最近従業員…とくに社内で重要なポストに就いている社員のモチベーションが低下していて、どうしたものかと頭を悩ませています。
それは困りましたね…。社員のモチベーションをアップさせる方法の1つに、「社員へ自社株を譲渡する」という方法がありますよ。
社員へ自社株を譲渡することで会社への意識変革が起こり、モチベーションをアップさせる効果が期待できます。
しかし譲渡する株の割合によっては、会社を乗っ取られてしまう危険があるため注意が必要です。
この記事では、社員へ自社株を譲渡する目的・方法・注意点について解説しています。
上手に活用して、活気のある会社作りを目指してくださいね。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:社員へ株式譲渡を行う目的
そもそもなぜ社員へ株式譲渡を行うのでしょうか。その目的は主に3つ挙げられます。
- 事業承継のため
- 会社の成長を社員に意識させるため
- 社員のモチベーションアップのため
それぞれの目的について、以下で詳しく解説していきますね。
1-1 事業承継のため
社員に自社株を譲渡する1つめの目的として、事業承継が挙げられます。
社長(現株主)が持ち株の全てを特定の1人に譲渡し、会社の経営権を引き渡すのです。
社内に後継者がいる場合に事業承継の手段として、株式譲渡が行われるイメージです。
なるほど。つまり社員Aさんが跡継ぎであり、次期社長というわけですね。
その通りです。
1-2 会社の成長を意識させるため
株式譲渡で自社の株式を所有することになった社員は、その持ち分に応じた配当金を受け取れます。
受け取る配当金の金額は会社の成長に比例しているため、社員は会社の成長を肌で感じられるようになるのです。
会社が成長すれば配当金も増えるため、社員が積極的に経営に参加するようになる期待が持てます。
なるほど。会社の成長具合が配当金という形で目に見えるようになるのですね。社員1人1人が会社の成長を意識できれば、業績のアップにつながりそうです。
1-3 社員のモチベーションアップを図るため
自社の株式を社員にも所有させることで「自分も株主だ」という自覚が芽生え、社員のモチベーションアップにもつながります。
最近では給与やボーナスの増額が行いにくい会社を中心に、社員に株式譲渡を行う会社が増えています。
これは配当金を与えることで、社員の満足度を維持しようとする試みです。
配当金は会社の成長により変動するため、業務に取り組む姿勢や成長に対する意識の向上を図る効果が期待できます。
2章:社員へ株式を譲渡する方法
自社の社員へ株式を譲渡する方法は、M&Aで株式譲渡を行うケースと同じパターンもありますが、それだけではありません。
社員へ譲渡するときならではの譲渡方法もあります。会社の都合に合わせて選択してくださいね。
2-1 社員に対して通常の株式譲渡を行う
株式譲渡の方法としてまず思い浮かぶのは、M&Aで行われるような売却方法ではないでしょうか。
株式を買収する側が自社の社員であっても、通常の株式譲渡を行うことは可能です。
ただし、社員に対して通常の株式譲渡を行う場合、2つの問題が考えられます。
- 社長個人の連帯保証も引き継がなくてはならない
- 多額の買収資金が必要
たしかに会社の全株式を買い取るとなると、かなり多額の資金が必要になりますよね。資金調達ができるかどうか心配です。
たしかにそうですね。譲渡される社員にとっては、資金調達が難関となって待ち受けています。
会社を継いでくれた感謝の気持ちを込めて、安値で譲渡しても良いのでしょうか?
社員への譲渡はM&Aより安値で取引するケースが多いですよ。ただしあまりにも低すぎる価格設定には要注意です。「低額譲渡」として株式を購入した社員にも課税される可能性が出てきます。
それは困ってしまいますね。低額譲渡に該当する具体的な金額は決まっているのですか?
個人間の譲渡に対する明確な決まりはありませんが、時価の2分の1未満での譲渡は低額譲渡とみなされる可能性が高いようです。
2-2 社員それぞれへ報酬として譲渡する
株式報酬制度を採用すれば、社員それぞれへ報酬として自社株を譲渡できます。
企業が役員や社員に株式で報酬を渡す制度。
株式報酬制度にもいくつか種類がありますが、採用している企業の多い代表的な制度として「ストックオプション」が挙げられます。
社員や役員があらかじめ決められた期間に決められた価格で自社の株を購入できる仕組み
分かりやすくいうと、将来自社の株式を購入できる権利が会社から与えられるということです。
株価の購入価格はあらかじめ決められているため、将来株式を購入する際に株価が上がっていたら、購入価格との差額分が購入者の利益になります。
差額で出た利益が、社員に対する報酬と考えられるわけですね。
2-3 従業員持株制度を導入する
従業員持ち株制度とは、会社が自社の社員に自社株を保有してもらうための制度です。
会社が「従業員持株会」を設置し、会員となった社員が毎月一定額を投資します。
そして社員から集まった出資金を従業員持株会がとりまとめ、自社株を共同購入します。
毎月の出資金は、給与天引きで行われるケースが多くを占めています。
誰がどのくらいの株式を保有するか(持ち分の配分)は、出資した金額に応じて決められるケースが多いようです。
従業員持株会は福利厚生の一環としてアピールできるというメリットを持っている
3章:社員へ株式譲渡を行う際の注意点
株式を譲渡する相手が自社の社員だからといって、手続きなどのルールをおろそかにしてしまわないよう注意が必要です。
後々トラブルの原因となり得るため、通常のM&Aと同じようにしっかりとしたルールの下で行いましょう。
3-1 譲渡の際には正式な手続きを経る
株式譲渡の手続きは会社法で定められているため、手続きに不備があると社員に株式が譲渡されない可能性が出てきます。
そのため手続き方法をしっかり確認して、譲渡を行ってください。
また、社員に株式譲渡を実施した際に使用した書類は、しっかりと管理し保管しておきましょう。
後々M&Aで第三者へ会社売却を行うことになった場合に買い手企業がチェックします。書類が残っていないとM&Aが破談になってしまう可能性があるため注意してくださいね。
具体的にはどんな書類を残しておけばよいのですか?
株式の代金が振り込まれた形跡が分かる資料・株主総会の譲渡承認決議の議事録・株式売買契約書といった書類ですよ。
3-2 譲渡する株式の割合に注意する
社員を後継者に任命して事業承継を行う場合は、ほとんどのケースで100%の株式を譲渡します。
ただしそれ以外の場合(福利厚生や報酬の一部として株式を譲渡する場合)は、譲渡する株式の割合に注意しなくてはなりません。
株主総会の決議で必要な賛成数
- 通常の決議…過半数
- 重大な決議…3分の2以上
つまり、株式の3分の1以上を譲渡してしまうと会社の重要な決議が通らなくなってしまう可能性があるのです。
なるほど。最悪の場合、会社が乗っ取られる可能性もあるということですね!
その通りです。社員のためによかれと思って行った株式譲渡で、社長自身が追い出されてしまう可能性も出てきてしまうんですよ。
- 会社から追い出されないようにするために過半数以上の株式を手放さない。
- 重要な決議を自分だけで通したい場合は、3分の1以上の株式を手放さない。
3-3 社員が退職した際の取り決めを作っておく
株式譲渡によって株式を譲渡した社員が退職した場合、当該社員の所在が分からなくなったり、M&A時に売却に反対されて事業承継に支障が出たりといったトラブルが発生する可能性が出てきます。
そのようなリスクを防ぐため、社員が退職した際に譲渡した株式の取り扱いをどうするかについての取り決めを作っておきましょう。
4章:社員へ譲渡する株式は取得条項付株式に変更しておこう
退職時のトラブルを防ぐためには、取得条項付株式の活用がおすすめです。
「定款で定めたある一定の事由が発生した場合」に会社が株主の同意なしで株式を買い取れる種類株式の一つ
上記の「定款で定めたある一定の事由」に「株主である社員が退社したとき」や「株主が死亡したとき」と定めておけば、社員が自社株を保有することで起こり得る様々なトラブルを防止できるのです。
ちなみにすでに発行している株式を取得条項付株式に変更するには、株主全員の同意が必要です。
100%の株式を自分が持っている状態であれば、手続きもスムーズにできそうですね。
まとめ
- 社員を後継者とし、事業承継を行いたい
- 会社の成長を社員にもっと意識させたい
- 社員のモチベーションをアップさせたい
上記のような場合は、社員に自社株を譲渡する方法も1つの手段として有効です。
自社株を社員に譲渡する方法としては、以下の3つの手段が挙げられます。
- 通常の株式譲渡を行う
- 報酬として譲渡を行う
- 従業員持株制度を活用する
通常の株式譲渡は、事業承継を目的とした際に行われるケースが多くを占めています。
社員のモチベーションアップや福利厚生を目的として自社株の譲渡を行う場合は、報酬として譲渡したり従業員持株制度を活用したりすることが多いです。
ただし社員へ株式譲渡を行う際には、正式な手続きを経て譲渡を行い、会社が乗っ取られないように過半数以上の株式を譲渡しないように注意が必要です。
また、社員が退職したり死亡した場合に株式が外部に流出したり相続の問題が発生したりすることを防ぐために、取得条項付株式を活用してください。
起こり得るトラブルを防ぎながら、上手に活用してくださいね。