M&Aには「M&Aは秘密保持に始まり秘密保持に終わる」という言葉があるくらい、秘密保持が重要です。
なぜなら、「あの会社はM&Aで売られるらしい」との噂が出回ってしまうと、様々な損害を被ってしまう可能性があるからです。
しかし情報漏洩を恐れてばかりいてはM&Aを実行できません。
この記事では、情報漏洩の恐ろしさを説明し、情報漏洩を起こさないための対策を解説しています。
情報漏洩への対策をしっかりと行い、スムーズなM&Aを実現してくださいね。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:情報漏洩が起きたら何が起こるのか
「人の口に戸は立てられぬ」ということわざがあるように、どこからか発生した噂話はまたたく間に広がっていくものです。
「あの会社はM&Aで買収されるらしい」
そんな噂がM&Aの実施を公表する前に外部へ情報が漏れてしまった場合、以下の問題が起こり得ます。
- 従業員の大量退職
- M&Aの破談
- 会社の倒産
どれも非常に困ることばかりです…。
それくらい、M&Aの情報漏洩は恐ろしいものなのですよ。
人間という生き物は、噂(特に不幸系)が大好きで、噂を耳にしたらすぐ誰かに言いたくなるものです。
さらにやっかいなことに、噂は人を介するごとに話が大きくなっていく可能性が高いという性質も持っています。
噂話を人に話すとき、だいたいの人は自分の意見や見解もくっつけて話す
そのため「M&Aで会社が売られるらしい」という噂がいつの間にか「この会社はもうすぐ倒産するらしい」という噂にもなり得るのです。
そしてその噂の最も恐ろしいところが、本当に会社の倒産を招いてしまう可能性があるということなのです。
ひえっ…!人間って怖いですね。
2章:情報漏洩はどこから起こる
会社にとって甚大なダメージを与える恐れのある情報漏洩は、一体どこから発生するのでしょうか。
情報漏洩の発生源を探っていきましょう。
2-1 社長自身の行動から
情報漏洩が起こる可能性として最も大きな原因は、社長自身にあるといっても過言ではありません。
- デスクにM&Aの資料を置きっぱなしにしていた
- 社長のメールアドレスを秘書と共有していた
- 知り合いの経営者に冗談交じりでうっかり話してしまった
- M&Aコンサルタントとの会話を従業員に聞かれてしまった
上記のような社長の行動が、M&Aの情報漏洩へとつながります。
社内においてはもちろん、社外でも自分の行動には要注意ですね…。
ご自身の行動が会社の未来を大きく左右することになるので気を付けてくださいね。
2-2 知り合いの社長から
- M&Aを行うか悩んだときに相談した
- M&A交渉中に「ここだけの話」としてポロリと漏らした
秘密を守ってもらえると思って打ち明けたのに、翌日には広く知れ渡っていたというケースは実に多く存在します。
悲しいことに、自分は「親友」だと思っていても、相手が必ずしも同じ気持ちでいるとは限りません。
知り合いの社長というポジションの人には、共通の知り合いも多くいることでしょう。
知り合いの社長から共通の知り合いに知れ渡り、そこから従業員や取引先に伝わってしまうケースが多くみられます。
2-3 従業員から
- 社長のデスクに置かれていたM&A会社の書類を見てしまう
- 社長に頻繁に会いに来ている人物がM&Aコンサルタントだと気付く
- 会社宛てに送られてきたM&A会社からの資料を開封してしまう
従業員から情報漏洩が起こる可能性があるのは、上記のようなシチュエーションです。
M&Aの資料などを目にした従業員が憶測で誰かに話し、そこから噂が広がっていくパターンが考えられます。
不安感などから、噂に尾ひれ背びれが付きやすくなりやすいパターンでもあります。
2-4 買い手候補先から
たとえ社内の情報管理をしっかり行っていたとしても、買い手候補となった企業から情報が流出してしまうケースが存在します。
このケースは私たちでは防ぎようがないですよね?
少しでも情報漏洩のリスクを下げるために、買収の打診前に秘密保持契約を締結したり、買い手候補の数を制限したりといった対策を取っています。
2-5 M&Aマッチングサイトから
近年では自社の情報をオンライン上で公開し、効率的に相手探しが行えるM&Aのマッチングサイトが増えています。
M&Aマッチングサイトを利用するとより手軽に効率的に相手探しができる半面、情報漏洩のリスクが高まるため注意が必要です。
社名や具体的な情報は伏せて情報を公開するんですよね?それでもダメなのでしょうか。
一般のユーザーには分からないかもしれませんが、同業者や関係者が見たら特定できてしまうケースもあるんですよ。
3章:情報の漏洩先と起こり得る問題
情報は様々なルートで流出する恐れがあることが分かりましたが、実際に漏れた情報はとても大きな問題を引き起こす可能性があります。
情報漏洩の恐ろしさをしっかりと確認し、気を引き締めましょう。
3-1 従業員に情報が漏洩した場合
従業員に情報が流出した場合に起こり得る大きな問題は、以下の2つが挙げられます。
- 従業員の大量退職
- M&A取引の破談
ねえうちの会社、もしかしたら売られるかもしれないんだって!
えっ本当!?うちってそんな経営が行き詰ってるの?もしかして潰れる可能性もある!?
「自分が働いている会社が売られるかもしれない」
そんな噂を耳にした従業員が感じることは、まず何よりも不安です。
- 会社がなくなるのではないか
- 自分がクビになるのではないか
上記のような不安を感じた従業員はその後、会社への不信感を抱くことになるでしょう。
なぜなら従業員が噂を聞いた時点では、会社からは何も聞いていないからです。
会社からの公式発表がない=自分たちのことを信頼してくれていないと感じる可能性がある
会社の存続や雇用への不安を感じ、会社に対して不信感を抱いた従業員が取る行動は次の2つです。
- 経営陣に直接聞く
- 転職活動を始める
経営陣に事の真偽を訪ねても納得のいく回答が得られなかった場合、従業員はますます不安を募らせる結果になります。
そして不安を募らせた結果として、会社の公式発表を待つことなく転職活動を開始し、従業員の大量退職へとつながっていくのです。
従業員が次々に退職してしまうと、会社の価値が下がったと買い手から判断されます。
そのため売却価格の減額交渉が入ったり、買い手候補企業が下りてしまい、M&A自体が破談になったりする可能性が出てきます。
3-2 取引先に情報が漏洩した場合
取引先にM&Aの情報が流出した場合に起こり得る大きな問題は以下の2つです。
- 会社の信用が落ちる
- 取引量を減らされたり取引自体が停止されたりなどの可能性がある
取引先に情報が流出するルートとしては、知り合いの社長や従業員などからが考えられます。
いずれにせよ会社からの公式発表がない段階での流出に変わりありません。
従業員に流出したパターンと同じく、噂を聞いた取引先も不安感と不信感を抱きます。
「あの会社はもうダメかもしれない」
取引先がそのように感じたら、取引量が減らされたり取引自体が見直されたりする可能性があるのです。
3-3 金融機関に情報が漏洩した場合
噂が噂を呼び、金融機関にまで情報が知られてしまうと更に事態は深刻になります。
なぜなら、円滑な資金調達に支障をきたしてしまう恐れがあるからです。
そうなってしまうとM&Aはおろか、資金繰りに困り会社が倒産してしまう可能性があるのです。
ちょっとした不注意からの情報流出が会社の倒産を招いてしまうんですね…。恐ろしい。
そうなんです。情報漏洩は何としてでも防がなくてはなりません。
4章:情報漏洩を防ぐために行いたい対策
情報漏洩を防ぐためには、まず何よりも社長自身が言動に注意しなくてはなりません。
社内でM&Aのことを知っているのは、社長1人のはずですよね。
確かにそうですね。私の言動が憶測を呼ぶ引き金になるということですね。
その通りです。M&A交渉中は隠密のように行動してください。
4-1 相談相手を吟味する
M&A交渉中の社長は非常に孤独です。
「本当にこれで良いのだろうか」と何度も何度も悩むことになります。しかしどんなに悩んでも、簡単に他人に相談してはいけません。
M&A交渉中のお酒の席には注意する
人はお酒が入ると口が軽くなる傾向があります。悩みを抱えている人はなおさらです。
誰かに相談したいと思っても、相談相手は吟味してください。
「ここだけの話」なんてものは存在しないと思いましょう。
相談相手は、できれば担当のM&Aコンサルタント1人に留めてください。
4-2 M&Aに関する情報を従業員に触れさせない
M&Aに関する情報に従業員が触れてしまうと、憶測を呼んでしまい噂が社内で一気に広がる恐れがあります。
- M&Aの検討資料が置きっぱなし
- PC画面が開きっぱなし
- 社長のメールが他の従業員にも見られる設定になっている
- M&A会社からの電話が代表電話にかかってくる
- M&Aコンサルタントが頻繁に社長に会いに来る
M&Aに関する情報に従業員が触れないようにするためには、以下の対策を行いましょう。
- M&Aコンサルタントとの打ち合わせは社外で行う
- M&Aコンサルタントからの連絡は社長の個人携帯に限定する
- M&Aコンサルタントからのメールは社長の個人アドレスに限定する
- M&A会社からの郵便物は自宅へ送ってもらうか局留めにしておく
4-3 契約を締結するM&A会社はできれば1社に絞る
買い手候補企業を探すためには、M&A会社とアドバイザリー契約の締結が必要です。
買い手探しを始める前に自社の情報を開示する必要があるのですね。
希望に近い買い手を探すためには、売り手の情報は必要不可欠なんですよ。
複数のM&A会社とアドバイザリー契約を締結すると、当然ながら自社の情報を複数のM&A会社へ提供することになります。
情報の提供先が多いということは、漏洩するリスクも大きくなるということです。
情報漏洩のリスクを最小限に抑えるためにも、契約するM&A会社はできれば1社に絞り、多くても3社くらいまでに留めましょう。
4-4 マッチングサイトを利用するときは開示する情報に注意する
手軽に買い手探しができて便利なマッチングサイトですが、利用時には開示する情報に注意が必要です。
- 所在地
- 業種
- 売上
- 従業員数 など
所在地は「東京」ではなく「関東」、従業員数は「20~30名程度」といった具合にふんわりとぼかして登録しましょう。
一般個人向けのオープン型マッチングサイトと、専門家向けのクローズ型マッチングサイトを上手に使い分けることもポイントです。
まとめ
「M&Aは秘密保持に始まり秘密保持に終わる」という言葉があるように、情報漏洩は何としてでも避けなければならない事態です。
万が一「あの会社は売られるらしい」という情報が流れてしまうと、会社にとって重大な問題が発生する可能性があるからです。
- 従業員の大量退職
- M&Aの破談
- 会社の倒産
上記の問題を引き起こす恐れのある情報漏洩は、多くの場合において社長自身の言動が引き金になっています。
情報の流出を防ぐためには、下記の点に細心の注意を払いましょう。
- 相談相手を吟味する(できればM&Aコンサルタント1人に絞る)
- 従業員の目にM&Aの資料を触れさせない
- 従業員にM&Aの話を聞かれない
- 契約を締結するM&A会社を1社に絞る
- M&Aマッチングサイトの利用に注意する
人は噂話を耳にしたら誰かに話したくなる生き物です。不幸な話系は特にその傾向が強く、あっという間に周囲に広まってしまう恐れがあります。
情報漏洩を防ぐことは、M&Aを成功へ導くためだけでなく、会社や従業員を守るためにも非常に大切なポイントなのです。
人の口に戸は立てられません。情報が流出してしまってからでは遅いのです。とにかく情報が外へ漏れることを防ぎましょう!