中小企業には、代表取締役である社長の家族や親族を役員に選任している企業が多く見受けられます。
そのような企業がM&Aで会社売却を検討し始めた際に気になるのが「会社売却後に役員の地位や処遇はどうなるのか」という点ではないでしょうか。
そこでこの記事では、会社売却で代表取締役とそれ以外の取締役の処遇・役員報酬・役員退職慰労金がどうなるのか解説します。
- 会社売却で代表取締役の処遇はどうなるか
- 会社売却で代表取締役以外の役員の処遇はどうなるか
- 会社売却後の役員報酬はどうなるか
- 役員を退任する際の役員退職慰労金の扱いについて
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:この記事における役員の定義
本題に入る前に、この記事における「役員とは誰のことを指しているのか」について定義しておきましょう。
会社法で規定されている役員と、中小企業の社長がイメージしている役員が少々乖離している可能性があるので、ここで定義づけておきますね。
- 取締役
- 会計参与
- 監査役
会社法で規定されている役員は上記の3種類ですが、中小企業においては、会計参与と監査役の設置は必須ではありません。
実際に中小企業で会計参与および監査役を置いている企業は少ないですよ。
つまり、役員=取締役のみという企業が多いんですね。
取締役が複数いる企業の場合は取締役内で序列を作るケースが一般的で、中小企業における役員といえば、こちらのイメージが近いでしょう。
- 代表取締役
- 専務取締役
- 常務取締役
- 取締役
そして中小企業の場合では、社長(代表取締役)の家族や親族が専務取締役や常務取締役に就いているケースが多く存在します。
代表取締役の他に、身内が取締役として役員職に就いていることが多いのですね。周りの経営者仲間の会社を思い出してみても、たしかにそうかもしれません。
以上のことからこの記事において「役員」とは、主に取締役に就いている役員を指します。
2章:代表取締役の処遇について
中小企業の場合、会社を売却する前の代表取締役は、社長であり経営者であり売り手本人であるケースがほとんどです。
会社売却後は経営権が買い手企業へと移るため、社長は代表取締役・筆頭株主・オーナー・経営者全ての立場から退くことになります。
つまり、代表取締役から引退することになるのですね。
その通りです。
2-1 買い手から新しい代表取締役が選任されるケースが一般的
会社売却で経営権が買い手へ移った後は、買い手企業の株主総会による決議で専任された、新しい代表取締役が就任するケースが一般的です。
新しい代表取締役が選任されたら、それまで代表取締役だった売り手社長はすぐに引退するのでしょうか。
一般的には、経営の引継ぎが完了してから引退するケースが多いですよ。引継ぎ期間は平均しておよそ3ヶ月~1年ほどです。
2-2 代表者として会社に留まるケースも
引退するケースがある一方で、会社売却後も代表者として会社に残り、引き続き会社の代表としてその手腕をふるい続けるケースも少なくありません。
買い手が持っている経営資源を活用して、会社の成長を加速させている社長も多いですよ。
ただしここで注意しておきたいのが、たとえ代表者として留まったとしても、経営権は買い手企業が持っているという点です。
会社に関する重要な決定を自分の一存でできなくなるんですね。
そういうことです。親会社へお伺いを立てて、決済を仰ぐ必要が出てきますよ。
3章:その他取締役の処遇について
専務取締役や常務取締役といった代表取締役以外の取締役についても、役員であり続けるケースと退任するケースの2つのパターンに分かれます。
ここでは代表取締役以外の取締役が、会社売却後にどうなるのかをみていきましょう。
3-1 ポジションと処遇をそのまま受け継ぐケース
中小企業の経営は人に依存している場合が多く、役員の仕事に関しても例外ではありません。
買い手企業内に役員の仕事を引継げる人物がいない場合は、そのままその役員に仕事を継続してもらう必要があるのです。
そのため中小企業のM&Aでは、役員の雇用を一定期間継続することを条件としているケースが多くみられます。
「一定期間」ということは、その期間が過ぎたら役員は退任になるということですか?
その可能性もありますね。期間については、M&Aの交渉時に買い手と取り決めます。
定められた期間が終了した後に役員がどうなるかは、買い手企業の意向次第だという点に注意が必要です。
3-2 役員を退任するケース
中小企業では、社長(代表取締役)の配偶者・子供・親などの人物を役員としている企業も多くみられます。
役員としての役職はついているものの実際には会社の仕事に関与していないケースも多く、そのような場合は会社売却の成立と同時に退任となります。
上記のパターンは中小企業のM&Aで非常に多いんですよ。
ただし実際に会社の業務を担っている場合は、いち社員として会社に残るケースも珍しくありません。
会社の業務というのは、経営に関わるというより、事務とか経理とかのことですね。
その通りです。従事している仕事の実態に合わせた処遇になりますよ。
4章:会社売却後の役員報酬や役員退職慰労金について
会社売却後に支払いが発生する役員報酬や役員退職慰労金は、誰が支払って金額はどのように決定するのでしょうか。
M&A後に発生する役員報酬や役員退職慰労金の金額は、M&A交渉時に売り手と買い手が協議のうえで決定するケースが一般的です。
決定した金額については多くの場合、最終譲渡契約書内に明記されます。
M&A交渉の中で決まっているんですね⁉それはこちらの希望が聞いてもらえるということでしょうか?
ある程度の希望は聞いてもらえるかもしれませんが、それよりも買収予算の兼ね合いに関する部分が大きいですね。
買収予算=買収資金(株式譲渡の金額)+任期分の役員報酬+役員退職慰労金
多くのM&Aで買い手は、買収に必要な資金がトータルの予算内に収まるように、役員報酬や役員退職慰労金も調整の対象としているのです。
まとめ
会社売却後、売主である社長は代表取締役を退任するケースが多数を占めています。
しかし中には会社の代表として残り、会社売却前と変わらず会社の顔として存在し続けるケースも存在するのです。
代表取締役以外の取締役についても、退任と続投の両方のケースが考えられます。
ただし名前だけの役員で実態を伴っていない場合は、退任することになるでしょう。
また、役員でありながら経理や総務などの仕事に従事している人の場合は、M&A後に一般の社員として雇用されるケースもみられます。
取締役の処遇や役員報酬などに関しては、買い手が決定権を持っているため、売り手の一存では決められない点に注意してください。