成功報酬は、M&A仲介会社に支払う報酬の中で最も高額になりやすい報酬の1つです。
そのためM&A会社の選び方によっては、成功報酬の支払いに売却益の大部分を充てなくてはならない可能性も出てきます。
この記事では、M&Aの成功報酬やその他必要になる報酬について解説し、売却益に対して成功報酬が高額になりすぎないようにするM&A会社の選び方を紹介します。
M&A会社選びのポイントが分かれば、なるべく多くの売却益を自分の手元に残せるようにできますよ。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:M&A仲介会社に支払う成功報酬とは
成功報酬とは、M&Aの仲介が成立した際にM&A会社へ支払う報酬を指しています。
支払うタイミングとしては、最終譲渡契約の締結後もしくはクロージング前後になるケースが多いようです。
M&A会社に支払う報酬の中で、最も金額が大きくなりやすいのがこの成功報酬なんですよ。
なるほど。M&Aにかかるコストについて考えるなら、成功報酬は外せませんね。
その通りです。成功報酬の規定は契約するM&A会社によっても異なります。コストの面においても、M&A会社選びは重要ですよ。
2章:成功報酬の注意点
成功報酬には大きく分けて2つの注意点があります。
- 報酬の計算方法
- 最低成功報酬額
扱う金額が大きくなる分、少しの違いが大きな違いとなって現れます。M&A会社の検討は慎重に行いましょう。
2-1 レーマン方式に注意する
ほとんどのM&A会社では、成功報酬はレーマン方式と呼ばれる計算式で算出しています。
レーマン方式とは、買収価格によって手数料率が変動する計算方法です。
成功報酬の金額=報酬基準額(取引金額)×料率
料率は売却価格に応じて段階的に設定されており、報酬基準額が大きいほど料率は低くなるのが一般的です。
■レーマン方式の料率一覧■
報酬基準額 | 料率 |
---|---|
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超10億円以下の部分 | 4% |
10億円超50億円以下の部分 | 3% |
50億円超100億円以下の部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
■レーマン方式の計算例■
明確な計算方法が決まっているのですね。これのどこに注意点があるのでしょうか。
実は、計算式に使われる報酬基準額の決め方や料率がM&A会社によって異なるのです。
○報酬基準額の算出方法に注意
報酬基準額には4通りの算出方法があり、M&A会社によって採用しているレーマン方式が異なります。
4つの方式の中では、株価レーマン方式が最もコストを抑えられる計算方式だといえます。
また、移動総資産レーマンの場合は負債が大きな会社ほど成功報酬額も多額になります。
しかしM&A会社がどのレーマン方式を採用しているかまでは、契約を締結する段階まで分からないことも多いのが現実です。
検討しているM&A会社がどのレーマン方式を採用しているのかを、契約前に確認しておきましょう。
○レーマン方式の料率に注意
先ほどご紹介したレーマン方式の料率ですが、実はこちらもM&A会社によって異なる場合があります。
ベースとなる報酬基準額が大きいために、たった1%の違いが大きな差となって現れますよ。
なるほど。料率は各社でしっかりと比較検討したほうが良さそうですね。
2-2 最低成功報酬額に注意する
ほとんどのM&A会社では、最低成功報酬額が設定されています。
最低成功報酬額とはどのようなものなのでしょうか
成功報酬額の最低金額です。レーマン方式により算出された成功報酬額が最低成功報酬額を下回った場合は、最低成功報酬額の支払いが必要になります。
最低成功報酬額の設定金額はM&A会社によって異なりますが、200~2,500万円程度に設定されていることが多いようです。
規模の小さな会社や業績が悪化していて高値での売却が見込めない会社の場合、成功報酬が最低成功報酬額を下回ってしまう可能性がある
年商3億円未満の会社の売買金額は多くが2億円未満。レーマン方式に当てはめた場合、2億円×5%で成功報酬は1千万円になる。
中小企業の場合は成功報酬額が低く抑えられているM&A会社を選ぶことが、M&A成功のポイントです。
3章:M&Aは成功報酬以外にも報酬が必要な場合がある
M&A会社に支払う報酬は、完全成功報酬型と非完全成功報酬型に分けられます。
完全成功報酬型は、M&A会社に支払う報酬が成功報酬のみの報酬体系です。
それに対して非完全成功報酬型は、成功報酬の他にも様々な名目で報酬の支払いが必要になる報酬体系です。
相談料・着手金・月額報酬・中間報酬・成功報酬・その他費用 など
ここでは、非完全成功報酬型のM&A会社とアドバイザリー契約を締結した場合に必要になる報酬を解説していきます。
どの項目の報酬が必要になるのかは、M&A会社によって異なります。
非完全成功報酬型のM&A会社だから全ての報酬が必要、というわけではないのですね。
そうなんです。各社でかなりの違いがみられるため、しっかりと確認しておきましょう。
3-1 相談料
相談料とは、M&A会社へ正式にM&A仲介を依頼する前に、M&Aについて相談した際に発生する報酬です。
多くのM&A会社は相談料無料を謳っていますが、中には有料のM&A会社もありますので注意してください。
無料だと思って相談したら実は有料だったというケースもありますので、相談時にはしっかりと確認しておきましょう。
有料の場合、相談料は1万円前後になるケースが多い
3-2 着手金
着手金は、M&A会社へ正式に依頼した際に発生する報酬です。
着手金は無料の場合と100~200万円前後かかる場合があります。
登録している全ての会社がM&A実行を目指していること
つまり、「今すぐにM&Aを実行するつもりはないけれどとりあえず登録している」という会社がないのです。
そのため売り手・買い手ともにM&Aの相手候補が見つかりやすい傾向にあります。
「冷やかし」的な会社がいないということですね。
その通りです。登録している会社は全て「本気でM&Aを目指している」会社なのです。
支払った着手金は、M&Aが成立しなくても返金されない
手元に資金がほとんどない場合は、着手金が無料のM&Aを検討すると良いでしょう。
3-3 リテイナーフィー(月額報酬)
リテイナーフィーとは、M&A会社に支払う月額報酬のことです。
無料の場合と、月額50~100万円前後かかる場合があります。
M&A会社と契約している期間中はずっと発生し続ける費用のため、M&Aの成立が遅れれば遅れるほどトータル費用が高額になります。
M&Aの取引総額が何十億円・何百億円規模になると、月に数百万円の報酬が当たり前だったりするんですよ。
なんと!雲の上にある世界の話ですね。
確かにこれはあくまでも大企業の例です。中小企業の場合には当てはまりませんのでご安心ください。
3-4 中間報酬
中間報酬は、M&Aの基本合意契約を締結した際に支払う報酬です。
金額は無料の場合・100万円程の固定報酬の場合・成功報酬の10~30%程度の場合と3パターンに分類されます。
支払った中間報酬はM&Aが不成立に終わっても返還されない
M&Aの基本合意契約書は一般的に、「M&Aを成立させなければならない」という法的拘束力を持っていません。
基本合意契約を締結しても、M&Aが破談になる可能性は残っています。
M&Aは不成立になるわ中間報酬は返ってこないわで散々ですね…。
その代わりM&Aが無事に成立した場合は、中間報酬が成功報酬に含まれているケースが多いですよ。
なるほど。成功報酬を前払いしていると考えることもできますね。
3-5 その他
M&A会社によっては、M&Aマッチング調査のために企業調査手数料が発生したり、遠方への視察などが必要になった場合に実費で交通費が発生したりすることもあります。
契約後に請求されてから驚いていては遅いため、どのような項目の報酬が必要になるのかを事前にしっかりと確認しておきましょう。
たとえ1つ1つは小さな金額だったとしても、”チリつも”で意外と負担が大きくなってしまう可能性がありますよ。
トータルのコストを抑えたければ、事前にしっかりと確認しておかなければいけませんね!
4章:M&A会社選びのコツ
M&A会社選びで失敗したくない点には、以下の2点が考えられます。
- トータルコストをなるべく抑えたい
- 自社にとって最高だと思える相手とM&Aを実行したい
コストをなるべく抑えたいという気持ちもありますが、「コストを抑える=サービスの質が低い」のではないかと心配になってしまいます。
ご心配にはおよびません。コストを抑えつつ最高のM&Aが期待できるM&A会社の選び方を伝授します。
それは早く知りたいです!
4-1 トータルで必要となる費用を考慮して選ぶ
コストを抑える点で大切なポイントが、トータルで必要となる費用で考えるという点です。
完全成功報酬型のM&A会社の場合は支払いが成功報酬のみになるため、必要な報酬額は容易に算出できるでしょう。
一方で非完全成功報酬型のM&A会社は、必要な報酬項目を洗い出してトータルで計算しておきましょう。
必ずしも完全成功報酬型のM&A会社の方がコストを抑えられるとは限らない
2章で解説したレーマン方式の算出方法・料率・最低成功報酬額に注意して、複数のM&A会社での比較検討をおすすめします。
4-2 専門としている業種で選ぶ
M&A会社の中には、特定の業種に強みを持った会社の存在があります。
例えば、飲食店のM&Aに強みを持っているM&A会社・医療系のM&Aが得意なM&A会社・サイト売買専門のM&A会社などが挙げられます。
自社の業種によっては、そのような事業特化型のM&A会社に依頼することで、より満足度の高いM&Aが実現する可能性が高いのです。
4-3 M&Aコンサルタントの経験と実績で選ぶ
M&A会社を選ぶ際に気になりやすい点が「M&A会社の規模」ですが、本当に重要なのは担当のM&Aコンサルタントの質です。
通常M&Aは担当コンサルタントが最後までサポートします。そのため担当コンサルタントの質が重要なのです
M&A会社の規模は関係ないのですか?
もちろん、規模の大きなM&A会社はその分多くの顧客やノウハウを持っていると考えられます。
しかしいくら規模の大きな会社だからといって、コンサル歴1年目の経験が浅い担当者に当たったらどうなるでしょうか。
それは少々不安になってしまうかもしれませんね…。
多くの顧客やノウハウをしっかり活かして、自社にとって最高のM&Aを提案してくれるコンサルタントとの出会いが大切なのです。
M&A会社を選ぶ際には、会社の規模ではなく担当者の経験と実績を重視してください。
しかし担当者の経験と実績はどうやって知ればよいのでしょうか。
簡単です。担当者にズバッと直接聞いちゃえばいいんですよ。
おお。大胆で分かりやすい(笑)
4-4 M&Aコンサルタントとの相性で選ぶ
M&Aコンサルタントの経験と実績が大切だと解説しましたが、売り手社長とM&Aコンサルタントとの相性も重要です。
大きな金額が動きますし、M&Aプロセスにも長い期間が必要です。馬の合わない担当者だと、だんだんM&A自体を苦痛に感じ始めてしまう恐れがあるのです。
- 自分の言いたいことを的確に汲み取ってくれる
- 自分がM&Aで実現させたいことを理解してくれる
- 自分の話をきちんと聞いてくれる
- 自社にしっかりと寄り添ってくれる
- 話していてストレスを感じない
- 「この人なら信頼して任せられる」と感じる
M&Aコンサルタントとの相性は、上記のポイントを目安に考えると良いでしょう。
中でも最も大切な点が、社長自身が「この人になら信頼してM&Aを任せられる」と感じられるということです。
心から信頼して任せられるM&Aコンサルタントに出会うことが、M&A成功の大きなカギを握っているといっても過言ではありません。
「会社の売買」も結局は「人と人とのやり取り」ですものね。
まとめ
M&A会社に支払う成功報酬は、M&A最終譲渡契約の締結後もしくはクロージング前後に支払う報酬です。
M&A会社は、成功報酬の支払いのみとなる完全成功型と、成功報酬の他にも必要な報酬が発生する非完全成功報酬型に分けられます。
非完全成功報酬型のM&A会社は支払いが必要になる報酬項目がそれぞれ異なるため、事前に確認しておきましょう。
そしてほとんどのM&A会社が、成功報酬の算出にレーマン方式を採用しています。
しかしひとくちにレーマン方式といっても、報酬基準額の計算方式や掛けられる料率に違いがみられるため注意が必要です。
レーマン方式の詳細まで確認しておいてくださいね。
また、各M&A会社には最低成功報酬額が設定されています。
最低成功報酬額の金額次第では、売却益の大部分をM&A会社への支払いへ充てなければならないという事態が発生しかねません。
そのため、自社がどれくらいの金額で売却できるのかをあらかじめ知っておくと良いでしょう。
M&A会社が行っている無料相談の利用がおすすめです。
自社にとって最良のM&Aを実現するためには、M&A会社選びと担当コンサルタントとの相性が重要です。
売り手社長にとっては一生に一度の経験となることも多いM&A。相性の良いパートナーを見つけて、納得のM&Aを実現させてくださいね。