近年のM&Aは、事業承継の手段として中小企業においても活発に取引が行われています。
しかしひとくちにM&Aといっても、その目的に応じて実行する方法が実はたくさんあるのです。
そこで本記事ではM&Aの方法について、特に中小企業向けに事業承継の手段として利用できる方法を中心にご紹介しています。
事業承継の手段としてM&Aを検討している経営者様は、ぜひ本記事を参考にしてください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:M&Aの方法は大きく分けて3種類

M&Aとは「Mergers and Acquisitions(マージャーズ・アンド・アクイジションズ)」の略で、「合併と買収」という意味を持っています。
M&Aをざっくり説明すると、「対価を支払って企業の経営権を取得する行為」です。
そしてこれらは、買い手(企業を買う側であり対価を支払う側)からの視点で表現された言葉です。
狭義でのM&Aは合併と買収ですが、広義的に捉えると事業の多角化などを目的とした資本提携(資本参加、合弁会社設立など)を含む場合もあります。
ここでは、買収・合併・提携のそれぞれがどのような性質を持っているものなのかを確認していきましょう。

1-1 買収(売り手から見ると売却)
買収はその字からも想像できるように、ある企業が他の企業を買うことです。
企業丸ごとだったり企業が行っている事業の一部だったりと、目的に合わせて買収の方法を選べます。
買収は「企業を買う」というより、「企業の経営権を買う」とイメージしたほうが分かりやすいかもしれません。
実際に買われた企業は買い手企業のグループ企業となりそのまま存続し、操業を続けます。
企業を買収する際に用いられる方法は、以下の6つに分類されます。
- 株式譲渡
- 第三者割当増資
- 株式交換
- 株式移転
- 事業譲渡
- 分割
この中でも中小企業のM&Aでよく使用される方法は、株式譲渡と事業譲渡の2つです。
また買収の際には、買い手から売り手へ対価が支払われます。
中小企業のM&Aでは現金で支払われるケースがほとんどですが、選択した方法によっては買い手の株式で支払うことも可能です。
買収は売り手から見ると「売却」です。つまり、企業や事業を売却する行為を指していますよ。
1-2 合併
合併とは具体的に、2つ以上の会社が1つになることを指しています。合併の際には、合併を受け入れる側から吸収される側へ対価が支払われます。
買収との大きな違いは、吸収される側、つまり売り手側の法人格が消滅する点です。
合併後の売り手は、受け入れ会社の一部となって再スタートを切るイメージをすると良いでしょう。
1-3 提携
提携とは、経営権の移動をともなわないまま特定のプロジェクトやビジネス領域で力を合わせる関係を築くことを指します。
提携の種類によっては経営権に支障が出ない程度の資本の移動がともなうため、広い意味でM&Aの方法の1つとして捉えられることがあります。
2章:後継者不在問題を解決できるM&Aの方法

後継者の不在が大きな問題となっている中小企業では、事業承継を目的としてM&Aが活用されるケースが増えています。
ここでは、後継者不在問題を解決できるM&Aの方法を4つご紹介します。
売り手・買い手双方の目的やニーズに合わせて、最もふさわしい方法を選んでくださいね。
2-1 株式譲渡

株式譲渡とは、譲渡対象企業(売却されようとしている会社)の株主(売り手・経営者)が保有している株式を譲受先(買い手)に売却し、経営権を引き継ぐM&Aの方法です。
株式譲渡で売買されるのは会社の株式のみで、会社そのものはM&A後も変わらず操業を続けます。
法人格はそのまま残りますし、従業員の雇用や取引先との関係もそのままです。
ただ単純に、経営者だけが交代するイメージですね。
その通りです。
売り手の経営者は株式譲渡の対価を受け取り、経営を買い手に任せた上で引退できることから、事業承継の方法として活発に活用されています。

2-2 合併

合併は吸収合併と新設合併の2種類に分けられますが、共通事項は「2つ以上の企業が1つの企業になる」という点です。
吸収合併の場合は、売り手企業が買い手企業に吸収され、買い手企業の一部となって新たなスタートを切ります。
それに対して新設合併は、合併を受け入れる会社を新たに設立し、そこへ既存の会社が吸収され1つの会社として操業を始めるという特徴を持っています。
どちらの場合も企業として残るのは1社だけなんですね。
そうですね。売り手の場合は、吸収・新設どちらの合併でも法人格の消滅をともないます。
合併により会社の法人格は消滅するものの、従業員の雇用・取引先・負債など会社の全てが引き継がれるため、事業承継の方法としても活用されています。
法人格の存続にこだわらなければ、合併も視野に入れてM&Aを検討すると良いですよ。

2-3 事業譲渡

事業譲渡とは、企業が行っている事業の一部または全部を第三者へ譲渡するM&Aの方法です。
譲渡対象として選べる項目は事業のみにとどまりません。会社の資産・負債・従業員の雇用など様々な項目に対して個々に選択できる点が大きな特徴です。
増えすぎた事業を整理してコア事業に集中することなどを目的として実施されることの多い事業譲渡ですが、事業承継の方法として選択される機会も少なくありません。
例えば事業を多角的に経営している企業の場合、事業譲渡で事業ごとに別の買い手へと売却し、残った法人を清算するという方法で事業承継を実現します。
また、多額の負債を抱えていて株式譲渡では買い手が見つからないときも、負債を手元に残して事業のみを譲渡する方法で後継者不在問題の解決が図れるのです。
会社そのものの売却が叶わなくても、細かく分けることで事業承継を実現できる可能性があるんですね。

2-4 会社分割

会社分割は事業譲渡と同じく、企業が行っている事業の一部を切り離して買い手へ譲渡する方法です。
事業譲渡との違いは、事業に関わる権利や義務を包括的に引き継ぐ点です。
また、事業譲渡の譲渡対価は売り手企業が受け取りますが、会社分割では経営者個人が対価を受け取ることもできます。
会社分割は、既存の会社(買い手企業)に事業の一部を譲渡する吸収分割と、切り離す事業を新たに設立した会社に引き継ぐ新設分割の2種類に分けられます。
吸収分割は事業譲渡とほぼ同じイメージですね。権利義務を個別に引き継がなくていいぶん、事業譲渡より簡単そうです。
そうですね。買い手と相談して、吸収分割か事業譲渡かを決める場合もありますよ。
一方の新設分割は、分割するだけでは事業承継を実現できません。
分割した会社をそれぞれ株式譲渡などの方法を用いて第三者へ譲渡し、事業承継を完了させます。


3章:M&A以外にも後継者不在問題を解決できる方法がある

M&Aは事業承継の方法として非常に有益ですが、後継者不在問題を解決する方法は、M&Aだけではありません。
ここでは、M&A以外に後継者不在問題を解決する方法について解説します。
会社や経営者にとって、M&A以外の最適解が見つかるかもしれません。

3-1 親族や従業員の中から後継者を指名する

2021年の中小企業白書によると、68%超の企業が親族や従業員を後継者とし、会社を引き継いでいることがわかります。
中小企業のおよそ7割近くが親族や従業員へと事業を引き継いでいるんですね。
少子高齢化が進む中、実際に「子どもが会社を継いでくれない」という声も非常によく聞かれます。
しかしもしかしたら、実子以外の親族や従業員の中に後継者としてふさわしい人材がいるかもしれません。
一度探してみて見つからなかった方も、今一度周囲を見渡し、次期経営者にふさわしい人物がいないかどうか確認してみてはいかがでしょうか。
3-2 外部の人材を招へいする
外部招へいは、親族や従業員以外の第三者を後継者として招き入れる方法です。
取引先の企業や金融機関から新たな経営者を招き入れるケースが多いほか、近年では後継者募集のマッチングサイトを利用して後継者を選定する企業も増えています。
外部の人材が次期経営者となる点では、M&Aもこれに含まれますよ。
3-3 株式公開を行う
株式公開とは、自社の関係者が保有する株式を自由に売買できる状態にすることで、IPOとも呼ばれています。
株式を売買できる場所は証券取引所に限られているため、株式公開は株式市場への上場を指しています。
株式を自由に売買できる状態であれば後継者が見つけやすくなるため、事業承継の方法の1つとして挙げられるんですよ。
ただし株式を公開するためには厳しい条件をクリアする必要があり、かかる費用も膨大です。
そのため中小企業の事業承継方法としては、現実的とはいえません。
「こんな方法もあるんだな」くらいの認識でOKです。
4章:専門家に相談して自社に合ったM&Aの方法を見つけよう

ここまででM&Aの方法には、複数の種類があるとお分かりいただけたかと思います。
しかしどの方法を選べば良いかは、経営者本人の希望・会社としての希望・買い手との兼ね合いなど複数の要因が絡み合うため、経営者1人ではなかなか判断が難しいところです。
そこでここでは、自社に合ったM&Aの方法が見付けられる相談先をご紹介します。
相談先には民間企業であるM&A仲介会社と公的機関の両方が存在するため、それぞれのメリットを比較して相談先を決定してください。
1人で悩むよりスピーディーな解決が期待できるため、M&Aを検討しはじめたら早めに相談することをおすすめします。
4-1 M&A仲介会社
中小企業が利用しやすいM&Aの相談先として、民間企業であるM&A仲介会社が挙げられます。

売り手と買い手の間に立ち、M&A交渉の仲介を行う会社
M&A仲介会社は、M&Aの計画・使用する方法の選択・クロージングまでの幅広い範囲でアドバイスを行い、M&A実行を支援する専門家集団です。
無料で相談できるM&A仲介会社も多く、経験豊富なM&Aコンサルタントが希望に合わせた方法の提案を行います。
買い手の意向も含めた最適な方法の提案が受けられるため、トータルでの満足度が高くなりやすいメリットがあります。
ただしM&A仲介会社によって得意とする業種があったり料金体系が異なったりするため、自社に合った仲介会社を探して相談することがポイントです。

4-2 公的機関
M&Aに関する相談は、公的な機関でも受け付けており、主な相談窓口は以下の通りです。
- 事業承継・引継ぎ支援センター
- 商工会・商工会議所
事業承継・引継ぎ支援センターは、近年の中小企業における事業承継問題を解決すべく、2021年4月に全国に設置された公的な相談窓口です。
M&Aや親族内承継など事業承継に関するあらゆる相談ができ、M&Aのマッチング支援や仲介会社への取次ぎなどのサービスも受けられます。
47都道府県全てに設置されているため、地方の企業でも利用しやすくなっている点と、無料で相談できる点がメリットです。
商工会・商工会議所も公的な相談窓口の1つで、地域の中小企業に対して事業承継目的のM&Aに関する相談をメインに受け付けています。
中小企業に関する業務経験が豊富で、中小企業同士のM&Aに強みを持っている点がメリットです。
ただし、相談するためには商工会の会員になる必要があり、会員になるためには会費が必要になる点に注意してください。
まとめ

M&Aを実行するには、いくつかある方法の中から目的に合ったものを選択します。また、売り手・買い手双方が使用する方法に納得している必要があります。
中小企業が後継者不在問題を解決するためにM&Aを実行する際は、主に以下の4つの方法の中から選択されるケースが多いです。
- 株式譲渡
- 合併
- 事業譲渡
- 会社分割
後継者不在問題を解決するためにM&Aを検討しているのであれば、M&A仲介会社や事業承継・引継ぎ支援センター、商工会・商工会議所への相談がおすすめです。
ただし後継者不在問題を解決できる方法はM&A以外にも存在するため、専門家に相談しながら、自社に合った方法を選択してください。
事業承継・引継ぎ支援センターや一部のM&A仲介会社など、無料で相談できる専門家もありますので、上手に利用してくださいね。



