近年では事業承継を検討する経営者が増えていることから、事業承継についての情報収集を行っている方も多いことでしょう。
しかし「承継」という言葉は普段あまり耳にする機会がなく、「継承」の間違いでは?と疑問を抱く方もいるのではないでしょうか。
事業承継と事業継承はよく似た単語ですが、意味や使われるシーンが異なります。事業の引き継ぎに「事業承継」という言葉が使用されるのにも理由があるのです。
そこで本記事では、事業承継と事業継承の違いを確認します。
併せて事業承継の手段・相談先・成功させるポイントについても詳しく解説しています。「承継」と「継承」の違いを知りたい方や、事業承継を成功させたい方はぜひ本記事をお役立てください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:事業承継と事業継承の違い

「承継」と「継承」はどちらも「何かを受け継ぐ」という意味を持ちますが、厳密にいうと引き継ぐ対象や意味合いが異なります。
「承継」には先代から地位・身分・仕事・精神などを受け継ぐという意味があります。基本的に承継は、形のないものを引き継ぐときに使うことが多く、引き継ぐものの内容もさまざまです。
- 事業やビジネスそのもの
- 事業における役職
- 思想や経営理念 など
基本的に承継されるものには形がなく、双方の合意があれば引き継ぐことが認められるものがほとんどです。
それに対して「継承」は、先代から義務・遺産・権利などを受け継ぐという意味を持っています。継承される対象は主に形や具体性があるもので、公的機関の認可・資格・経済的価値などが中心です。
- 金銭や不動産などの資産
- 経営権や事業運営における特権
- 事業運営において生じる義務 など
事業の引き継ぎは会社の経営権や資産だけでなく、企業理念・事業への想い・解決すべき課題など抽象的なものも引き継ぐため、「承継」が使われるのが一般的です。
法律用語としても「承継」が使用されています。
「継承」だと思いがちですが、事業を受け継ぐことに関しては「承継」が正解なのですね。

2章:事業承継を構成する3つの要素

事業承継は、以下の3要素から構成されています。
- 人(経営)
- 資産
- 知的財産
それぞれの項目について、詳細を確認していきましょう。
2-1 人(経営)
事業承継で承継される要素の1つめは、人(経営)です。
これは会社の経営権を引き継ぐことを指しており、会社の場合は代表取締役の交代にあたります。
特に中小企業では、経営のノウハウや取引先の人脈など経営者に依存している会社が多い傾向にあります。
そのため適切な後継者の選定は、会社の未来を左右する重要な事項です。本人のやる気はもちろん、経営者としての資質をしっかりと見極めた上で、後継者指名を行いましょう。
2-2 資産
2つめの要素は、資産です。事業承継では、事業を行うために必要な資産を全て引き継ぎます。
引き継がれる資産の内訳は以下の通りです。
設備・不動産・債権・債務・株式
ただし資産の全てを引き継ぐといっても、会社保有の資産の価値は株式に包含されています。そのため、資産の引き継ぎ=株式の承継だと考えて良いでしょう。
中小企業の多くは現経営者が100%の株式を所有しているため、その株式を全て後継者へ引き継ぐことで、資産の引継ぎが完了します。
現経営者が100%の株式を所有していない場合は、株主の所在を明らかにし、状況に応じて対策を講じる必要が出てきます。

2-3 知的資産
知的資産とは、会社や現経営者が所有している「目に見えない資産」を指しています。
具体例としては、従業員が持つ技術やノウハウ・特許・ブランドなどの知的財産権や顧客基盤などが挙げられます。
つまり、財務諸表には計上されない経営資源のことです。
また、現経営者の経営理念および信用なども重要な知的資産です。
知的資産は目に見えないものが多いため意識が向きづらいかもしれませんが、会社を引き継いでいく上で非常に重要な項目です。
知的財産が含まれているので、事業「承継」なんですね。

3章:事業承継を実行するための3つの手段

事業承継の手段は「誰に」事業を引き継ぐかによって、親族内承継・社内承継(従業員承継)・M&Aの3種類に大別できます。
3-1 親族内承継
親族内承継は、経営者自身の子ども・配偶者・兄弟といった身内に事業を引き継いでもらう方法です。中でも、現経営者の子どもが後継者になるケースが多いです。

日本商工会議所が2024年に行った「事業承継に関する実態アンケート」によると、後継者がいると回答した8割以上の会社が親族内承継での事業承継を行っています。
株式や事業資産の引き継ぎは贈与または相続で行われることが多く、後継者の金銭的な負担を軽減できる点がメリットです。

3-2 社内承継(従業員承継)

社内承継は、会社の役員や従業員を後継者とする事業承継の方法です。親族内で後継者が見つからない場合に、社内から後継者を探すケースが多くなっています。
会社の事業に携わっている人間が後継者となるため、他の従業員や取引先からの理解が得られやすく、スムーズな事業承継の実現を期待できる点がメリットです。
ただし後継者となる従業員が経営権を引き継ぐためには株式の買い取りが必須になり、そのための資金を用意する必要があります。
中には資金調達がネックとなったり、大きな負債を背負う覚悟ができなかったりして事業承継を断念するケースも少なくありません。

3-3 M&A
M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略で直訳すると「合併と買収」となり、会社の経営権を他の会社や経営者へ売却することで事業承継を実現する方法です。

これまでは親族内承継や社内承継ができないと、経営者の引退に合わせて廃業するしかありませんでした。しかし近年では、M&Aを活用した事業承継が盛んに行われています。
M&Aで事業承継を実行すると、買い手から企業価値に見合った対価が支払われます。
親族内承継や社内承継では得られない大金を受け取れる点は、M&Aならではのメリットだといえるでしょう。
さらにM&A後には買い手の経営資源を使えるようになるため、会社の更なる発展を期待できます。
ただしM&Aは会社を売買する取引であるという性質上、買い手との間にトラブルが発生する可能性もゼロではありません。
M&Aを実行する際は、専門家の手を借りて慎重にプロセスを進める必要があります。


4章:事業承継の相談先おすすめ3選

事業承継には、税務・法務・経営・労務など多方面からの考察が必要です。スムーズな事業承継を実現させるため、早めに専門家へ相談すると良いでしょう。
事業承継に関する相談先のおすすめ3選は、以下の通りです。
- 事業承継・引継ぎ支援センター
- 商工会・商工会議所
- M&A仲介会社
それぞれの特徴やメリットについて、詳しくみていきましょう。
4-1 事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは、近年の中小企業における事業承継問題を解決すべく、2021年4月に全国に設置された公的な相談窓口です。
M&Aや親族内承継など事業承継に関するあらゆる相談ができ、M&Aのマッチング支援や仲介会社への取次ぎなどのサービスも受けられます。
- 全国47都道府県に設置されているため地方の企業でも利用しやすい
- 無料で相談できる
さらに、全国の事業承継・引継ぎ支援センターは連携しているため、離れた地域間でのマッチングもサポート可能です。
事業承継・引継ぎ支援センターは、自社に適した事業承継方法について知りたいときに最適な相談窓口だといえますよ。
4-2 商工会・商工会議所
商工会や商工会議所も公的な相談機関の1つで、中小企業の経営者に対してさまざまなサポートを行っています。事業承継についても例外ではなく、その地域の事業承継に詳しい専門家に相談できます。
中には事業承継に関するセミナーを開催しているところもあるので、所属している商工会や商工会議所があれば問い合わせてみるとよいでしょう。
事業承継に関してはM&Aがメインで、中小企業庁により策定された「中小M&Aガイドライン」においても、支援機関の1つとなっています。
中小企業に関する業務経験が豊富なため、中小企業同士のM&Aに強みを持っている
ただし商工会や商工会議所は会員制度となっており、会員でなければ相談できません。会員になれば無料で相談できますが、入会費用がかかる点には留意しておきましょう。
また、事業承継の相談はできますが、実際のプロセスをサポートしてくれるわけではありません。プロセスを進める際には、別途専門家へ依頼する必要が出てくる点にも注意してください。
すでに会員であれば、所属している商工会や商工会議所に相談してみるのがおすすめです。
4-3 M&A仲介会社
身近に後継者がいないのであれば、M&A仲介会社へ相談するという選択肢もおすすめです。
近年では事業承継目的のM&Aが増加しており、それにともない事業承継M&Aに強い仲介会社も多数存在します。
M&Aが成立するまでは報酬が発生しない報酬体系を採用しているM&A仲介会社もあり、気軽にM&Aの相手探しを始められます。
最短6ヶ月程で事業承継が実現できる
ただし、M&A成立時に支払う報酬が高額になりやすい点には注意が必要です。M&A仲介会社を選ぶ際には、自社の規模や予算に合ったところを選びましょう。

5章:事業承継を成功へ導くポイント

経営者にとって事業承継は、一世一代の非常に重要なプロジェクトです。事業承継の結果によっては会社の経営に悪影響を及ぼす可能性があるため、絶対に成功させなくてはなりません。
ここでは、事業承継を成功へ導く2つのポイントについて解説します。この2点は事業承継を成功させるために最低限実施しておきたいポイントとなっていますので、詳細を確認しておきましょう。

5-1 早めに計画を立案し、具体的な準備を始める
事業承継は、思い立ったら即実行できるものではありません。
特に親族内承継や社内承継を選択した場合、後継者育成には平均して5年~10年ほどの期間が必要です。
事業承継手段の検討や後継者の選定などの工程を含めると、さらに長い期間を要することになるでしょう。
また、あまり考えたくないことではありますが、社長の身にもしものことが起こる可能性もゼロではありません。
「まだまだ先のこと」という考えは捨てて、今すぐにでも具体的な準備に取り掛かりましょう。

5-2 信頼できる専門家を探しておく
会社の規模や家族の状況によって、事業承継の選択肢や進め方は異なります。またどの手段を選択しても、事業承継ではさまざまなトラブルが生じるリスクが発生します。
そのためスムーズな事業承継を成功させるには、信頼できる専門家のサポートが欠かせません。
事業承継には特殊な専門知識を必要とするため、弁護士・税理士・M&Aコンサルタントなどの肩書だけでなく、実際に事業承継の支援実績があるかどうかを重視して専門家を選ぶことが大切です。
ただし、ギリギリになってからでは納得できる専門家に出会えない可能性があります。早期に複数の候補を選定し、実際に面談を行うなどして自社やご自身との相性などを確認してください。
まとめ

事業承継と事業継承の違いは、引き継ぐものが持つ意味合いの違いです。
理念や思想など抽象度の高いものを引き継ぐときには「承継」を、立場や財産など具体性のあるものを受け継ぐときは「継承」を使用するイメージが強いです。
先代から事業を受け継ぐ際は、理念や思想などの抽象的な財産も一緒に引き継ぐため、事業承継という言葉が使用されます。
事業承継では人(経営)・資産・知的財産の3項目を後継者へと引き継ぎます。
後継者は親族や従業員の他に、外部の第三者へ求めることも可能です。近年では後継者不在などの理由でM&Aを活用し、第三者へ事業承継を実行する中小企業が増えていることも事実です。
事業承継には一般的に長い準備期間が必要となるため、早めに具体的な承継方法を検討し、専門家へ相談することをおすすめします。
無料で相談を受け付けているところもありますので、上手に活用してくださいね。



