M&A

【実録M&Aの現場より】M&Aで社員が感じた不安の実例

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シリーズ【実録M&Aの現場より】も3回目を迎えました。

今回は、M&Aの事実を知った社員がなぜ、どのようなことに不安を感じるのか、をテーマに齋藤さんにインタビューを行いました。

社員に安心してM&Aを受け入れてもらえる方法についても伺いましたので、M&Aを検討中の経営者様は必見です。

回答者:齋藤和寿

  • インバースコンサルティング株式会社代表取締役
  • 豊かなリタイアを実現する事業承継コンサルタント
  • M&Aによる取引累計額200億円超
  • 支援企業は未上場企業から上場企業など多岐に渡る

聞き手:大橋

M&Aの事実を知った社員が感じたリアルな不安の一例

不安を感じる社員

大橋:

今日はM&Aが従業員にどのような不安を与えるのか、ということを掘り下げて伺っていきたいと思います。よろしくお願いします。

齋藤:

はい。よろしくお願いします。

大橋:

まず最初の質問ですけれども、自分が働いている会社がM&Aで売却されるという話を聞くと、従業員としては「何かしなければ」というような気持ちになるのでしょうか。

齋藤:

うーん、M&Aの仲介会社としては本人に聞くこと自体ができないので、さすがにわからないというのが正直なところです。
ただですね、自分自身も働いていた会社がM&Aされるという経験をしてまして。今回はその話をしようかな、と思います。

大橋:

つまり、M&Aで売却される会社の社員だったということですか?

齋藤:

そういうことです。独立する前、証券会社で働いていた頃の話です。
M&A部門にいたので、自社が買収されるという情報が、正式発表の前に飛び込んできたことがありました。

大橋:

会社からの発表の前に、仕事の情報として入ってきたと…。そのときはどのような感情を抱きましたか?

齋藤:

恐怖。最初によぎったのが恐怖と不安でしたね。「何かしなければ」というよりは、まず自分の将来はどうなるんだろうという不安。
あと、外資系の企業に買収されるということで、良い業績を上げなければクビになるのではないかという恐怖感がありました。外資系ってドライなイメージがあったので。
結果を出さなければという気持ちになったことを覚えています。

大橋:

ということは、ご自身の働き方や置かれる環境が変わるかもしれないということに対して、不安を感じたのでしょうか。

齋藤:

まさにその通りです。
もう少し具体的な話をすると、今の社長はどうなるのかという心配がありました。M&Aにともなって社長が交代になったら、事業のやり方も変わるので。
例えば営業面で言えば、何か過大なノルマが与えられるんじゃないかとか。で、そのノルマを達成できなければクビを切られるのではないかという心配。
あと、クビにならずとも部署異動をさせられるのではないかとか。
詳細が分からないだけに、不安だらけでした。

社員が感じた不安は現実にはならなかった

躍動するビジネスマン

買収直後はいつも通りの日々

大橋:

M&A後に部署が変わったり、厳しいノルマが課せられたりというのは、実際にありましたか?

齋藤:

実は、社員としての日々は何も変わりませんでした。
社長も変わらず部署異動もなく、これまでより厳しいノルマが課せられたということもなく、それまでと同じように働くことができていたんです。
M&Aの直後は。

良い変化が起こり始めたのは買収後半年ほど経ってから

大橋:

M&Aの直後は…ということは、しばらく経ってから何かが変わった、ということでしょうか。

齋藤:

M&Aから一年半後くらいからですね。変化が起こり始めたのは。
新しい部署が創設されて、そこへ世界的に有名な金融機関で働いている人たちがヘッドハンティングされてくるなどしました。
私が所属していたのはM&A部門だったのですが、会社としてできることがすごく増えて、仕事が一層楽しいと感じられるようになりましたね。
そして実は、この買収は会社の業務を強化するために行われたものだということも後から知りました。

大橋:

実際のところは会社をより成長させるためのM&Aで、最初に感じた恐怖や不安は杞憂に終わり、良い変化が起きたというわけですね。

M&Aの事実を知った社員が感じる不安の正体とは

モヤモヤする会社員

大橋:

本当は良い方向に変わろうとしてM&Aが行われているのに、実際にそこで働いている人は最初は不安を感じる。
会社を良くするためのM&Aなのに、社員が不安を感じてしまうのは、何か原因があるのでしょうか?

齋藤:

そうですね。良い方に変わる想像も、確かにしてはいました。
正直なところ、昇給への期待なども抱きました。ただ、その時は不安の方が圧倒的に大きかったことを覚えています。
人間というのは、分からないことや不透明なことに対して、不安を抱きやすくなる生き物です。
これは原始時代から引き継がれた人間としての本能なので、自分でコントロールするのは難しい感情なのです。

不安の正体は、脳が危険を予測して身を守ろうとする「防御本能(予期不安)」で、ノルアドレナリンなどの脳内物質が分泌されることで引き起こされる身体的・心理的反応である。

  • 「わからない」ことへの恐れ:
    相手や状況が理解できない時、人間はそれを「危険」とみなし、不安を抱きやすくなる。
  • 変化や不確実性:
    将来への不透明さや慣れない環境は大きなストレスとなり、不安を増幅させる。

大橋:

なるほど。M&Aという未知の事態に触れて、自分たちの未来はどうなるのかと、本能的に不安を感じていたのですね。

齋藤:

特に私の場合はM&A部門で働いていたという事情があって、情報を先行開示されたので余計に不安を感じたのだと思います。まさに、未知なるものへの不安ですね。

社員を不安にさせないM&Aの発表方法

仕事をしている社長のイメージ

タイミングは原則として売買契約の直後

大橋:

やはり正式発表の前に知ってしまうと、不安を感じやすくなってしまうのですね。ところで正式発表はどのタイミングで行われるのでしょうか。

齋藤:

原則としては、売買した直後に速やかに発表すると良いとされています。そのためには交渉中からしっかりと、M&Aを発表する準備を整えておくことが大事です。
ただしこのタイミングは、全ての案件に当てはまるとは限りませんので注意が必要です。

大橋:

ケースバイケースということですか?

齋藤:

例えば買収監査に幹部社員を巻き込もうという場合、幹部社員には基本合意後に伝えるというパターンもありますね。

とにかくポジティブな情報として伝える

大橋:

発表のタイミング以外で、社員に不安を極力与えない方法はありますか?

齋藤:

売主様から社員へ「会社を良くするためのM&A」である点を特に語っていただきたいですね。
例えば、会社としてできることが増えて、業績も今より良くなって、みんなのキャリアアップにつながる、などといったことを、具体的な数字や事例なども挙げながら伝えられると良いですね。
会社が良くなる未来を語っていただければ、社員たちも不安を感じにくいはずです。

大橋:

たとえ後継者不在や業績不振など、そういう理由でのM&Aだったとしても、社員に伝えるときは「会社が良くなるよ」とポジティブな伝え方をするべきだと。

齋藤:

その通りです。
例えば赤字続きの会社がM&Aで黒字に転換するというのも会社としては良くなる話ですし、今ある黒字がさらに増えるというのも会社として成長するという意味では同じなんですよね。
会社の状況がどうであっても、現状より悪くなるM&Aをしたい人は誰もいません。売り手も買い手もみんな「今より良くなる」と考えてM&Aを実行するわけですから。
なので、会社の存続やその後の発展を当初の目的としている場合でも、その後の発展とか、未来のためにM&Aをするのだ、という点を強調する。
これがやはり社員に不安を与えない一番の方法だと思います。

万が一の情報漏えいに備える方法

成功

大橋:

M&Aは情報が漏れたら絶対にダメだと言われていますが、万が一、正式発表の前に情報が漏れてしまった場合はどう対処したらいいのでしょうか。

齋藤:

情報が流出したタイミングにもよりますね。
買い手候補の有無、買い手がいるのであれば、トップ面談をしたばかりの相手なのか、それとも買収監査に入ってるタイミングなのかによって対応は変わってきます。

買収監査(デューデリジェンス)とは

買い手企業が売り手対象企業もしくは買収予定事業に対して、その実態を念入りに調査する行為

齋藤:

例えばM&A仲介会社に相談に乗ってもらった程度で、お相手探しもしていない。なんなら仲介契約すら交わしてないような段階でしたらキッパリ否定してもいいでしょう。

大橋:

逆にその段階で「M&Aするらしい」なんてウワサになることがあるのでしょうか。

齋藤:

弊社では前例がありません。ただ恐らく、営業活動で会社へ訪問してきた人が”M&A〇〇”というような会社名を名乗ったら、M&Aの話が進んでいるのでは?と想像してしまう、というのは考えられますね。

大橋:

そういうケースでは、たとえM&Aを本気で検討していたとしても、このタイミングでは否定していいのですね。

齋藤:

ただし、M&Aプロセスが進んでいる途中で情報が漏れて、社内がザワザワしているような事態になってしまった場合には、素直に言った方がいいと思います。
万が一そのような状況になった場合は、M&A実行に至ったまでのポジティブな理由もしっかりと伝えましょう。

大橋:

例えばどのようなフェーズで情報が漏れやすいのでしょうか。

齋藤:

最も注意すべきなのは、買収監査のフェーズですね。
会社に専門家がゾロゾロと来たりするので、従業員に目撃されたりすると「何かおかしいぞ」となり得ます。
あとは買収監査に至るまでのプロセスにも注意しなければなりません。
色々な資料を提出していただいたり質問に答えていただく必要があるのですが、社長が全て把握しているケースはごく稀にしかなくて、だいたい誰かに聞かないといけません。
資料によっては総務だったり経理だったり、内容によっては税理士に聞く必要があるケースも出てきます。
そういうところで、勘付く従業員が出てくる恐れがあります。何か普段と違う動きが起こっているぞ、というふうに。

大橋:

その状況で秘密を守り抜くのは、逆に大変というか、大きな苦労を伴いそうですよね。

齋藤:

売主様お一人でというのは相当大変です。先にも述べましたが、ある程度の規模の会社になると、部長クラス以上の幹部社員にだけは先にM&Aを打ち明けて、協力を仰ぐケースもあります。

大橋:

なるほど。しかし、幹部社員から情報が漏えいする可能性もありますよね。

齋藤:

そうなんです。もしかしたらポロッと言っちゃう社員がいるかもしれないですね。そこは本当に難しい。
だからこそ幹部社員にも、M&Aの目的、あくまでも会社として良くなるためのM&Aだということをしっかりと伝える必要があります。
買い手の顔も見えないし、何を考えているかも分からない状態で「M&Aします」という事実だけを伝えると、幹部社員は不安になってしまいます。それだけは避けなければなりません。
そのため場合によっては、信頼関係を構築するために、買い手と幹部社員だけで面談をしてもらう機会を作ることもあります。

M&Aを知った売り手側の社員が反乱を起こした実例

割れた陶器

実例1:決済前日に得られなかった理解

大橋:

では、今までにM&Aの情報を察知した社員が反乱のようなものを起こしたことはありますか?

齋藤:

ありますね。少ないですけど、あります。

大橋:

少ないけどということは、複数あるということでしょうか…。

齋藤:

はい、何件かあります。
1つめの事例は、買収監査も終わり、譲渡の実行を翌日に控えた日の22時頃に起きました。

ここでいう譲渡の実行とは、譲渡代金を買い手から振り込んでもらい、株主名簿を買い手の名義に書き換える作業を指します。

大橋:

22時…ずいぶん遅い時間だったのですね。

齋藤:

売主様がその時間に幹部社員2人へ伝えたのです。「明日M&Aを実行します」と。
売主様は「この2人なら理解してくれるから大丈夫」と判断してそのタイミングで発表したようなのですが、いざ伝えてみたら、幹部社員がかなり怒ってしまいまして。
それで私のところへ売主様から相談がありました。

大橋:

その時間ではM&A実行まであと数時間、というところまできていたのでは?

齋藤:

そうですね。
実際の時間は伏せさせてもらいますが、売買予定時刻の3時間くらい前に幹部社員2人と売主様と私と、計4名で膝を突き合わせてじっくり説明をさせてもらいました。
そこで分かったのですが、幹部社員の2人の気持ちとしては、事前に教えてもらいたかったということでした。
幹部社員としても、自分が幹部だという自負はやはりあるので、売主様から信頼されていないのかと感じてしまったみたいですね。

大橋:

M&Aを打ち明けるタイミングとしては間違っていませんよね?

齋藤:

そうですね。M&Aのプロセスの一般的なやり方としては合っています。
なので、なぜギリギリまで伏せたかという説明を私の方から差し上げて、ご理解をいただきました。
その後すぐに決済の会場へ向かって、事なきを得ました。

実例2:株式譲渡当日に起きた波乱

齋藤:

2つ目の実例は、決済当日の話です。
午後に決済を行う予定だったので、午前中に従業員発表を行いました。すると「突然の話すぎて、自分としてはちょっと認められない」という社員からの発言があったのです。

大橋:

認めるも認めないも、社員の立場でどうこう言えるものではありませんよね。

齋藤:

おっしゃる通りですが、やっぱり受け入れられないということになりまして。決済は後日仕切り直すことになりました。
とはいえ後日そのM&Aは無事に成立しまして、業績がなんと倍以上に伸びたんですよ。

大橋:

それはすごい!結果的には大成功だったのですね。
M&Aの発表当初、なぜその社員は反対したのでしょうか?

齋藤:

社員としては、いずれは社長のご子息が継ぐのではと想像していたみたいなんです。
で、社長から重大発表があると聞いて、ご子息への代替わりの発表だと勘違いしていた。
しかし蓋を開けてみたら第三者への譲渡でした、ということで、反発心が一気に爆発したという感じでした。

大橋:

うーん。社長に忠誠を誓っていたのでしょうか…。

齋藤:

そこまでは私には分かりませんが、可能性の1つとして、会社の居心地が良かったことが考えられます。
居心地がいい会社の多くは、その分やっぱり楽な側面があるんですよ。サボれるとか。そういう可能性があります。
けどM&Aで状況が変わるとサボれなくなる。頑張らないとお給料がもらえなくなってしまう、という恐れを感じるというわけです。だからM&Aに反対する。

大橋:

それって、齋藤さんが感じた不安と同じですね。「今より仕事がキツくなるのでは」という不安。
しかもこのケースでは社長と社員との距離が近かったから、トラブルに発展しやすかったように見受けられます。

齋藤:

まさにそうですね。
話の内容によっては予定通りその日のうちに決済を完了できたのかもしれませんが、このケースでは買い手の了承を得た上で仕切り直した方が良いと判断しました。

譲渡契約締結および決済のタイミングについて

サインと握手

大橋:

書類上で行われる譲渡契約の締結と、実際に譲渡対価が支払われて株式の移動が行われるのは、同時なのでしょうか。それとも別日で設定するのでしょうか。

齋藤:

契約締結日と決済は、別の日にするケースもあれば、同じ日に行うケースもあります。
契約の締結と決済を別日に設定した場合は、契約締結の直後に発表することが多いですね。契約締結と決済が同じ日の場合は、直前もしくは直後の発表になります。

大橋:

そのタイミングは誰が決めるのでしょうか。

齋藤:

スキームによるところが大きいです。
例えば事業譲渡の場合だと、従業員は転籍することになります。手順としては、事業譲渡契約を締結したその後に、該当の従業員から承諾をもらわなければなりません。

大橋:

転籍することに同意しますという承諾書をもらうのは、契約後なのですね。

齋藤:

そうですね。例えば、買い手との売買契約が成立していないのに転籍に承諾してもらったとして、万が一買い手から「やっぱり買収をやめます」となったら従業員にどう説明するか、という問題が発生します。
逆に買い手からすると、買収したのに従業員が移ってこないとなると、振り込んだお金を一部返してくださいという話にもなりかねません。
極端な話、買い手の元へ従業員が一人しか来なかったとしたら、事業が回らない。回らない事業は、取得できません。という話になってきます。
だから、最後の契約を締結する日と決済の日、クロージング日はずらします。

大橋:

株式譲渡の場合はどうなのでしょうか。

齋藤:

株式譲渡でも似たようなことが起こるケースがあります。
例えば取引先との契約の中に、株主が変わる時には事前に承諾を得てください、という内容がある場合、株式譲渡契約の締結後に取引先に承諾を得に行きます。
そこで承諾を得られなかった場合、最悪取引が中止になる恐れがある。そうなると、買い手としては買収する意味が薄れてしまいます。買い手は取引先も含んでの買収計画をたてているので。
このようなリスクがある場合は、買い手としても、売買契約締結後すぐに決済ができません。損をしてしまう可能性がありますからね。
そのため、取引先からの承諾を得たらお金を振り込みます、という設計にしておく必要があるのです。
逆に売主様側としても、買い手との契約を締結していない段階で取引先に発表してしまい、買い手が「やっぱり買収しません」となると、売主様と取引先の信頼関係が崩れてしまう可能性もあります。
なので、売る買うっていう契約をしっかり締結してから発表するし、でも承諾を得られなければ買主としては買えないので、売買は承諾を得た後で。ということで、日程をずらして設定するのです。

大橋:

案件によって異なってくるのですね。難しい…。M&Aって、とても繊細な取引なんですね。

齋藤:

そうですね。ハッキリとした正解はないので、繊細さを持って進めた方が良い取引です。

まとめ

社員たち

M&Aを知った社員は未知への恐怖から本能的に不安を抱きやすいですが、実際には業績拡大など好転する事例も多く、経営者の伝え方が鍵を握ります。

従業員へ発表するタイミングは原則として売買契約の直後が適しています。

そしてどのような背景のM&Aであっても「会社がより良くなるための前向きな選択」であることを、具体的な未来像を交えてポジティブに語ることが最重要です。

また、最も情報が漏れやすいのは、専門家が動く買収監査のフェーズです。

万が一、M&Aプロセス中に噂が広まった場合は素直に情報を開示し、前向きな理由を伝えましょう。

場合によっては、幹部社員には事前に目的を共有して巻き込むことで、直前の反発を防ぐことができます。

さらに、転籍同意や取引先の承諾が必要なスキームでは、リスク回避のために契約締結と決済日をずらし、契約直後に公表と手続きを進めるなど、案件に応じた繊細な日程設計が欠かせません。

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この記事を監修した人 齋藤 和寿
【インバースコンサルティング株式会社代表取締役】 後継者不足の解決や豊かなリタイアを望む経営者様に寄り添い「最幸のM&A」を実現するための情報を発信しています。 仕組み経営コーチとしても活躍中。会社の仕組み化×M&Aで、社長の人生を豊かに彩ります。