少子高齢化や職業選択の自由の浸透により、昨今では多くの中小企業が後継者不在問題に悩まされています。
しかし後継者不在問題を解決できないままでいると、待っている未来は廃業です。
そのような状況の中で、後継者不在問題を解決する手段としてM&Aに注目が集まっています。
そこでこの記事では、日本の中小企業における後継者不在問題の現状を明らかにし、M&Aで後継者不在問題を解決する方法について解説します。
M&A以外で問題を解決する手段も紹介しているため、後継者不在問題に悩んでいる経営者様は、ぜひこの記事をお役立てください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:日本の中小企業における後継者不在問題の現状
中小企業庁によると、2025年までに70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人が後継者未定の状態です。
これは、日本企業全体の約1/3の企業で後継者が不在になることを指しています。
この状況を放置すると、中小企業・小規模事業者の廃業が急増し、2025年までの累計で約650万人の雇用および約22兆円のGDPが失われる可能性が示唆されています。
参照元:中小企業庁 中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題
1-1 後継者不在による中小企業の廃業が増加している
帝国データバンクの全国「後継者不在率」動向調査(2023年) によると、国内中小企業の53.9%が後継者不在の状態です。
出典:帝国データバンク 全国「後継者不在率」動向調査(2023年)
また日本政策金融公庫の調査では、60歳以上の経営者のうち60%近くが将来的な廃業を予定しており、このうち「後継者難」を理由とする廃業が約3割に迫っているのです。
出典:日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」(2023年)
平均引退年齢が70歳であることから、このまま後継者が見つからなければ、数年のうちに廃業する企業は増加していくことが予想できます。
1-2 地域別・業種別の後継者不在率
帝国データバンクの全国「後継者不在率」動向調査(2023年) では、地域別の後継者不在率も公表されています。
そのうち、後継者不在率が高い上位5県は以下の通りです。
- 1位 鳥取県…71.5%
- 2位 秋田県…70.0%
- 3位 島根県…69.2%
- 4位 北海道…66.5%
- 5位 沖縄県…66.4%
一方で、後継者不在率の低い上位5県は、いずれも後継者不在率が50%を切っています。
- 1位 三重県…30.2%
- 2位 茨城県…42.1%
- 3位 和歌山県…43.0%
- 4位 佐賀県…43.1%
- 5位 鹿児島県…43.8%
このように後継者不在率は、地域によっても大きく異なることが分かります。
1-3 後継者不在の原因
前述した日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」(2023年)では、後継者難による廃業理由として以下の3点が挙げられています。
- 子どもがいない
- 子どもに継ぐ意思がない
- 適当な後継者が見つからない
1.2の内容から、少子化にともなう後継者の不在や、子ども自身が自分の就きたい職業を選んでいるために後継者が不在となっていることが予想できます。
また3からは、後継者不在に対する対策の遅れを読み取れます。
さらに廃業予定理由として最も多い「そもそも誰かに継いでもらいたいと思っていない」とそれに次ぐ「事業に将来性がない」という理由は、廃業予定理由の実に67%以上を占めています。
これらの理由から、経営者が事業の未来に不安を抱いていることが分かります。その結果として事業の引き継ぎをためらう事態となり、後継者不足に拍車をかけているのです。
2章:M&Aで後継者不在問題は解決できる
後継者の不在を放置していると、ゆくゆくは廃業せざるを得ない状況になるでしょう。
そのため後継者のいない企業にとって、後継者不在問題の解決はまさに会社の死活問題だといえます。
そこで近年注目が集まっているのが、M&Aを活用した後継者不在問題の解決です。
2-1 M&Aによる事業承継とは
M&A(Mergers and Acquisitions)は「合併と買収」という意味で、「対価を支払って企業の経営権を取得する行為」を指しています。
M&Aという言葉は買い手の目線から表現した言葉です。これを売り手目線から表現すると、「対価を受け取って企業の経営権を譲渡する行為」となりますよ。
つまり、後継者不在の売り手がM&Aで会社を売却することで、第三者への事業承継が実現するというわけです。
2-2 M&Aで後継者不在問題を解決するメリット
後継者不在問題を解決する手段としてM&Aを選ぶメリットは、まず何といっても第三者への事業承継が実現する点です。
経営者の子ども・親族・従業員などの中から後継者候補が見つからなくても、M&Aで会社を売却すれば事業を存続させられます。
つまり、廃業を免れるというわけですね。
さらにM&Aで後継者不在問題を解決すると、以下のメリットを得られます。
- 従業員の雇用を継続させられる
- 取引先との付き合いも継続できる
- 経営者が会社売却の対価を受け取れる
- 個人保証や連帯保証を解除できる可能性が高い
つまり、今の状態のまま会社を存続させられる上に売却の対価を受け取り、個人保証や連帯保証からも解放される可能性が高いということです。
廃業と比べたら天と地ほどの差がありますね!後継者不在に悩む経営者は皆M&Aを活用するべきなのではないでしょうか。
会社の状況にもよりますが、M&Aでの事業承継がベストな選択肢となる中小企業は多いと思いますよ。
2-3 M&Aで後継者不在問題を解決するデメリット
M&Aには多くのメリットを期待できますが、デメリットの存在も見逃してはいけません。
後継者不在問題を解決するためのM&Aで最大のデメリットといえる点は、買い手が見つからない可能性があることです。
なぜなら、買収してもメリットを得られない会社であると買い手が判断すれば、買収対象から外れてしまうからです。
さらに買い手が見つかったとしても、売り手が想定していた売却価格に届かないケースも少なくありません。
買い手は「この価格なら買収したい」という価格を提示します。売り手が想定していた価格より低いということは、両社が考えている企業価値に開きがあるということです。
買い手が見つかりやすくなるポイントはありますか?
他社にない強みを持っている企業は買い手が付きやすい傾向にありますよ。さらに、自社とのシナジー効果を期待できる買い手を探すこともポイントです。
また、M&Aの目的を後継者不在問題の解決とする際には、希望の売却価格を適正な金額に設定しておくと良いでしょう。
3章:M&A以外で後継者不在問題を解決する方法
M&Aの活用で後継者不在問題を解決できることが分かりましたが、他にも問題解決の手段は存在します。
企業の経営状態や環境などによっては、必ずしもM&Aが後継者不在問題を解決する手段として最適解とは限りません。
上記4点の特徴を理解したうえで、自社にとって最もふさわしい方法を見つけてください。
自分1人では判断が難しいと感じた際は、専門家に相談することをおすすめします。無料で相談に乗ってくれる機関もあるので、ぜひ活用してくださいね。
3-1 親族や従業員に引き継ぐ
経営者の子どもや親族、親族外の役員や従業員を後継者として引き継ぐ方法です。
2021年の中小企業白書によると、2020年時点で近年事業承継をした経営者の就任経緯は、同族承継(親族への承継)が34.2%、内部昇格(役員や従業員への承継)が34.1%となっています。
合計すると、68%超の企業が親族や従業員を後継者とし、会社を引き継いでいることがわかります。
親族や従業員など、いわゆる「身内」を後継者とするケースが最も多くなっているんですね。
その通りです。身内に会社を継いでくれる人がいないと感じている経営者様も、今一度周りをよく探してみるといいかもしれません。
身内を後継者として事業を引き継ぐメリットとしては、周囲の賛同を得やすく、スムーズな承継を実現しやすい点が挙げられます。
さらに現経営者は会社を引き継いだ後に会長職へ就くなどして、会社の経営を見守る体制を作りやすい点もメリットです。
ただし後継者の育成には平均して5年~10年の期間が必要なため、早めに後継者候補を指名し、経営者としての教育を始める必要があります。
さらに後継者候補が、経営者としての資質を持っているかどうかも重要なポイントです。
身内を後継者候補に指名する際には、経営者としてふさわしいかをしっかりと見極めましょう。
3-2 外部から招へいする
親族や従業員以外の第三者へ事業を引き継ぐケースが該当し、取引先の企業や金融機関から新たな経営者を招くことが多いです。
さらに近年では、後継者募集のマッチングサイトを利用して後継者を選定する企業も増えています。
後継者候補の選択肢が増える点が最大のメリットですが、社内で反発が起きやすい点には注意が必要です。
見ず知らずの他人がいきなり「新社長です」とやって来たら、それはビックリしますよね…。
社外から経営者を招へいする際にはしっかりと引継ぎを行い、周囲との信頼関係を構築していくことが重要です。
3-3 株式公開を行う
株式公開とは、自社の関係者が保有する株式を自由に売買できる状態にすることです。
株式を売買できる場所は証券取引所に限られているため、株式公開は株式市場への上場を指しています。
ちなみにIPOも同じ意味の単語ですよ。
株式公開によって株式の流動性が高くなれば、経営権を後継ぎに承継しやすくなります。
ただし株式公開には厳しい条件が設けられており、その条件をクリアしなければなりません。
また、準備段階から多額のコストがかかるほか、上場後も維持コストがかかります。そのため株式公開を決意する背景には、多くの売上と利益が必要です。
さらに企業が上場するためには、準備段階から3年以上はかかります。
そのため、後継者探しを急いでいる企業や利益の少ない企業は、他の方法を検討することをおすすめします。
3-4 廃業する
M&Aで買い手が付かないまま後継者不在の状態を放置していると、廃業せざるを得なくなる可能性が高まります。
その他に以下のような会社を経営している場合は、やむを得ずの廃業ではなく、ポジティブな気持ちで廃業を視野に入れても良いでしょう。
- 従業員が0名の会社
- 潤沢な資金を有している会社
会社の財務状況によっては、廃業すると経営者の手元にほとんどお金が残らない可能性があります。
廃業後の生活に十分な額が手元に残ることを確認できるのであれば、廃業も選択肢の1つとして良いでしょう。
逆に従業員を抱えている会社や、廃業すると手元にほとんどお金が残らなくなってしまうような会社は、後継者を求めて事業承継を実現させることをおすすめします。
まとめ
日本の中小企業においては後継者不在問題が顕著になってきており、2025年までに日本企業全体の約1/3の企業で後継者が不在になるといわれています。
そのような状況の中で、後継者不在問題を解決する手段としてのM&Aに注目が集まっています。
なぜなら、M&Aを活用すれば後継者が不在でも会社を存続させられるだけでなく、経営者が売却益を受け取るメリットを得られるからです。
その他に後継者不在問題を解決する方法としては、親族・従業員・外部の第三者へ引き継ぐ方法や株式公開が挙げられます。
会社の状況によっては、ポジティブな廃業を視野に入れて良い場合もあるでしょう。
ただし後継者不在問題は、静観していても解決できません。
会社も経営者自身も、今が一番若いときです。後継者不在に悩んでいる方は、今すぐ解決へ向けて動き出しましょう。