状なんて書いてない」と言い張る人が現れないようにするためですね。
4章:M&Aに反対する株主がいる場合の対処法
自分以外の株主が反対していても、オーナー自らが全株式の3分の2以上を所有していればM&Aの実行が可能です。
しかし買い手側からすれば、たとえ少数でもM&Aに反対している株主がいる状態での買収は避けたいところです。
反対株主が少数ならM&Aに支障はないのですよね?
単独株主権や少数株主権を行使される可能性があるため、買い手としては用心したいところなのです。
また、株式の分散によって買い手が100%もしくは100%に近い数の株式を取得できない場合、M&A交渉そのものが決裂する可能性もあります。
そのためM&Aに反対する株主の存在には細心の注意を払い、理解を得られるように努める必要があるのです。
4-1 株式の買い取りを打診する
M&Aに反対している株主への最も平和で友好的な解決策として、株式を買い取る方法が挙げられます。
適正価格で株式を買い取る代わりに、M&Aに納得してほしい旨を伝える
ただし株式の買い取りは強制できないため、M&Aに反対している株主が納得しなければ実行できません。
4-2 株式併合を実施する
複数の株式を1株にまとめること。
株式併合の例として、1万株を発行している会社が、100株を1株に併合するケースが挙げられます。
株式併合により、1万株が100株になるというわけです。
その際に100株に満たない株式は端株となり清算され、議決権となる株式を失います。
つまり、反対株主が所有する株式を端株として清算することで、反対株主を追い出してしまおうというわけですね。
過激な表現をするとそうなりますね。ただしそれではあまりにも理不尽なので、反対株主から訴訟を起こされるリスクをはらんでいます。
たしかに。併合する側としては手っ取り早くて簡単そうなのですが、反対株主からすると理不尽かつ強引なやり方ですよね。
そうなんです。反対株主から訴訟を起こされるリスクを回避するために、株式併合を実施する際には正当な理由を検討する必要がありますよ。
4-3 自社株式を全部取得条項付株式へ転換する
一定の事由が生じたことを条件として、会社が一方的に株主から買い取れる株式のこと
株式自体を全部取得条項付種類株式に転換してしまえば、会社は一定事由の発生で株主から強制的に全株式の買い取りが可能になります。
ものすごい力技ですね…。
実は手続きが難しい面もあり、実務的にはあまり利用されてはいません。「最終的にはこんな方法もある」くらいに思っておくと良いですよ。
まとめ
自分以外に株主がいることが判明しても、自分が全株式の3分の2以上を所有していればM&Aの実行は可能です。
ただし、M&Aで買い手は売り手企業の100%もしくは100%に近い株式取得を望むケースが多くを占めています。
そのため、M&A実行までに自分以外の株主が所有している株式を買い取るなどの対策が必要になるのです。
自分以外に会社の株を持っている存在が明らかになった場合、まずはその株主について詳細を調べましょう。
その上で「本当に出資している株主か」を確認する必要があります。
名義株ではなく出資の事実をともなう株であった場合には、株式を買い取る打診を行います。
もし買い取りに承諾が得られない場合は、M&A実行の判断を一任する旨の委任状を買いてもらいましょう。
M&Aに反対する株主が現れた場合は、株式併合を実施したり株式を全部取得条項付種類株式にしたりするなどの方法がありますが、少々強引なやり方です。
平和的で友好的なM&Aを実現するために、できる限り反対株主の株式を適正価格で買い取ることで解決を図ってください。
自分以外に株主が存在する事実が判明したら、担当のM&Aコンサルタントへすぐに相談してくださいね、