M&Aを成功へと導くポイントの1つに、シナジー効果が挙げられます。
「シナジー効果」という言葉は聞いたことがありますが、具体的にはどのような効果なのでしょうか。
シナジー効果がなぜM&A成功のポイントとなっているかも気になりますよね。
この記事では、シナジー効果の意味や種類について詳細を説明し、M&Aにシナジー効果が必要な理由について解説しています。
より高いシナジー効果を期待できる買い手探しが可能になる方法についてもご紹介していますので、M&Aを成功させたい経営者様はぜひ参考にしてください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:M&Aにおけるシナジー効果とは
シナジー効果とは、日本語で「相乗効果」という意味です。
M&Aにおいては、2社の統合により1+1以上の効果が得られることをシナジー効果と呼んでいます。
昨年の売上が2億円のA社と1億円のB社がM&Aで統合した結果、今年は4億円を売り上げた
上記の例は分かりやすいように売り上げで例えていますが、シナジーは事業のあらゆる面において期待できる効果です。
そしてM&Aを実行するとどのようなシナジーが生じ、どの程度の大きさで効果が得られるかは、売り手と買い手の相性に大きく左右されます。
そのためM&Aのお相手を選ぶ際には効果が期待できるシナジーについてを全て把握し、M&A計画に落とし込んでいく作業が必要です。
シナジー効果を期待できるお相手を選ぶことは、M&Aを成功へ導くポイントの1つでもありますよ。
なるほど。シナジー効果は買い手に対してだけでなく、売り手である自社にも良い効果をもたらしてくれるんですね。
そういうことです。シナジー効果の意味を言い換えると、「お互いがお互いを高め合う効果」だといえますね。
2章:M&Aにおけるシナジー効果の主な種類
前述の通り、シナジーは事業のあらゆる面において効果の発揮が期待できます。
シナジーを細かく分類するとその効果が分かりやすくなり、自社にマッチした買い手探しにも役立つことでしょう。
シナジーの分類については様々な考え方があります。ここで紹介している以外にもたくさんの分類方法がありますので、ご自身が分かりやすい分類を覚えておくと良いですよ。
M&Aで2社が統合することで「どんな相乗効果が得られるか」を項目別に分類するのですね。細かく分類されていれば、自社や買い手が求めるシナジーが分かりやすくなりますね。
2-1 売上シナジー
売上の拡大につながるシナジー効果のことを「売上シナジー」と呼んでいます。
売上シナジーをさらに細かく分けると「販売シナジー」や「生産シナジー」などに分類できます。
売上シナジーには、クロスセリングやアップセリングも含まれています。
クロスセリングとは
顧客が購買する商品もしくは既に購入済みの製品やサービスに対し、付加価値的なものを併せて販売すること。
アップセリングとは
顧客が検討しているものより高い商品やサービスを販売すること
ファストフード店に例えると、クロスセリングはバーガーを購入するお客様にポテトもおすすめして買ってもらうイメージです。
なるほど。ではアップセリングは、Mサイズセットを注文したお客様にLサイズセットへの変更をおすすめして購入に至るイメージですかね。
さすが社長!そのイメージでOKですよ。
2-2 コストシナジー
「コストシナジー」とは、M&Aで2社が統合することでコスト削減につながるシナジーです。
- 物流ネットワークが強化され、物流コストが削減できた
- 仕入れ先の一元化が実現し、仕入れコストを削減できた
上記のように2社の経営資源を有効活用することで、コスト削減につながる大きな効果が期待できます。
2-3 財務シナジー
「財務シナジー」とは、M&Aによる2社の統合で得られる、お金や税金に関するシナジーです。
- 余剰資金が活用しやすくなり、新規事業や人材確保につなげられた
- 2社の統合により企業の信頼性が高まり、金融機関からの融資が受けやすくなった
特に2点めの項目は、中小企業にとって非常にありがたいシナジーだといえますね。
「大手の傘下」ということで融資が受けやすくなるということですね。それは本当に有難いことだと思います。
2-4 事業シナジー
「事業シナジー」とは、M&Aによる2社の統合によって事業の成長が加速するなどの効果が得られることを指しています。
- 2社の技術やノウハウを融合させ、より優れた製品の開発に成功した
- 2社の経営戦略を融合させ、より優れた経営戦略が生まれた
業務に直接関わる分野のシナジーを「事業シナジー」と呼ぶんですね。
そのイメージでOKです。
3章:シナジー効果が求められる理由
M&Aにおいてシナジー効果が求められる理由として「企業の成長」が根底にあります。
企業が成長するために必要な要素の効率的な獲得を目的に、シナジー効果の発生が期待されるのです。
企業が成長するために求められている、シナジー効果の具体的な理由についてみていきましょう。
3-1 効率的な事業の成長
シナジーの獲得で、コスト削減に成功したり研究開発のスピードが加速したりします。
つまり、1社で事業を行っていたときと比べて、効率的に事業を成長させられるのです。
また、異なる専門分野やバックグラウンドを持つ人々が協力することで、新しいアイデアや製品が生まれやすくなります。
これは新しいビジネスチャンスを生み出す可能性であり、企業をより成長させる効果が期待できます。
3-2 顧客満足度の向上
シナジー効果により製品の品質が上がったりサービスが向上したりすることは、顧客満足度の向上につながります。
また、顧客満足度の高い製品やサービスの提供は、新規顧客の獲得にもつながります。
このようにシナジーは顧客にとっても嬉しい効果をもたらし、その結果として企業のさらなる発展へとつながるのです。
4章:シナジーの対義語「アナジー」とは
シナジー効果について検討するうえで「アナジー」の存在に注意が必要です。
アナジーはシナジーの対義語で、「反シナジー」または「負のシナジー」とも呼ばれています。
相乗効果の逆の意味を持ち、2社の統合がマイナスになる状態を指しています。
アナジーとは、1+1=2未満になること
1+1=2未満となると、統合しない方が良かったということになってしまいますね。
そうですね。アナジー効果が大きい場合、そのM&Aは失敗だったといえます。
M&Aの実施を考える際は、シナジー効果の獲得だけでなく、発生しうるアナジーについても検討が必要です。
5章:シナジー効果の発生を予測する方法(フレームワーク)
M&Aの実施を検討するのであれば、シナジー効果の発生を見込める相手と交渉したいです。シナジーの発生を予測する方法について教えてください。
シナジー効果の発生を予測する方法はいくつか挙げられます。基本的には買い手の視点に立ったフレームワークですが、売り手が知っておいて損はないですよ。
買い手の視点に立って自社の価値を把握することで、より高いシナジーを期待できる買い手探しが可能になります。
自社を売り込む材料としても、合理的かつ説得力を持つ根拠となるでしょう。
5-1 アンゾフの成長マトリクス
シナジー効果の分析に役立つフレームワークとしてまず挙げられる方法が、アンゾフの成長マトリクスです。
これは「戦略経営の父」と呼ばれる経営学者イゴール・アンゾフが提唱したもので、特にM&Aの目的や戦略を検討する段階でのシナジー分析に適しています。
縦軸は「既存製品で攻めるか、新製品で攻めるか」、横軸は「既存市場を狙うか、新市場を狙うか」を表します。
縦軸・横軸でそれぞれ自社の狙いがクロスした場所に記載されている戦略が、M&Aで実現すべき成長戦略パターンになるのです。
既存製品で既存市場を狙う場合は市場浸透戦略、新製品で新市場を狙いたいのなら多角化戦略を取る、というように戦略の選択を行います。
○市場浸透戦略
M&Aでの市場浸透戦略は、市場での競争力やシェアを高めるために同業他社を買収する事例が一般的です。
シェアを独占すると独占禁止法に抵触する恐れがある
独禁法に引っかかることは避けたいですよね。
市場浸透戦略を掲げてのM&Aでは、直接的なシェアの獲得は危険を伴うため、競争力の強化に重点を置くと良いですよ。
市場におけるシェアの割合に注意しながら、経営資源の効率的な利用・組織の合理化・技術やノウハウの共有などコストシナジーの実現を目指すと良いでしょう。
○新市場開拓戦略
他の地域・他の国・同じエリア内でも異なる顧客層を持つ同業他社を買収する戦略が新市場開拓戦略の代表的な買収方法です。
新しい市場に既存の製品やサービスを販売できるということですね。
自社の製品やサービスをM&A相手が持つ販路に乗せることで、売上シナジーの実現が期待できますよ。
○新製品開発戦略
既存の市場に新しい製品やサービスを投入していく戦略で、主に自社と異なる製品やサービスを扱う企業とM&Aを行います。
研究開発に関するノウハウを共有することで、コストと時間を抑えた新製品開発の実現が期待できます。
既存市場のニーズに対応した製品やサービスの開発と、競合と差別化を図れる製品やサービスの開発が実現できそうなM&A先を吟味すること
○多角化戦略
多角化戦略は、新たな製品やサービスを新たな市場で展開する戦略です。
本当に利益が上げられるのかなど、不確定要素が多すぎて不安になりそうな戦略ですね…。
たしかに他の3つと比べるとリスクが高い戦略ですが、経営全体のリスクを分散できたり範囲の経済性を享受できたりといったメリットもあるんですよ。
※範囲の経済性とは…異なる事業間で経営資源を共有し、個別事業で得られる以上のコストメリットを得ること
M&Aにおいて多角化戦略の実現を目指すためには、展開していく製品やサービスを既にその市場で優位性を持っている企業の買収を検討します。
5-2 PPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)
PPMとは、市場の成長率と自社の市場シェアの軸から自社の成長戦略を考えるフレームワークです。
自社が行っている事業を、市場の成長率と自社の市場シェアそれぞれの高低に応じて、4つに分類します。
市場シェアが高い | 市場シェアが低い | |
市場成長率が高い | エース | 問題児 |
市場成長率が低い | 金のなる木 | 負け組 |
社長の会社で行っている事業を上記の表に当てはめて分類してみてください。
うーん。我が社の事業には「金のなる木」と「問題児」が当てはまる様です。
なるほど。金のなる木となっている事業は最低でも現状維持が必要です。さらに問題児となっている事業はエースへと底上げしたいところですね。
ハッ!ということは、M&Aを検討するなら問題児をエースへと底上げする効果が期待できる買い手を探せば良いのですね!?
さすが社長!その通りです。他にもエースとなっている事業には、市場シェアをキープするためにさらなるテコ入れを行いたいものです。
エース事業のテコ入れを目的としたM&Aの検討もアリですね。
バランスよく成長している企業ならそれもアリですね。一般的には、不足している要素を補強できるお相手とのM&Aがおすすめです。
ちなみに、負け組の事業からは基本的に撤退を検討しましょう。
6章:シナジー効果を生み出す4つの方法
ここでは、シナジー効果を生み出す4つの方法を紹介します。
自社のみで実施できる方法や、M&Aや業務提携など他社との協力体制でシナジー効果を発生させる方法などがあります。
6-1 M&A
M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略で、「合併と買収」という意味です。「マージャーズ・アンド・アクイジションズ」と読みます。
全く異なる背景を持つ複数の企業が1つになることで、技術・ノウハウ・優秀な人材・ネットワークなどの確保が可能になります。
さらに、それぞれの企業が持つ経営資源を共有して活用すれば、生産力の向上や事業の多角化が期待できるでしょう。
経営者が譲渡益を受け取れるほか後継者問題の解決もできるため、後継者不在の問題に悩む中小企業の間ではM&Aが増えているんですよ。
シナジー効果を得ながら、社長自身が抱えている会社の将来への悩みも解決できるんですね。それは非常に魅力的です。
6-2 業務提携
業務提携とは、複数の企業が経営資源を出し合って協力体制を築き、双方の経営課題を解決するための事業戦略です。
つまり、お互いの強みを更に伸ばし弱みを補い合うことで、双方の企業価値を高めていこうという形態です。
いくつかある業務提携の形態のうち、シナジー効果が生まれやすい業務提携は「販売提携」と「技術提携」の2つが挙げられます。
販売提携とは
商品の販売を提携先に委託すること。提携先の販売網を使うことで、販売網を持たない地域での製品の販売が可能になる。
技術提携とは
お互いが所有している技術や特許を共有し、技術開発・販売・製造を協力して行う手段。
6-3 多角化戦略
多角化戦略は、既存の経営資源を使って別分野の事業に参入したり、既存の市場とは別のマーケットに進出して新たに事業展開をしたりする戦略です。
新しい事業分野への進出は失敗のリスクが高いものの、複数事業を展開することで経営危機へのリスク分散にもつながります。
多角化戦略は、さらに大きく4種類に分けられます。
○水平型多角化戦略
既存事業と同様の分野で、新製品開発と新市場開拓を同時に行う多角化戦略です。
企業が培ってきた技術がほとんどそのまま利用できるため、他の多角化戦略と比べても実施しやすい戦略といえるでしょう。
- 自動車メーカーがトラックの製造を開始する など
○垂直型多角化戦略
既存市場と同じもしくは類似した市場で、新製品を投入する多角化戦略を垂直型多角化戦略と呼びます。
- 万年筆メーカーが高級ボールペンを発売する など
○集中型多角化戦略
集中型多角化戦略とは、既存の製品と生産技術やノウハウなどが類似している製品を別の市場へ投入する戦略です。
- 日本酒メーカーが消毒用アルコールの生産を開始する など
自社が持っている技術を他の分野へ応用して、事業の多角化を図るというわけですね。
その通りです。写真用のカメラやフィルムなどを製造している富士フィルムが化粧品や医療機器の開発・販売を始めた例が典型的です。
○集成型多角化戦略
集成型多角化戦略は、新たな市場に既存の製品やノウハウなどと一切関係のない新しい製品を投入する戦略です。
- ソフトウエア開発をしている企業が農業を始める など
集成型多角化戦略は既存の事業と全く関係のない事業を始めるため、多角化戦略の中で最もリスクが高い戦略だといえます。
6-4 グループ一体経営
グループ一体経営とは、グループ企業が業務の一部を共通化し、コストの削減や経営のスリム化を図る事業戦略です。
- 銀行を中心としたグループ企業が、リースやクレジットカードのサービスを展開する
この戦略では、共通のニーズを持っている顧客に対して新しい製品やサービスの提案が可能になりますよ。
なるほど。1社単独で頑張っている会社の場合は、M&Aでグループ企業化を目指すというのも有益な戦略かもしれませんね。
さすが社長。その通りです。大手のグループ会社になることを目指してM&Aに踏み切る中小企業も多いんですよ。
まとめ
M&Aにおけるシナジー効果とは、2社の統合により1+1以上の効果が得られることを指しています。
シナジー効果は、その影響が現れる分野ごとに細かく分類することで、自社にとって必要なシナジー・得たいシナジーをより明確に把握できるようになります。
- 売上シナジー
- コストシナジー
- 財務シナジー
- 事業シナジー など
また、M&Aでシナジー効果が期待できる相手企業を見極めるためには、シナジーの発生を予測し検討する必要が出てきます。
シナジー効果の発生を予測するためには、アンゾフの成長マトリクスやPPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)といったフレームワークの活用が効果的です。
これらは主に買い手が使用するフレームワークですが、売り手が使用することで自社の価値を客観的に把握し、より高いシナジーを期待できる買い手探しが可能になります。
とはいえ高いシナジー効果を期待できる相手探しは、専門家の手を借りた方がスムーズかつ正確に進めやすいですよ。
たしかに私は素人なので、うまく探せる自信がありません…。M&Aの相手を探す際には早めに専門家へ相談します!