M&Aは、実行をサポートする専門家の存在が欠かせません。そしてM&Aの成功は、依頼する専門家にかかっているといっても過言ではありません。
M&Aを成功させる上で重要な相談先選びですが、どこへ相談したらよいのか迷う方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、M&Aの相談先9選をご紹介し、それぞれのメリット・デメリット・相談内容・かかる費用についても解説しています。
M&Aの相談先に迷っている方は、ぜひお役立てください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:M&Aの相談先9選
M&Aには専門知識や経験が必要です。そのためM&Aに関する悩みや質問が発生した際には、専門機関への相談が欠かせません。
とはいえ、どこに相談したら良いのか分かりません。
そこでこの記事では、まず最初にM&Aの相談相手を9つご紹介します。
1-1 M&A仲介会社
M&A仲介会社はM&Aを専門に取り扱う会社です。売り手・買い手双方の橋渡しを行う役目を担っており、中立的な立場でM&A取引の成立を目指します。
ひとくちにM&A仲介会社といっても、それぞれの会社ごとに得意な業種やM&Aスキーム(手法)が異なるため、自社に合った仲介会社に相談すると良いでしょう。
○M&A仲介会社へ相談するメリット
メールや電話などでの無料相談を受け付けているM&A仲介会社も多く、気軽に相談しやすい点がメリットです。
また、M&A仲介会社は相手探し・資料作成・交渉の取りまとめなどをトータルでサポートしてくれるため、M&Aの初心者でも安心して任せられるでしょう。
さらに、幅広いネットワークを持っているM&A仲介会社も多く、多数の候補からM&Aの相手を見つけることができます。
○M&A仲介会社へ相談するデメリット
デメリットとしては、仲介会社選びの難しさが挙げられます。
中には着手金や契約数欲しさに、契約を急がせるような対応を取るところもあるようです。
また売り手・買い手双方の間に立って交渉を進めるため、希望の売却価格に届かないままM&Aが成立するケースがあることも、M&A仲介会社のデメリットだといえるでしょう。
1-2 マッチングサイトなどのプラットフォーム
マッチングサイトなどのプラットフォームとは、ウェブ上で売り手・買い手それぞれが自分でM&Aの相手企業を探せるサービスです。
売り案件・買い案件がデータベース化されているため、絞り込み条件を入力すると簡単に相手候補企業を探すことができます。
○プラットフォームへ相談するメリット
プラットフォームへ相談する最大のメリットといえば、やはり気軽にM&Aの相手探しができることです。
パソコンはもちろんスマホからでも操作が可能であり、時間や場所を選びません。
さらには仲介会社やFAなどを介さず自分自身で交渉できるため、M&Aにかかる費用が抑えられる点もメリットです。
自身での交渉が難しい方は、プラットフォームの運営先による支援を受けられますよ。ただし、別途料金がかかる点は覚えておきましょう。
○プラットフォームへ相談するデメリット
基本的に当事者同士で交渉を進めていくことになるため、M&Aや法律に関する知識が必要です。
そして万が一交渉中にトラブルが起こった場合でも、当事者間同士での解決が求められます。
そのため専門家に依頼した場合と比べて、失敗のリスクが上がります。この点がプラットフォームへ相談する最大のデメリットだといえるでしょう。
1-3 事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは、近年の中小企業における事業承継問題を解決すべく、2021年4月に全国に設置された公的な相談窓口です。
M&Aや親族内承継など事業承継に関するあらゆる相談ができ、M&Aのマッチング支援や仲介会社への取次ぎなどのサービスも受けられます。
○事業承継・引継ぎ支援センターへ相談するメリット
事業承継・引継ぎ支援センターは国が運営しており、無料で相談できる点がメリットです。
また、相談窓口は47都道府県全てに設置されているため、地方の企業でも利用しやすくなっています。
必要であれば、民間のM&A仲介会社を紹介してもらえる点もメリットだといえるでしょう。
さらに、全国のセンターは連携しているため、離れた地域間でのマッチングもサポート可能です。
○事業承継・引継ぎ支援センターへ相談するデメリット
事業承継・引継ぎ支援センターではマッチング支援を受けられますが、プラットフォームとは異なり、ホームページ上で経営者自身がM&Aの相手候補を探すことはできません。
また、M&Aの進め方についてのアドバイスや相手企業の紹介は受けられますが、仲介のサポートには対応していません。
条件等のすり合わせや必要書類の作成などは、必要に応じて専門家の紹介を受けることになります。
1-4 商工会・商工会議所
商工会・商工会議所も公的な窓口で、地域の中小企業に対してM&Aに関する相談を受け付けています。
事業承継M&Aがメインで、中小企業庁により策定された「中小M&Aガイドライン」においても、支援機関の1つとなっています。
○商工会・商工会議所へ相談するメリット
商工会・商工会議所は中小企業に関する業務経験が豊富なため、中小企業同士のM&Aに強みを持っている点がメリットです。
中小企業の経営者に寄り添った支援が期待できますよ。
○商工会・商工会議所へ相談するデメリット
商工会・商工会議所は会員制度となっており、会員でなければM&Aの相談ができません。
また、会員になるためには会費が必要です。
会員になれば無料で相談できますが、そもそも会員になるために費用がかかる点がデメリットだといえます。
1-5 金融機関
近年では商業銀行や証券会社などの金融機関がM&A支援の専門部署を置くケースも増えており、フィナンシャル・アドバイザー(FA)の役割を担っています。
取引している金融機関がM&A支援の部署を持っている場合は、相談先の1つとして候補に挙げても良いでしょう。
○金融機関へ相談するメリット
資金調達に関しての専門的なアドバイスを受けられる点が、金融機関へ相談する最大のメリットだといえます。
身内で事業承継を行う場合や、買収資金を必要としている買い手にとっては、大きなメリットになりますね。
○金融機関へ相談するデメリット
基本的に金融機関が取り扱うM&Aは大型案件が多いため、中小企業のM&Aには向いていません。
また金融機関のM&AはFA方式を採用しているケースが多く、報酬が高額になりやすい点もデメリットだといえるでしょう。
1-6 FA(フィナンシャルアドバイザー)
FAはM&Aを検討している企業や経営者に対して、計画の立案からクロージング(成約)に至る一連のサポート業務を行います。
FAは売り手もしくは買い手のどちらかと個別に契約を結び、一方のみのM&Aをサポートすることが特徴です。
○FAへ相談するメリット
FAへ相談する最大のメリットは、利益の最大化が期待できる点です。
FAはM&A仲介と違い、売り手・買い手どちらか片方とアドバイザリー契約を結びます。
そのため依頼者の利益が最大になることを目的として、交渉を進められるのです。
○FAへ相談するデメリット
FAは大型のM&A案件を中心に取り扱っているため、中小企業のM&Aはサポートの対象外となっていることも多いです。
また、売り手・買い手どちらか一方との契約になることから、報酬も高額になりやすい点がデメリットだといえるでしょう。
自社の利益を最大化できる点をメリットとして挙げましたが、その一方で折り合いが付きづらく、交渉が長引きやすい一面も持っています。
1-7 公認会計士・税理士
M&Aの相談相手として、公認会計士や税理士など士業の人たちも選択肢の1つです。
M&Aで欠かせないプロセスの1つにデューデリジェンスが挙げられます。
デューデリジェンスとは買い手企業が売り手企業の実態を調査することで、あらゆるリスクの洗い出しや最終的な買収価格の算出を行います。
公認会計士は財務デューデリジェンスを、税理士は税務デューデリジェンスを担当することから、M&Aの相談先として候補に挙げられるというわけです。
○公認会計士・税理士へ相談するメリット
ほとんどの企業は顧問会計士あるいは税理士を抱えており、信頼関係が構築できているケースが多く、相談しやすい点がメリットです。
○公認会計士・税理士へ相談するデメリット
M&Aに詳しい公認会計士や税理士の存在の方が珍しいため、顧問に相談する際は、M&Aを得意としている可能性が低い点を承知しておく必要があります。
また、デューデリジェンスの専門家ではありますが、M&Aの相手探しに関して長けているとは限りません。
そもそも相手探しの相談はサポートしていない可能性があるため、相談可能な項目については確認が必要です。
公認会計士や税理士にM&Aの相談をするならば、M&Aの仕事をしている人がおすすめです。
1-8 弁護士
M&Aでは複数の契約を締結する場面があり、法律の専門知識が必要です。
法律の専門家である弁護士に相談すれば、法的な観点から適切なアドバイスが受けられます。
最近ではM&A支援を行う弁護士事務所も増えているため、M&Aの相談先として選択肢の1つに挙げられるでしょう。
○弁護士へ相談するメリット
弁護士へM&Aの相談を行う最大のメリットは、各種契約書を確実に正しく作成してもらえることです。
M&Aでは秘密保持契約(NDA)・基本合意契約・最終譲渡契約など複数の契約書を作成します。
これらの内容に少しでも不備があると後のトラブルへとつながる可能性があるため、法的な観点から間違いのない契約書を作成してもらうことは大変重要です。
また、万一トラブルが生じて法的な解決が必要になったときは、支援を依頼することも可能です。
○弁護士へ相談するデメリット
弁護士はあくまでも法律の専門家であり、M&Aの専門家ではありません。
M&A支援の相談を受け付けている弁護士事務所であっても、経験やノウハウが十分でない可能性があります。
さらに財務や税務に関するサポートを受けるためには弁護士と平行して公認会計士や税理士への依頼が必要になるため、管理が煩雑になってしまいます。
1-9 知り合いの経営者
同じような境遇に悩んでいる知り合いの経営者は、気軽に相談しやすい相手だといえます。もし身近にM&Aの経験がある経営者がいれば、経験者としてのアドバイスを期待できるでしょう。
○知り合いの経営者へ相談するメリット
知り合いの経営者へ相談するメリットは、何といっても気軽に話を持ちかけられることです。
また相談相手がM&A経験者の場合、リアルな体験談を直接聞ける点は非常に貴重です。
○知り合いの経営者へ相談するデメリット
知り合いの経営者へ相談する最大のデメリットは、情報漏洩のリスクが高い点です。
「ここだけの話」がいつの間にか周囲へ広まってしまった、ということにならないためにも、相談する相手は慎重に選びましょう。
また、知り合いの経営者はM&Aの専門家ではありません。
そのためM&Aについての具体的な相談をしたり、専門的なアドバイスを受けたりすることは難しいでしょう。
2章:M&Aに関する相談の内容とは?
M&Aの検討をしているものの、実際に相談となると何から聞けばよいのか分からなくなりがちです。
そうそう。何を相談したら自分の求めているアドバイスが受けられるのか、具体的に知りたいです。
そこでここではM&Aの相談内容について、よくある項目をまとめました。
主に中小企業の経営者が、売り手としてM&Aを検討しているケースを想定しています。
2-1 そもそもM&Aを実施すべきかどうかの相談
M&Aの実施そのものについて悩んでいるときは、専門家へ相談すると良いでしょう。
中小企業がM&Aの実施について相談する際には、事業承継・引継ぎ支援センターもしくは商工会・商工会議所がおすすめです。
なぜなら、場合によっては会社や社長が抱えている問題を、M&A以外で解決できるケースもあるからです。
公的な相談機関であれば、M&A以外の選択肢も踏まえて、問題解決への糸口を探ってくれる可能性が高まります。
その一方で、M&Aを実行する背中を押してもらいたいときには、M&A仲介会社やFAへの相談もおすすめです。
なぜなら、M&Aの専門家へ相談すると「会社の問題をどうやってM&Aで解決するか」という視点になりやすいからです。
2-2 本当に売れるのかという相談
M&Aの実行を決意すると、次に押し寄せてくるのは「本当に売れるのだろうか」という不安です。
そういうときはM&Aの専門家へ相談すると、自社が売れる可能性について教えてもらえます。
相談先によっては、経営状態や業界の動向をかんがみて、ベストな売却タイミングについてのアドバイスも期待できるでしょう。
2-3 売却金額についての相談
M&Aで会社を売却する際には、少しでも高く売りたいと考えるのが自然です。また、金額によっては売却を見送りたいと考えている方もいるでしょう。
そのような場合はM&Aの相談先で売却価格の目安を算出してもらうことで、M&A実行の判断材料になります。
最終的な価格は買い手が決めるため、M&Aの相談機関で算出された金額はあくまでも目安である点に注意
売却価格の目安を無料で算出してくれる相談機関も多いため、気になる方はぜひ利用してください。
2-4 M&Aに必要な期間についての相談
使用するスキームによっても異なりますが、M&Aは完了までに多くの時間を費やします。
例えば株式譲渡の場合だと、最低でもおよそ6ヶ月~1年程度の期間が必要です。
M&Aを完了させたい時期が明確に決まっていたり、M&Aの完了を急ぎたい理由があったりする場合は、早めに専門家へ相談すると良いでしょう。
社長が抱えている事情に合わせて、最適なプランの提案を期待できます。
2-5 M&Aの準備についての相談
M&Aを成功させるためには、事前の準備が重要なカギを握っています。
そのため、M&Aを検討している段階から、必要な準備については把握しておきたいものです。
M&Aの専門家へ正式に依頼する前に、整えておくべき準備などについてあらかじめ確認しておくと良いでしょう。
もし足りない資料などが存在する場合は、M&Aプロセスを開始するまでに用意しておくべきか相談してください。
必要資料といっても、中には無理に用意しておかなくても良い資料がありますからね。
逆に、絶対に必要な資料もありますよね?
おっしゃる通りです。もしも絶対に必要な資料が揃っていない場合は、M&Aプロセスを開始するまでに用意しておかなければなりません。
2-6 買い手についての相談
M&Aで会社の売却を決意しても、いざ実際に売却をとなると、どのような買い手を選んだら良いのか分からないことが多いものです。
たしかに、具体的にどんな買い手を選べばいいのか見当もつきませんね…。
M&Aの専門機関では、売り手の持つノウハウ・技術・保有する顧客・地域での認知度などを元に、買い手選びについてのアドバイスが受けられます。
M&Aの実行をほぼ決意している状態であれば、実際に買い手を探してもらってみても良いですよ。
例えば完全成功報酬型のM&A仲介会社では、M&Aが成立するまで報酬の発生はありません。
そのため買い手について相談するとともに、実際に買い手を探してみるのも良いでしょう。
買い手探しを行うことで、自社がどのような買い手にニーズを持たれているのかを知ることができます。
2-7 M&Aに必要な費用についての相談
M&Aを実行するためには、費用が必要になります。中でも最も金額が大きくなりやすい費用は、M&Aの専門家へ支払う報酬です。
この報酬は、依頼先によって価格が大きく異なるという特徴を持っています。
例えばFAに依頼すると、報酬が高額になりやすいですよ。
また、M&A仲介会社へ仲介を依頼する際にも注意が必要です。
なぜなら、M&A仲介会社によって報酬体系が異なり、たとえ同じ価格でM&Aが成立しても必要な報酬額が変わってくるからです。
FAやM&A仲介会社へ支払う報酬は多くの場合、成立した取引価格から算出される。
中小企業のM&Aは取引価格も低めになるケースが多いため、依頼先によっては支払いが必要な報酬額が、M&Aの取引価格を上回ってしまう可能性も出てきます。
必要な費用、とりわけ報酬額については、複数の専門機関に相談して確認しておきましょう。
3章:M&Aの相談にかかる費用について
M&Aの相談は、無料で受けられる機関が多いです。
ただし中には相談料が必要だったり、1回目の相談は無料でも2回目の相談は有料だったりするところもあるため、相談前に確認しておきましょう。
また、商工会・商工会議所に相談するためには、会員になる必要があります。
相談は無料で行えますが、会員になるための費用がかかる点には注意してください。
無料相談を利用して複数の機関で相談するのがおすすめ
たとえばM&A仲介会社1つをとっても、それぞれ得意な業種・企業規模・M&Aスキームなどが異なります。
また、採用している報酬体系もM&A仲介会社によって異なるため、初めから1社に絞らない方が良いでしょう。
ただし、相談先が多すぎると情報漏洩のリスクが高まります。
インターネットのクチコミや周囲の評判などを元にして、2~3社程度に絞って相談することをおすすめします。
まとめ
M&Aにはたくさんの相談先がありますが、自社の企業規模や希望するM&Aスキームなどを元に相談先を検討しましょう。
たとえばM&Aの実施自体を悩んでいるときは、M&A仲介会社だけでなく、 事業承継・引継ぎ支援センターや商工会・商工会議所への相談もおすすめです。
また、自社が本当に売れるかの判断をしたいときや、とりあえずどんな買い手がいるのかを知りたいときには、M&A仲介会社やマッチングサイトを利用しても良いでしょう。
ごく気軽に相談したい場合は知り合いの経営者へ相談する方法もありますが、情報漏洩のリスクが高まる点には注意してください。
相談に関しては無料で受け付けている機関が多いのですが、中には有料の機関も存在します。
M&Aの相談を検討する際には、事前に相談料について確認しておきましょう。
ちなみに私も無料相談を受け付けています。匿名でOKなので、M&Aについて気になることがあれば、お気軽に相談してくださいね。