中小企業を経営している社長には、定年のない方が多いのではないでしょうか。
定年がないということは、元気なうちはいつまでも働き続けられるということです。
しかし経営者も人間です。ある程度の年齢になれば、リタイアして第二の人生を歩みたいと考えている方は大勢いらっしゃると思います。
そこで気になるのが、リタイア後に必要な資金の金額です。リタイア時にどれくらいの資金があれば、安心してその後の人生を送れるのでしょうか。
本記事では、経営者がリタイアした後に必要な生活費の計算方法および金額を解説します。
リタイア後の資金を確保する手段も紹介していますので、安心してリタイアを迎えたいと望んでいる経営者様は、ぜひ本記事をお役立てください。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:リタイア後に必要な生活費の計算方法
安心してリタイア後の生活を送るためには、まず必要な生活費を計算しておく必要があります。
なるほど。必要な生活費を計算すれば、リタイア時に必要な資産の金額が分かりますね。
その通りです。必要な金額が判明すれば、現時点での貯蓄額と比較して、あとどれくらい働けばよいのかも計算できますよ。
1-1 年間の支出額を算出する
まずはリタイア後の生活をイメージして、そのために必要な生活費の項目および金額をリストアップしましょう。
食費・水道光熱費・住居費・通信費・交通費・被服費・交際費・理美容費・娯楽費・保険医療費・ローン返済・雑費・税金 など
ただし、いくつになっても「急な出費」はつきものです。
万が一の病気や怪我・冠婚葬祭・車や家電の買い替えなども見越して、多めに見積もっておきましょう。
さらに、保険医療費や税金にも注意が必要です。
健康保険料や年金は、今まで給料から天引きされていたため、あまり考える機会がなかったかもしれません。
しかしリタイア後は自分で支払っていくことになります。忘れずに支出の項目へ加えてください。
税金は、前年度の年収によって異なります。リタイアした翌年は、収入が大幅に減少するにもかかわらず、リタイア前の所得で計算されるため注意が必要です。
また、住宅ローンや自家用車のローンが残っている方は、年間の支出として忘れずに計算に入れてください。
リストアップした項目を元に、年間の支出額を計算してくださいね。
1-2 リタイア後に見込まれる年間の収入を算出する
多くの経営者は、引退後の収入がゼロになるわけではありません。
引退後の主な収入としては、年金が挙げられます。
年金は基礎年金と厚生年金の二層構造となっており、原則として65歳から支給を受けられます。
基礎年金は20歳から60歳までの全ての国民が加入するもので、10年以上保険料を納めていれば受け取りが可能です。
一方の厚生年金は、会社に勤めている方を対象とした年金制度です。会社勤めをしている方は、基礎年金と厚生年金の両方を受け取れます。
年金の受給額は、加入期間・厚生年金への加入の有無・納付状況などによって異なります。
また、満額の年金額は毎年改定されるため、日本年金機構のホームページで確認してください。
その他にも、不動産収入や他事業からの収入がある方もいるでしょう。
さらに資産運用をしている方や、リタイア後に運用を始めようという方は、資産運用による見込み収入も計算に入れてください。
1-3 想定寿命までに必要な生活費を算出する
最後に、年間の支出額から見込み収入額を差し引いて、想定寿命までに必要となる資産を算出します。
厚生労働省の「令和4年簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳でした。
上記の結果を踏まえると、想定寿命は80~90歳くらいの間で設定すると良いでしょう。
もちろんもっと長生きする予定の方は、自身が想定する年齢で計算してください。
必要な資産額を計算する際には、年金が受給される65歳以前と、それ以後に分けて計算すると分かりやすい。
参照元:厚生労働省「令和4年簡易生命表」
2章:【年齢別】リタイアに必要な貯金額ー単身世帯ー
ここからは、単身世帯がリタイアに必要な貯金額を、年齢別に確認していきましょう。
生活費に関する条件は、以下の通りとします。
- 年間の支出は65歳までが340万円/年、65~90歳までは330万円/年と仮定する。
(参照元:総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)2023年(令和5年)」) - 生活費の計算は90歳までとする。
年金受給額の計算は、以下の条件で試算します。
- 加入期間…30年
- 年収…700万円
なお、試算した金額はあくまでも目安です。支出額はそれぞれの世帯で大きく異なる可能性があるため、気になる方はご自身のパターンで試算することをおすすめします。
特に留意しておくべき点が、家賃・地代に関してです。
35歳~59歳の単身世帯のおよそ50%が家賃・地代を支払っているのに対し、60歳以上の世帯では約14%にまで減少します。
毎月家賃の支払いがある方は、その分も考慮に入れてくださいね。
2-1 55歳の必要貯金額は約7,300万円
55歳の単身世帯がリタイアするためには、およそ7,300万円の貯金が必要です。
計算の内訳は、以下の通りです。
【生活費】
- 65歳まで…340万円×10年分=3,400万円
- 65歳から90歳まで…330万円×25年分=8,250万円
【年金収入】
- 65歳~90歳まで…174万円×25年分=4,350万円
【必要な貯金額】
- 3,400万円+8,250万円ー4,350万円=7,300万円
55歳でリタイアするには、予想以上にたくさんの貯金が必要だということが分かりました。
実際に数字で見ると分かりやすいですよね。
2-2 60歳の必要貯金額は約5,600万円
次に、60歳でリタイアする場合に必要な貯金額を試算します。
60歳というのは、会社員の7割が定年を迎える年齢です。他の社員と同じ条件でのリタイアを考えている経営者にとっては、現実味のある年齢なのではないでしょうか。
60歳の単身世帯がリタイアするためには、およそ5,600万円の貯金が必要です。
計算の内訳は、以下の通りです。
【生活費】
- 65歳まで…340万円×5年分=1,700万円
- 65歳から90歳まで…330万円×25年分=8,250万円
【年金収入】
- 65歳~90歳まで…174万円×25年分=4,350万円
【必要な貯金額】
- 1,700万円+8,250万円ー4,350万円=5,600万円
2-3 65歳の必要貯金額は約3,015万円
続いて、65歳でリタイアする場合に必要な貯金額を計算してみましょう。
65歳というと、年金の受給が開始される年齢ですね。
【生活費】
- 65歳から90歳まで…330万円×25年分=8,250万円
【年金収入】
- 65歳…93万円/年
- 66歳~90歳まで…222万円×24年分=5,328万円
【必要な貯金額】
- 8,250万円ー5,328万円ー93=3,015万円
60歳で引退する際に必要な約5,600万円から考えると、だいぶ現実的な数字になってきたように感じる方も多いのではないでしょうか。
とはいえ3,015万円というのは大きな数字です。日頃から貯金をしたり投資をしたりして、資産作りを意識しておくと良いでしょう。
2-4 70歳の必要貯金額は約3,120万円
中小企業庁によると、中小企業の経営者の引退年齢は、平均すると67歳~70歳とのことです。
経営者として平均的70歳でリタイアした場合に必要な貯金額は、以下の通りです。
【生活費】
- 70歳から90歳まで…330万円×20年分=6,600万円
【年金収入】
- 65歳~70歳まで…約102万円×6年分=612万円
- 71歳~90歳まで…245万円×20年分=4,900万円
【必要な貯金額】
- 6,600万円ー612万円ー4,900万円=1,088万円
かなり現実的な数字になってきましたが、70歳まで働くのはとても大変なことです。
70歳以前に働けなくなってしまう可能性もゼロではありません。万一に備えて、余裕を持った資産形成を行いたいものです。
3章:【年齢別】リタイアに必要な貯金額ー2人以上世帯ー
これまでは単身世帯がリタイア後に必要な貯金額をみてきました。次に、2人以上の世帯で必要な貯金額を算出していきましょう。
2人以上世帯とは、配偶者やお子様など、自分以外の家族と生活を共にしている世帯を指しています。
世帯構成員が増えれば、当然必要な貯金額も増えますよね。
生活費に関する条件は、以下の通りとします。
【年間の支出について】
- 59歳までが420万円/年
- 60~69歳までは370万円/年
- 70歳以上を300万円/年 と仮定する。
(参照元:総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)2023年(令和5年)」)
- 生活費の計算は90歳までとする。
年金受給額の計算は、以下の条件で試算します。
- 加入期間…30年
- 年収…700万円
- 配偶者は国民年金
3-1 55歳の必要貯金額は約5,875万円
55歳でリタイアする場合に必要な貯金額は、およそ5,875万円です。
収支の内訳は、以下の通りです。
【生活費】
- 59歳まで…420万円×5年分=2,100万円
- 60歳から69歳まで…370万円×10年分=3,700万円
- 70歳から90歳まで…300万円×20年分=6,000万円
【年金収入】
- 65歳~90歳まで…174万円×25年分=4,350万円
- 配偶者の年金…63万円×25年分=1,575万円
【必要な貯金額】
- 2,100万円+3,700万円+6,000万円ー4,350万円ー1,575万円=5,875万円
3-2 60歳の必要貯金額は約3,775万円
会社員の7割が定年を迎える60歳にリタイアした場合、その後に必要な貯金額はおよそ3,775万円です。
【生活費】
- 60歳から69歳まで…370万円×10年分=3,700万円
- 70歳から90歳まで…300万円×20年分=6,000万円
【年金収入】
- 65歳~90歳まで…174万円×25年分=4,350万円
- 配偶者の年金…63万円×25年分=1,575万円
【必要な貯金額】
- 3,700万円+6,000万円ー4,350万円ー1,575万円=3,775万円
3-3 65歳の必要貯金額は約1,345万円
年金の受給開始と同時期にリタイアする場合は、およそ1,345万円の貯金額が必要です。
【生活費】
- 65歳から69歳まで…370万円×5年分=1,850万円
- 70歳から90歳まで…300万円×20年分=6,000万円
【年金収入】
- 65歳…82万円
- 66歳~90歳まで…202万円×24年分=4,848万円
- 配偶者の年金…63万円×25年分=1,575万円
【必要な貯金額】
- 1,850万円+6,000万円ー82万円ー4,848万円ー1,575万円=1,345万円
3-4 70歳でリタイアするなら貯金額にこだわらなくてもOK
中小企業の経営者が引退する平均的な年齢(70歳)でリタイアすれば、90歳までの生活は年金で賄える計算になります。
【生活費】
- 70歳から90歳まで…300万円×20年分=6,000万円
【年金収入】
- 65歳~70歳まで…約75万円×6年分=450万円
- 71歳~90歳まで…225万円×20年分=4,500万円
- 配偶者の年金…63万円×25年分=1,575万円
【必要な貯金額】
- 6,000万円ー450万円ー4,500万円ー1,575万円=-525万円
ただし、上記の試算に使用した生活費は全国の平均値です。高い生活レベルを求めている方などは、さらに多くの資産が必要になります。
万が一貯金が底をついてしまうことのないように、ご自身の生活と照らし合わせてしっかりとリタイア後の計画を立てましょう。
4章:経営者がリタイア後の生活費を確保する方法は?
ここまで読んでくださった読者は、リタイア後の生活にたくさんのお金が必要だということがご理解いただけたかと思います。
そこでここからは、リタイア後の生活を豊かにするために欠かせない資産形成について解説していきます。
たしかに、普通に働いているだけではリタイア後の貯蓄額が心もとないです。
4-1 M&A
経営者なら、M&Aで自社や事業を売却してリタイア後の生活費を確保する方法が、1つの選択肢として挙げられます。
M&Aでの資産形成は多くの経営者におすすめできる方法ですが、特に後継者不在問題に悩みを持っている経営者におすすめです。
なぜなら、M&Aで自社を売却することで第三者への事業承継が実現し、会社を存続させられるからです。
リタイア後の生活費を確保するだけでなく、後継者問題の解決もできるんですね。非常にありがたい手段です!
M&Aでリタイア後の生活費を確保する際は、売却価格がリタイア後に必要な生活費を上回ることを確認してくださいね。
4-2 貯蓄
リタイア後の生活費を確保する方法として、貯蓄は最も身近な手段だといえます。
ただし前述のように、リタイアを望む年齢によっては多くの貯蓄額が必要です。
希望の時期にリタイアを実現するためには、まず現在の貯蓄額を確認しましょう。その上でリタイアしたい年齢から現在の年齢を引き、何年でいくら貯蓄を増やすべきか計算してください。
年間に必要な貯蓄額が算出できたら、12で割れば月に貯蓄すべき金額が分かります。
貯蓄だけでは必要な金額を賄えない場合は、資産運用などを組み合わせて資産形成を目指しましょう。
4-3 資産運用
リタイア後の生活費を効率的に確保するなら、投資による資産運用も選択肢の1つです。
早くから投資を始めて長期的な視点で取り組めば、効率的に資産を増やせるでしょう。
投資には、株式・投資信託・不動産などさまざまな種類がありますが、どれも大なり小なりのリスクが伴います。
そのため、損失が発生して資産が減る可能性がある点には注意が必要です。
投資の特徴やリスクについてしっかりと把握し、リスクが大きくなりすぎないように分散投資を心がけましょう。
まとめ
リタイア後に必要な生活費は、年間の支出額から予想される収入を差し引いた金額に、想定寿命を掛け合わせて算出します。
リタイアの年齢が低くなるほど必要な金額は多くなるため、早いうちから計画的にリタイア後の資産形成を行っておきたいものです。
経営者がリタイア後の生活費を確保する方法としては、以下の4つが選択肢として挙げられます。
- M&Aで会社や事業を売却する
- コツコツ貯蓄する
- 資産運用する
- 不労所得を得る
特に後継者不在問題に悩む経営者には、M&Aで会社を売却する方法がおすすめです。
なぜなら、M&Aを実行すると事業承継が実現し、後継者不在問題が解決できるからです。
そのうえ経営者は会社売却の対価を得られるため、安心してリタイアすることができるでしょう。
リタイア後の資産形成を確実に行うためは、専門家への相談がおすすめです。資産は一朝一夕でできるものではありませんので、早めに相談してください。
M&Aのことなら、ぜひ私に相談してください。匿名かつ無料でご相談いただけます。