現代では、後継者不在により事業承継に悩みを抱えている中小企業の経営者が増えています。
事業承継というと”身内の誰かに継いでもらう”というイメージが強いかもしれませんが、実はいくつかの方法があり、その中の1つがM&Aです。
この記事では、事業承継とM&Aの違いを明らかにし、自社に合う事業承継方法の見つけ方を解説します。
事業承継に悩みを持っている経営者様は、ぜひこの記事をお役立てくださいね。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:事業承継とM&Aの違い
事業承継とは、経営者が自身の会社や事業を次代へ引き継ぐことです。会社の事業・経営権・資産・負債の全てを次の経営者へ譲ります。
M&Aは企業の合併・買収を指しており、経営戦略の一環として自社の拡大や発展を目的に選択されることの多い手段です。
このように、会社を次代へ引き継ぐ事業承継と企業の合併・買収を指すM&Aは、全く別の意味を持つ単語です。
しかし実は「会社を経営者以外の誰かに引き継ぐ」という共通点を持っています。そのためM&Aは、事業承継の手段として積極的に活用されています。
1-1 M&Aは事業承継の手段の1つ
M&Aは、数ある事業承継の選択肢の1つです。従来は事業承継というと経営者の子どもや親族への承継がほとんどでした。
しかし少子化や職業選択の自由が進んだ結果、後を継ぐ子どもが不在となる中小企業が増え、現在では第三者への事業承継が実現するM&Aに注目が集まってきています。
1-2 M&A以外の事業承継方法
M&A以外にも事業承継の手段はいくつかあります。
○親族内承継
経営者自身の子どもや親族へ事業を承継することを、親族内承継と呼びます。
中小企業庁の中小企業白書(2021年版)によると、親族内承継により事業を引き継いだ企業は34.2%で、全項目の中で最も高い割合でした。
この結果により、親族内での事業承継は、今もなお多く行われていることが分かります。
ただし親族内承継の割合は年々減少しており、2020年時点では親族外承継とほとんど同程度の割合となっています。
○親族外承継
親族外承継とは、親族や血縁関係のある人材以外の第三者に事業を承継することです。
具体的には、自社の従業員や役員の他、外部の人材への承継を指しています。
外部の人材、つまり”赤の他人”へ事業承継を行う場合は、親族外承継と区別して「第三者承継」と呼ぶこともあります。
M&Aによる事業承継も、親族外承継(第三者承継)の1つに分類されるんですよ。
○ IPO(株式公開)
IPO(株式公開)とは、企業が自社の株式を証券取引所に新規上場し、株式市場において自由に売買できる状態にすることです。
株式が公開されることで、幅広く買い手を探せる点がメリットです。
しかしIPOを実施するためには証券取引所が定める様々な条件を満たす必要があり、多くの時間と費用がかかります。
事業承継後も事業の拡大を目指しているならばIPOは効果的な手法の1つです。
しかし上場までのハードルが高いこともあり、中小企業が事業承継のためにIPOを活用するケースは少ないのが現実です。
○廃業
廃業とは一般的に、経営者が自主的に事業をやめることを指しています。
事業を自分の代で終わらせるため事業承継の方法ではありません。しかし後継者が見つからない状態を放置していると、廃業は避けられません。
廃業には会社の清算を伴うため、法人格は消滅し従業員は全員解雇となります。取引先との関係ももちろん継続できません。
さらに債務超過の疑いがある場合は通常の清算手続きではなく、裁判所の関与の元に特別清算の手続きを行います。
明らかな債務超過の場合は破産手続きとなり、多くの場合で経営者個人の破産もともないます。
会社や従業員のためにも、廃業は避けたいですね。
1-3 政府もM&Aでの事業承継を後押し
実は、政府もM&Aによる事業承継を後押ししています。
なぜなら事業承継が行われずに廃業する企業が増えてしまうと、従業員の働き口がなくなって失業者が増えたり、国の経済力が低下したりしてしまうからです。
中小企業庁によると、今後さらに後継者不在による廃業が増加し、2025年までの累計で約650万人の雇用および約22兆円のGDPが失われる可能性が示唆されています。
そのため全国に事業承継・引継ぎ支援センターを設置して、事業承継の悩み相談を受け付けたり、M&Aのマッチングをサポートしたりしています。
相談料は無料なので、気軽に相談できますよ。
さらには税金面や補助金面の優遇措置を取り入れるなどして、事業承継を行いやすくする環境を整えています。
国としても大きな問題として捉えているということですね。それにしても、国がサポートしてくれるのは心強いですね。
2章:事業承継のためにM&Aを活用するメリット
事業承継の手段としてM&Aを活用すると、親族内や社内に跡継ぎとしてふさわしい人材が見つからなくても会社を存続させられます。
会社を存続させられるということは、廃業を免れるということ。
廃業を選択すると従業員は全員路頭に迷う羽目になりますが、M&Aで事業承継を実現すれば、それを阻止することができます。
さらに経営者は売却益を獲得し、個人保証から解放される可能性が高まります。
それぞれの項目について、もう少し詳しくみていきましょう。
2-1 後継者不在でも事業承継を実現できる
事業承継を目的としたM&Aの多くは、株式譲渡というスキーム(手法)が使われます。
株式譲渡とは株主が所有する会社の株式を買い手へ売却し、会社の経営権を譲渡するスキームです。
中小企業の多くは現経営者が100%の株主であるケースが多いため、現経営者が自身の所有している株式全てを買い手企業へ譲渡するスキームだと考えて良いでしょう。
現経営者は全ての株式(=会社の経営権)を売却するため、株式譲渡後の経営権は買い手が掌握することになります。
つまり、現経営者から買い手企業へと事業承継が行われるのです。
実際に後継者不在問題に悩む中小企業のM&Aは、近年増加傾向にあります。
2-2 従業員の雇用を維持できる
M&Aで事業承継を行うと、会社はそのまま存続します。そのため、従業員の雇用もそのまま変わりません。
基本的にはM&A前と同じ条件で働き続けられるため、従業員に安心を与えることができます。
廃業すると従業員は全員解雇となります。後継者が見つからない中小企業は、断然M&Aでの事業承継がおすすめですよ。
2-3 創業者利益を獲得できる
M&Aの株式譲渡で事業承継を行うと、経営者個人が譲渡対価を受け取ります。
受け取った譲渡対価は個人のお金です。リタイア後の生活費にしたり、新たな事業を始めるための資金にしたり、使い方は経営者の自由です。
受け取った譲渡対価は”譲渡所得”として課税対象になるため、確定申告が必要
受け取った譲渡対価の使い道を考える際は、課税額を考慮に入れることを忘れないようにしましょう。
2-4 個人の債務保証から解放される
前述の通り事業承継を目的としたM&Aは、株式譲渡で行われるケースが多いです。
この株式譲渡は、会社の権利義務を包括的に買い手へ承継するという特徴を持っています。
簡単にいうと、会社の資産や負債を全て丸ごと買い手へ引き渡すという意味ですよ。
株式譲渡によるM&Aの場合、会社の経営権が丸ごと買い手側に移動します。
借入などの負債も買い手側にそのまま引き継がれるため、経営者個人が背負っている債務保証を外せる可能性が高いのです。
経営権を買い手へ引き継ぐだけでは債務保証を外せない点に注意
債務保証は経営者と金融機関の間での契約です。そのため、解除してもらうには金融機関の承認が必要です。
さらに、債務保証を買い手へ引き継いでもらうためには、買い手の了承を得る必要もあります。
そのため経営者個人が背負っている債務保証を外したいのであれば、M&Aの交渉時に買い手へその旨を了承してもらったうえで、金融機関との交渉が必要なのです。
なかなか複雑なのですね。
そうなんですよ。しかも金融機関へは早めに相談しておいた方がいいので、買い手へもなるべく早めに相談することをおすすめしています。
なるほど。それならM&Aの条件として提示しても良さそうですね。
さすが社長!実際にM&Aの条件として提示する売り手も多いですよ。
3章:事業承継でM&Aを活用する際のリスクおよび注意点
事業承継を目的としたM&Aを実行する際は、そのリスクや注意点についても把握しておきたいものです。
「こんなリスクや注意点がある」と事前に把握しておけば、対策を講じてからM&Aプロセスへ臨むことができますよ。
3-1 買い手が見つからない可能性がある
M&Aでは、必ず買い手が見つかるとは限りません。買い手が見つからないまま、時間だけが過ぎていってしまう可能性もある点に注意が必要です。
買い手が見つからない原因としては、主に以下の3点が考えられます。
- 買い手が考える企業価値より、売り手が提示している希望売却価格の方がかなり高額になっている
- ニーズのなさそうな買い手へばかりアプローチしている
- 赤字経営もしくは債務超過に陥っている
事業承継M&Aの最大の目的は事業承継の実現です。自社の価値をしっかりと見極め、強気すぎる売却希望価格の設定は避けましょう。
また、ニーズのない買い手へいくらアプローチしても会社売却はできません。
自社が持っている強みを必要としている企業を見極め、適切な買い手候補へアプローチすることが大切です。
買い手がなかなか見つからないときは、思い切ってM&A仲介会社を変えるのも1つの方法です。
経営状態が芳しくない場合は、極力業績の回復に努めてください。
それが困難な場合は「とにかく事業承継を完了させること」を目的に、M&Aスキームを事業譲渡に切り替えて買い手を探しても良いでしょう。
3-2 希望した価格で売却できない可能性がある
M&Aにおいて、取引価格を決めるのは買い手です。買い手が「この企業を買収したら将来的にどれくらいの利益や成長が見込めるか」を基準に、買収価格を決めるのです。
そのため場合によっては、買い手が提示した取引価格が売り手の希望する価格に届かないケースも発生します。
しかし「希望の価格ではないから売却しない」となってしまっては、最大の目的である事業承継は達成できません。
あくまでも事業承継という目的を達成するために、売り手は売却希望価格に幅を持たせておくことをおすすめします。
また、少しでも売却価格をアップさせるためには、自社と相性の良い買い手を見つけることがポイントです。
自社の強みを明確にしておき、シナジー効果の見込める買い手へアピールしましょう。
3-3 社長は経営者の座から降りる可能性がある
M&Aで事業承継を行うと、買い手の意向によっては社長の引退を求められる可能性があります。
M&A後も社長の仕事を続けたいという希望を持っている場合は、M&A交渉時に買い手へその旨を伝え、了承してもらわねばなりません。
逆にいうと、社長の継続を了承してもらえる買い手を探す必要があるということですね。
そうなりますね。M&Aの条件として提示しておくことをおすすめします。
M&A後に社長として会社に残れても、会社の経営権は持っていない点に注意
M&A後は買い手が会社の経営権を掌握しています。経営に関する重要な決定は、全て親会社である買い手の判断を仰ぐ必要がある点を承知しておきましょう。
4章:自社に合った事業承継方法の見つけ方
M&Aは事業承継の手段として、近年ますます活発になってきています。しかし全ての企業でM&Aが最適な事業承継方法だとは限りません。
ここでは、状況に応じたおすすめの事業承継方法についてご紹介します。
4-1 身近に後継者候補がいる場合は親族内or親族外承継
経営者自身の子どもや親族、従業員などの中に後継者候補がいる場合は、その人へ事業承継を行う段取りを整えましょう。
前述のとおり、実際に国内企業の7割近くが親族内または親族外承継で事業承継を行っています。
親族や従業員といったいわゆる”身内”への事業承継は、周囲からの理解を得やすく、承継後も社風などに急激な変化が起こりにくいメリットがあります。
つまり、穏やかな事業承継が実現する可能性が高いということです。
ただし、身内へ事業承継を行う場合は、後継者候補の「経営者」としての適性を見極める必要があります。
また、後継者候補を経営者として育て上げるには、5年から10年の時間が必要だともいわれています。
後継者候補が途中で音を上げてしまう可能性もゼロではありません。
そのため身内へ事業承継を行う際には、適切な人選と、余裕を持ったスケジューリングが重要です。
事業承継を急ぐ場合は、他の選択肢を検討してくださいね。
4-2 身近に後継者候補がいない場合はM&Aがおすすめ
経営者自身の子ども・親族・社内など、身近に後継者候補が見つからない場合は断然M&Aでの事業承継がおすすめです。
なぜなら身近に後継者がいなくても事業承継が実現するだけでなく、経営者自身が売却益を受け取れるからです。
また、幅広い候補から後継者を見付けられる点もM&Aの魅力だといえます。
さらに、自社と相性の良い買い手を選ぶことで、会社の更なる発展も期待できるのです。
M&Aで事業承継を行う際は6ヶ月~1年程度の期間で完了できるケースが多く、後継者を育成する場合に比べてスピーディーな事業承継が叶う可能性が高いでしょう。
ただしM&Aプロセスには遅れが生じやすいため、事業承継の完了時期に希望がある場合は、早めに動き出すと良いでしょう。
4-3 従業員がゼロの会社は廃業の選択もアリ
たとえ廃業しても路頭に迷う従業員がいない会社の場合は、廃業もポジティブな選択肢の1つに入れて良いでしょう。
ただし、会社が所有している資産を全て現金化しても負債を返済しきれない場合は、廃業を選択すべきではありません。
そのような会社は、M&Aなどの手段を利用しての事業承継がおすすめです。
つまり社長が1人で切り盛りしていて、かつ資金が潤沢な会社は、廃業も選択肢に入れて良いといえます。
なるほど。会社を畳んでも誰にも迷惑を掛けない+自分も困らない状態であれば、廃業もアリだということですね。
4-4 自社の経営状態などによって判断したほうがよいケースも
事業承継の方法は、100%社長の希望だけで決めたら良いかというと、実はそうではありません。
なぜなら、自社の経営状態などによっては、社長が意図していない方法での事業承継がベストな場合もあるからです。
自社にとってふさわしい事業承継方法を見つけるためには、経営者自身の意向だけでなく、専門家や周囲の意見を聞くことが大切です。
5章:事業承継に悩んだときは専門家への早めの相談がカギ!
後継者不在の中小企業にとって、事業承継は会社を存続させるため非常に重要な問題です。
しかし事業承継には時間がかかります。M&Aでも6ヶ月~1年+αが必要なうえ、身内への事業承継の場合はさらに長い期間が必要です。
引退したい年齢が決まっている場合は、そこから逆算すれば行動を開始すべき時期が分かります。
しかしそれは「遅くてもそこまでに行動を開始すべき年」だということを忘れてはいけません。
会社を存続させるためにも、自身の引退を叶えるためにも、事業承継に悩んでいる経営者は今すぐにでも何かしらの行動を起こした方が良いでしょう。
後継者不在問題は、放置すればするほど廃業の可能性が高まります。一刻も早く解決へ向けて動き出すことが、会社を守る結果につながりますよ。
まとめ
M&Aは、事業承継の手段の1つです。
後継者が不在でも事業承継が実現し、M&Aの相手によっては廃業どころか会社の更なる発展を目指せます。
そして会社が存続するため、従業員の雇用も継続します。
さらにそれだけではなく、経営者はM&Aの対価を受け取り、引退後の生活費や新事業への資金にすることができるのです。
事業承継の方法には他にも親族内承継・親族外承継・IPOがあるため、自社の状況に合わせて適切な方法を選びましょう。
自社に最適な事業承継方法を選択し廃業を避けるためには、専門家への早めの相談がおすすめです。
事業承継の方法に悩んだときは、事業承継・引継ぎ支援センターに相談してみると良いですよ。
国が設置した機関なので安心して相談できますね。
身近に後継者候補がおらずM&Aでの事業承継を検討しているなら、ぜひ私にご相談ください。匿名かつ無料でその後の営業も致しませんので、安心してご相談いただけますよ。