M&Aでの会社売却を検討しているものの、M&A後もまだまだ会社に残って働きたいと考えている社長も多いのではないかと思います。
そこで気になるのが、M&A後に社長を続投できるのかということ。そして、社長を続投できたとして、役員報酬は今まで通り受け取れるのかということなのではないでしょうか。
この記事では、M&A後も社長を続けられる可能性・役員報酬の詳細・社長続投以外の選択肢について詳しく解説しています。
下記のお悩みを持っている人は、ぜひこの記事をチェックしてください。
- M&A後も社長を続ける場合は役員報酬を受け取れるのか
- M&A後はどれくらいの期間社長を続けられるのか
- M&A後に受け取る役員報酬の金額はいつ誰が決めるのか
- M&A後の社長続投は今までの仕事とどう変わるのか
- M&A後に社長を続投する以外の選択肢には何があるのか
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:M&A後も社長を続投する場合は役員報酬をもらい続けられる
M&Aで会社売却を実行した後に社長を続ける場合は、M&A前と変わらず役員報酬を受け取り続けられます。
そもそもM&A後も社長を続けられるという選択肢があることを知りませんでした。
社長自身が希望した場合は、社長続投の選択肢もあるんですよ。
ただし、M&A後の社長続投についてはいくつかの制限が発生します。
1-1 社長続投には買い手の了承が必要
M&A後も社長を続けるためには、大前提として買い手から了承を得ておく必要があります。
切り出すタイミングとしては、買い手選びの最初の段階です。
買い手からスムーズに了承を得るためには、買い手選びの条件の1つに社長を続ける旨を掲げておきましょう。
1-2 社長を続投しても会社の経営権は持たない点に注意
M&Aで会社売却を実行するということは、会社の経営権を手放すということです。
そのためM&A後に社長を続ける場合でも、会社にとって重要な事項を決定する権利を持っていない点には注意が必要です。
特に今まで会社のことを全てご自身で決めてきた社長は、ストレスを感じやすいかもしれません。
M&A後はあくまでも「親会社から経営を委任された」立場であり、いわゆる雇われ社長になるのです。
1-3 社長を続投できる一般的な期間は1年程度
買い手の了承が得られればM&A後も社長として働き続けることは可能ですが、一般的な任期は1年程度が多いようです。
遅かれ早かれ会社からは離れる結果になりますので、ご自身の身の振り方については早めに考えを固めておくと良いでしょう。
ということは、会社売却=近い未来に引退と考えておいたほうが良さそうですね。
その認識で良いと思います。ただし社長というポストにこだわらなければ、会社に残留する手段はありますよ。詳細は4章で解説しています。
2章:M&A後の役員報酬の詳細について
M&A後も社長として会社に残ることが決定した場合、次に気になる点としては役員報酬についてではないでしょうか。
これまで通りの金額が受け取れるのか、という点はやはり気になります。
ここでは、M&A後に受け取る役員報酬の詳細が決定する時期と、その金額についてみていきましょう。
2-1 金額は交渉の上で買い手側が決定する
M&A後も社長を続ける際に受け取る役員報酬の金額については、買い手が決定権を握っています。
多くのケースにおいて役員報酬の金額は、M&A前に支払われていた金額とほとんど変わりません。
ただし適正額を超えた役員報酬が支払われていたとみなされた場合は、減額になる可能性もあるでしょう。
とはいえ交渉の余地は残されているため、M&A交渉の中で役員報酬の金額についても話し合われるケースが一般的です。
利益が出ているようであれば、役員報酬の金額は変わらないケースが多いですよ。
会社の経営状態にもよるのですね。
利益が出ていない会社の場合は、役員報酬より業績回復の方を優先しなければいけませんからね。
ところで役員報酬の適正額とはいくらくらいなのでしょうか?
実は、明確なルールが決められているわけではないんです。会社の利益や税金などを考慮して決めるのですが、私の経験上では多くても年間1,000万円台といったところです。
2-2 最終譲渡契約の締結時までに決定する
M&A後の役員報酬については、最終譲渡契約の締結時までに交渉が完了しています。
M&A後の役員報酬について最終譲渡契約書内に記載するケースもある
最終譲渡契約は全てのM&A交渉が完了し合意した段階で締結される契約です。むしろ役員報酬について決まっていない状態だと、契約の締結ができません。
3章:M&A後の社長続投で今までと変わること・変わらないこと
M&A後も社長を続けるということは、日々の仕事はM&A前と変わらないということでしょうか。
M&Aで会社のオーナーが交代しているため、全てがM&A前と同じというわけではありませんが、変わらない点もありますよ。
M&A後も社長と続けた場合に変わることと変わらないことについて、以下で詳しく解説します。
3-1 変わること
M&A後も社長として働き続けるにあたりM&A前と大きく変わる点として、会社の経営権を持たない状態であることが挙げられます。
そのため社長の独断で会社の重要事項に関する決定ができなくなるのです。
全て親会社へお伺いを立てる必要が出てくるということですね。
その他に挙げられる変化としては、以下の2点が挙げられます。
- 役員報酬の金額が変わる可能性がある
- 経費が自由に使えなくなる(親会社のルールになるため)
役員報酬の金額に関しては、2章で触れたとおりです。適正額より多く受け取っていた場合は減額になる可能性があります。
経費に関しては、社長のお金と会社のお金がハッキリと線引きされるため、自由に使えないと感じるかもしれません。
経費の使い方も一般の社員と同じ手続きが必要になるということですね。
そちらがむしろ普通なのかもしれませんが、今まで自由にやってきた分窮屈さを感じるかもしれません…。
3-2 変わらないこと
変わることがある一方で、変わらないことも存在します。
- 役員報酬を受け取れる事実
- 社長という肩書
- 社員との関係性
役員報酬の金額は変わる可能性がありますが、引き続き受け取れる事実については変わりません。
また、会社の経営権を持たないものの、社長という肩書も以前と同じです。
社長として仕事を続ける以上、社員との関係性も引き続きそのままである可能性が高いといえるでしょう。
つまり、会社としての意思決定以外での日常はM&A前とほとんど変わらないというわけですね。
社長が変わらないM&Aは、社員たちにとって一番安心できるパターンかもしれませんね。
4章:社長の続投以外で選べる選択肢は2つ
ところでM&A後に私が選べる道は、社長の続投以外で何があるのでしょうか。
続投のほかでイメージしやすい選択肢としては、引退がありますよね。実際に社長からの引退を目的としたM&Aも多いんですよ。
たしかに引退は私も思い付きました。社長が引退できる方法はあまりないので、M&Aは貴重な選択肢ですね。
その他の選択肢としては、社長以外の立場で会社に関わり続けるというものがあります。
4-1 引き継ぎ後に引退して第二の人生を歩む
中小企業のM&Aでは、M&Aが成立して引き継ぎが完了した段階で引退するケースが最も多くなっています。
前述しましたが、引退を目的としたM&Aの実行も多いんですよ。後継者がいない問題をM&Aで解決するのです。
後継者を育てるのも大変ですものね。会社を丸ごと引き受けてもらえるM&Aなら、安心して引退できそうです。
M&Aのスキーム(手法)によっては、社長個人が売却益を受け取れます。
引退を目的としたM&Aを実行した場合は、受け取った売却益を引退後の生活費に充てるケースが多いようです。
売却益が自分への退職金みたいなイメージですね。まとまった金額を受け取れれば、引退後の生活も安心です。
売却益で資産運用を行って、引退後の生活をエンジョイしている人もいるんですよ。
4-2 顧問として会社に関わり続ける
M&A後に役員からは退職し、顧問や業務委託先という立場で会社に関わり続けることも可能です。
社長が会社の顔として世間から認知されているケースや、社長自身が継続した収入を望む場合に選択されることが多いですよ。
ただし引き続き会社に関与していくためには、買い手との交渉が必要になります。
M&A交渉の中で買い手に了承してもらう必要がある
社長が会社の顔として世間から認知されているケースでは、社長の退任で業績が落ちる可能性があります。
そのためM&A後も社長が会社に関わってくれることは、買い手にとってもメリットとなるのです。
5章:社長を退任する場合は役員退職金が受け取れる
まだまだ若くて元気な社長の中には、引退後の生活費を考慮して、少しでも長く社長として働いていきたい希望を持っている人も多いかと思います。
でも、社長として続投できるのは1年程度なんですよね…。
しかしご安心ください。
社長として会社に残らない場合は、役員退職金を受け取れます。
取締役・監査役など会社法上の役員が退職する際に支給される。一般社員に適用される、就業規則の退職金規程にかかわらず支給できるもの
M&Aに役員退職金を絡めることで、節税効果が期待できます。上手に利用すれば、M&Aの手取りを最大化することが可能になるんですよ。
M&Aや役員退職金の制度を上手く活用すれば、社長の続投へこだわる必要がなくなる可能性も出てきます。
まずは、社長自身がトータルでどれくらいのお金を必要としているかを算出してみてください。
M&A後に引退しても十分な資金が手元に残るようであれば、社長を続けなくても良くなりそうです。一度計算してみます!
まとめ
M&A後も社長職を続ける場合、今まで受け取ってきたものと同程度の役員報酬を受け取れます。
しかし今までの支給額が多すぎると判断されたり、会社の利益が出ていない状態だったりする場合には、減額となる可能性もゼロではありません。
また、社長を続投するためには買い手から了承してもらう必要があります。M&A後の社長の任期は、1年程度であるケースが多いようです。
金額の詳細については、交渉の上で買い手が決定します。
最終譲渡契約の締結までに合意しておく必要がありますよ。
M&A後に社長を続けることになった場合、社長という肩書や社員との関係性は今まで通り変わりません。
ただし会社の経営権を持たないため、会社の重要な決定ができなくなる点には注意が必要です。
M&A後に社長を続ける以外には、2つの選択肢があります。
- 引き継ぎ後に引退して第二の人生を歩む
- 顧問として会社に関わり続ける
またM&A直後に社長を退任する場合は、役員退職金の受け取りが可能です。役員退職金の制度を上手に利用すると、M&Aの手取りを最大化することができます。
そのため社長の続投にこだわらずとも、引退できる可能性が出てくるのです。
ご自身の将来にどれくらいのお金が必要なのか、またそのお金を得るためにはM&A後も社長を続投すべきなのか、一度専門家へ相談してみると良いですよ。