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事業売却が社員に与える影響は?雇用の取り扱いや転籍に反対された場合の対応も解説

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事業売却では、売却する資産ごとに移管手続きが必要です。社員も例外ではなく、譲渡対象となった社員1人1人が買い手企業へ転籍する手続きをしなければなりません。

そこで気になるのが、事業売却は社員にどのような影響があるかという点ではないでしょうか。

この記事では、事業売却が社員に与える影響について、雇用の取り扱いや転籍に反対した場合の対応も踏まえて解説します。

登場人物紹介

齋藤さん

インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!

社長

中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。

1章:事業売却による社員の雇用契約の取り扱いについて

事業売却

会社の一部を売却するM&Aスキームである事業売却では、買い手へ譲渡する事業に紐づく社員も売却対象になります。

齋藤さん

上記の図でいうと、C部門に紐づく社員も売却対象となり、買い手へ譲渡されるケースが一般的ですよ。

ここでは、事業売却で譲渡対象となった社員の雇用契約について、詳しくみていきましょう。

1-1 基本的にはそのまま働き続けられる

事業売却で譲渡対象となった社員は、基本的には以前と同じ条件で働き続けられます。

社長

社員にとって仕事そのものの内容は変わらないんですね。

齋藤さん

その通りです。ただし、事業売却にともない勤務地は変更になる可能性が高いですよ。

社長

なるほど。売却された事業と共に買い手企業のオフィスへ引っ越すことになりますもんね。

ただし、そのまま働き続けられるのは、社員本人が買い手企業への転籍に同意した場合のみです。

齋藤さん

詳しくは次項で解説しますね。

1-2 労働契約は引き継がれない

契約書と印鑑

事業売却では、譲渡対象となった資産に対して個別に移管手続きが必要になり、社員も例外ではありません。

つまり、社員1人1人が買い手企業への転籍に同意し、手続きを踏む必要があるのです。

そのため転籍に同意した社員は一旦売り手企業を退職し、買い手企業と新たに雇用契約を締結します。

社長

雇用契約が引き継がれないということは、有給や退職金などもリセットされてしまうのでしょうか。

齋藤さん

その疑問に関しては、2-32-4で詳しく解説しています。

また、事業売却における転籍は、売り手企業の労働条件をそのまま買い手企業へと引き継ぐことが原則となっています。

そのため転籍時に買い手企業が勝手に労働条件を変更することはできません。ただし従業員との間に合意が得られれば労働条件の変更は可能です。

齋藤さん

基本的には以前の条件を引き継ぎますが、変更の可能性がゼロではないことも覚えておいてください。

1-3 リストラの可能性はある?

たとえば社員が転籍を拒否した場合でも、それを理由にリストラを行うことはできません(労働契約法第16条)。

ただしリストラの可能性はゼロではなく、条件を満たせば実施されるケースもあります。

社長

リストラの可能性としてはどれくらいなのでしょうか。

齋藤さん

安心してください。ごくわずかですよ。

事業売却でリストラが認められるのは、以下2点の条件を満たした場合に限定されます。

  1. 買い手が全員の雇用を引き継げない
  2. 引き継がれない従業員を全員売り手側に残すことが難しい(倒産してしまいそうな経営状態)

さらに従業員をリストラする際には、整理解雇の4要件を満たさなくてはなりません。

  1. 人員整理の必要性(解雇を行わなければ会社が倒産してしまうほどの差し迫った経営状態であること)
  2. 解雇回避努力義務の履行(配置転換・出向による雇用継続・希望退職者募集、退職勧奨など、解雇を回避するためのあらゆる努力を尽くしていること)
  3. 被解雇者選定の合理性(解雇対象者を選定するための合理的な基準が設けられ、基準に従って解雇対象者が選定されていること)
  4. 解雇手続きの妥当性(従業員側と十分に協議し、整理解雇について理解と協力を得るための努力を尽くしていること)

つまり会社が雇用を維持するのが困難な状況下にあり、なおかつ配置換えなど雇用を守る努力を十分に行った上で、初めて解雇が認められるのです。

社長

買い手からリストラされる可能性はないのでしょうか。

齋藤さん

買い手にとって譲渡対象の社員は大切な資産です。そのため、事業売却をきっかけにリストラを実施することは、ほとんど考えられません。

2章:事業売却が社員に与える影響【メリット・デメリット】

会議

事業売却で社員は基本的にそのまま働き続けられますが、大なり小なり何かしらの変化を伴うケースがほとんどです。

その変化は社員にメリットをもたらす場合もありますが、デメリットとなるケースも十分に考えられます。

ここでは、事業売却が社員に与える影響についてみていきましょう。

2-1 労働条件の変化

事業売却に伴う社員の転籍は、買い手から該当の社員に対して事前に説明が行われ、社員が新しい労働条件に同意した上で実施しなければなりません。

多くの場合は元の待遇が引き継がれますが、最終的には買い手企業の就業規則や人事制度に統合されます。

しかし、労働条件の急な変更は社員の負担となってしまう恐れがあります。そのため、時間をかけて買い手側の就業規則や人事制度に合わせていくケースが一般的です。

また労働条件は良くなることもあれば悪くなることもあるため、社員にとってメリットにもデメリットにもなり得る点を覚えておきましょう。

2-2 労働環境の変化

事業売却では、しばしばオフィスの移転を伴います。

オフィスの移転を伴わなくても、買い手企業の社員と一緒に働くことになるケースも多く、転籍した社員を取り巻く労働環境には大きな変化が訪れるでしょう。

しかし事業売却後に上司や同僚となった買い手側の社員との関係は、実際に働いてみるまで分からないものです。

実際に労働条件には合意したものの、こうした労働環境の変化になじめずにモチベーションが低下したり退職を希望したりするケースも珍しくありません。

齋藤さん

逆に新しい上司や同僚との出会いが良い刺激になって、能力を発揮する機会に恵まれるといったケースもありますよ。

社長

労働環境の変化はメリットなのかデメリットなのか、一概には決められないのですね。

齋藤さん

そうですね。社員それぞれ感じることは違うと思います。

売り手としては、譲渡対象となった社員が環境の変化になるべく早くなじめるように気を配るため、事業売却実行前に説明会を開くなどの対策を講じると良いでしょう。

2-3 退職金・年金への影響

退職金

社員が買い手企業へ移籍した後は、買い手企業の退職金や年金の制度が適用となるのが一般的です。

売り手企業で得た退職金・年金の権利は、事業売却時に清算される方法と、買い手企業に引き継いでもらう方法があります。

どちらの方法で対応することになるかは買い手の意向次第ですが、交渉の余地はあるといって良いでしょう。

事業売却時に退職金を払う方法では、それまでの勤続年数に合わせて退職金が支払われます。

一方で退職金を買い手企業に引き継いでもらうケースでは、勤続年数は売り手企業の分と買い手企業の分が通算されて、将来的な退職金支給額が決まります。

転籍後に退職金計算のルールが大幅に変わる場合は、社員が将来受け取る退職金の額が大きく変わる可能性があるため、社員にとっては懸念事項となるでしょう。

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2-4 有給への影響

事業売却で転籍する社員は、売り手企業を退職し、買い手企業と新たな雇用契約を締結します。

売り手との雇用契約が終了するということは、社員が持っていた有給の権利も消滅するということです。

しかし会社の都合で転籍するのに有給が消滅してしまうとなると、社員は大きな不満を感じるでしょう。

そのため一般的には、退職前に有給の消化または買い取りを実施するか、買い手企業に有給の権利を引き継いでもらうかのどちらかで対応するケースが多いようです。

齋藤さん

買い手に引き継いでもらう場合は、その旨を買い手に了承してもらう必要がありますよ。

社長

交渉次第ということですね。有給の引き継ぎを希望する場合は、早めに買い手へ伝えた方が良さそうですね。

齋藤さん

さすが社長。その通りです。

3章:転籍に反対した社員への対応

打ち合わせ風景

事業売却では、譲渡対象となった社員全員から転籍への同意が得られるとは限りません。

長年勤めてきた会社を離れたくなかったり、新しい環境へ飛び込むことに抵抗を感じたりして、転籍を拒む社員が出てくるかもしれないのです。

しかし社員から同意が得られない以上、会社が無理矢理転籍させることはできません

ここでは、転籍に反対した社員への対応方法についてみていきましょう。

3-1 配置換えを行い売り手企業に残ってもらう

  • 会社に愛着があるため辞めたくない
  • 自分だけ飛ばされるような印象が耐え難い

上記のように訴える社員に対しては、配置換えなどを行って引き続き自社で働いてもらえるように便宜を図りましょう。

3-2買い手企業に出向させる 

売り手企業からの退職を拒む社員に対しては、売り手企業に所属したまま、出向という形で買い手企業で働いてもらう方法も考えられます。

一定期間は出向の形で働いてもらい、従業員に安心してもらったうえで契約の移転を図る

この方法は「転籍したくない」という従業員の意思を尊重できるだけでなく、「優秀な人材も引き継ぎたい」という買い手の希望も尊重できます。

さらには「買い手からの信頼を守る」という意味において、売り手にとってもメリットのある方法だといえるでしょう。

3-3 自己都合退職になる場合も

配置換えや出向に不満を抱き退職することになった場合は、自己都合退職となります。

社長

M&Aが理由であっても自己都合になるのですね。

齋藤さん

会社としては、雇用を続けるために手を尽くしていますからね。それを蹴って退職する=自己都合という理屈です。

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4章:事業売却では社員の流出に注意!

注意点

優秀な社員が退職してしまうと売却価格が下方修正されるだけでなく、取引そのものが白紙になる可能性があるほど、社員は大切な資産です。

特に注意すべきなのが、社員個人の能力の高さで事業が成り立っている場合です。この場合は、売却する最大の資産が社員となっています。

そのため優秀な社員が退職すると会社の価値は大きく下がり、最大資産である人材がいなくなれば、買い手が事業を買収するメリットはなくなるといっても過言ではありません。

そこで事業売却をきっかけとした社員の流出を防ぐため、彼らが感じている不安を取り除き、安心して買収先の企業で働いてもらえるように取り計らうことが必要です。

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まとめ

従業員

事業売却で譲渡対象となった社員は、基本的にそのまま働き続けられます。ただし、社員個人による転籍への同意が必要です。

転籍する社員は売り手企業を退職し、買い手企業と新たに雇用契約を締結します。

ただし、転籍を拒否した社員をリストラすることは基本的にできません。

また、優秀な社員の退職は大切な資産の流出です。事業売却の取引に多大な影響を及ぼす可能性があるため、社員への対応には細心の注意を払ってください。

齋藤さん

売り手企業としては、社員に安心して転籍してもらえるように、1人1人の声に耳を傾けて適切なケアを行いましょう。

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この記事を監修した人 齋藤 和寿
【インバースコンサルティング株式会社代表取締役】 後継者不足の解決や豊かなリタイアを望む経営者様に寄り添い「最幸のM&A」を実現するための情報を発信しています。 仕組み経営コーチとしても活躍中。会社の仕組み化×M&Aで、社長の人生を豊かに彩ります。