M&Aを実行する際は、M&A仲介会社に仲介を依頼するケースが多いかと思います。そしてM&A仲介会社へ仲介を依頼すると、手数料の支払いが発生します。
この手数料は、費用として損金に算入できるのでしょうか。むしろ算入できないと、かなりダメージが大きいような気がします…。
この記事では、M&A仲介会社へ支払う手数料について、税務上の取り扱いを解説しています。
また控除の仕組みに加え、手数料の支払金額を抑える方法についても解説しています。
M&Aにかかる費用を少しでも抑えたい経営者様は必見です。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:M&Aで発生した手数料は損金算入できる?
M&Aで発生した手数料の取り扱いは、売り手・買い手それぞれの立場で異なります。
また、売り手が法人の場合と個人の場合でもニュアンスが異なりますので、ご自身のケースに当てはめて考えてみましょう。
1-1 法人の売り手は損金算入できる
売り手、つまり「会社を売却する側」が法人の場合、M&A仲介会社へ支払った手数料は損金算入が可能です。
- 親会社が子会社を売却する場合
- 事業譲渡の場合
親会社が子会社を売却した際に支払った手数料は、費用として損金算入ができるというわけですね。
1-2 個人の売り手は売却益から手数料を控除できる
売り手が個人のケースでは「損金算入」という概念はありません。
その代わり確定申告の際に、得た売却益から支払った手数料を控除することが可能です。
- 株主(オーナー社長)が株式譲渡で会社を売却する場合
- 株主(オーナー社長)が合併で会社を手放す場合
つまり、株式譲渡や合併で得た金額から手数料を差し引いた金額に税金が課税されるというわけです。
なるほど。私が自社の株式を売却して社長から引退するのであれば、このケースが当てはまりますね。
株式売却益(課税対象となる金額)=株式を売却して得た金額-(株式の取得費(※1)+手数料等)
(※1)株式の取得費とは、株式を取得するためにかかった費用のこと。創業者であれば、会社設立時に出資した資本金を取得費として計上可能。
その他にも株式の購入にかかった手数料や、株式を購入するために要した諸費用も取得費としての計上が可能。
また、前社長から株式を承継している場合は、相続・遺贈・贈与いずれのケースでも取得費を引き継ぎます(限定承認に係るものを除く)。
上記の計算式から算出された株式売却益には、一律で20.315%の所得税・住民税等が課税されます。
売り手が個人の場合「損金算入」という概念はありませんが、損金算入と同じ仕組みで税金が控除されるんですよ。
1-3 株式譲渡で企業買収する買い手は基本的に損金算入できない
売り手が支払うM&A手数料は控除される一方で、買い手が支払った手数料は「株式の取得価額」として計上されるため、損金算入はできません。
株式の取得価額=株式の買収金額+仲介手数料等
上記の計算式で算出された株式の取得価額が、「子会社株式」として資産に計上されるんですよ。
なるほど。買収してお金を払ったけど「子会社の株式を持っている」ことになるため、「資産」とみなされるわけですね。
ただし、M&Aで買収した企業を数年後に売却することになった際には、買収時にかかった金額を「株式の取得費用」として時間差での損金算入ができます。
ま、待ってください。買収したときは「株式の取得価額」となるため損金算入できなくて、売却するときは「株式の取得費用」として損金算入できる???わけが分かりません!
複雑ですよね。例を挙げて解説しますね。
例えば、2022年にA社がB社を買収します。
買収価額は1億円で、買収にかかった手数料は1千万円でした。
このときに手数料として支払った1,000万円は損金算入できず、総額の1億1千万円が株式取得価額として資産計上されます。
そしてA社がB社を買収した1年後の2023年に、A社はB社を売却しました。売却価格は2億円でした。そのときの株式売却益は以下の通りです。
- 2億円ー1.1億円=9千万円
2022年にB社を取得した際の費用が、仲介手数料1千万円分も含めて売却益から引かれているのがお分かりいただけると思います。
なるほど。買収後に同じ会社を売却する場合は、買収時に支払った金額を丸ごと差し引けるのですね。
ただし例外として、以下の項目は損金算入が可能です。
- M&Aが成立しなかったケースで既に支払っていた着手金があるとき
- 買収先を選定する段階で支払った調査費用
1-4 買い手が損金算入できるケース
M&Aスキームが事業譲渡もしくは合併の場合、着手金やデューデリジェンス費用などの手数料を損金算入させられます。
実際に国税庁のHPには、合併のときに支払ったデューデリジェンス費用は損金算入すると明示されています。
ご照会のデューディリジェンス費用は、被合併法人の事業内容や権利義務関係の把握などを内容とする業務委託に要する費用であり、本件合併により移転を受ける個々の減価償却資産を事業の用に供するために直接要した費用には該当しないと考えられますので、本件合併が適格合併に該当するか否かにかかわらず、本件合併により移転を受ける減価償却資産の取得価額には含まれないこととなります。
国税庁HP
ただし着手金やデューデリジェンス費用以外の手数料は「事業を取得するために直接要した費用」とするべきだという考えもあります。
その場合は営業権(のれん)として計上し、60ヶ月をかけて償却していくケースもあるようです。
着手金などの単語が出てきていますが、そもそもM&Aの手数料とはどういうものなのでしょうか。
お金に関する色々な単語が出てきて、どれがM&Aの手数料にあたるのか分かりづらいですよね。次章で手数料の種類についてみていきましょう。
2章:M&Aで発生する手数料の主な種類
M&Aで仲介会社へ支払う手数料は、支払うタイミングごとにいくつかの種類に分けられます。
しかし、必ずしも全ての報酬を支払う必要があるわけではありません。なぜなら、M&A仲介会社によって料金体系が大きく異なるからです。
M&A仲介を依頼する会社によって支払いの必要な項目が異なります。M&A仲介会社を選ぶ際にも、必要な報酬項目はしっかりとチェックしておきましょう。
2-1 相談料
相談料とは、M&A会社へ正式にM&A仲介を依頼する前に、M&Aについて相談した際に発生する報酬です。
他社との差別化を図るために相談料無料を謳っているM&A仲介会社も増えていますが、有料の会社もありますので注意してください。
相談料の相場:無料もしくは1万円前後
2-2 着手金
着手金は、M&A仲介会社と仲介契約を締結した際に発生する手数料です。
着手金の相場:無料もしくは100~200万円前後
着手金も相談料と同じく、無料としているM&A仲介会社も多く存在します。ただし着手金を支払う=本気でM&Aに取り組みたい意欲の表れともいえます。
そのため着手金が必要なM&A仲介会社には、「とりあえず契約しておこう」という会社がありません。
つまり契約している会社の全てがM&Aに前向きであるため、お相手も見つかりやすいという傾向があります。
ただし一度支払った着手金は、M&Aが成立しなかった場合でも返金されない点に注意が必要です。
2-3 月額報酬
月額報酬とはリテイナーフィーとも呼ばれ、その名の通り毎月支払う手数料のことです。
月額報酬の相場:無料もしくは50~100万円前後
M&A仲介会社と契約している期間中は毎月支払い続ける必要があるため、M&Aが長期に渡るほど費用がかさむ点に注意してください。
M&A仲介のサブスク費用といったイメージですね。
たしかに。「M&A成立に向けてのサブスク」といっても良いかもしれません(笑)
2-4 中間報酬
中間報酬は、M&Aの基本合意契約を締結した際に支払う報酬です。
中間報酬の料金体系は、無料・100万円程の固定報酬・成功報酬の10~30%程度と3パターン
支払った中間報酬は、その後M&Aが不成立に終わったとしても返還されません。
M&Aの基本合意契約書は一般的に「M&Aを成立させなければならない」という法的拘束力を持っていないため、破談の可能性も残されている点に注意しましょう。
ただしM&Aが無事に成功した場合は、中間報酬が成功報酬に含まれる場合が多いですよ。
なるほど。M&Aが成立したケースに限っては、成功報酬の前払いをしたと考えることもできますね。
2-5 成功報酬
成功報酬とはその名の通り、M&Aが成功した際に支払う手数料のことです。
支払うタイミングとしては、最終譲渡契約の締結後もしくはクロージング前後になるケースが多数を占めています。
成功報酬はM&A会社に支払う報酬の中で最も金額が大きくなりやすい
成功報酬を設定していないM&A仲介会社はありません。M&Aが成立したら必ず支払うことになると覚えておくと良いでしょう。
ほとんどのM&A仲介会社では、レーマン方式と呼ばれる方式を使用して成功報酬額を算出しています。
売却価格によって手数料率が変動する計算方法。
手数料率は報酬基準額に応じて段階的に設定されており、報酬基準額が大きいほど料率は低くなるのが一般的です。
成功報酬の金額=報酬基準額×料率
売却価格と報酬基準額という2つの単語が出てきましたが、同じじゃないんですか?
良いところに気付きましたね。売却価格と報酬基準額はとてもよく似ていますが、厳密には違うんです。詳細は3章 3-3で解説しています。
2-6 その他
M&A会社によっては、その他にも手数料が必要になる項目が存在することがあります。
- M&Aマッチング調査のための企業調査手数料
- 遠方への視察などが必要になった場合の交通費
どのような種類の手数料が必要なのか、M&A仲介会社とアドバイザリー契約を締結する前にしっかりと確認しておきましょう。
請求されてからビックリしていたのでは遅いですからね。
1つ1つの金額は小さかったとしても、「チリ積も」ですものね。トータル金額で見ると、大きな違いとなって現れる可能性がありますね。
3章:M&A仲介手数料を抑える方法
アドバイザリー契約を締結するM&A仲介会社によって、採用している手数料の項目はさまざまです。
しかし実は、手数料の項目が少ない=手数料が安く済むとも限らないのです。
ここからは、M&A仲介手数料を抑える方法についてみていきましょう。
目先の手数料項目の少なさや設定されている金額にとらわれず、トータルで必要な金額を考えることがポイントです。
3-1 複数のM&A仲介会社から見積もりを取る
M&A仲介会社は、採用している料金体系がそれぞれ異なります。
また、M&A取引が成立した金額によっても、仲介会社へ支払いが必要になる報酬の金額は異なります。
したがってM&A手数料を抑えるためには、複数のM&A仲介会社から手数料の見積もりを取った上で比較検討することが重要です。
自社の売却価格によっても手数料は異なるため、売却価格の見積もりも忘れずに出してもらいましょうね。
複数社から見積もりを出してもらう場合は、同じ売却価格で見積もってもらうと良い
同じ売却価格で見積もってもらえば、各社の手数料の違いが明確になりますよ。
なるほど。1億・1.5億・2億といった具合に、売却価格別に段階的な見積もりをもらうことはできますか?
他社ではどうなのか分かりませんが、弊社ではお出しできます。お気軽にお申し付けくださいね。
3-2 最低成功報酬額が低く設定されているM&A仲介会社を選ぶ
M&Aの成功報酬には、最低成功報酬額が設定されていることがほとんどです。
成功報酬額の最低金額のこと。算出された成功報酬額が最低成功報酬額を下回った場合は、最低成功報酬額の支払いが必要
ということは、売却価格が低いM&Aの場合は最低成功報酬額が低いM&A仲介会社を選ぶべきということですね!
その通りです。成功報酬の支払いは必須なので、少しでもコストを抑えたいのであれば、最低成功報酬額を低く設定しているM&A仲介会社を選びましょう。
3-3 採用しているレーマン方式の詳細を確認しておく
成功報酬の算出にはレーマン方式を使用しますが、実はこのレーマン方式にはいくつかの種類が存在します。
M&A仲介会社によって異なる方式を採用しているため、事前に確認しておくことが重要です。
M&A取引では大きな金額が動くため、たとえ1%の違いでも金額に換算すると大きな差となって現れます。コストを抑えたいのであれば、しっかりと確認しておきましょう。
○報酬基準額の算出方法が異なる
報酬基準額には4通りの算出方法があり、M&A仲介会社によって採用している算出方法が異なります。
4つの方式の中では、株価レーマン方式が最もコストを抑えられる計算方式だといえます。また、移動総資産レーマンの場合は負債が大きな会社ほど成功報酬額も多額になります。
報酬の基準になるのは、M&Aの売却価格だけではないということがお分かりいただけたかと思います。
複雑だしM&A仲介会社によって違うとか…。難しすぎです!
○レーマン方式の料率が異なる
レーマン方式では、報酬基準額に料率を掛けて成功報酬額が算出されます。
この料率、実はM&A仲介会社によって異なる場合があるのです。
【一般的なレーマン方式の料率一覧】
報酬基準額 | 料率 |
---|---|
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超10億円以下の部分 | 4% |
10億円超50億円以下の部分 | 3% |
50億円超100億円以下の部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
一般的な料率は上記の表にある通りですが、契約を検討しているM&A仲介会社の料率をしっかりと確認しておくことをおすすめします。
聞けば教えてくれるものなのでしょうか
教えてくれるところが多いと思いますよ。むしろ料率を教えてくれないM&A仲介会社は怪しすぎるので、個人的にはおすすめできませんね。
まとめ
M&A取引の際に仲介会社へ支払った手数料は、売り手の立場であれば控除が可能です。
売り手が法人の場合は損金算入ができるため、支払った手数料は費用と認められ、法人税の節税につながります。
一方で売り手が個人の場合は、損金算入という概念がありません。確定申告時に売却益から支払った手数料を控除します。
しかし買い手の立場だと「株式の取得費用」となり資産計上されるため、損金算入することはできません。
ただし、企業買収を行った買い手がその後同じ企業を売却する際には、当時支払った手数料と買収費用を合わせて損金参入させることが可能です。
M&Aで発生する手数料にはさまざまな種類がありますが、少しでもコストを節約するためには以下のポイントを押さえておきましょう。
- 複数のM&A仲介会社から見積もりを取る
- 最低成功報酬額が低く設定されているM&A仲介会社を選ぶ
- 採用しているレーマン方式の詳細を確認しておく
M&Aの手数料は独特な部分も多いため、複雑で分かりづらいと感じるかもしれません。
しかし動く金額も大きいことから、疑問点は積極的に担当者に質問し、早めに解決しておきましょう。
質問に丁寧に答えてくれるM&A仲介会社なら、信用して自社の売却を任せられますよね。