会社を経営していると、M&A仲介会社を名乗る先からDM(ダイレクトメール)が送られてくる機会も多いのではないでしょうか。
M&A仲介会社からDMが送られてくるのは決して珍しいことではなく、むしろ近年増加傾向にあります。
しかしここで気になる点が「送られてくるDMを本当に信用してよいのか」ということですよね。
我が社にもたくさんのDMが送られてきます。DMの内容に魅力を感じることもあるのですが、信用できるか分からないので結局いつも捨てています。
そこで本記事では、M&A仲介会社から中小企業宛てに送られてくるDMについて、送付の目的・信頼できるM&A仲介会社の見分け方・迷惑に感じる際の対処法を中心に詳しく解説します。
M&A仲介会社から送付されるDMの正体を知りたい方は、ぜひ本記事をお役立てください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:M&A仲介会社からのDMが増えている理由
M&A仲介会社からのDMが増えている理由は、M&A仲介会社そのものの数が年々増加しているからです。
中小企業庁が公表している「M&A支援機関登録制度」によると、2021年10月時点での登録件数が2,278件なのに対し、2023年2月の時点では2,980件となっています。
参照元:中小企業庁 M&A支援機関登録制度に係る登録ファイナンシャルアドバイザー及び仲介業者の最終公表について(令和3年10月15日更新)
中小企業庁 M&A支援機関登録制度に係る登録ファイナンシャルアドバイザー及び仲介業者の最終公表について(令和5年2月16日)
わずか2年で700件ほども増えているんですね。
そうなんです。その背景には、M&A件数の増加が1つの要因として挙げられます。M&A件数が増えた結果として、M&Aを取り扱う仲介会社も増えていると考えられるんですよ。
このように、M&A仲介会社が増加したことで顧客獲得の競争が激しくなり、DMが増えている現状があるのです。
2章:M&A仲介会社が送るDMの目的
M&A仲介会社から送られてくるDMの目的はたった1つ。それは、新規顧客の獲得です。つまり、会社を売ってくれる経営者を見つけるためにDMを送付しているのです。
とはいえ、中にはメールを開封してもらいたいがために過剰な謳い文句をつけているケースも見受けられるため注意が必要です。
ここではM&A仲介会社がDMを送る目的について、詳しくみていきましょう。
2-1 DMは営業手段の1つ
M&A仲介会社にとって、DMの送付は数ある営業手段のうちの1つだといえます。
世の中には実に336万社(2021年時点)もの中小企業が存在していますが、M&Aのニーズを持っている企業はその中の一部です。
さらにM&A取引は単発で1回限りのケースがほとんどであることから、仲介会社は常に新規顧客を探している状態なのです。
そのためM&A仲介会社は「数うちゃ当たる」戦法で、データベースから売り手になってくれそうな企業を抽出し、DMを送付しています。
DM送付の他によく使われている営業手段としては、電話が挙げられますよ。
2-2 「御社を買いたい」という文言には注意!
M&A仲介会社から送られてくるDMの中には「御社指名」とか、「貴社を買いたい企業がいます!」といった内容が書かれている場合があります。
これについては、99%が嘘だといって良いでしょう。
ただし、M&A仲介会社が本当に買い手候補を抱えている可能性はゼロではありません。
指名とまではいかないものの、買い手候補が掲げる買収の条件にマッチした企業へDMを送付しているケースは、十分に考えられます。
なるほど。「貴社(のような条件の企業)を買いたい企業がいます!」という可能性はあるということですね。
その通りです。
2-3 会社の情報が漏れている可能性は低い
M&A仲介会社からDMが届いたことを受けて「会社の決算情報などが外部に漏れているのではないか?」と考える経営者の声もよく耳にします。
このようなケースが絶対にないとは言い切れませんが、ほとんどの場合において、DMと情報漏洩は結びつけなくても大丈夫です。
一般的にDMの送り先は、帝国データバンクや商工リサーチなどの情報を元に抽出します。
その他にも各種業界の団体リストを情報元にしたり、自社独自の営業リストを作成したりしているM&A会社もあります。
後ろ暗い手段で手に入れた情報ではないということですね。それなら少し安心です。
3章:DMに書かれている連絡先に連絡したらどうなる?
DMの内容に興味を持って書かれている連絡先に連絡すると、まず間違いなく面談を勧められます。
ここで注意したい点は、「ちょっと話を聞いてみたい」という温度感で連絡した場合でも、M&Aを進める前提で話が進行していくケースがあることです。
M&A仲介会社側は「とにかく契約が欲しい」状態ですから、多少強引にでも契約の方向へを進めていく可能性が高いのです。
もし契約の方向へ強引に話を進められたらどう対応したらよいのでしょうか。
ハッキリと「今日は話を聞きに来ただけで、契約するつもりはない。検討してまた連絡する。」と伝えてくださいね。
なるほど。場の空気に流されずにハッキリと「今日は契約しない」と伝えちゃった方がいいんですね。
その通りです。ただ、強引に契約を進められるM&A仲介会社はおすすめできません。逆にしっかりと話を聞いてくれて、社長に寄り添った提案ができる仲介会社であれば、安心して任せて良いと思いますよ。
4章:信頼できるM&A仲介会社の見分け方
DMを送付してくるM&A仲介会社の中には、残念ながら悪徳業者のような会社が含まれている可能性を否めません。
実際にゴリ押しで契約を取り着手金を支払わせたものの、その後は放置で一向に買い手探しが始まらない…。という話もちらほら耳にします。
そのような悪徳業者にカモにされないために、ここでは信頼できるM&A仲介会社の見分け方を詳しく解説します。
送られてくるDMはどれも似たり寄ったりなので、ぜひ見分け方を知りたいです!
4-1 実績や評判を確認する
積み重ねてきた実績が多いほど、豊富な経験を持ったM&A仲介会社だといえます。また「本当に経営者に寄り添ったM&Aを提案してくれるかどうか」などは、クチコミなどの評判を確認すると良いでしょう。
過去の顧客からのクチコミは、M&A仲介会社の良し悪しを見分ける良いバロメーターになりますよ。
確かにDMには何とでもうまいことが書けちゃいますもんね。第三者の意見のほうが信頼できそうです。
実績については、DMやホームページなどで確認が可能です。評判に関しても、ネットで検索すると出てくる可能性があります。
実績も少ないうえに評判もイマイチ芳しくないM&A仲介会社からのDMは、即ゴミ箱へポイしてくださいね。
4-2 一方的で強引な営業をしない
M&A仲介会社の中には、契約数のノルマが厳しくて「とにかく契約させる」というやり方で営業を行っている会社も存在します。
そのようなM&A仲介会社の営業はたいてい一方的に話を進め、少々強引にでも契約書にサインをさせようとする傾向があるようです。
しかし残念ながらそのようなM&A仲介会社は、経営者に寄り添ったM&Aを提案できる可能性が低いと言わざるを得ません。
本当に信頼できるのは、経営者の話にしっかりと耳を傾け、希望に沿った提案を行ってくれるM&A会社です。
面談時にしっかりと見極めて、強引な営業はハッキリと断る勇気を持ちましょう。
4-3 メリット・デメリットの両方を伝えてくれる
信頼できるM&A仲介会社は、メリットはもちろんデメリットも包み隠さず教えてくれます。
逆にメリットのみを熱弁するM&A仲介会社は、契約が欲しいがために都合の良いことだけを伝えている可能性が高いため、お断りした方が安全です。
優良なM&A仲介会社であれば、デメリットをしっかりと伝えた上で、そのデメリットを極力被らないような提案を出してくれるでしょう。
デメリットをリカバリーできる提案の引き出しをたくさん持っていることも、経験豊富で良質なM&A仲介会社を見分けるポイントですよ。
4-4 コンサルタントの知識や経験が豊富
M&A仲介会社とアドバイザリー契約を締結すると、多くの場合は1人のM&Aコンサルタントが契約成立までをサポートします。
M&Aの交渉では、売り手と買い手の相反する要望をうまくまとめていかなければなりません。また、M&Aにはトラブルの発生もつきものです。
そこでM&Aをスムーズに進めるために、M&Aコンサルタント個人が豊富な知識や経験を持っていることが重要になってくるのです。
担当コンサルタントの経験が豊富であるほど、交渉で困りごとが発生しても臨機応変に解決できる可能性が高まりますよ。
4-5 法務・税務・会計などに関する専門家が在籍している
M&Aを進める際には、法務や会計などの専門知識が必要になる場面が多数出てきます。
もしそれらを取り扱う専門家との連携が取れていないM&A仲介会社と契約してしまうと、必要になるたびに外部へ依頼しなければなりません。
多くのM&A仲介会社では法務や会計などの専門家が在籍しているか、すぐに連絡が取れるように連携していますが、契約前にしっかりと確認しておきましょう。
4-6 料金体系が明確で良心的
M&A仲介会社は、採用している料金体系がそれぞれ異なり、プロセスが進むごとに手数料が必要になったり、複雑な計算方法を導入していたりするM&A仲介会社も存在します。
またM&Aは取引価格が大きくなりやすく、仲介会社へ支払う金額も大きくなりやすい特徴を持っています。
そのため、支払いが必要な金額を把握しやすいM&A仲介会社を選ぶことがおすすめです。特に中小企業の場合は、最低成功報酬が低めに抑えられているM&A仲介会社を選びましょう。
M&A仲介会社に支払う手数料については、下記の記事で詳しく解説しています。
5章:M&A仲介会社からのDMを迷惑に感じたときの対処法
M&Aには興味がないのにDMが大量に送られてくると、非常に迷惑ですよね。捨てる手間もバカになりません。
そこでここからは、M&A仲介会社から送付される迷惑なDMへの対処法を解説します。
5-1 郵便物の受取拒否をする
M&A仲介会社からの迷惑なDM送付を止める有効な手段として、郵便物の受け取りを拒否することが挙げられます。
受け取り拒否の方法はいたって簡単です。まずは届いた迷惑な郵便物に、以下の2点を記載したメモもしくは付せんを貼り付けます。
- 「受取拒絶」の文字
- 受け取りを拒絶した方の印を押印または署名を記載
そのメモまたは付せんを貼り付けた郵便物を、郵便窓口に持ち込むか、郵便ポストに投函すれば完了です。タイミングが合えば、配達員へ渡しても構いません。
受け取り拒否された郵便物は差出人へ返還されるため、暗にDMの送付が不要な意思を差出人へ伝えることもできます。
ただし、一度開封した郵便物は受け取り拒否ができないため注意が必要です。また、メール便など郵便物でない場合は、配達を担当した配送業者へお問い合わせください。
5-2 中小企業庁へ通報する
M&A仲介会社は、そのほとんどが中小企業庁が管理しているM&A支援機関に登録しています。
このM&A支援機関登録制度は、中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築するために中小企業庁が設けた制度です。
つまりM&A支援機関に登録しているというのは、中小企業庁から「ちゃんとしたM&A仲介会社ですよ」とお墨付きをもらっているということです。
中小企業庁では、中小企業をM&Aの悪徳業者から守るために、苦情などの情報提供窓口を設けています。
DMが大量に届いたり、送付を止めてほしい旨を伝えたにも関わらず届き続けていたりする場合は、この情報提供窓口への通報を検討しても良いでしょう。
寄せられた情報は、会社名が特定されない範囲で「不適切事例」として公表されるほか、対象登録業者の「登録要件充足状況」の判断材料として利用されます。
寄せられた苦情があまりにも多いと、登録を抹消される可能性があるということですね。
その通りです。M&A仲介会社側からすると、中小企業庁へ通報されるのは避けたい事態だといえます。
中小企業庁への通報については、下記のリンクもご参照ください。
まとめ
M&Aが活発に行われるようになってきている近年では、M&A仲介会社の数も増加傾向にあります。
それに伴い、M&A仲介会社からDMが送られてくる機会も増えてきています。
M&A仲介会社がDMを発送する理由はズバリ、新規顧客の獲得です。
ただし、開封してもらいたいがために少々過激な謳い文句を掲載しているDMの存在に注意が必要です。
特に「御社を買いたい企業がいます」とか「御社指名の案件です」という文言は信じない方が良いでしょう。
DMに書かれている連絡先に連絡すると、多くの場合は面談の実施を勧められます。先方はM&Aを実施する前提で話を進めてくる恐れがあるため、その場の雰囲気に飲まれないよう注意してください。
実際にM&A仲介会社との契約を検討する際は、面談の印象だけでなくインターネットなどで実績や評判を探したり料金体系について確認したりして、信頼できるM&A仲介会社を見極めましょう。
大量に送られてくるDMが迷惑だと感じた場合は、郵便物の受け取り拒否や中小企業庁への通報を検討してください。