M&Aで会社売却を行うと、従業員が不幸になってしまうのではないか…。そう考えてM&Aに踏み切れない社長も少なからずいることかと思います。
またM&Aで「会社を手放したうえに金銭を手にする」ということに後ろめたさを感じるという話もよく耳にします。
しかしM&Aは、会社の存続と従業員の未来のために必要な手段です。
この記事では、M&Aの実行に際して従業員に後ろめたさを感じる理由を紐解き、前向きに考えるためのヒントを提示しています。
従業員の幸せを考えるからこそのM&Aであると胸を張って言えるように、今までとは少し違った角度からM&Aを見てみましょう。
登場人物紹介
インバースコンサルティング株式会社の代表取締役で現役のM&Aコンサルタントでもあります。記事内ではM&Aに関する疑問にどんどんお答えしていきます!
中小企業を経営している社長です。後継者不在に悩んでいて、M&Aを検討している真っ只中にいます。いつもは困った顔をしていますが、たまに笑顔になります。
1章:M&Aが従業員に与える影響とは?
M&Aによる会社売却は、従業員にとってどのような影響を与えるのでしょうか。会社売却を検討している社長が従業員に対して気になることが多い点は、主に以下の4点です。
- 従業員から裏切りと思われないか?
- 従業員の手前、売却対価を受け取ることに少し後ろめたさを感じる
- 売却後の環境変化で従業員が不幸になるのではないか?
- 売却後の社長と従業員との関係は?
今まで会社のために頑張ってきてくれていた従業員への想いから、彼らの今後に関してが心配ですよね。
しかし実は、これらのことは気にする必要ありません。明確な根拠を以下に解説していきます。
1-1 従業員に「裏切りだと思われる」と考えてしまう理由
「自分が社長なのだから、責任を持って最後まで残らなければ」
このように考えて、会社を途中で人に任せて自分が引退をすることに後ろめたさをを感じている社長も少なからず存在します。
これは、いつも資金繰りや会社・事業の将来に頭を悩ませて、自分一人ではなく会社全体のことを考えながらピンチを乗り切ってきた社長ならではの【責任感】がそうさせているのです。
一方で「自分の息子や会社の役員・社員に社長の座を譲る」ということになると、あまり抵抗を感じない人が多いようです。
会社を「売った」という事実、すなわち「会社を他人に差し出して金銭を受け取った」という点が、従業員から裏切りだと思われるのではないかと考える一番の理由なのです。
つまり、会社を売却して他の人に経営を任せるという行為そのものはなんら悪いことではありません。
会社の問題点や改善点が一番見えている人=「社長」でなければ、会社・事業を存続させるために必要なスキルや経営力を持った後任を選べません。
その意味で、会社を任せる相手を選ぶのは、社長が適任であり最後の責任ある大仕事になると考えます。
「会社を任せる相手」が社外の企業であったため、「会社を任せるための手段」としてM&Aを行うのです。
1-2 会社売却に後ろめたさを感じるのはなぜか?
株式譲渡代金として多額の報酬を受け取ることになるという点は、会社売却の際に感じる後ろめたさに拍車をかけているものと思われます。
会社を売却するということは、会社の株式を売却するということで、会社売却により報酬を受け取ることは、株式の譲渡対価を受け取るということです。
受取人は「株主」であり「社長」が受け取るわけではありません。
「会社を譲るにあたって、出資していたお金を返してもらった」という考え方に切り替えたら気持ちが少しはラクになりませんか?
さらに「社長」として、借入金の個人保証など多額のリスクを負いながら今まで経営してきていると思います。リターンを得る権利はあると胸を張ってください。
2.従業員が会社に望んでいること
従業員が望んでいることや望んでいないことを知ることで、会社を売却することが従業員にとってプラスかマイナスかが明確になります。
従業員は会社や仕事に何を望んでいるのかを、まずは考えてみましょう。
- そもそも生活の糧として働いているから給料をもらいたい
- 居心地の良い職場だから、多少同業より安くても働き続けたい
- 自分が望む仕事をさせてもらえているからこのまま続けたい
- 今更職場環境が変わるのは望ましくないから働き続けたい
- 社長に魅力を感じているから働き続けたい
ほとんどの従業員は、生活のために働いているという一面を持っています。
その他に関しては人それぞれといったところでしょうか。
つまり従業員にとって最も大切なことは、「生活のためにお給料をもらうこと」なのです。そのうえで、より快適に働ける環境を望んでいるといえるでしょう。
3章:M&Aで会社を売却することは従業員にとって本当にマイナスなのか?
M&Aで会社売却を行うことは、決して従業員にとってマイナスになるとはいえません。
むしろ大企業の傘下に入ることで今より処遇が良くなったり、キャリアアップできたりとたくさんのメリットを得られる可能性があります。
3-1 M&Aによる会社売却は従業員にとってむしろメリットが大きい
株式譲渡でM&Aを実施した場合、基本的に従業員も併せて買い手企業へ引き継がれます。
むしろM&Aで従業員が辞めてしまうと、買収後に事業が回らなくなってしまう恐れがあるため、従業員の雇用継続は買い手側にとっても重要な事項となるのです。
とはいえ100%の買い手企業が従業員の雇用継続に対して積極的とはいえません。そこで重要になるのが、「誰に会社を任せるのか?」という社長自身の判断なのです。
買い手企業を選ぶ際には、従業員を大切に扱ってくれる相手かどうかをしっかりと見極めることが大切です。
とはいえ、多くの場合で買い手は自社よりも大きな会社になります。
そのため例えば「住宅ローンを組みやすくなった」「親会社の仕事に携われることでキャリアが開けた」といった従業員にとってのメリットが生まれる可能性も高いのです。
3-2 退職する従業員が出てくる可能性はある
M&Aの実施によって退職する従業員が出てくる可能性はゼロではありません。
M&A後に従業員が退職する理由としては、「新しい外部の血が入ることによる環境変化」が挙げられます。
新たな社長と反りが合わなかったり、ガバナンス強化による居心地の悪さを感じたりして退職してしまう従業員が現れる可能性があるのです。
しかし、M&Aが会社の存続・発展を目的として行われたものであれば、それは会社のために必要な手段であり、必要な環境変化となります。
そして何より会社の存続・発展が、従業員の最低限の目的である「収入を得る」ということと直結している以上、従業員にとっても前向きに捉えないといけない変化といえるのではないでしょうか。
ただし急すぎる環境の変化は従業員にとってかなりの負担になります。そのため経営者としては、なるべく急激な変化を避けるように買い手側との交渉が必要になります。
従業員のことを第一に考えて慎重に調整しM&Aを実行したにもかかわらず、環境の変化に適応しきれずに退職してしまう社員は「去る者は追わず」で良いでしょう。
まとめ
M&Aで会社売却を行うと決意した際に、従業員に対して後ろめたさを感じてしまう社長は少なからずいます。
その後ろめたさは、従業員のことを大切に想う素敵な社長の証であるともいえます。
しかしM&Aは、会社の存続と発展のために必要な手段であり、従業員にとっても様々なメリットを得られる可能性が高い手段なのです。
そのため考えに考え抜いてM&Aを行う結論を出した社長は、従業員に後ろめたさを感じる必要はありません。
とはいえ長年働いていただいた家族同然のような従業員もいる社長にとっては、いきなりスパッと割り切れるものでもないと思います。
従業員の幸せのためにも、良いお相手を選ぶことに意識を集中すると良いでしょう。