会社経営には、いわゆる定年がありません。自身の体力や気力がある限りいつまででも続けられる一方で、「引退のタイミングが分からない」という声もよく耳にします。
そこで本記事では、経営者が引退する平均年齢を明らかにし、理想の引退年齢や引退方法およびその手順について解説します。
40代以上の経営者様は、全員他人事ではありません。ぜひ本記事を参考にして、ご自身が引退する年齢や方法について思いを巡らせてみてください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:経営者の平均引退年齢は約70歳

中小企業庁の中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題によると、中小企業および小規模事業者の平均引退年齢は約70歳です。
会社員の定年よりは長いのですね。
さらにいうと、経営者の引退年齢は従業員規模によって分布が分かれています。

中小企業庁が作成した2021年版中小企業白書に掲載されたグラフからは、従業員数が少なければ少ないほど、社長の引退年齢が上がる傾向を見て取れます。
これは一般的に従業員数が少ない会社ほど社長の影響力が強くなりやすく、「自分がいなければ会社が回らない」という強い思いから引退が遅れやすくなっているためだといえるでしょう。
2章:経営者の理想の引退年齢は?

中小企業における経営者の平均的な引退年齢はおよそ70歳ですが、理想の引退年齢は一体何歳くらいなのでしょうか。
会社の都合や経営者本人の希望などによっても異なりますが、一般的に経営者が引退する理想的な年齢は、50歳〜55歳くらいの間だといわれています。
50歳台とは、少し早い印象ですね。
50歳台前半での引退は一見すると早いようにも見えるかもしれません。
しかし経営者のピーク年齢がおおむね40歳〜60歳の間(業種による)であることから、経営者自身のピークが終わる前に経営を次代へ譲るという意味においては、理想的な年齢だといえるでしょう。
3章:経営者が引退する方法

経営者が引退する方法は、事業承継を行うか廃業するかのどちらかです。
他にはないのですか?
残念ながら他の方法はありません。強いていうなら、会社が倒産したときは強制的に引退することになりますね。
それは絶対に嫌ですね。
経営者が引退する2つの方法について、それぞれ詳細を確認していきましょう。
3-1 事業承継を行う
事業承継とは「事業」そのものを「承継」する取組で、経営者が会社の経営権やこれまで培ってきた経営資源および経営理念など、事業の全てを後継者へ引き継ぐことを指しています。
事業承継は事業を「誰」に引き継ぐかによって、以下の4種類に大別できます。
- 親族内承継…子供や親族など経営者と血縁関係にある者へ引き継ぐ
- 親族外承継(社内承継)…役員や社員など、既に自社で働いている人物へ引き継ぐ
- 外部招へい…社外から次期経営者を招き入れて引き継ぐ
- M&A…第三者へ経営権を売却し、事業承継を行う
近年の中小企業においては、後継者不在問題が深刻化しており親族内承継の割合が減少しているのに対し、親族外承継・外部招へい・M&Aでの事業承継が増えています。
3-2 廃業する
事業承継を行わないのであれば、経営者が元気なうちに廃業を選択することになります。
元気なうちに廃業しておかないと、倒産や債務不履行などに繋がる恐れが高まってしまいますよ。
廃業を選択すると従業員は全員解雇になるほか、取引先との取引も全て停止するため、廃業によって生活が成り立たなくなる者が出てくる可能性には注意が必要です。
また会社の経営状態によっては、廃業後経営者の手元にほとんどお金が残らないケースも考えられます。
引退後の生活のためにも、いくら手元に残るかを確認したうえで廃業の検討を行うと良いでしょう。
4章:経営者の引退が遅れている理由

経営者の平均引退年齢が約70歳であることを前述しましたが、実は平均引退年齢は年々高齢化が進んでいます。

引用:帝国データバンク 全国「社長年齢」分析調査(2023年)
帝国データバンクの2023年の調査によると、2023年の経営者の平均年齢は60.5歳で、1990年と比べると6.5歳上がっています。
平均年齢が上昇したということは、引退年齢も比例して上昇していると考えられます。
経営者の引退が遅れている理由について考えられるのは、主に以下の3点です。
- 後継者の不在
- 後継者教育の遅延
- 廃業予定
それぞれの理由について、さらに詳しくみていきましょう。
4-1 後継者の不在
いくら経営者本人が引退を望んでいても、肝心の後継者がいなければ会社を存続させられません。
しかしながら日本の中小企業では後継者不在問題が深刻化しており、国内中小企業の実に50%以上が後継者不在となっています。
そのため、事業承継を行いたくても行えない状況に陥っている経営者の存在が少なくありません。
後継者不在の背景には少子化により労働人口が減少している点や、職業選択の自由が浸透し経営者の子供が後を継がないケースが増えてきたことが考えられます。

出典:帝国データバンク 全国「後継者不在率」動向調査(2024年)
上図を見ても分かるように、親族内承継はどんどん減っています。これは親族内に後継者がいないということを物語っているとも読み取れますよね。
我が子に会社を継いでもらうという時代はもう終わったのですね。
4-2 後継者教育の遅延
たとえ後継者が見つかったとしても、すぐに事業承継を実現できるわけではありません。
一般的には5年〜10年程度の時間をかけて経営者教育を行い、経営者としての自覚や経営のイロハなどを身に付ける必要がありますが、中には途中で挫折して辞めてしまう後継者候補もいます。
後継者不在問題に悩む中小企業が増えている中で、後継者の選定自体が遅れるケースが多いことも、後継者教育の遅延につながります。
さらに後継者教育のノウハウを十分に持っていない場合は、スムーズな後継者教育の実施が困難になり、事業承継完了時期の遅延を招くことになるでしょう。
4-3 廃業予定

出典:日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」(2023年)
上の図を見ると、廃業を予定している中小企業の約43%が、そもそも事業承継を考えていなかったことが分かります。
2020年時点で休廃業・解散企業の代表者年齢の構成比率は70歳台以上が59.8%となっていることから、廃業予定の経営者は引退時期を引き延ばす傾向にあるようです。

5章:経営者を引退した後の生活

経営者からの引退を検討するにあたり、その後の生活ビジョンが見えていない状態では不安が募ることでしょう。
経営者を引退した後の生活については、経営者自身が選択し、決定します。ここでは、経営者を引退した後にどのような生活を選択できるか、その選択肢についてみていきましょう。
5-1 会社に残る場合
経営者を引退したからといって必ずしも会社から離れるわけではありません。希望次第では会社に残るという選択ができる場合もあります。
経営者が引退後に会社に残る選択肢を選ぶ場合、主に以下の3つから選びますが、事業承継の手段によっては選択できないものもあるため注意が必要です。
○会長職に就き、新社長をサポートする
主に親族内承継や親族外承継で選択できる未来です。
経営は後継者に任せるものの、自身は会長として会社に残り、新社長のサポート役にまわります。
| メリット | デメリット |
| 大なり小なり会社に影響力を持ち続けられる 会社を見守り続けられる 継続的に役員報酬を受け取れる | 新社長が会長の顔色を伺い、大胆な改革を妨げる可能性がある 会長の態度によっては煙たがられる可能性がある |
その昔歴史の授業で習った摂政・関白のようなイメージですね。
○社長の座に留まり続ける
主にM&Aで、買い手の了承が得られた場合に実現します。
M&Aは買い手へ会社の経営権を譲渡しますが、その「買い手」というのは企業です。つまり、M&A後は企業が株主となるため、これまでのように株主が社長を務めるわけにはいきません。
新しい社長を擁立する必要が出てくるのですが、そこへ就任できる可能性があるのです。
| メリット | デメリット |
| 引退する時期を引き延ばせる 継続的に役員報酬を受け取れる | 経営権を持たない社長のため、重要な決定などは親会社の決済が必要 2年〜3年程度の期間限定であることが多い |
○一般社員として働く
廃業以外の方法で事業承継を行った場合に選択できる未来です。
これまでは会社のトップとして君臨していましたが、事業承継後は新社長の下について働きます。
どのような役職や仕事が割り振られるかは、新しい経営者の決定に従います。
しかし今まで部下として接してきた人物が上司となるため、プライドの高い社長には受け入れ難いかもしれません。
| メリット | デメリット |
| 毎月安定した収入を得られる | 周囲が萎縮する恐れがある |
選択肢としてはありますが、実際にこれを選ぶ社長はほとんどいませんね。
たしかに、今まで部下だった人物が社長になってその下で働く…と考えると自分も周りも非常にやりづらい気がします。鋼のメンタルが必要ですね。
5-2 会社を離れる場合
経営者の引退と同時に会社を離れる場合は、仕事から完全にリタイアして悠々自適の生活を楽しむか別の仕事を始めるかのどちらかで、一般的に高齢の経営者ほどリタイアを選ぶ傾向にあります。
さらに具体的な選択肢について、詳細を確認していきましょう。
○完全にリタイアして悠々自適の生活を楽しむ
中小企業の経営者は、引退まで会社のために全力で尽くしてきています。そのため引退後は自分や家族のために時間を使いたいと考える方も多いです。
ただし完全にリタイアすると収入が途絶えてしまうため、今後の人生に必要な金額の算出は欠かせません。
収入がなくなるということは、年金と貯蓄に頼って生きていくことになりますもんね。安心できる金額を準備しておきたいものです。
リタイア後の資金を潤沢に用意したい場合は、他の事業承継手段より多額の対価を受け取れる可能性の高いM&Aがおすすめです。
○新しい事業を立ち上げる
事業承継は、その方法によっては大きなお金を手に入れられる可能性があります。
そのため中には、事業承継で得た資金を元手に新たな事業を立ち上げ、再び経営者になることを選択する方もいらっしゃいます。
新規事業の元手にしたいのであれば、M&Aによる事業承継がおすすめです。
ただしM&Aの場合、契約内に同じ業種を同じ地域内で始められない競業避止義務が盛り込まれることがあるため留意が必要です。
○別の企業へ就職する
経営者を引退した後、心機一転全く別の会社へ転職する経営者は実際にいらっしゃいます。
今まで挑戦してみたいと思っていたものの会社経営のために諦めていた仕事を始めたり、興味の沸いた業種の仕事へ就いたりしているようです。
以前私がM&Aを担当した方の中に、引退後にM&Aコンサルタントの仕事を始めた方がいらっしゃるんですよ。自身の体験を通じてM&Aコンサルタントという仕事に興味を持ったとおっしゃっていました。
6章:経営者が引退する手順

経営者の引退というものは会社員のそれとは違い、自分自身で段取りを組んで実行しなければなりません。
また、前述のとおり、後継者教育には平均して5年〜10年の期間が必要です。理想の引退年齢が50歳〜55歳くらいであることから、引退の準備は40歳台で始めると良いでしょう。
既に50歳台以上の方は、今すぐ準備を始めたほうが良いですよ。
6-1 引退する年齢を決める
引退の具体的な準備は、実際に引退を希望している年齢から逆算して開始します。そのためまずは、自身が希望する引退時期について検討してください。
私は65歳で引退できたらいいなと考えています。
では、65歳で事業承継が完了している状態をゴールに具体的なプロセスについて検討していきましょう。
6-2 引退後の生活について検討する
次に、引退後の生活をイメージしてください。会社から完全に引退して第二の人生を送りたいのか、それとも会社に残って仕事を続けたいのかから検討を始めると、スムーズに進めやすいでしょう。
うーん。私はそうですね。引退して家族と過ごす時間を増やしたいです。孫と遊ぶ機会ももっともっと増やしたいですね。
6-3 事業承継方法を決定する
希望の引退年齢や引退後の生活についてイメージができたら、条件に合った事業承継方法について検討しましょう。
65歳で完全に引退したい私の場合は、どの事業承継方法が良いのでしょうか。
後継者が決まっていないのであれば、M&Aがおすすめです。企業価値に見合った譲渡対価を受け取れるので、引退後の資金面を考えると心強い方法だといえます。
会社や経営者を取り巻く状況にもよって異なりますが、条件別にみたおすすめの事業承継方法を以下にまとめました。(条件と方法によっては新しい経営者との交渉が必要なものもあります。)
| 希望条件 | おすすめの事業承継方法 |
| 後継者が既に決まっている | 親族内承継or親族外承継 |
| 引退後は会長職に就きたい | 親族内承継or親族外承継or外部招へい |
| 引退後も社長を続けたい | M&A |
| 引退後は一般社員として働きたい | どの方法でも可 |
| 完全に引退して悠々自適の生活を楽しみたい | M&A(資産状況によってはどの方法でもOK) |
| 新しい事業を始めたい | M&A |
| 別の企業へ就職したい | どの方法でも可 |
| 5年以内に引退したい | M&Aもしくは外部招へい |
| 後継者はいないけど引退したい | M&Aもしくは外部招へい |
ご自身の条件と照らし合わせて方法についてある程度の目星をつけたら、専門家に相談すると良いですよ。抱えている事情に合わせて最適な事業承継方法の提案が受けられます。
中小企業の事業承継に関する最初の相談窓口としては、国が運営する事業承継・引き継ぎ支援センターがおすすめです。
私は後継者がいないので、やはりM&Aが有力ですね。
6-4 後継者を育成する
親族や従業員に会社を引き継ぐことにした場合は、次期経営者としての後継者教育が必要です。
後継者教育は主に、社内の業務に従事させながら行う社内教育と、他社での勤務や外部セミナー参加などの社外教育を組み合わせて行います。
後継者候補が途中で挫折して辞める可能性もあるため、複数人の後継者候補がいると安心です。
さらに前述のとおり、後継者の育成には5年〜10年程度の期間が必要です。
社長の希望する引退年齢まで5年以内に差し迫っている状況では、引退年齢の引き上げもしくは事業承継方法の変更を検討しましょう。
M&Aや外部招へいを活用する場合は、後継者を育成する必要はありません。その代わり、会社を引き継ぐ相手を探すための準備およびプロセスを開始します。
私はM&Aを検討しているので、後継者育成の代わりにお相手探しですね。
6-5 事業承継を実行する
多くの場合は現経営者が所有する会社の株式を全て後継者へ譲渡し、経営権を移動させる方法で事業承継を完了させます。
ただし事業承継の実行は、全ての準備を万全に整えた上で行わなくてはなりません。たとえば親族内承継の場合ですと、後継者の座を巡って争いが起こることがあります。
またM&Aの場合は、経営者自身が全ての株式を所有しておらず、譲渡に支障をきたすケースも少なくありません。
起こりうる問題やトラブルの芽を摘み、周囲の誰もが納得できる形になるように準備を行った上で、事業承継を実行してください。
事業承継の準備に関しては、専門家のサポートを受けることをおすすめします。
まとめ

国内中小企業における経営者の平均引退年齢は、約70歳です。理想の引退年齢が50歳〜55歳くらいの間だといわれていることから、現実とは実に20歳近く乖離しています。
さらに50歳〜55歳頃の引退を想定するのであれば、40歳台で既に自身の引退について検討を始める必要があります。
もしご自身の年齢が既にそれ以上であれば、今すぐにでも事業承継について具体的に検討を開始することをおすすめします。
あまり考えたくはないですが、不測の事態により社長が働けなくなってしまう可能性も年齢とともに上昇します。会社の未来のためにも、早めに引退について検討して準備を始めましょう。
















